コンピュータ将棋が人間を倒すことに意味はあるの? 「非実用的なテクノロジー」が持つ価値とは

Challenges in Computer Shogi #1/2

2005年、世界コンピュータ将棋選手権に一般用ノートPCで初出場し、ハイスペックな強豪を次々と打ち破り初優勝を飾った将棋プログラム「Bonanza」。このプログラムの開発者である保木邦仁氏が、コンピュータ将棋が人類最強を完全に凌駕する近未来と、人工知能が持つ底知れない可能性を語りました。(TEDxKids@Chiyodaより この動画は2012年に公開されたものです)

「人間を打ち負かす」ことを目指す、人類の挑戦

保木邦仁氏:「一人の人間にとっては小さな一歩だけれども、人類にとっては大きな飛躍だ」。これはお月様を人類で初めて歩いたアームストロング氏の言葉です。多額の予算を計上してお月さん歩いてそれが一体何になるんだ、っていうのは、今日はちょっと考えないでください(笑)。とにかく、確かに地球を歩いたということは、人類にとって大きな飛躍だと私は納得しています。

1885年くらいから車が地面を走り回って、それで1903年から空を飛行機が飛び回るようになって、1969年にはとうとうロケットで月に到着しました。これは人類の挑戦の歴史だと捉えることができるのではないかと考えます。知的なゲームにおいて強い人間を打ち負かすコンピュータをつくるということも、このような挑戦の歴史の一端を担っています。

○×ゲーム、みなさんご存知だと思うんですけれども、○×ゲームで人間に勝っても、それは挑戦とは言えないのかもしれません。だけどゲームにはいろんな種類のゲームがあって、中には非常に難しいものも存在します。その中の一つに、二人で争うボードゲームのチェスがあります。これは非常に複雑なゲームで、多用な戦略とか戦術を駆使しないと強いプレイヤーにはなれません。

チェスっていうゲームは日本ではあまり馴染みがないんですけれども、西洋では非常にたくさんの方が遊んでいるゲームです。このゲームでは、1997年にIBMのディープ・ブルーっていうスーパーコンピューターが、当時の世界チャンピオンのカスパロフを敗りました。なんとその当時スーパーコンピューターは、一秒間に二億局面も先読みすることが出来たそうです。

人類が月に到着したのが1997年で、それから大体30年ぐらいが経過しています。で、ようやくチェスでコンピューターが人間に勝てるようになりました。だから、チェスで人間に勝つコンピューターを作るっていうのは、相当難しい挑戦だったんだなと考えることができます。

無知が生み出した大ヒット将棋プログラム「Bonanza」

私の名前は、保木邦仁です。電気通信大学の特任助教です。札幌生まれで、36歳です。古くから日本で遊ばれている「将棋」っていうゲームに強いコンピュータを開発する、ということに携わっています。今日は、私がコンピューター将棋に興味を持つようになった経緯と、私が実際にやっている取り組みの内容、最後にコンピューター将棋が今どうなっているのかについて、簡単に紹介いたします。

私は昔、そんな昔でもないんですけれども、2003年から3年間、カナダはトロント大学で化学の研究をしていました。

欧米では時間の経過の仕方が日本とは大きく異なっていて、日本だと「さっき起きたばっかりだと思ったのに、もう夜寝る時間になっている。だけど今日、何もかもが終わっていないじゃないか」という日もしばしばなのですが、それとは対照的に、北米のほうでは時間がかなり緩やかに過ぎていくようで、結構頑張ったなと思って家に帰っても、まだ夜になっていない。まだ一日が終わっていなくて困ったな、これからどうしよう、と思うこともしばしばでした。

このように心に余裕のある日々を過ごしているときに、偶然、コンピューターチェスについて論じている論文に出会いました。はじめは「ゲームなんて真面目に勉強している人もいるんだな」と冷やかし半分の気持ちだったんですけれども、次第に引き込まれていきました。計算機で積分とか体格化とかそういう数学的な計算をするというだけではなくて、ゲームで次の一手を思考するということまで計算できるのか、と非常に感銘を受けました。

私、非常に凝り性な性格で、それ以降コンピューターチェスに関する技術を熱心に調べました。仕組みがだんだんわかってくると、実際に自分でもプログラムを書いてみたくなるものです。人にもよると思うんですけれども、私はそういう人間です。でも全く同じゲームでプログラムを書いても、もしかすると面白くないんじゃないか。でもその一方で、チェスと大きく違うゲームに挑戦するのはちょっと難しすぎて、出来そうもない。そのような理由で将棋に着目しました。

私は将棋の専門的なことはあまり知りませんでした。小学校二年生ぐらいまでは将棋でよく遊んでいたんですけれども、当時、日本中の子供たちを席巻した任天堂ファミリーコンピューターの巨大な波に私も飲み込まれて、将棋のことを忘れる日々をそれ以降過ごしていました。

でも将棋のことなんてあんまり知らないので、「チェスも将棋も大体あんなものは同じじゃないのか。どちらも王様をとれば勝つゲームだろう」と、そういう軽薄な気持ちで、コンピューター将棋プログラムの開発に取り掛かることが出来ました。

もし将棋のことをよく知っていたならばこのようなことは起きなくて、「将棋は非常に難しいゲームで奥が深い」ということを知ってしまっていたら、将棋プログラムの単独開発なんてものに気軽な気持ちで取り掛かろうなどとは思い立たなかったかもしれません。無知なことはいいこともあるんだなと思いました。

それから、根拠のない前向きな気持ちを半年間キープして、なんとなく自分で納得の出来るプログラムを作り上げました。コンピューターチェスで成功している「力づく探索」という方法があって、それを将棋に応用したり、それとか江戸時代の頃から脈々と続いている、強い人たちのゲームの記録、棋譜を計算機で処理して、将棋の有利、不利などのそういう曖昧な判断を計算する方法を開発したりしました。自分で言うのもなんですけれども、結構いいものができたんじゃないかと当時思いました。

せっかく作ったので、大勢の人に遊んでもらおうと思って、インターネットで公開しました。そうすると、自分の予想をはるかに超える反響が返ってきました。当時の将棋プログラムと比較すると、私の作ったプログラムはちょっと作者の性格とは反対に、非常に攻撃的な性格を持っていてどんどん攻めてくると。だから多分そのほうが遊んでいて楽しいんだと思います。

あと当然、インターネットで無料配布したということも手伝って、瞬く間にコンピュータ将棋興味ある方の間に広がっていきました。プログラムの名前「Bonanza」という名前をつけたんですけれども、よく聞かれるんですが、特に深い意味はありません。名前にBとかZとか入っていて、ちょっと目立ちそうだな、とそういう理由です。それで、Bonanza攻めとかBonanza囲いとかそういう造語も生まれたりました。

「使えない新技術」にも一定の価値がある

公開したのが2005年で、翌2006年にコンピューター将棋の強さを競う"コンピューター将棋選手権"で初出場&初優勝をしたり、その翌年の2007年には、公式戦としては史上初めてとなる、プロ棋士とコンピューターの対戦という機会を頂きました。対戦相手は人間で最も強い将棋指しの一人と言われている、渡辺明竜王です。周囲の予想と反して当時Bonanzaは非常に善戦はしたんですけれども、惜しくも敗れてしまいました。やっぱり人間は相当強かったです。

最後に2008年、自分がやってきた作業を締めくくるという意味で、Bonanzaの設計図とも言えるソースコードをインターネットで公開しました。昔は強い将棋プログラムっていうのはほんの非常に一握りしかなかったんですけれども、昨今では強い将棋プログラムの数が一段と増えました。将棋が強い人間が持っている、早いとか熱いとか遅いとか、そういう曖昧な概念を計算する手法を確立したんじゃないかと考えています。

そこで将棋で形勢を判断する計算方法を発見して、それがなんになるんだということを私自身考えたりもするんですけれども、とにかく何でもいいから、今までできなかった非常に複雑で難しいことができるようになったと、それだけでも一定の意味はあるんじゃないかと考えています。

1920年に、マグネトロンというものを作る技術がおきて、これはマイクロ波を発信する装置なんですけれども、当時の技術者は、例えば将来技術が更に発展していって発信機が小型化に成功したり量産化されたり、世界中のたくさんの家庭でチンしてあっためるという意味で社会に貢献するようになるとは、とても想像ができなかったと思うんです。とにかく新しいことができるようになったというだけでも一定の意味があるのではないかと思います。

コンピュータ将棋は今、非常に強くなりました。今年(2012年)の1月に伊藤英紀氏の開発した「ボンクラーズ」というコンピュータのプログラムが米長邦雄永世棋聖と対局して、見事勝ちました。米長邦雄永世棋聖は現在現役を退かれているとはいえ、現役時代には最も強い将棋さしの一人と言われていた方です。将棋においてコンピュータが人間を完全に凌駕するという日もすぐそこに迫ってきています。

人工知能というものが情報工学で一つの大きな分野で、コンピュータが人知を超えればいいなという夢があります。現在、人間のように"考える"コンピューターがつくられるという気配はないんですけれども、それでもコンピュータが人間を凌駕する限定的な領域というのは、日々拡大していっています。だから映画にあるような、人間の知能が完全にコンピューターにとって代わられてしまう、というような日も、本当にいずれ来てしまうのかもしれません。これで私のスピーチを終わります。

<続きは近日公開>

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