途上国の女性の尊厳をメーキャップで取り戻す
「生きててよかった」を作り出すコフレプロジェクトの活動

瞬間のアート: 向田 麻衣 at TEDxKeioSFC

発展途上国の性産業に従事する女性や、被災者の女性の顔にお化粧をほどこし、彼女たちが失いかけた尊厳や自信を取り戻すワークショップ「コフレプロジェクト」。プロジェクト代表の向田麻衣氏がTEDxKeioSFCのステージに登壇し、現地でメーキャップを行った女性に訪れた変化について語りました。向田氏は誰かに寄り添って、その人の人生を輝かせるために時間を使っていきたいと、自身の活動に対する考え方を述べました(TEDxKeioSFC2012 より)

発展途上国の女性をメイクするコフレプロジェクト

(笑いながら喋るネパール人の女の子の音声が流れる)

向田麻衣氏:はい、今聞いていただいた声は、ネパールの女の子に私がお化粧をしてあげた時の声です。彼女はネパール語で話したんですけれども、とってもうれしかったと。また何度も何度も「また来てね」っていうふうに言ってくれました。

なぜこちらの彼女は映像ではなくて声を出しているかと言いますと、彼女は様々な理由によって、特に貧困が一番大きな原因で、それで両親によってインドに売られて売春宿で働かされてきました。強制労働させられてきました。

そのため彼女のプライバシーを守るために今回は声だけの出演というふうになっています。

改めましてこんにちは。向田麻衣と申します。私は3年前にコフレプロジェクトっていう活動を始めました。主に発展途上国と言われる国でお化粧のワークショップを開いています。

そこでは女性たちが失いかけた自尊心だったり、自分に対する可能性だったり、そういったものをもう1度取り戻す、思い出してもらう、そういうことを目的に活動をしています。

こんなかたちで普段、このワークショップを開いています。これまでにネパールをはじめ、トルコ、インドネシア、フィリピン、去年は被災地で延べ1,000人ぐらいの女性の顔に触れてきました。

現在は化粧品メーカーさんに化粧品を寄付していただいて、それを現地に持っていって現地のNGOと一緒に化粧のワークショップを開いたり、あとはネパールでは職業訓練ですね。美容の職業訓練を始めています。

そもそもなぜ私が途上国の現場に関心を持ったのかという理由なんですが、私が15歳の時にネパールのNGOで働く高津亮平さんという方のお話を聞いたことがきっかけです。

その1年後にアルバイトをして貯めたお金で、ネパールに1人で旅立ちました。その後、私はSFCの卒業生なんですが、 SFCの4年生の時にトルコに半年間フィールドワークに出かけるチャンスをいただきました。

そこで女性の支援をしているNGOを訪問して、いろんな質問をしたんです。「何でもできるとしたらどんなことがしたい?」っていうことをいろんな女性に聞きました。そこで女性たちは意外な答えを持っていました。お化粧してみたいとか、おしゃれをしてみたいとか、そういう声。

意外な声だったんですがそういう声をもとに、じゃぁ、ちょっとやってみようかなっていうことで、日本に帰って、化粧品をいろんな方から寄付していただいたり、買ったりして、それを持って。その時はトルコに戻って、また次はネパールに戻って、そして今に至ると言うような流れになっています。

お化粧が売春宿の女の子の心を溶かした

始めて3年くらいのプロジェクトなんですが、このワークショップに参加してくれた女性の中に小さな変化が見え始めました。先ほどいちばん冒頭に声を流した女の子、彼女はインドの売春宿で強制労働させられていた時に、1日20人以上のお客さんをとっていた。

強いストレスを受けていたせいで精神障害疾患を抱えてるんです。彼女は自分の名前も年齢も覚えてないです。口はいつもあんぐりと開いて、よだれがだらっと垂れているような状態です。

その彼女がお化粧のワークショップに参加してくれた時がありました。私の前に座って静かにしてるんですが、お化粧をして鏡を見た瞬間に彼女の放心状態だった目に心が戻ってきたような、それまでボーッとしてたのが突然自分の顔をしっかりと鏡を通して見て、そして私の顔もしっかりと見るようになったんですね。

私はすごく驚きましたし、その時非常に感動しました。彼女が体験した経験は、こういったものだと私は解釈しています。みんなの輪の中に居て、みんなの輪の中心に彼女が居て、みんなが彼女のことをジーッと見つめていて、彼女が変わっていくことを喜んでいると。

お化粧をして綺麗になった彼女に向かってみんな、「わぁ綺麗!」「ディレイラムロ(ネパール語で「すごく綺麗」)」と、みんな大きい声で言って拍手をしてくれる。そういう経験って、彼女は今までしたことがなかっただろうと思うんですね。

そういう経験が、小さな小さな私たち日本人からしたら、お化粧をするなんて誰でもできるような経験が、彼女の心を溶かしたんじゃないかなと考えています。

被災者のおばあちゃんが笑顔に

もう1人ご紹介します。この綺麗な女性は私のおばあちゃんなんですが、彼女は去年震災の被害が大きかった石巻市住んでます。家も半分浸水したり被災したんですけども、私は去年1年間は月に1度のペースで石巻を訪れて、そこでお化粧のワークショップを、普段ネパールでやっているようなものを開催しました。

その何回かに彼女は参加してくれたんですが、その時の写真になります。もうくしゃくしゃのおばあちゃんですから、お化粧してるのかな? ってみんな思ったと思うんですが、口紅と頬紅だけつけてるっていう状態です。

彼女は実は白内障でほとんど目が見えないんですけれども、すごくうれしそうにして、私に「何か10代になったみたい」っていうことを言ってました(笑)。私が孫なのでたぶんリップサービスだったのかなぁと思いますが。

(会場笑)

お化粧してる瞬間っていうのは、本当に一瞬のことですね。これが何の役に立つんだろうと思う方も多いんじゃないかと思います。特に男性は。でも、ここで私は子供みたいに聞いてみたいです。

皆さんに、「役に立つっていうのは、いったいどういうことなんだろうか?」と。「幸せになるっていうはどういうことなのか?」

後進国は支援を受けて発展する必要が本当にあるのだろうか

ここでちょっと違う話かもしれないんですが、私は実は2日前にネパールに帰ってきたところなんですが、またお腹を壊しました。1年の半分ぐらいネパールにいるのに、もう何度も何度も繰り返しお腹を壊しているんです。

今回は1ヶ月の出張で12時間の山道をガタガタの車で移動したせいで腰も捻挫して、ぎっくり腰になっちゃったりとか、ちょっと体がボロボロなんです。

一方でネパール人の友人たち、ビジネストリップに連れて行ってくれた男性の友達なんかは、もう全然平気なわけです。私と同じものを食べても絶対にお腹を壊さなくて、同じような車に乗っても着いたときにはピンピンしている。

私はもうぐったり。この人、本当に体が強いなぁって毎回思うんです。ネパール人の方が日本人よりも体が強いし、いろんな国で生きていけるんじゃないか、なんか彼らの方が幸せなんじゃないかなって思ったりもします。

またこれも違う話ですが、私は美容関係の仕事をしているのでネパール国内のいろんな美容サロンを体験して、調査をしてきました。その1つにネイルサロンがあるんですけれども、そこでどんなことが行われているのかというと、お湯の中にまず手を入れる。ここまでは日本と同じなんじゃないかと。でもそれがものすごく熱い。

その熱いお湯に我慢して手を入れて、その後にヤスリのようなもの、もしくは軽石みたいなもので手をこするんです。初めはどうなるんだろうと思って見てたらだんだん血が滲んできて、これはまずいと。

「ちょっとこれはやめてほしい。これは間違った美容法だから」と私はネパール人にも言ってみましたし、「日本人にもこんなことやってるんだよ。すごいよねー」みたいな話し方で話してたことがあるんです。

でも実は最近、私が間違ってたということに気づきました。私とネパールのみんなとは手の使い方が全然違ったていうこと。だから手の作りが全然違うんですね。彼女たちはどういう風な暮らしをしているかというと、毎日畑を耕して、毎日素手で草をむしって、毎日牛の乳を絞ります。

そしてほぼ毎日、川の水で手で家族全員分の洗濯物をするわけです。だからどうなっているかというと、手は日本のおじいちゃんのかかとみたいに、厚くなっている。だから実際本当に手のひらをちょっと削る、それで皮を薄くして手の感覚を取り戻すっていうことが必要だったりするんです。

ここで私が思うことは、私たちが例えば日本から突然現地に行ってみたときに、「これは間違っている」「原始的」とか思ったりする場合があると思います。

でもそこの国にはその国の文脈があって、その国の価値観があって、その国の生活スタイルがあって、その行為には一つひとつ実際に意味がある。だから支援って本当に難しいなぁっていうのが、この3年間の感想です。

そしていつもこの問いが私の頭の中にあります。「先進国は正しくて目指すべきところで、後進国は支援を受けて発展する必要が本当にあるのだろうか?」と。この問いの答えは、私は実際持っていないです。問題はすごく複雑だし、世界は非常に多様だから。けれども私が自分なりに考えて、これだけは確かだなって言い切れることがあります。

それは先進国の人も、途上国の人も、どんな国の人も関係なく、おそらく人はみんな、あぁ生きててよかったなぁって思うような美しい瞬間を欲しいと思っているということ。その美しい瞬間は、おそらくその人の人生に長く寄り添って、例えば暗闇に落ちそうな時に支えてくれるんじゃないか。そう思うからです。

「美しい瞬間」を共有したい

美しい瞬間にも本当にいろいろあると思います。今日のプレゼンターのみなさんが話すような、小島先生が虫の話をするときのあの嬉々とした表情、あれもきっと彼にとっての美しい瞬間で、例えば私がやるようにネパールなどでお化粧をしたことがない女性たちにお化粧の経験をしてもらって、そこで愛情たっぷりの目線をたくさんの人から受けて、綺麗って褒められることもその1つかもしれない。

例えば旅行に出ていつもと違った太陽の下でたくさんいつもと違う空気を吸うことかもしれないし、例えば美しい芸術に触れて心の底からため息をつくことかもしれないし、例えば全身全霊で誰かに恋をすることかもしれない。

おそらく皆さん、このたった1度の経験が自分の人生の中で何度も何度も思い出されて、それが自分を支えてくれているっていう経験はしたことがあるんじゃないかと思います。

途上国の現場で支援をしていく中で、すごく苦しいなぁ、悔しいなぁと思うことがあります。それはみんなわかりやすいこととか、効果測定しやすいことだったりとか、短期的に見えやすい効果が出ることだったり、そういうものを優先することです。そしてそういったものに、やっぱり支援が多くいっているということです。

でも本当は皆さんが「誰にでも再現できることだったりとか、見やすい効果が出るわかりやすいものに、本当にコミットしたいと思っているのかな?」というふうな疑問がいつも私の頭の中にあります。

効果測定しやすいことだったり、わかりにくいことかもしれないけれども、本当にその人に寄り添って、その人の人生を輝かせることに時間を使っていきたいなっていうふうに思っています。

最後にですが、もう一度私のお化粧を体験した少女の声を流して終わりたいと思います。

(少女の声が会場に流れる)

メーキャップとてもうれしかったと。ありがとうというふうなメッセージでした。本日ちょっと途中飛んでしまったんですけれども、皆さんと、私がいつも経験している美しい瞬間について共有できていたらうれしく思います。ありがとうございました。

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