秘密の扉の裏側で
現実と物語を繋ぐ絵本作家の仕事

Why a good book is a secret door #1/2

子供たちに嘘をつくことが仕事。そう語るのは絵本作家のマック・バーネット氏です。では、フィクション(嘘)とリアル(現実)はどのような関係にあるのでしょうか? 子供たちは、物語を通じて現実でクジラを飼うことができます。また、「ナルニア国物語」を見た子供はクローゼットの中に秘密の扉を探します。つまり、フィクションを実際に体験できるのです。このようなことは大人も体験することができます。バーネット氏は、自身の創り出すものたちが描く心躍る世界に、読者を導きたいと話します。これは一体どのようなことなのでしょうか? フィクションとリアルが繋がっている、そんな不思議な世界を覗いてみましょう。(TEDxSonomaCountyより)

アートにおけるフィクションとはどのようなものなのか?

マック・バーネット氏:みなさん、こんにちは。私の名前はマック。仕事は子供たちに嘘をつくことです。ただし、誠実な嘘です。私は子供むけの本を書いています。

ピカソの言葉を借りると「我々はみな、アートが事実ではないと知っている。アートは我々が真実に気づくための嘘だ。あるいは少なくとも、我々が理解すべき真実を投げかける。アーティストは人々に自分の嘘を信じさせるためのマナーをわきまえていなければならない」

私は子供の頃に初めてこれを聞いて、すごく好きだったのですが、どういう意味なのかさっぱりわからなかったのです。

(会場笑)

それで、私は考えました。でね、私は今日ここへ、みなさんにそれをお話しするために来たのです。真実と嘘、フィクションとリアリティについてです。さあ、この複雑に絡み合った文章をどうやって紐解いていきましょうか。

なんと、パワーポイントを用意してきました。ベン図です。

(会場笑)

こちらです、じゃーん。ここに、真実と嘘、そしてちょっぴりスペースがありますね、端っこと、真ん中に。この境界域、これがアートです。そのとおり。ベン図。

(会場笑、拍手)

しかしながら、これもすごく助けになるというわけではありません。あのピカソの言葉や真のアートってどういうことなのか、少なくともアートにおけるフィクションというものを私が理解する助けになったものは、子供たちとともにありました。

フィクションは身近でエクサイティングなリアル

私はカレッジの夏休みにキャンプのカウンセラーをやっていました。これは、とても楽しかったです。4歳から6歳向けのスポーツ・サマーキャンプで、私は4歳児の担当でした。ラッキーでした。4歳児はまだあまりスポーツができないのですが、私もスポーツは苦手だったので。

(会場笑)

私の運動神経は4歳児レベルなので、どういうことが起こるかというと、子供たちはコーンの周りをドリブルして、暑くなると木の下にやってきて、すでに腰掛けている私の隣に座るんです。

(会場笑)

それで私は子供たちに、作った話を話して聞かせたり、私自身についての話をしたりしました。たとえば、「週末、ぼくは実家に帰ると英国女王のスパイをしているんだ」という感じに。

そうすると、私のグループじゃない子供たちまでやってきて、「ねえねえ、あなたがマック・バーネット? 英国女王のスパイをしている人?」と言うんです。私は長年、見知らぬ人がやってきてはこの質問をするのを待ちわびていました。私の空想の世界では、その見知らぬ人たちというのはスレンダーで美しいロシア人女性なのですが、実際そこはカリフォルニア、バークレイですから、4歳のちびっ子たちですけれどもね。

そのうち私は、自分が話しているストーリーは、ある意味において自分にとって身近ですごくエキサイティングな「リアル」であるということに気がつきました。私にとって忘れられない、いい例を紹介しましょう。

食べ残しのメロンが大きなマスクメロンに育った

ライリーという小さな女の子がいて、毎日お弁当を持ってきていたのですが、いつもフルーツを捨てていました。

ライリーは毎日、お母さんが詰めてくれたメロンだけ、ツタの中に投げ捨てていました。フルーツ味のお菓子やプリンは食べるのに。それで私は「ライリー、そんなことしないで、フルーツも食べなきゃ」と言いました。そしたら彼女は「どうして?」と聞くのです。「だって、ツタの中にフルーツを捨てていたら、そのうちメロンがにょきにょき生えてくるんだから」と私。そんなわけで、私は子供たちのための栄養士ではなく、作家になったというわけです。

ライリーは「そんなわけないわ。絶対そんなことにならないと思う」と言いました。それで私はキャンプ最終日の朝に早起きして、スーパーで大きなマスクメロンを買ってきて、ツタの中に隠しました。ランチの時間、私は「ライリー、ちょっと向こうへ行って、君のしでかしたことを見ておいでよ」と言いました。 (会場笑)

彼女はツタの中へのそのそ歩いていくと、その目を大きく見開きました。自分の頭よりも大きなメロンを指差すと、子供たちがみんな彼女の周りに駆け寄り、その中の1人が言ったのです。「ねえ、どうしてこのメロン、シールがついてるの?」

(会場笑)

私は「ツタの中にはシールも捨てちゃだめだよって言ったよね。ちゃんとゴミ箱に捨てなきゃ。こういうことをすると、自然が泣いちゃうんだ」と言いました。ライリーはその日一日中、誇らしげにそのメロンを抱えて歩き回りました。

ライリーは自分が7日間でメロンを育てたのではないことを知っていました。でも彼女が育てたのでもあることを知っていました。不思議な世界です。

フィクションとリアルが重なる世界

子供だけの世界ではありません。すべてを内包しています。

アートは私たちをそこへ連れて行ってくれます。彼女は、人々が「アート」とか「フィクション」と呼ぶ世界のちょうど真ん中にいたのです。私なら、それを「不思議」と呼びます。

コールリッジは「不信の一時的停止」または「詩的な信仰」と呼びました。どんなに奇妙でも、物語の世界にはかすかな真実が存在し、あなたはそれを信じることができます。

子供だけではありません。大人も、読んだ世界へと行くことができます。2日間、人々が「ユリシーズ」で起こったことをくまなく見て回るブルームスデイのウォーキングツアーに参加するためにダブリンに押し掛けるのはそのためです。本当は何も起こってはいないのに。

それにベイカーストリートにあるシャーロック・ホームズのアパートを訪ねるためにロンドンにやってくる人々もいます。「221B」と書かれたビルがあるだけで、そのアドレスは実在しないのに。

子供たちは大人よりもずっと簡単に、そこへ辿り着くことができます。だからこそ、私は子供たちのために書くことが好きなんです。子供たちは真面目なフィクション文学の一番の読者だと思います。私が子供の頃は、たとえば『ナルニア国物語』のように、クローゼットの先の魔法の国につながる「秘密の扉」のような小説のことで頭がいっぱいでした。

実際私は、「秘密の扉」は本当に存在すると信じて探し、そこへ行こうとしました。フィクションの世界へ行って、そこで生きたかったのです。そんなわけで、私はしょっちゅう、他の家のクローゼットを覗いてばかりいました。

(会場笑)

私は自分の母親のボーイフレンドのクローゼットも開けましたが、そこに秘密の魔法の国はありませんでした。そこにあったのは、母に教えてあげたいくらい、へんてこなものばかりでした。

(会場笑)

それで、私は嬉々として母に全部話しました。

海賊の世界に連れて行ってくれるお店

カレッジ卒業後の私の最初の仕事はそんな秘密の扉の裏側で働くことでした。826バレンシアと呼ばれる場所です。

サンフランシスコのミッション、826バレンシアストリートにありました。私が働いていた当時、マックスウィニーズという出版社の本社と826バレンシアという非営利のライティング・センター、それから正面にはへんてこなお店がありました。

その地域は商業地区で、サンフランシスコでは特例許可が下りなかったため条例に従うことにしたのです。そこを設立したデイブ・エガーズというライターが「じゃあ、海賊洋品店をつくろう」と言いました。それで彼は実際に、つくったんです。

(会場笑)

すべて木でつくられた美しいお店です。引き出しの中にはみかんが入っていて、壊血病だって予防できます。色とりどりのアイパッチもありました。

春になると、海賊は熱狂しますよね。「黒はもう飽き飽きだ。パステルだ!」

それから、眼。

シチュエーションに応じて、ガラス製のカラフルな眼が揃っていました。不思議なことに、そのお店にはたくさんのお客さんがやってきて、いろいろな買い物をし、裏にある個別支援センターの賃料を賄うまでになりました。

でも私にとってもっと重要だったのは、仕事のクオリティです。子供たちがやってきて、書き方を習います。この妙で不思議な、非現実的な空間を通り抜けて、書くための場所へと向かうのです。作品にも何らかの影響を与えるはずです。まるで「秘密の扉」を通り抜けるみたいに。

チンギスハーンなど、多くの偉人が勤める不思議なお店

それで、私はロサンゼルスでも826を運営しました。そこでお店をやるのが私の仕事でした。ザ・エコー・パーク・タイム・トラベル・マートです。

「あなたがどこにいようとも、私たちはすでにそこにいた」というのが、私たちのモットーでした。

(会場笑)

お店はロサンゼルスのサンセット・ブルバードにありました。フレンドリーなスタッフが、いつでもお客様のお手伝いをします。奥にいるこの男性はつい最近の1980年代からですが、各時代にわたるスタッフたちが揃っています。

スタッフの月間賞受賞者の中には、チンギス・ハーンやチャールズ・ディケンズもいました。

他にも何人かの偉人がランクインしています。これはドラッグストア部門。

私たちはいくつか専売の薬を取り扱っていました。内蔵を保存するためのカノピック・ジャー(訳注:ミイラの内蔵保存用壺)や「今年用の石鹸」という共産主義者のための石鹸。

(会場笑)

開店した日の夜に、フローズンドリンクマシンが故障して、私たちはどうしていいのやらわからなくなってしまいました。建築家なんて、真っ赤なシロップまみれ。まんざらでもなさそうでしたが、殺人犯みたいになっちゃって、本当にどうしようもなかったのです。お店の目玉商品になるはずでした。結局、「故障中。おとといきやがれ」と貼紙をしました。

(会場笑)

その貼紙がフローズンドリンクよりも人気で、ずっとそのままにしてあります。「マンモス肉のぶつ切り」、一切れ7ポンド(訳注:約3kg)。

「原始人除け」は、原始人が嫌うサラダとポプリでできています。

「死語」

(会場笑)

「ヒル」、自然界の小さなお医者さん。「バイキングの臭い」は足の爪、汗、腐った野菜と灰の混ざったすごい臭い。「Axe(斧)」ボディスプレーは、脇の下ではなく戦場のものですよね。

(会場笑)

そしてこれが、「ロボット感情チップ」です。

ロボットは愛とか恐れを感じることができます。中でも予想外に一番よく売れたのが、「シャーデンフロイデ、他人の不幸は蜜の味」でした。

(会場笑)

まさかこれがよく売れるとはね。

フィクションが現実世界の脱出口に? リアルとフィクションを結ぶ扉

まあいずれにしても、裏には非営利の個別支援センターがあって、子供たちは「従業員専用」と書かれた扉を通り抜けて、宿題をやったり、物語を書いたり、映画を作ったりする場所へとやってきました。

これは子供たちが読む本の出版記念パーティーです。

放課後に毎日やってくる子供たちが書いたもので季刊誌を発行して、出版記念パーティーを催していたんです。ケーキを食べて、両親のために自分が書いたものを朗読し、シャンパングラスでミルクを飲んでいました。

それはとっても特別な場所で、なにしろ、正面には奇妙なお店があるんですから。ジョークは単なるジョークではありません。非現実との境目が見つけられません。私が好きなのはそこなんです。現実世界にほんのわずかなフィクションが紛れ込み、根ざしています。まるで3次元の本のように。

メタフィクションと呼ばれる物語についての物語があります。

「メタ」は今この瞬間のことです。おそらく1960年代の小説家であるジョン・バースやウィリアム・ギャディスあたりが、重要な時代だと思います。ストーリーテリングそのものとほぼ同時代です。

メタフィクション的なテクニックの一つに、第4の壁を壊すというのがあります。役者が観客に向かって、「私は役者です。これはお芝居なのです」と言うのです。一見、真実の瞬間のようですが、実は偽りの演出です。表面的には、つくられたフィクションです。私は逆で、第4の壁を壊すなら、フィクションが現実世界への脱出口になっているほうが好きです。本が現実へのストーリーに導く秘密の扉であればいいと思っているんです。

「クジラを飼っている現実」への扉となる物語

それで、私は自分の本がそうでありたいと思っています。ここにひとつ例があります。

『ビリー・ツイッターズとシロナガスクジラ問題』という私の最初の本です。シロナガスクジラをペットにした子供が、おしおきで自分の生活を台無しにしてしまうお話です。FedUp(訳注:うんざり。FedExからのジョーク)で翌日届きます。

(会場笑)

それで彼はシロナガスクジラを学校へ連れて行きます。

彼はサンフランシスコに住んでいるのですが、シロナガスクジラを飼うには、少々大変なところです。坂道は多いし、不動産はプレミアム物件ばかり。本当に狂ったマーケットですよ、みなさん。

まあいいとして、本のカバーの下のところに、30日間お試しで、リスクフリーのシロナガスクジラの告知をしました。

自分の住所を書いて切手を貼った返信用封筒を送ってくれたら、シロナガスクジラを送りますと書いておいたら、子供たちが書いてくれました。

ここに手紙があります、読みましょう。

「ご担当者さま、あなたたちが私にシロナガスクジラを送ってこないことに10ドルかけます。エリオット・ギャノン(6歳)」

(会場笑、拍手)

このような、エリオットや他の子供たちに返送されるのは、ノルウェーの法律事務所からのとても小さな印刷物です。

(会場笑)

関税法の変更に伴い、あなたのクジラはソグネ・フィヨルドで足止めされてしまいました。すごくすてきなフィヨルドで、と手紙にはソグネ・フィヨルドとノルウェーの食べ物についてしばらく書かれていて、話をうやむやにします。

(会場笑)

でも最後には、あなたのクジラがあなたと話をしたがっていますと書かれています。クジラ専用の電話番号がありますので、こちらへ電話して、留守番電話にメッセージを残してください。メッセージを残すために電話をかけると、留守番電話に切り替わり、クジラの鳴き声が聞こえます。そして、ピー音。このピー音のほうがクジラっぽく聞こえるんです、実は。それで子供たちは、自分のクジラを思い浮かべます。

「私の創り出すものたちが描く心躍る場所」に読者を導く

これはランドルフという最初に電話してきてくれたニコという子のクジラです。

ニコのメッセージを聞いてみましょう。これはニコからかかってきた、最初のメッセージです。

ニコ(音声):こんにちは、ニコだよ。ランドルフ、君の飼い主だよ。こんにちは。初めて話すよね。また電話するね。バーイ。

マック・バーネット氏:ニコは、約1時間後にまた電話をくれました。

(会場笑)

これがそのメッセージです。

ニコ(音声):こんにちは、ランドルフ。ニコだよ。長いこと君と話してなかったけど、土曜日か日曜日に話したよね。うん、土曜日か日曜日。でね、元気にしてるかなって、また電話してみたんだ。君はいま何しているのかなって思って。たぶん明日か今日、また電話するね。またね。バーイ。

マック・バーネット氏:本当に、彼は同じ日にまたかけてきました。4年間にわたって、ニコはランドルフに25回メッセージを残しました。彼のことがすっかりイメージできますよね。彼の大好きなおばあちゃんや、ちょっぴり好きなおばあちゃんのことまで。

(会場笑)

彼がやっているクロスワードパズルとか。もうひとつ彼からのメッセージをご紹介しましょう。ニコからのクリスマス・メッセージです。

ニコ(音声):ピー。こんにちは、ランドルフ。長い間、お話ができなくてごめんね。学校が始まって、すごく忙しかったんだ。君は知らないだろうけど。たぶん。だって、君はクジラだから。でね、メリークリスマスを言うために電話したんだ。すてきなクリスマスを過ごしてね。バイバイ、ランドルフ。さよなら。

マック・バーネット氏:ニコはこのあと、18か月電話をかけてこなかったのですが、2日前にメッセージを残してくれました。彼の声はすっかり変わりましたが、ベビーシッターにも電話を替わり、彼女もランドルフにとても親切に話してくれました。

ニコは私が待ち望んでいたような、最高の読者です。私は、自分が向けて書いているすべての人を、私の創り出すものたちが描く心躍る場所へと導きたいのです。私は幸運です。ニコのような子供たちが最高の読者です。そんな彼らに相応しい、最高のストーリーを描き続けたいと思います。どうもありがとうございました。

(会場拍手)

(編集協力:伊藤勇斗)

<続きは近日公開>

Published at

TED(テッド)

TED(テッド)に関するログをまとめています。コミュニティをフォローすることで、TED(テッド)に関する新着ログが公開された際に、通知を受け取ることができます。

このログの連載記事

1 秘密の扉の裏側で 現実と物語を繋ぐ絵本作家の仕事
2 近日公開予定

スピーカーをフォロー

関連タグ

人気ログ

人気スピーカー

人気コミュニティ

ピックアップ

編集部のオススメ

ログミーBizをフォローして最新情報をチェックしよう!

人気ログ

人気スピーカー

人気コミュニティ

ピックアップ

編集部のオススメ

そのイベント、ログしないなんて
もったいない!
苦労して企画や集客したイベント「その場限り」になっていませんか?