多様性はなぜ必要か 科学が客観的でない2つの側面

Why Science Needs Diversity #1/2

進化生態学者のケン・ペトレン氏が、TEDのステージに登壇。チャールズ・ダーウィンが祖父から受けた影響や、彼のガラパゴス諸島での研究についてのエピソードを交えながら、多様なバックグラウンドを持った科学者たちこそが、科学の発展に不可欠だと力説。スピーチの中で、「科学を髪の毛に例えると、さまざまな角度や方向にねじれた髪の毛—すなわち、多様な経歴を持つ科学者が必要」とユニークな口調で語りつつも、力強く、科学における多様性の必要性を強く訴えかけます。スピーチの最後には、科学の多様性を促進していくための、2つの対策を提案します。時代の固定概念に捉われず、多角的な視点で物事を見つめる重要性が伝わるスピーチは、科学者や、研究者だけでなく、現代を生きるビジネスマンも必見です。(TED×UCincinnatiより)

多様な科学者がいたほうが、科学はより良いものになる

ケン・ペトレン氏:今日は、「なぜ科学は多様性を必要とするのか」についてお話ししたいと思います。「多様性」という言葉は、「多様な科学者の集まり」という意味です。

「多様性」について考えるのは、単にそれが良いことだからとか、倫理的責任だからということにとどまりません。もちろんそれらはもっともな理由です。しかし今回は、ある特定の理由──「多様な科学者がいたほうが、科学はより良いものになる」ということについてお話ししたいと思います。

科学とは客観的なものだと私たちは教えられています。大部分において、科学は客観的です。しかしある2つの側面においては、明らかに客観的ではありません。それは、科学と科学者の裏側には、たくさんの科学者の成果と、人間的要素の背景がある、ということです。

1つめは、科学者として私たちが追求している疑問の方向性です。

2つめは、私たちがそれらの疑問にどうやって答えを出すかということです。これら2つの要素は非常に重要です。そして、ある意味で、私たちが見つけ出そうとしているものを定義することにもなるのです。

私の仕事は、ダーウィンが発見したスズメ目の小鳥を研究することです。私は進化生態学者として、この系統を20年くらい研究しています。その中で私は、私自身の経歴が、私のやっている研究に反映されていることに気付きました。

私は、労働者階級の家庭から研究者になった最初の世代の学生でした。なので、大量のデータを集め、分野を越えて質問し、ノーベル賞級の発見ができるかもと考える傾向があります。

普段私は、育った家庭環境が自分の科学研究に反映されているのがよくわかります。しかしそれでは、みなさんを納得させられるかわかりません。なので、今日は史上最も偉大といわれる科学者、チャールズ・ダーウィンについて話したいと思います。

自由な思索家であった祖父が、ダーウィンの研究に影響を与えた

みなさんに、ダーウィンの個人的な背景が、彼の科学研究に影響した2つの例をお見せしましょう。

彼の生きていた時代、一般通念として、生物はその形を変えることはないと考えられていました。種は変わらない。生き物はみな、今あるのと同じ形で創造され、絶滅するまでその形のままでいる。そう考えられていたのです

ダーウィンの素晴らしい発見は、もちろん、まずどんなふうに種が変化し、そしてその変化が、自然淘汰を経てどのように起こったかを証明したことです。生物の再生産における突然変異と生存競争です。小鳥のくちばしの形状に起こったような変化です。

これらが、ダーウィンの偉大な貢献です。しかしダーウィンはなぜ、このような発見に至ったのでしょう? 当時の社会が変化に対応できたから、というのもひとつの意見でしょう。

しかし、フランス人科学者のクーヴィエは、種の均衡状態を主張した1人でした。種は変わらないと考えたのです。それが当時主流とされていた考え方でしたし、人々はそれを支持しました。

しかしダーウィンは、祖父のエラスムスと、一緒の時間を長く過ごした背景がありました。エラスムスは自由な思索家で、種の均衡状態に対して疑問を抱いていました。

彼は問題の正しい答えを発見することはできませんでした。進化がどのように起こったのか突き止めることはできませんでした。しかし彼は、疑問の種を抱いており、その種をチャールズ・ダーウィンに植え付けたのです。

だからこそ、ダーウィンは彼が選んだような進路を選び、彼が追求したような謎を研究したのだと私は思います。

ガラパゴス諸島での、ダーウィンの衝撃的な発見

ダーウィンは、調査船ビーグル号に乗ってガラパゴス諸島へ行き、25種類もの小鳥を収集しました。それらの小鳥には、後年彼の名前がつけられました。

私の研究室には、これらの標本がそっくりそのままあり、遺伝的分析に使用しています。これらの鳥の大部分は消えてしまいました。生息数も多様性も、ダーウィンの時代比べて失われてしまったのです。

見てお分かりのように、これはガラパゴスの写真です。非常にごつごつとした荒々しい風景です。ダーウィンのガラパゴスにおける発見のひとつは──彼は、イギリスに帰国してからその考えの大部分を組み立てたのですが──彼は、ガラパゴスにいるさまざまな種類の生物たちが、本土にいる仲間の生物と異なっていることに気付いたのです。

ダーウィンは、ガラパゴスの生物種と、本土のそれとの間における、明らかな関連性を発見しました。しかし、それらは少しずつ微妙に異なっていたのです。

またダーウィンはガラパゴスにいる間に、隣の島の生物も少しずつ異なっていることに気付きました。地理的な距離はごくわずかだったにも関わらず。

この事実は彼にとって非常に大きな衝撃でした。彼は有名な『種の起源』の中でいくつかの例を挙げています。

その中の1つが、このカメです。ある島では、非常にはっきりした甲羅を持っています。他の島では、もっとわかりにくい甲羅をしています。この2つの島はお互いに肉眼で見えるほどの距離です。

別の例は、モッキンバード(マネシツグミ)です。この場合は、みなさんもどうしてこのような形になったかわかるでしょう。ある島には巨大なサボテンがあり、おいしい葉っぱは高い梢についています。葉っぱを食べるため高さに適応しなくてはならなかったのです。

時代の一般通念が、ダーウィンに初歩的なミスをおかさせた

ダーウィンは著書の中で、鳥を例に使いたいと思っていました。ノートにはこう記されています。「見よ、このすばらしい多様性を。それぞれ異なった形のくちばし、おそらく異なった島から来たものだと思われる」。しかし、彼はそれを例として使うことはできませんでした。

彼は、初心者がよくやる間違いをおかしていたのです。今日の新人科学者でもやらないような、初歩的なミスをおかしていました。

彼は標本に、どこの島で採取したかというラベルを貼らなかったのです。イギリスに帰った彼は、大慌てでそれらの鳥がどこから来たかを整理しようとしましたが、できませんでした。結局、彼はそれらの鳥を著作の中で例として使うことはできなかったのです。

ここでの疑問は、「ダーウィンはなぜそんなくだらないミスをおかしたのか?」ということです。

こちらの写真を見て下さい。ガラパゴス諸島の島のひとつです。私たちの研究キャンプ施設も見えます。

ダーウィンのミスの理由は、ガラパゴスが荒涼とした場所だったからかもしれません。実際非常に起伏が激しいです。上陸するのは難しく、さらに山の頂上で鳥を掴まえるのは困難な作業でした。ですから、もしかしたらダーウィンは疲れてしまって、あるいは道の険しさに気を取られて、ラベルを貼り忘れたのかもしれないのです。

実際、ここは非常に荒れた場所で、私たちは地球上で最もめずらしい哺乳類から襲われたこともありました。これです。この邪悪な生き物に噛まれて、私たちのうち3人が流血の大惨事になりました。

(会場笑)

ガラパゴスコメネズミです。指に噛み付こうとしています。何が起こったか詳しく説明することもできますが、それはまた別の話ですね。

つまり言いたいことは、ガラパゴスが非常に荒涼とした場所だったということです。しかし私は、ダーウィンにとってそれが問題だったとは思いません。

他に考えられる可能性としては、単純に彼が鉛筆を持っていなかったか、どこかの島に置き忘れて来てしまった、というようなことも考えられます。そういうこともなさそうですが。

私が思うに、歴史が理由の1つなのではないかと思います。彼の時代の一般通念であった、「種が変化することはありえない」という考えが邪魔をしたのです。

なぜこんなに近いふたつの島で、それぞれ異なった種が育ったのか。もしこれがイギリスの海岸だったら、こんな規模でそのような変化は起こりようがないのです。

もちろん現代では、たとえこれくらいの規模であっても、種の変化は起こりうると考えられています。しかし当時はそうではありませんでした。つまり、当時の社会通念が、今日では考えられないくらいに、ダーウィンの科学研究方法に影響していたのだと言うことができます。

多様な科学者の存在が科学の進歩につながる

おそらくみなさんはこう考えるのではないでしょうか。「ふむ、もし個人的な背景が研究対象の選定や研究方法に影響するのであれば、科学者はどうなるのだろう? もし科学者が全員、似通った経歴を持っていたら、すべての科学分野で、必要な疑問や謎を追求してくれるだろうか?」と。

理想を言えば、科学研究においては、さまざまな方向への研究がなされるべきです。もし科学が髪の毛だとしたら、こちらが「良い科学」の見本です。

一本だけ伸びたアンテナよりも、ウーピー・ゴールドバーグのような人を求めているのです。メデューサのように、さまざまな角度や方向にねじれた髪の毛が必要です。ジッピー・ザ・ピンヘッドのような人は要りません。

私が言いたいのは、これらの髪型のようにハゲた部分や毛の短い部分は、言ってみれば科学でまだ探検されていない路地のようなものだということです。未だ誰も問うたことのない問題を見つけ出し、その細い道筋を探究していくために、私たちはより多彩な経歴の科学者を必要としています。

この画像は、ダーウィンの時代の王立学会のものです。非常に均一的ですね。

こちらはその100年後のもの。これが地球上の科学研究者の母体だったのです。

こちらがより最近のもの。少しマシになってきたかもしれません。でも私はこの写真を見て、もっとやれると思います。

まだ研究されていない科学があります。なぜなら、解明されていない謎に気付ける多様な視点を、私たちはまだ持っていないからです。

科学の発展のためにできる、2つの対策

そこで、みなさんに2つの対策を挙げたいと思います。1つめは、科学者はもっと外に出て、新たな視点を得るように努力すること。これはやればできます。この写真は、カリフォルニア州立大学チコ校の人文科学部の教員たちです。彼らをここシンシナティ大学に招待しました。彼らは多様な観点を持って研究を行っており、それはとても価値のあるものです。

ノーベル科学賞受賞者のうち80%は、彼らの革新的な功績を、芸術を学んだおかげだと言っています。または少なくとも、その革新的な才能が芸術によって後押しされたと関連性を認めています。これは非常に大きな数字です。

2つめのアドバイスは、みなさん全員に対してです。立ち上がり、自分自身を想像して下さい。若い人は、今からでも科学者になれます。年をとっている人は、科学研究に協力することで貢献できます。そしてあなたのまわりの、幼い子供たちだってそうです。科学の世界は彼らを必要としています。彼らに科学研究を勧めるだけではなく、どうか科学者になってほしいとお願いするべきなのです。いつか彼らが素晴らしい業績を残すのです。

私は強く信じています。型破りな科学者であればあるほど、その人は科学の未来にとって価値があるのかもしれないと。どうもありがとうございました。

(編集協力:岸晃)

<続きは近日公開>

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