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人事が対応すべき24年法改正とこれからの人材戦略を解説 (全5記事)

社員が一斉に驚きの声を上げた「社長の年収大公開!」の社内報 カゴメ・有沢正人氏が実施した、トップ層から始める人事制度改革

本イベントでは、人事・労務担当者がおさえておくべき2024年の法改正の概要とその裏側を読み解いていきました。カゴメ株式会社 常務執行役員/カゴメアクシス株式会社 代表取締役社長 兼 経営管理部長の有沢正人氏とKKM法律事務所代表の倉重公太朗氏が登壇し、法改正の裏側や今後の人事課題について議論が交わされました。本記事では、海外子会社の売上を上げるために有沢氏が行った取り組みについてお伝えします。

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海外の子会社で見た、小学生レベルの人事評価

倉重公太朗氏(以下、倉重):なるほどね。あとグローバル人材の見える化で、グローバル・ジョブ・グレードを導入するとかね。カゴメさんも全世界展開をされていたわけじゃないですか。そうすると、年功制は日本だけの変な制度なんですかね。

有沢正人氏(以下、有沢):いや、以前は海外はもっとひどかった。これはあちこちで話しているんで、耳タコの人がいたら申し訳ないんですけど。僕は2012年に(カゴメに)入ってすぐ社長に連れられて、オーストラリアの子会社に行ったんです。

オーストラリアの子会社には、ジョン(・ブレーディー)というCEOがいまして、すごく良いやつなんですよ。「僕はこれからずっとグローバルのHRをやるのでよろしく。ところでジョン、オーストラリアの営業部長の評価シートの目標設定がどうなっているか、見せてくれ」と言ったら、出し渋るんですよ。

「いいから出せよ」と言ったら、「怒らない?」と。「怒らないから出せ」と言ったんですね(笑)。なんて書いてあったと思います? 営業部長の第1目標は「Meet many people」と書いてあった(笑)。

倉重:ははは(笑)。たくさんの人に会う。

有沢:うん、たくさんの人に会うこと。結果にも「Met many people」と書いてあって(笑)。

倉重:(たくさんの人に)会った(笑)。

有沢:ジョンの評価が「Congratulations. You met many people」で、5段階の5なんですよ。

倉重:これはどういうことだ(笑)。

有沢:「こいつマジか」と思って。

倉重:小学生レベルですね。

有沢:全部そんな感じなんですよ。当時はオーストラリアには人事部もなかったし。

倉重:やば(笑)。

有沢:今度は帰ってすぐアメリカに行ったんです。アメリカには今もCEOでルイス(・デ・オリヴェイラ)という生え抜きのCEOがいるんです。「これから僕はグローバルの人事を見るんだけど、よろしく」と言うと、彼が「あ、日本にも人事部があったんだね」と言ったんですよ。

倉重:ええ!? どういうことですか?

有沢:当時は海外から見ると、日本の本社に人事があるなんて思われていないわけですよ。言葉は悪いですけど、本当に僕から見たら、海外人事に関してはほとんど本社では管理されていませんでした。

倉重:ぜんぜんグループになっていないですよね。

有沢:なっていない。そうすると人事の一体感もないし、グローバルの成長もないわけです。

倉重:ないですね。

人事を変えることで、初めてグローバル企業になれる

有沢:私が「カゴメに来てくれ」と言われた理由の1つが、人事を変えることで、初めてグローバル企業になれるからでした。

倉重:なるほど。

有沢:「グローバルの売上を上げるために、まず人事から手をつけてくれ」ということで始まったんです。僕が言うのも変ですけど、当時の社長や会長は良いところに目をつけたなと思っています。

倉重:うんうん。最初からそこの理解があったんですね。

有沢:そうなんです。だから人事を変えないと、グローバルの売上は伸びないぞと。

倉重:確かに有沢さんを引き抜いた時点で、そうですよね。

有沢:そうなんです。海外も含めて全部を変えたイメージです。海外とトップの意識を変えると、だいたいうまくいきます。

倉重:なるほどね。最初からミッションとして「グローバル人事制度を統一する」というのはあったんですね。

有沢:ありました。グローバル人事制度を統一するのに何が一番良いかというと、ジョブ型。

倉重:そりゃジョブ型ですよね。確かに(海外で)メンバーシップなんてわからないですよね。

有沢:わからないです。まず海外で「定年」と言ったら、「age discrimination(年齢差別)」と言われてアウトですからね。

倉重:配置転換もあり得ないですか。

有沢:配置転換もぜんぜんないです。

倉重:「は? なんで勝手に私の仕事を」という。

有沢:「君はテキサスへ行ってくれ」と言えば、「いやいや、待って待って」となるので。さっきの日本の法制じゃないですが、アメリカや欧米では基本的にそういったものはアウトで、イリーガルです。

16人の執行役員の年収が1円単位まで同じ

有沢:それと、特に日本ではトップの意識を変えていきました。「どうやってトップの意識を変えようか」と思っていたら、(当時)役員には評価制度が実質機能していなかったんですね。

倉重:それでどうやったんですか?

有沢:(カゴメに)入ってしばらく経って、当時の人事課長に「悪いけどさ、役員の固定報酬と変動報酬の表を出してくれよ」と言ったら、また出し渋るんですよ。

倉重:(笑)。またそんな。

有沢:それで「いいから出してよ。Excelがあるだろう」と言ったら、「怒りません?」と聞くんです(笑)。

倉重:(笑)。なんで? どうだったんですか?

有沢:当時16人の執行役員がいたんですけど、16人が変動報酬も固定報酬も全員同じで、年収が1円単位まで同じなんです。

倉重:なんでですか。

有沢:評価がないからです。

倉重:やってないんですか?

有沢:そうです。常務執行役員が4人いて、4人とも1円単位まで同じ年収なんです。

倉重:(笑)。

有沢:専務の2人もピターッと同じ年収。それを見てプチっと切れて、Excelの表を鷲掴みにして、社長室に飛び込みました。後ろから人事課長が「ああ、行っちゃった~」と言うのを聞きながら(笑)。

倉重:「これはどういうことだ」と。

有沢:社長は西(秀訓)さんというんです。これまた良い社長で、机の上にそのExcelをバーンと叩きつけて、「西さん、これはなんですか!」と言ったら、西さんは関西人でけっこうとぼけた感じで、「役員の報酬の表やね」と。

倉重:(笑)。まあ合ってますね。

有沢:「いや、『表やね』じゃなくて、なんで違いがないんですか」と言ったら、「いやいや、だってうちは経常収益の何パーセントをみんなで分け分けしていて」と。「いや、分け分けするのはいいんだけど、なんで違いがないのかを聞いているんです」「え? 役員に違いをつけるものなん?」というのが最初でした。

倉重:「評価する」という発想がない。

有沢:発想がなかった。だから、まず役員の評価から始めました。

倉重:ああ、上から始めたんですね。

社長・役員の報酬の構成を変えた取り組み

有沢:そのため役員からジョブ型を入れたんです。役員で(ジョブ型を)やって社長・役員の年収の固定・変動の割合の表を作ったのが、これ(スライド)ですね。

倉重:おお。

有沢:社長の年収は、もともと固定報酬が80で変動が20だったんですよ。副社長以下の変動報酬が10で、固定が90だったんですよ。これではステークホールダーに申し訳がたたないと思いました。

倉重:ははは(笑)。「サラリーマンか」と。

有沢:そう。「昔の日本でももっと差があったぞ」と思って。今はもっと厳しくて、例えば会長・社長は固定報酬50の変動50で、うち3分の1をストックオプションにして。今はBIP信託(会社が取締役等に対し、インセンティブの付与を主たる目的として自社株式を交付するスキーム)に変えたんです。

これを入れる時は本当に大変で、社長・会長・副社長に何回も「なんでやらなきゃいけないか」を説明して、やっと理解してもらって。ようやく取締役会で付議することになったんです。

そして社長の西さんが取締役会の議長だったんですが、僕が説明しようとしたら「有沢さん、ちょっと待って」と。「取締役会の方全員に申し上げる。今から有沢さんがする話は、我々三役(会長・社長・副社長)が、何度も聞いてもう納得した。もし今日の有沢さんの新しい役員評価報酬制度が否決されるんだったら、我々の代表権を剥奪するとともに、株主総会を待たずにこの場で取締役を解任してくれ」と言ったんです。

倉重:おお。

有沢:この瞬間、カゴメは変わると思いました。

倉重:そうですね。本気っすね。

社長の年収を社内報で公開

有沢:「これは経営者は本気だな」と思いました。それで、今(スライドで)お見せしている構成比を『KAGOME通信』という社内報に載せたんですよ。

倉重:ええ!? 公開したんですね。

有沢:公開したんです。しかも社長は年収、月額報酬の実額まで出しました。

倉重:ええ? すごい。

有沢:『KAGOME通信』は3ヶ月に1回出るんですけど。「グローバル人事の展開」という文を作ってもらって、「社長の年収大公開!」と。『(週刊)文春』みたいな見出しで書いたんです(笑)。

倉重:ははは(笑)。

有沢:実額を出したのは社長だけですが、社長の年収を書いたんですよ。「社長は今まで月額報酬をこれだけもらっていました。これからはこれだけ減ります。変動報酬はこれだけ増えるので、経営指標がここまで上がると賞与も上がります。経営指標がここまで下がると、社長や役員の変動報酬がゼロになりますね」と。

社長にインタビューして「社長、今回の新しい制度はどうですか?」と聞いたら、「いや、厳しい世の中になりましたね」と言われたわけですよ(笑)。

倉重:ははは(笑)。「当たり前のことをやっているだけだ」とね。

有沢:「当たり前だ」と思って。それが『KAGOME通信』に全部載っている。

倉重:(笑)。

社内の空気が変わった瞬間

有沢:うちはフリーアドレスなので、みんなに一斉に社内報が配られるんですね。配った瞬間に、みんなから「え?」と声が上がるわけです。「ああ、これはなんか来るな」と思いました。

みんな、1ページめくって「社長の年収大公開!」「え?」「え?」という声が聞こえるわけです。次をめくると報酬の実額が出ているから「えー!?」と。ワンフロアに200人近くいるんですけど、一斉にみんなが「やばい」と思って僕のほうを見るわけです。

倉重:「やったな」みたいな。

有沢:「やったな」と。本部長と役員が何人か僕のところに来て、「有沢さん、こんなものを出していいんですか?」と聞くわけです。「え? 何か問題がある?」と言ったら、みんなが「カゴメは変わりましたね」と言って。この瞬間「勝ったな」と思いましたね。

倉重:やはりまず「隗より始めよ」で、上からね。

有沢:例えばジョブ型を役員から入れたら、部長たちが「次は僕らですか?」となる。

倉重:文句を言えないよね。

有沢:うん。「お前ら、よくわかってるじゃん」と言って。

倉重:ははは(笑)。

有沢:1年後に部長に入れたら、次は課長たちに「有沢さん、飲みに行きましょうよ」と誘われ、「来年は僕らですか?」「お前ら、ようわかっとるやんか」という。

倉重:あはは(笑)。

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