CLOSE

資本主義の未来〜意義ある事業へのシフトとこれからのキャリア〜(全4記事)

歳を取るほど「失敗」のコストは上がり「チャレンジ」のROIは下がる 山口周氏らが語る、不確実な時代に大切なキャリア観

「ソーシャルキャリアフェス2024」が開催され、社会課題解決のトップランナーによるトークセッションが行われました。「資本主義の未来〜意義ある事業へのシフトとこれからのキャリア〜」と題した本セッションには、篠田真貴子氏、田口一成氏、深井龍之介氏、山口周氏の4名が登壇。本記事では、そもそも人生における「失敗」とは? キャリアにおいてチャンスを掴むには? など、それぞれのキャリア論を語りました。 前回の記事はこちら

歳を重ねるほど「失敗」のコストは大きくなる

山口周氏(以下、山口):僕がいつも言うのは、失敗ってコストとリターンがあるんですよ。「嫌だな。評判が落ちちゃう」とか、「あいつはダメだ」って言われて落ち込むとか、もちろんコストはありますよ。

だけど、「こういうのは自分には向いてない」「こういうふうになった時は、ここでこうやっちゃダメなんだな」と、いろんな学びもあるわけですよ。

問題は、年が経てば経つほどコストは大きくなるんですよ。当たり前ですよね。責任も大きくなるし、ミスできなくなるわけです。逆に若い時の学びのほうが吸収力があるし、活かせる時間が長いので、リターンは大きいんです。

何が悪いかはっきりしない複雑性の高い時代では、一生の中で必ず失敗はします。そうすると、問題なのは「(失敗を)いつするか」だけなんです。フィナンシャルに考えると、絶対に人生の早いステージでやっておくほうがいい。

僕の人生を打席に数えると、 10打数1安打8凡打という感じなんです。でも、1個当てればいい。よくわかんないことを言ってますが、「ちょっと怖いんだけど」と言ってる人には、「判断を明日に送れば、どんどんチャレンジのROI(投資利益率)は下がりますよ」というのがアドバイスですかね。

篠田真貴子氏(以下、篠田):ちょっとだけ話を深めたいんですが、さっき田口さんが言った「みんな自分の人生を有意義に使いたい。ムダにしたくないのだ」「失敗が怖いのだ」という、そのムダや失敗の基準そのものを問いたいといいますか。

山口:良いポイントだと思いますよ。

篠田:うれしい。ありがとうございます。山口周さんに褒められました(笑)。

(会場笑)

“生き残り戦略”を考えても、いずれ人は必ず死ぬ

篠田:例えば、私自身の過去や自分のキャリアという意味で、新しいところへ行った時の経験を思い出すと、自分がリスクテイカーだとはまったく思ってないんですよ。「ありがたいことに選択肢があるとしたら、これかな」という感じで、自分なりに勝算があるんですね。でも、人から見ると「とんでもない」というふうに見えちゃって。

5年ぐらい前に前職を辞めて、1年、ジョブレスとか言ってふざけていたんですが、ただ無職だったんです。未だに「あのジョブレスの時の話を聞かせてください。怖くなかったですか?」って聞かれますが、怖かったらやってないですっていう話なんですよね。

だから「(人生を)有意義に使いたい」というのは、何をもって有意義なのか。そこがわかっていたらそんなに迷わない、みたいなことってないですか? 世の中の影響から与えられちゃってる基準自体がずれている。

山口:そうね。失敗・成功の基準って何ですかね。例えば年収が下がったとか、社会的な地位が得られなかったら、その人生は失敗なんですか? 僕が最近思ったのは、勝つとか負けるとか生き残るって言いますが、生き残れる人はいないです。人間、必ず死ぬんです。

(会場笑)

篠田:ファクト(笑)。

山口:「この時代にどうやって生き残るか?」って、「何、この人いきなり。絶対に(人間は)死ぬんだぞ?」という話ですね。

(会場笑)

篠田:新しい宗教(笑)。

「いかにおもしろおかしく生きられたか」が大切

山口:人間は死ぬので、そういう意味で言うと必ず負けるんですよ。映画と同じで、終わらない映画って困るし、終わらない人生も困る。だから、物語としていかにおもしろおかしく生きられたかが大切かなと思います。

「非常に安定して何も起きなかった」という映画は、果たしておもしろい映画なのか。自分が観客で、自分の人生という物語を楽しむんだとすると、「ここでそこへ行っちゃうのか。とんでもないことになってるけど、おもしろいな、俺」っていう(笑)。

「この先、どうなるのかな? 待て次号」みたいな感じで見続けちゃう韓ドラみたいなもので、自分の人生をどんどん不確実性の淵に追い込んでいって、最後は「ああ。おもしろかった」って死ねれば、それこそウィナーじゃないかっていう考えもあるんじゃないかと。

篠田:そうそう。もっと言うと、自分としては普通に一生懸命、真面目に人生を送ってるつもりだとします。本人の認知はそうでも、端から見ると「めっちゃリスクを取ってる」「何やってんの」という評価があっても、どうでもいい……って言うと言いすぎだな。

(他人からは)そういう評価があることは知ってるけど、自分が行きたい方向とそこまで一致させる必要はない。……ごめんなさい、司会者なのにぐじゃぐじゃ言って。

(会場笑)

篠田:まずは、世の中の基準に自分がすごく影響されてるということを知る、自覚するところが出発点になる気がするんです。

「うまく生きようとすること」に対する疑念

篠田:その機会をどうつかむんだろう? というところが話せるといいのかなと思います。田口さんや深井さんはいかがですか。

田口一成氏(以下、田口):深井さんが専門なので。

篠田:じゃあ、深井さんから。

深井龍之介氏(以下、深井):専門なんだ(笑)。身も蓋もないけど、本当は運だと思います(笑)。ただ、その確率論というか、確率が高いところにいる・いないはめっちゃあると思うんですよね。

もう少しエモい話をすると、僕はけっこう早い段階で「うまく生きようとすること」が、本当にしょうもないんだなってことに気づいたんですよね。

山口:それ、いつ気がついたんですか?

深井:たぶん23歳ぐらいです。

山口:早いな。

篠田:早い。

深井:もともと反社会性が強いタイプだったんですよ。あ、反社じゃないですよ。

(会場笑)

深井:だから、社会に対して恨みを持ってるというか。こんな場で言うのもなんですが、あけすけに言うとそのタイプでした。

篠田:アンチソーシャル。

深井:そう。アンチソーシャルなタイプだったんだけど、まさかこんなところに登壇しているとは(笑)。

(会場笑)

深井:なんですが、たぶんそこが逆に良くて。うまく生きるということに対しても、「しょうもな」ってずっと思ってたんですよ。高校の時に勉強をすごくがんばってる女子を見ていて、「なんで勉強してんの?」と聞いて、「答えられなかったらクソ」って言ってたりするみたいな。

(会場笑)

深井:「お前、なんで答えられないのに勉強してんだよ」みたいな態度を取ってました。その延長線上で、けっこう早い段階から「うまく生きる」みたいなことが、自分にとってあんまり価値がないとは思っていて。そうすると、リスクを冒す価値がぜんぜん変わりますよね。

イエス・キリストは「アンチソーシャル」だった?

深井:僕は最初のキャリアが東芝だったんだけど、東芝にい続けるほうが怖いから無理だったんですよ。さっき山口さんが言っていた、「いても立ってもいられない」というのに、本当に似たような心境でした。

今はあの会社もすごく良い会社だなと思いますが、当時の自分にはあんまり選択肢の余地がないというか。「(今の会社を)出ないとかないよね」という感じで出ましたが、別に1回も後悔していない。

僕が辞めたのは2011年なんですが、2011年ってあの会社は業績がすごく良かったんですよ。なのでさっきの篠田さんの話と一緒で、周りからは「マジでなんで辞めんの?」みたいな感じですごく反対されて。

篠田:「横から出てきてうるせぇよ」って思っていましたね。

山口:でも、アンチソーシャルってソーシャルの裏返しだと思う。アンチソーシャルというと、まずイエス・キリストがそうでしょ。あの当時に良いと言われていた律法があって、それを守って生きることが良いこととされていた。

篠田:社会の序列があって。

山口:「社会とはこういうもの」というのがあって、イエス・キリストはそれがもうマジクソだと思ってるわけですよ。

(会場笑)

山口:「なんで人よりルールのほうが大事なの? 答えてみろ」と言って、答えられなかったら「けっ、クソだな」って、まさにそういうパーソナリティだったわけです(笑)。

今の世の中から見てみると、ソーシャルを考えた時に1つの基軸になるような考え方を打ち出した人が、当時の社会においてはめちゃめちゃアンチソーシャルだった。ソクラテスなんかもそうですよね。結局は2人とも処刑されているので、それぐらい嫌われていたわけです。

でも、今日の目から見てみると、実はその人たち(アンチソーシャルの人たち)がソーシャルのベースの議論を提案してるというのは、すごくおもしろいですよね。

一般的に言われる「良いこと」の基準は時代によって変わる

篠田:これは自己批判になるんですが、ソーシャルは良いことで、「私たちは良いことをやりたいからここに集まってる」という話と、「ソーシャル元祖はむしろ反社会である」という、この対比がすごくないですか。

深井:そうですよね。結局、「ソーシャルとは何か」ですよね。その話も、もう楽屋でめっちゃしちゃったんですよね(笑)。

(会場笑)

篠田:残念だったね(笑)。

山口:良い議論だったよねぇ(笑)。

深井:良い議論でしたよね(笑)。

(会場笑)

篠田:二度するとおもしろくないから、それはまた。あと30分あるから、仮にその話になったらすればいいんだけど、無理にその話にいく必要はないと思います。

ただ、今ここであらためて自分たちも問われてるなと思ったのは、「ソーシャルって良いことだからやろう」「自分の人生を良いことに使いたい」と思って、ここにいるでしょう。でも、そのソーシャルって本当に良いことなのかな? 「良いこと」って何よ? というのは、今聞いていて思ったんですよね。

深井:歴史を勉強していて、善性と悪性についてすごく考えたことがあって。良いことと悪いことって、時代の基準によって変わるじゃないですか。古代ギリシャでやっていたことを僕たちが今やるといったら、奴隷とかいる時代にやってることやったらダメだし。

大河ドラマとかで、戦国部将が民衆のために動いているという描写をするけど、あり得ないわけですよね。あの人たちは、普通に北野武監督の『アウトレイジ』と同じ人ような人たちなので、マジで人の命のことをなんとも思ってないですよ(笑)。気に食わなかったら普通に殺そうとする人たちです。

COTEN深井氏が“宗教の考え方”に触れて気付いたこと

深井:(良いことと悪いことの基準は)時代によっても変わるし、良いことだと思われてたことが、後世では良くないよねと言われることもよくあるなと思っていて。それに対して、ユニバーサルな宣誓としての答えをどういうふうに出せばいいんだろうなと、悩んだ時期があって。

基本的には宗教がすでに答えを出していて、どの宗教でもけっこう近いことを言ってるなと認識してるんです。ちょっと解釈が分かれると思うんですが、ブッダは「自分が認知できる認知タイムスパンの中での最大認知で全員を仲間だと思って、良いなと思ったことをやる以上のことをお前にはできない」と言ってるんですよね。

篠田:もう1回言ってもらいましょう。

(会場笑)

深井:(笑)。自分が認知できるタイムスパンとは、例えば1,000年認知できる人だったら1,000年だと考えてください。30年ぐらいだったら30年ぐらいと考えればいいでしょう。5年だと、たぶん短いと言われると思います。最低でも自分が死ぬまでの間ぐらいまでのタイムスパンで考えた時に、なるべく全体を仲間だと思う。

篠田:みんなを(仲間だと思う)。だから、「汝の隣人を愛せよ」というのは、そういう意味ですね。

深井:そうです。イエスは隣人を愛せと言ってますよね。なので、(時間軸を)長く広く見た時に、それでもやったほうがいいなと思っていることは、善性に近いことなのでやったほうがいい。

ヒトラーがユダヤ人を迫害したのも、ユダヤ人を仲間だと思ったらやらないわけですよね。なので、その範囲が狭いと言えるかなと思います。環境破壊とかは時間が狭い。今言われてることですが、基本的に宗教のリーダーは普通にそれを言っているので、確かに否定できない善性だなと思って。やったほうがいいよねと思ってますね。

これからのビジネスに必要なのは「社会的観点」

篠田:田口さんにうかがいたいんですが、ソーシャルビジネスを掲げてお仕事をされています。今、ここで出てる「良いこと」が何かとか、ソーシャルの実践の中で感じてきたこと、逆に「わかんなくなっちゃったな」と葛藤することとかもあるのかなと思うので、今何が見えてるのかをうかがっていいですか。

田口:15年ぐらい前にソーシャルビジネスをやり始めたんです。そうしたらみんな「ビジネスは儲かって納税することが貢献の仕方だから、そういうのはNPOでやりなさい」って。でも、本当にいろんなことが起こってる現場を見に行く中で、経済の仕組みに巻き込みながらやっていくと解決できることは、すごくたくさんあるなと思いました。

周さんが『ビジネスの未来』の中で書かれていましたが、ビジネスのやり方が変わっていく、ビジネスの範囲を広げていくということを、まさに現場で感じていて。

例えばみなさんが工場をやっていて、どういう人を雇うかといったら、経験者でミシンが踏めて言葉がわかる人ですよね。だけど、障害があって仕事を経験したこともない人、もしくは託児所が必要なシングルマザーで、小さい子を連れているという人を雇うか、雇わないか。簡単に言うと、ビジネスで考えると効率の追求なので、そういう人は雇いません。

だけど、この人たちがちゃんと食って生活していくためには、この人たちを巻き込んだかたちで工場経営をどうできるかを考える必要がある。簡単に言うと、社会的観点、社会的影響、社会的に及ぼす価値をイメージしながらビジネスをリ・デザインしていくことが、すごく大切なんだとずっと言い続けていたんです。

今の世の中は「ソーシャル分断」が起きている?

田口:だけど15年経って、今は「ソーシャルビジネス」ってすごく言いづらいなと思い始めてるんですね。

篠田:言いづらい?

田口:言いづらいというか、言うことが良いのかどうかをすごく感じ始めていて。それはソーシャル分断が起こってるんじゃないかと思っています。僕は「世界を良くしたい、社会を良くしたい」と思ってソーシャルビジネスと言ってきたのに、今は「ソーシャルビジネスをやってる人は偉い人、やってない人は資本主義に加担してる人」みたいな。

新たな分断を作りたくて言ってきた言葉じゃないんですが、今日もそうなんだけど「ソーシャルキャリアフェス」とあるように、ソーシャルってわかりやすい言葉なので。

社会が良い方向に向かっていく、でもそこに素直に乗れない人たちを追いてけぼりにしてないか、大きい亀裂や溝が広がり始めてないかという中で、ボーダレス・ジャパンとしては「ソーシャルビジネスと言うのをやめるべきタイミングがきたんじゃないか?」と、問答してます。

深井:今、思いついたというか、ちょっと僕も一言シェアしたいことがあります。この50年間ぐらいは市場経済が浸透していて、ちなみに僕の故郷の出雲だと、まだ市場経済が浸透してないんです(笑)。

(会場笑)

深井:市場経済がちょっとずつ浸透していく中で、僕がすごく良かったなと思うのは、お金儲けというわかりやすいゲームにみんなが参加したことだと思うんですね。

本来、人類は「お金儲け」に興味がない

深井:今の時代はお金儲けというゲームだけじゃなくて……もちろんそんなシンプルじゃないんだけど、実際にビジネスって何割かはお金儲けだけでやってる人もいるじゃないですか。そういうことにみんなが参加するのって、今までのホモサピエンスの歴史の中で異常状態ですよね。だって、みんな普通はそんなにお金儲けに興味がないから。

みんなが興味あることとして(市場経済に)参加するというのが、これまでの過去50年間の良かった点であり、1つの誤謬だったなと。そう思うと、ソーシャルビジネスみたいに「これは社会の中でやったほうがいいよね」ということに、これからはみんなが参加できる時代になったらいいなと思うし、なっていくんだろうなと思ってるんですよね。

そういう時代になって、おっしゃるとおりそれが普通のことになってマジョリティになっていくと、たぶん「ソーシャルビジネス」という名前にはならないんですよね。そういう意味では、ビジネスがそうなったほうがいいと思っています。

オープニングでも言いましたが、賢い人たちが集まって考えた結果、人類のリソースアロケーション(資源配分)が今のようであるのって、めっちゃ頭が悪いなと思ってるんですよね(笑)。

課題として認識しなければ課題じゃないものもいっぱいあるとは思うんですが、喫緊の課題とか、「そんなに幸せになってねぇ」みたいな人がたくさんいる中で……「人の射幸心を煽ったり、手段を選ばず、みんなでお金を稼ぐことを目的にする」みたいなことをしてるとか。

そうするぐらいだったら、もっと自分が意義を感じるところに流れるリソースアロケーションができたほうがいいと思ってるんだけど、「金を稼がないといけない」と思ってるから、慣習でできないと思うんですよ。

これは慣習でできないことなのに、「物理法則でできない」と思ってる人がめっちゃいっぱいいると思ってるんですよ。資本主義のことを物理法則か何かだと思ってる人がいっぱいいる感覚があるんですが、何に金を払うかって認知なので、僕たちが自分で決められるんです。

価値を自分で決めればいいだけだから、自分で決めればいいのになって、今の話を聞きながら思いました。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • リッツ・カールトンで学んだ一流の経営者の視点 成績最下位からトップ営業になった『記憶に残る人になる』著者の人生遍歴

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!