日本の株式市場は「非常に絶好調」
藤野英人氏(以下、藤野):2024年の元日に大きな震災があって、1月2日にはJALの航空機事故があって、本当に最悪な気持ちのスタートだったわけです。能登の大震災は、多くの人命を失った大変悲惨な出来事でした。
ただ一方で、これで日銀の金融緩和の政策が長く続くなというところがありました。そうなると、日本は相対的に見るとけっこう悪くない。アメリカではこれから選挙がどうなるかわからないし、中国は景気が悪く、ヨーロッパも少し(先行きが)不透明ですね。
世界景気そのものがなんとなく不透明な中で、日本の相対的なしっかり感が非常に浮き出てきたところがあります。「日本企業や日本株はまだ割安だよね。金融緩和も続くからまだ買えるよね。安心だよね」というところが、年初からの大きな株価の上昇につながったんじゃないかなと思います。
日経平均指数で言うと、3万6,000円を突破しました。30年間の中で見ると、過去にはない高値まで来ているわけですので、日本の株式市場は非常に絶好調な状態になっています。今後の見通しという面については、実は悲観的ではなくて、非常に楽観的に思っています。
日本の株式市場は諸般の状況でロケットスタートになった。これから株価は少し調整するかもしれないけれども、基本的には強い状態が続くのではないかというのが私の意見です。
日本人が投資・消費に消極的な理由
ナレーター:「失われた30年」とも呼ばれたバブル崩壊後の日本経済。その要因とは?
藤野:私が就職したのは1990年の4月で、日本経済および日本の株式市場のピークだったんですね。それから私の仕事人生の大半がデフレの中で、業績や株価はずっと下がっていました。
デフレ的傾向とは何かというと、物の値段が下がっていって、相対的にお金の価値が上がることです。これが10年、15年続くと、日本人の生活スタイルに染みこんでいき、「節約をすること、倹約をすることが正義だ」というふうになっていきました。「投資をしない、消費をしない」ということが、だんだん生き方につながっていったんですね。
投資や消費をしないと何が起きるかというと、もっとデフレが起きることになるので、物の値段はさらに下がる。今でも多くの人は「良いものをより安くすることが大事だ」と思っているんだけれども、良いものをより安くしたら賃金は上がらないんですね。良いものだったら、より高くしないと給料が増えないじゃないですか。
良いものをより安くすると取り分が減ります。なので給料が増えないんです。 だから、良いものをより安くするとか、コスパ主義でより安いものを買うということをどんどんしたことによって、日本人は自分で自分の首を絞め、デフレ経済が長引いて、マイナスの影響を強く受けるようになった。
これが日本のつい最近までの30年間だったんですが、最近大きく変わりました。
ナレーター:デフレからインフレの時代へ。2024年は大きな転換期を迎えると、藤野さんは言います。
藤野:世界の物価がどんどん上がってきて、日本だけ下がっている。上がらないことによって、日本とその他の国では歴史的に限界ぐらいまで物の格差がついてるんですね。
例えば(日本だと)コンビニエンスストアでは、300円くらいで非常においしいサンドイッチを食べることができます。タイなどの国に行くと、200円から300円くらいでおいしいサンドイッチなんて、どこでも食べられないんですよ。
私は去年の夏にロンドンへ行ったんですが、ロンドンでサンドイッチを食べようと思ったら1,000円ぐらいなので、3倍ぐらい高いんですよね。3倍おいしいのかと思ったら、3倍まずいんです(笑)。値段が3倍高くて3倍まずいということは、9倍ぐらいの価値の差があるわけですよ。だから、すごく行き着いてるわけですよね。
なので、世界中の人が日本に来ると「なんでこんなに安くておいしいの?」と驚いてるわけですね。今、インバウンド観光が非常に盛んなのはそういう理由があります。
ここ30年のデフレを抜け、2024年は日本企業が変わる?
藤野:でも、多くの外国人投資家は「差がありすぎだよね」と思ったんです。これは必ず解消されていき、日本はおそらく物価が上がっていって、インフレが起きることは間違いない。この差は解消されていくことは間違いないから、「日本株を買おう」とか「日本の土地を買おう」という動きが起きているんです。
そのことによって、少しずつデフレからインフレへと向かいつつあるというのが、今の状態です。日本は長いデフレのトンネルに行き着きましたが、経済の原理からすると、行き着いたものは必ず元に戻ります。
さらに今は労働者不足で、子どもの数が少ないから、若い人を採用するには賃金を上げなくてはいけない。実際に2023年の4月ぐらいから初任給はどんどん上がってきていて、これからもどんどん上がっていく。
初任給を上げたら、すでに会社にいる人たちの給料もちょっとずつ上げないと不満が出るじゃないですか。なので、2024年4月以降は賃金が上がる可能性がある。そうなってくると、長いデフレが終わってインフレの時代が始まる。業績や株価の水準が上がるから、株価が上がっていくのではないかと思っています。
さらにいくつかの要因を付け加えると、日本の大企業は、以前は比較的眠い経営者が多いと思っていた。社長になるのがゴールだったような人が多くて、この20~30年間ぐらいの日本の大企業は消化試合だらけのようでした。でも、コロナの前後ぐらいから日本の会社が変わりつつあります。
「より真剣に業績や株価を上げないとダメだ。生き残れないんだ。世界と競争して戦うんだ」という覚悟を持った経営者が出てきたことも大きいですよね。さまざまな条件が重なってきて、この30年のデフレから、少しインフレの時代のとば口に入ったのが今の状態ではないかと思っております。