人体が持つもう1つの脳 「腸」の話

The brain in your gut #1/1

食物科学者ヘリベルト・ワツケ氏によると、人間の腸は脳のような働きをしているそうです。実際、人の腸には猫の脳と同じ1億もの神経細胞が存在しているとのこと。味覚を感じ、人間の体に必要なエネルギー源を取り込む繊細で正確なシステム。この壮大なシステムを促進するために人類が発明した「調理」には、健康やダイエットへのヒントも含まれています。実際、腸に存在する神経細胞腸とは、どのような役割を果たしているのでしょうか(TEDGlobal 2010より)。

ものを噛み砕く歯、顔の形状

ヘリバート・ワツケ氏:この技術は、私たちにとても大切な影響を与えました。しかし、この技術は広く普及しているので意識されません。人間の進化において長いこと忘れ去られていました。

それでは、ちょっとしたテストをしてみましょう。みなさん、お隣の方と顔と顔を向かい合わせてください。2階席に座っていらっしゃる方もお願いします。そして笑ってください。口を開けて笑顔です。フレンドリーに。

(会場笑)

牙が見えますか?

(会場笑)

お隣の方の口の中にドラキュラ伯爵の歯はありますか? もちろん、ないですね。

歯科解剖学によると、私たちの歯は生肉を骨から食いちぎるようにはできていません。また、繊維質の多い葉を長時間噛んだりするようにもできていません。私たちの歯は繊維質を少なくして柔らかく、噛みやすく消化の良い食物にするようにできているのです。ファストフードのようですね。

(会場笑)

私たちの顔立ちは、調理した食品を食べることで変化した証拠です。私は人間の分類方法をどのように変えるべきか提案しましょう。私たちは、自分たちを雑食動物だと思っています。

私はラテン語の「coquere=料理する」をもじって、コクティヴォ(Coctivor 調理食動物)と呼んだらどうかと思います。

(会場笑)

私たちは「調理」した食物を食べる動物です。いいえ、もっと良い言い方があります。「調理」した食物で生かされているのです。「調理」は重要な技術です。そうです、技術なのです。みなさんはどうかわかりませんが、私にとって料理は娯楽です。それを充分に楽しむには、ちょっとしたデザインが必要になります。

「調理」は、みなさんをこの場に連れてくることを可能にした大脳にある、大脳皮質を働かせる非常に重要な技術です。そして、脳は高価なものです。教育費を払わなければいけないからです。

(会場笑)

でも、それだけではなく、代謝的に高価なのです。ご存知の通り、脳は人の体積の2〜3パーセントほどです。しかし、消費エネルギーの25パーセントをも使います。高価ですね。それでは脳のエネルギー源は何でしょうか? もちろん食物です。しかし、生の食材を食べてもエネルギーに換えることができません。

人類が発明したもの、調理

そこで、私たちの祖先はすばらしい技術を発明しました。それは「調理」で、とても日常的なものです。「調理」によって食品をエネルギーに変えることができます。それは私たちを取り巻く自然界や環境が生み出し、人間を発達させることを可能にしました。

「調理」と食品は人間の可能性を解放するのに、なぜ食品のことがこれほどまでに悪く言われるのでしょう。なぜ、これを食べるべきあれは食べるべきではない、なぜ、体に良い悪い、というだけの問いかけなのでしょう。人間の可能性の解放という問いかけで言えば、答えは持続的な解放にあるのではないでしょうか。

「調理」は人間を移住可能な種にしました。私はアフリカを2回訪問しましたが、人間はあらゆる環境下で生活しています。調理ができれば、どんな食材を見つけても食べられるように変えることができるので困ることはありません。そして、調理した食物で脳を働かせることができます。

(生の食品+調理=エネルギー)

この非常にシンプルな技術は、上の式を踏まえて作られました。食べられそうなものを見つけて人体にとって良いエネルギーに変化させる、ということです。

脳と内臓、ふたつの器官に影響を与えます。脳は成長し、内臓は縮みます。

(自分の腹部を見て)そうは見えませんね。

(会場爆笑)

でも、霊長類である私たちの腸は体積の60パーセントほどに縮んでいます。調理した食物を食べるので、消化が簡単におこなわれるようになったからです。ご存知のように大きな脳を持つことは強みでもあります。自分の環境に影響を与えることができますからね。自分が発明した技術に影響を与えることもできますし、改革や発明を続けることもできます。

大脳は調理したものを食べることによって、それが可能になるのです。その経緯は何でしょう。どんな基準なのでしょう?

その基準は、味覚、報酬、エネルギーです。5つの味覚があるのをご存知ですね。そのうちの3つは命を維持するものです。甘味はエネルギー。旨味は肉などのたんぱく質で、筋肉をつくったり疲労の回復に必要です。そして塩味、これ無しでは体内の電解質が働きません。

残りの2つは体を保護します。それは苦味と酸味で、毒や腐敗したものを避けます。ところが、これらは洗練された味でもあります。苦味のあるチョコレートやヨーグルトの酸味などです。苺やフルーツに混ぜると、おいしいですね。私たちは「調理」をすることで、食品を美味しく変化させることができます。

腸には脳がある!?

報酬、これはさらに複雑で、脳の様々な部位が総合的に働いた結果です。それは、環境や体の状況、自分の感覚などが組み合わさったものです。自分が嫌いなものでも空腹を満たすためには食べますね。満腹感はとても重要です。それからエネルギー、これも必要なものです。

それでは、腸はこの発展にどのように関わったのでしょうか。腸は、沈黙の声です。感覚と言ったほうが良いでしょう。

私はそれを大まかに、消化の快適さ、と言っています。実際、内臓が気に懸けるのは消化の不快感のほうです。腹痛や膨張感があれば、良い食品でなかったり調理方法が悪かったり、または何か他に良くないことがあったと教えてくれるでしょう。

私の話は2つの脳の物語です。驚かれるかもしれませんが、腸には成熟した脳があります。管理職についている方はこう言われるでしょう。「別に新しいことではないですよ、知っています。「直観」のことを内臓感覚と言っていますし、判断が必要なときは使っていますよ」

(会場笑)

みなさんは直観(内臓感覚)を実際に使っているし、役に立つものですね。それは、内臓が大脳辺縁系と繋がっていて、互いに連絡し合って意思決定をします。しかし、大脳が食物に反応するのではなく、食物が大脳に反応するとは、どういうことでしょうか。

それには、脳がどのように反応するかを知らなければいけません。腸に脳があるのであれば、この脳がどのように反応するのかを知らなければいけません。

(画像上から 賢い内臓・胃・小腸・結腸)

150年前、解剖学者がこのことをとても慎重に表現しました。これは内臓壁のモデルです。胃・小腸・結腸の3つの部位を取り出しました。この構造の中に、ピンクの層が2つ見えますね。

(画像:筋肉を指す)

これは、筋肉です。

(画像:神経組織を指す)

解剖学者は、筋肉と筋肉の間には神経組織があることに気づきました。

(画像:粘膜下組織を指す)

たくさんの神経組織があってそれらは筋肉を貫通し、免疫系のある粘膜下組織にも貫通しています。

(画像:粘膜を指す)

(画像:内腔を指す)

腸は人体を守るための最大の免疫系統です。神経組織は粘膜を貫通しています。この層は、私たちが飲み込んで消化する食物と接触する管腔です。

腸は引き延ばすとテニスコートと同じ40メートルの長さをもち、畳まれている部分をすべて広げると表面積は400平方メートルです。そして、この腸の脳は筋肉と同調して動き、表面を保護し、さらに食物を消化する仕事を取り仕切ります。

人間の腸には、猫の脳と同じ程度のニューロンがある

そのスペックは自律しており、5億の神経細胞を持ち、猫の脳とほぼ同じ1億のニューロン(神経細胞)を持っています。(腹部を指して)ここには小さな猫が眠っているのです。

(会場笑)

腸は自分で考え能率よく消化します。ニューロンの種類は20種。これは豚の脳にあるニューロンと同じです。人間の脳には1000億のニューロンがあります。これらは自律した微細回路を持ち、独自のプログラムが働きます。食物を感知し、どうするべきか知っています。

そして、食物を化学的に感知します。また、機械のようにも感知します。食物を運搬し、消化に必要なものすべてを混ぜ合わせなければならないので、これはとても重要なことです。

反射作用が起こる場合もあるので、筋肉の動きをコントロールするのはとても重要です。子供の頃、嫌いな食べ物を吐き出したことがあるでしょう。これは腸にある脳が反射作用を起こさせたのです。実際に、食物を消化するための分子や分泌をコントロールしています。

それでは、2つの脳はどのようにして相互作用するのでしょうか。

腸の脳、壮大なコントロールシステム

(画像上から時計まわり:内臓と脳の中枢 大脳 統合・行動 空腹を満たそうとする信号 内臓の脳 消化・防衛 化学的・機械的感知 内臓内腔)

こちらは、ロボット工学による、包摂アーキテクチャと呼ばれるモデルです。このモデルが示しているのは階層型のコントロールシステムを持っているということです。

下層部にある腸の脳は消化と防衛という独自の目的を持っており、上層部にある腸の脳は行動の統合と発生という目的を持っています。この2つの脳が同じ食物に反応します。図のなかでは青の矢印です。食物は腸の内腔にあります。

大脳は、下層にある腸の脳が発した信号やプログラムを統合します。しかし、腸の高層にある脳は下層の脳を包摂しています。

大脳は、腸の脳からの信号を置き換えたり抑制することができます。この2箇所の脳から信号を受けます。例えば空腹の信号。空腹時にはグレリンと呼ばれるホルモンが作られます。このホルモンは非常に大きな信号で、脳に「食べろ」という信号を送ります。それを抑制する信号は8つあります。少なくとも私の場合、それらの信号は無視されますが。

(会場笑)

大脳の統合力がこの信号を無視したらどうなるでしょう。空腹の信号が受け付けられないと食欲不振に陥ります。健康な空腹の信号にもかかわらず、大脳はそれを無視して腸に別のプログラムを作動させます。

よくあるケースは過食です。信号は受け取るのですがそれを別のプログラムに変えてしまうのです。8つの信号が「食べるのをやめろ、充分なエネルギーに転換済みだ」と言っているのに食べ続けてしまいます。興味深いことに、消化できるのに未消化のものが腸にあると信号はどんどん強くなります。この現象は肥満外科の分野で発見されました。

調理とデザインの話題に戻りましょう。味覚と報酬が大脳に語りかけることを学びました。それでは、どんな言語で内臓の脳に語りかければ大脳が無視できない強い信号を出すことができるでしょうか。皆が望む空腹と満腹のバランスを取ることができるのでしょう。私たちのリサーチを手短にお見せします。

これは脂肪の消化の様子です。左側にあるのが、オリーブオイルです。オリーブオイルは酵素の攻撃を受けます。これは試験管内での実験であり、腸の中で実験するのは非常に難しいのです。脂肪が分解され、成分が遊離すると吸収されるので、消え去ってしまうだろうと思われることでしょう。

実際にはとても複雑な構造が出現します。中央の写真に輪のような形が見えますが、これは水です。この水が表面積を広げて、より多くの酵素が脂肪を攻撃できるようになります。

最後に、右の写真に見られるような泡立った細胞のような構造が現れます。これは人体が脂肪を吸収していく様子です。この構造の言語を使い、この言語に腸を巡っていけるほどの継続力があれば、内臓の脳はより強い信号を発することができます。

これらは大学でもそうでしょうが、私たちが取り組んでいる研究テーマです。ありふれたことのように聞こえますが、調理方法をどのように変えるかというテーマです。

私たちはコクティヴォ(調理食動物)である

この構造の言語を発達させるには、どんな調理方法があるでしょうか? これが雑食性動物のジレンマです。

私たちには、コクティヴォ(調理食動物)としてのチャンスがあります。過去二百万年をかけて、味覚と報酬という自分たちを喜ばせ、且つ満足させる洗練された「調理」という手法を学んできました。消化・分解の過程や、脳が交信する言語構造を学び、それを「調理」という根源的な仕事に生かすことができれば、バランスのとれたエネルギーの摂取が可能になるでしょう。

「調理」の重要性を強調するために、「調理」が私たちを生かしているのだ、と哲学者さえも認識すべきでしょう。これからは、「Coquo Ergo Sum – 我調理する、ゆえに我あり」(注:Cogito ergo sum - 我思う、ゆえに我あり- デカルトの命題のもじり)と言いましょう!

ありがとうございました。

<続きは近日公開>

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