2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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本イベントは、『コーポレート・レベルズ: Make Work More Fun』の出版を記念して開催されました。ピム・デ・モーア氏とヨースト・ミナー氏によって設立されたオランダの企業Corporate Rebels。世界で最も先進的な100以上の組織へ訪問し、インタビューをしてオンラインメディアで発信してきました。今回は、Corporate Rebels共同代表のピム・デ・モーア氏が、日本企業を訪問して感じたことについてお話ししました。
廣瀬信太郎 氏 (以下、廣瀬):ちょっと順番に聞いてみたいと思います。アカデミーのいろんなモデルを調査しているじゃないですか。例えば、VIISI(ヴィシィ)モデル、Buurtzorg(ビュートゾルフ)モデル、NER(ネル)モデルと、いろんな企業のモデルを紹介してると思うんですけど。
それらの企業が「一緒にやろうよ」となった背景は、どんなところがあったのか。彼らがなんで協力してくれたのかを聞かせてもらってもいいですか。
ピム・デ・モーア氏(以下、ピム):本当に彼らもオンボードして、コラボレーションをしながら一緒にやるものじゃないと、僕らも大事なところに触れられません。なので、良い関係を作らないといけないのは本当におっしゃるとおりです。
最初に企業を訪問して、「本当におもしろい」「一緒にやりたい」と思ったら、単純に訪問する頻度を増やしたり、たくさんやりとりをしました。
興味深いのは、おもしろい取り組みをやっている企業は、むしろ積極的に自分たちのやっていることをシェアしたいとか、世間に知ってほしいと思っているケースがすごく多いんです。他のところも真似してくれれば、もっと自分たちのように職場を良くできるという思いを持っていることが多いので。
僕らが近づいていって「一緒にやりたい」と言うと、むしろ前のめりになって一緒にやってくれるケースが多いですね。
廣瀬:Haier(ハイアール)のエピソードを書籍で見たんですけど、経営者が英語をしゃべれない場合、そのあたりのパッションをどうやって交換したのでしょうか。
ピム:おっしゃるとおり、(非英語圏では)他よりも難しい部分はもちろんあります。オランダで活動しているので、オランダの近くのほうが、やはり簡単です。
実際にHaierの場合でいくと、世界中の他の拠点も含めてですが、20回以上訪問しています。前のCEOだったチャン・ルエミンさんにも5~6回インタビューをさせてもらったりして、たくさん会話を重ねています。今日みたいな感じで、通訳を介していろんなやりとりをしています。
難しさは言語だけじゃなくて、やっぱり文化的なことも違ったりするので。実際にどう感じているかや、どういうものに触れているのかを理解する点では、やっぱりオランダのような同じ文化圏よりも、難しさを実感しています。
ただ逆に言えば、それだけ違う部分がある企業をちゃんと理解しようとすることで、より芯にある部分に触れられたり、より深く(その企業の)新しさを理解できたりします。その取り組みの難しさはもちろんあるんですけど、やってる中でそう感じることは多いです。実際、言語や文化の難しさは、1年半前に日本を訪問した時にも感じました。
山田:これは通訳として私も同行させていただきました。サイボウズ代表の青野(慶久)さんとか、ネットプロテクションズの代表の柴田紳さんとか、CDI(コーポレイトディレクション)の石井(光太郎)さんのところに、一緒に訪問させてもらいました。そこで彼は難しさを感じたと言っています。
ピム:ただ興味深いことに、長くたくさん話していると、多くの場合、すごく深いところで共通するものをみなさん持っているなと感じます。組織として人間を人間らしく扱っていたり、働く人が自由で自律的に働けることをすごく望んでいます。
組織というものに囚われずに、どうやって組織を生かしながら働く人が幸せになるかを考えていて、(言葉や文化が違っても)実はすごく共通するものが多いんだなと感じました。
廣瀬:ありがとうございます。今の話で聞きたいことがあります。日本の企業って、どうしてもヒエラルキーのある伝統的な企業が多いし、人を大事にすると言いつつも、やっぱり収益を重視する。ティール組織で言うオレンジ(業績重視)なアプローチが多いんですけど。
欧州って、そのあたりの人の可能性を信じて経営するところの関心度は、どのぐらい強いんですか。
ピム:残念ながら、基本的には同じ傾向じゃないかなと思います。世界的に見て、旧来的な組織のほうが多いですね。ただ、自分の限られた経験の中からですが、日本の印象としては、やっぱり旧来的なトップダウンのヒエラルキーが強い組織が多いと見ています。
一方で、アメリカやヨーロッパや南米、世界中どこでも、基本的には99.999パーセントは旧来的なやり方をしている組織ばかりだと思っています。すごく少ないパーセンテージしか、新しいやり方をしていません。
新しいやり方をするのは、本当にいいことがたくさんあるのに、「なんでみんなやっていないんだろう?」と、率直にすごく疑問に思います。ここは本当に可能性があるところだと思うし、逆に言えば、まだまだ道のりは長いとも思います。
廣瀬:ありがとうございます。Corporate Rebels AcademyやRebel Cellで、学習している企業たちが変革でつまずくポイントはありますか?
ピム:いろんな組織が難しさを感じているというのは、共通点としてすごくあると思います。一般的に本当に課題になっていることとして、なかなか良い職場だと思ってくれなくて人が来てくれないとか、離職率が高いとか、バーンアウトしてしまうとか。こうしたことが従業員側、組織側の問題としてあります。
事業としての成果の面でも、意思決定が遅いとか、すごく時間がかかってしまうとか。その間に状況が変わってしまって、必要な変化に適応ができないとか。こういったことは、人の面でも事業の面でも起こっているなと思います。
その中で、新しいほうに変容したいと思う組織に、例えば企業の大きさとか業界みたいな共通点はあんまりありません。ITの会社もあれば、政府の機関もあります。それぞれ自分たちなりのやり方を探すことはもちろん必要なんですけど、「こんな企業は変容を目指す傾向がある」みたいな共通項があるわけでもないなと感じます。
廣瀬:ありがとうございます。今の話を踏まえて、これからのアカデミーの展望や、Rebel Cellをどうしていきたいかとかがあれば教えてください。
ピム:まず、Rebel Cellの立ち上げをしたいという方がすごく多いので、そこにがんばって追いついているぐらいの状況です。
とにかくこれは始めたばかりの事業なので、今後に向けてはスケールをアップしていきたいというのが今の状況です。先ほど言ったように、2024年内に30~50のセル(コミュニティ)が立ち上がって、100社がグローバルで参加している状態にしたいと思っています。そして2025年に100、その先もまた2倍みたいなペースで成長させたいと思っています。
この仕組みはすごく非中央集権的で、セルが自律的にやるというモデルになっているので、すごく早いペースで進められるんじゃないかなと思っています。
もう一方のKRISOSのほうも、もっとスケールを広げていきたいと思っています。より多く資金を集めてくることもやりたいと今言っているんですけど。資金を集めて、企業を買って、変容させて、また売却して手放すことがどんどんできるようにしたいと思っています。本当にどちらも、拡大とかスケールアップのフェーズに来ているなと思います。
多くの組織が新しい働き方や職場を作りたいと思っているけれども、どうしていいかわからないし、何から始めていいのかわからないし、どんな事例があるかもわからないみたいな状況。本当にたくさんのところがこういった状況になっているなと感じています。
例えばRebel Cellであったり、Corporate Rebelsのアカデミーでは、グローバルのネットワークに加われます。そこで先駆者に会い、共に学び合い、支援したりできる。これらをもっと仕組みとしてスケールしていくことを通じて、さらにインパクトを出していきたいなと思っています。
廣瀬:ありがとうございます。KRISOSの話に行きたいんですけど。NER(スペインに拠点を置く、進化型組織へのコンサルティングを行うグループ)の方々と協働していますよね。あらためて、どんな話からKRISOSを立ち上げたのか、聞いてみたいです。
ピム:基本的にやってきたことは他のところと一緒です。まずどこかから聞きつけて訪問をして、継続してコンタクトを取っていって、コンテンツをたくさん作ることを最初はやってきました。
これまで150社とか200社とか訪問をたくさんして見てきた中では、彼ら(NER)は最もラジカルだし、成功率が高いし、有意義なインパクトのあるやり方だなと思っています。それを実際にやっている人とずっと会話をしてきました。
先ほど言ったように、最初に接点を持ってコンテンツを作って、たくさんやりとりを重ねている中で、彼らの感じている課題感をどんどん聞いていきました。その中で出てきたのは、彼らは基本的にコンサルタントとして外から支援しているんですね。オーナーじゃないんですよ。
そうなると、時として何が起こるかと言うと、新しくオーナーになった人たちが、「こんな変わったやり方なんてやりたくない」と言って、旧来的なよく知っているかたちに戻してしまう。こういったことが、オーナーが代わるごとに起こっていたと。
コンサルタントとして関わっているため、(そのオーナーのやり方を変えることは)できなかったので、そこに彼ら自身が課題を感じていたというのが、話をしている中でわかってきました。
課題感を共有した上で、「それがあなたたちにとっても課題なんだとしたら、一緒に取り組みませんか?」という話をしていきました。実際にやったことが今つながっていて、単にコンサルタントとして関わるだけじゃなくて、(企業を)買ってくる。
そうすることによって、オーナーシップを持って、すべてのコントロールが自分たちでできる状態を作る。誰にでも売るんじゃなくて、買い手をちゃんと選んで、願わくば従業員に売りたいということで始めました。
ピム:先ほどKRISOSの説明をした時と一緒で、アイデアとしてはシンプルなんだけれども、エグゼキューション(実行)することは本当に難しいというのは、もちろんわかっています。一方で、1社目として実際にスペインのIndaero(インテーラオ)という会社が始めていて。
それに関するブログポストも公開していたり、残念ながら英語ですが、それについてのウェビナーもやることになっていたり。実際に1社目の変化が起こり始めているところですね。
廣瀬:ありがとうございます。開始する難しさがあると思うんですけど、資金調達やリレーションは今うまくいっていますか?
ピム:実際に資金調達を始めてみた時に、うれしい誤算として、最初の資金は自分たちのネットワークの中から集め切れたので、それによって今やっています。
ただ、次のフェーズでもっとインパクトを出しにいこうとすると、さらに外側にリーチしにいかなきゃいけません。例えばインパクト重視のPEファンド(未公開株式)であったり、ファミリーオフィス(資産が一定額以上の富裕層を対象に、資産管理および運用サービスを提供する組織)にリーチをしにいくことを始めています。
もちろん彼らは事業としてお金を生み出し、投資したものが返ってくることを目指してやっているので、そこはもちろん期待されるんですが。それだけじゃなくて、「自分が持っているお金を使って、良いインパクトを出したい」と思ってくれるところにリーチをし始めているのが、次の資金調達のフェーズですね。
廣瀬:ありがとうございます。今、すでに資金を出してくれた企業の特徴とか、どんな思いで投資したのかという反応があれば教えてください。
ピム:最初のファンドの割合の多くは起業家の方で、新しい働き方とか「Make Work More Fun」というコンセプトに実感を持っている方。このコンセプトを利用して、何らかのイグジット(投資回収)をしたような方、このやり方を実際に体験して、その可能性をすごく信じている方々が多いです。
それをさらに広げる1つの手段として、KRISOSという場を使ってお金を出すことで、さらにインパクトを広げたいと思っている起業家の方が、最初のファンドでは多いですね。それ以外にも、従業員のウェルビーイングにすごく思い入れのある投資家さんたちが出してくれていることも、中にはあります。
廣瀬:ありがとうございます。
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