日本人の「国内志向」は不利になる--イギリス人教師が学生に留学をすすめる理由

Finding a place to belong outside the comfort zone | Simon Wallis | TEDxNagoyaU

日本で25年間過ごし、ゼロから日本語を覚え、現在は名古屋大学大学院で教鞭を取っているイギリス人のウォリス・サイモン氏。日本の領土を拡大する大陸棚延長のプロジェクトに関わるなど、日本の国益に大きく貢献をしてきました。サイモン氏は自分の心地良い場所である「コンフォートゾーン」から踏み出し、拡大することの重要性について語りました。(TEDxNagoyaU2014 より)

日本語を解読したいと思った

ウォリス・サイモン氏:私は日本に来たのはもう25年前ですね。最初は2年のつもりだったんですね。うちのお母さんに言ってきましたけど、ついつい長くなってしまいましたね。

その間、さっき紹介があったんですけど、銀行員をやったり、研究者をやったり、今大学教員をやってるんですけど。何回も今度こそ帰ろうと思ったことがあります。イギリスに帰りましょうと……。

けど、結局残った理由はですね、1つの理由は2つの文化にまたがって生活することのおもしろさですね。それについて今日、紹介したいと思ってます。

はっきり覚えてます。最初に日本に来た時ですね、伊丹空港。昔は国際空港だったんですけど、9月、まだ蒸し暑い気候だったんです。蒸し暑い天気。イギリスと全然違う気候。

周りを見ると、髪の毛が真っ黒な人たち(ばかり)よ、みたいな。やっぱり外国に着いたっていう実感がわきました。

あとは一番印象深かったのは、周りを見て、ネオンサインがいっぱいあって、標識があって。全部、いろんなことが書かれてるんですね。

それを見て、私は突然、文字を読まなくなってしまった。そういう、読み書きができない人になってしまったという印象をすごい受けたんですね。

たぶん普段はですね、ほとんど無視してるんですね。「なんとか新発売」とか「アサヒ・スーパードライ」って書いてあるんですけど、普段は無視しますね。

でも、いきなりその中に入っちゃうと、そのフィルターが外されたような感じですね。その情報の多さに圧倒されて。その気持ちは覚えてますね。

英語で言うと「dizzy」ですね。クラクラする、良い意味でクラクラする、ですね。興奮気味で。そういう状態だったんですね。

(日本語を)見て、この「日本語」という暗号を解読できれば、きっとすばらしい世界が見えてくると。「新発売」なんとか、とはわからないですね。で、日本語の勉強に取りかかりました。

日本語能力試験1級に合格

意外と日本語っておもしろいんですね。英語と全然違うところが多いので、なかなかおもしろいと感じました。

特に、英語との関係を考えるとですね、たとえば学校に行くと、日本語学校に行くと、英語の「milk」は「牛乳」と習います。牛乳なんですけど、コーヒーを入れたとたんにまた「milk」に戻りますね。これはなかなかおもしろかった。

政治家の「ブレーン」は、あなたの「brain(脳)」かもしれないですね。僕の「brain」かもしれない。だいたい政治家の「ブレーン」ではないですね。政治家の「ブレーン」と言った場合。

「マイカー」は「マイカー」でいいんですけど、たくさんの人たちが「マイカー」に乗ってると、すごい不思議な感じがします。

あとですね、漢字も頑張りました。「憂鬱」とか「薔薇」とか、どうでもいい(漢字)。なんとなく、こう「暗号の解読に関係する活動だ」と思って覚えました。

その後、日本語能力試験の1級に受かりました。それでできると思ったら、ただ、大学で仕事をやりはじめると、もう、本当に通用しないということがよくわかりました。

たとえば小さい例なんですけど、どっかの会議で「系別ガイダンスをいつ開催しますか?」という話になったんですね。系別ガイダンス。「系」は理学系とか物理系とかそういう「系」なんですけど。僕の電子辞書を調べたらですね「人を軽蔑する」って書いてあるんですね。

「軽蔑か……きっといじめ問題があったに違いない」と(笑)。しばらく勘違いしました。そういうふうにですね、そういうふうにこう、失敗しながら、恥ずかしい思いをしながら、少しずつ、使えるように日本語を覚えていきました。

コンフォートゾーンから踏み出そう

振り返ってみると、楽しかった。おもしろい経験だったんですけれども、結局長い「戦い」という印象もやっぱり残りますね。こういうふうに身を異文化に置くっていうのは、自分の「コンフォートゾーン」から踏み出して活動することになりますね。

「コンフォートゾーン」は何かっていうと、心地良い、ストレスの少ない活動の場ですね。そこに踏み出すっていうのは、心地が悪くて、ストレスが多い。

そういうふうに言うと、あんまりいい印象を受けないかもしれないんですけど、経営学とか、そういうところにいくと、高く評価されますね。

やっぱり自分の「コンフォートゾーン」自分の心地良いところからから踏み出して。インターネットを見ると、こういうのはいっぱい載っていると思うんですけど「where the magic happens」って書いてあるんですね。

私は日本に来て、こういうふうにやっているっていうのは、明らかに「コンフォートゾーン」から離れてるんですけど、これはなんか、納得できない部分があるんですね。私の経験とちょっと違いますね。

ちょっと違う考え方から見ていきたいと思うんですね。

これはIBMの創設者、トーマス・ワトソンの言葉、名言。かなり気に入ってます。

「I’m no genius. I’m smart in spots - but I stay around those spots.」

要するに(私は)天才じゃない。天才ではなくてところどころに才能があって、その才能を生かすというところですね。

多くの人たちはこういう言葉、共感できる部分はあると思うんですけど、やっぱり「spots」を作らなきゃいけないんですね。同じ「コンフォートゾーン」の中で作るのは、なかなか難しい。

かなり長いこと、日本の教育システムに参加して、見てきたんですけど、日本の教育はレベルが高いんですね。世界から見てもレベルは高いんですけど、多様性は少ないですね。多様性を育てるようなシステムではない。

その中で、みんな同じような「コンフォートゾーン」を持っていることになります。その中で、自分の得意分野、自分の「得意スポット」を見つけるのはなかなか難しい。

これをもうちょっと、わたしの経験に近いような「コンフォートゾーン」を……。

まずですね、境界をぼかして書きました。それは気分によりますね。気分によりますし、あと、ビールを飲むと、もっとぼやけてきますね(笑)。

あとはですね、新しい経験をして完全に「コンフォートゾーン」から踏み出すのではなくて「コンフォートゾーン」が形を変えながら、広がっていくという。これは僕の経験に近いんですね。

大陸棚を延長するために膨大な申請書を作成

1つ、具体的な例を紹介したいと思います。これは、私が関わってきた大きいプロジェクト。ときどきニュースに出てきたので、みなさん耳にしたことがあるかもしれないんですが。

大陸棚の、延長した大陸棚の話ですね。これはですね、何かっていうと、海に面している国はある程度、その海に対する権利を主張できるんですね。当たり前。当たり前ですけど、どこまでっていうのはなかなか決めにくい。

この話は実は15世紀までさかのぼりますね。その時はローマ法王がですね、体制をスパッと2つにわけて、はいスペイン、ポルトガル、はい終わり(と)。わかりやすくていいんですね。わかりやすくていいんですけど、反対する国は当然出てきます。

で、いろいろ紆余曲折があって、最近ですね、国連が中心になって、ルールを整備してきた。そのルールに従って、いろんな国が今、自分の権利を国際的に認めていただくような運動を始めています。実際に申請して、国連で審査委員会があって、そこで承認されれば、その国の領土に入ることになります。

考え方はかなり簡単なんですけど、陸地があって、200海里。海里(という単位)を使いますけど、360キロメートルくらい。まず、この領域はですね、排他的経済海域になります。この下にある海底も、全部この国の主権になります。

ただし、こういうふうに距離だけで線を引くと、それは下に地形が続いているとか、地質が続いているのに、そこで線を引くのは不自然な境界になるので、それを越えるような延長した大陸棚も認められます。私が関わったのは、この「延長大陸棚」の定義申請です。

けっこう大変なプロジェクトアクトですね。毎年100億円くらいの予算が付いていました。5年間。それを聞くとですね、消費税分だけでもいいですけど、自分の研究に使いたいなと思ったんですけど……。

まあ、これだけの船を漕がせて、潜水艦もそうですね、あとは地震計を海底に置いたり、非常に大がかりなプロジェクトになりました。こういう船を使って、日本近海の海底の重力、地勢、岩石の種類、岩石の年代、いろいろ明らかにしてきました。

今までにないような性能で、もう、本当にきれいに姿が浮き彫りになってきました。

科学者として私はミリメートル単位でいろいろ決めてる。海底をミリメートル単位で決めるのはいいんですけど、プレートは年間で数センチメートル単位で動いているので、いいのかな……と。でも国際法と地球科学の違いだと、割り切るしかないですね。

私はこの中で何をやったかっていうと、膨大なデータを集めて申請書の形に集めなきゃいけない。国連に出す申請書は英語で書かなきゃいけない。専門知識が必要。だから私は、いろんな研究者と連携しながら、この申請書の仕上げに貢献しました。

結果なんですけど、まだ認められてない、完全に審査が終わってない部分があるんですけど。こういうピンクのところは、ここは日本ですね。四国と紀伊半島、九州、ここは四国海盆で、南鳥島はここにあります。

こういう紫のところは新しく認められた範囲。日本の国土の8割くらいに相当するようなもの。認められました。非常に大きな結果になりました。

大きな結果というのは、海底に資源がいっぱい眠っているっていう事実はあるんです。今、抽出するのは、そういう技術は難しいんですけど、資源という意味で非常に大きい。

あとはですね、国境、境界、国の境界がどこにあるか。こういうふうに国際的に認めていただくというのは、要するに争わなくて決まるもの、そういう意味で、非常にこれは成果は大きいと思っています。

これが申請書です。ときどき、半分冗談で言うんですけど、僕以外の人は誰か読んでいるんですかね?(笑)でも、審査員は少なくとも……それを言っちゃうとだめだな、何人かは読んでいるそうです。はい。

トルストイの「戦争と平和」よりもでっかいものになりまして、3200ページ。

私にとってですね、こういうふうに、私たち、地球科学者と政治家、外務省の人たちと話をしなきゃいけない。そして国際法の人たち、そしていろんな技術の人たちで一緒に話し合って、ひとつの国家の国家プロジェクト、この日本の国益(になる)、国際的にもこんな大きなプロジェクトに貢献できたのは、僕にとっては感慨深いものだったんですね。非常におもしろかった。

なぜできたかというと、どういう才能というか、どういう経験が必要だったかというと、まず「イギリス人である」ことですね。日本に住んでいるイギリス人。日本語ができて、地球科学知識があって、あとはですね、たぶん、雑誌の編集者の経験とか、いろいろある。

それを僕、目指していたわけではないんですね。偶然の出会い、あるいは自分の趣味として培った、自分の得意なスポットが、たまたまここに、非常にうまいこと「はまった」ということですね。

じゃあ「コンフォートゾーン」から踏み出して活動するっていう、それは、当時の留学とか、僕みたいにね、海外に行く必要はないと思うんですけど、違う考え方を側近で見れる一番手っ取り早いやり方だと思いますね。

いろんな意味で、やっぱり留学は重要だと思いますし、世界を見たらですね、爆発的に留学生の人数が増えてます。増えてるんですけど……。

これは日本ですね。2012年。これは海外に行った留学生の人数。一番上、中国・インドは人口が多いので、当たり前といえば当たり前なんですけど。

あとはですね、韓国はこれだけ、人数は多いですね。で、ドイツ、サウジアラビア、フランス、アメリカ、マレーシア、ベトナムとか……日本はここ(一番下)なんですね。ここですね。これを先週データを集めてみてびっくりしました。こんなに低いという。

あとですね、日本人が一番好む行き先として、アメリカがありますけど、これだけ減ってますね。10年間で半減してます。

学生は限界にチャレンジしてほしい

これは最後のスライドなんですけど、これは学生とよく話をします。

これは数千年前、アルゼンチンにある「Cueva de los Manos(ラス・マノス洞窟)」。有名な場所なんですけど、数千年前、そこに住んでいた人たちの手形ですね。これはやっぱり、人間の基本的な願望の1つを表していると思うんですね。残したいんですね。私はここにいました(と)。そういう証を残したい。

私は昔、銀行で働いていて、年収も良かったですね。おいしいレストランにも行けるし。辞めたときはだいぶ迷いました。でも結局大学に戻ってきたら、こういうことに関係しているという気はします。

自分の学生を見ていると、卒業した後はどうなるか、やっぱり教育者として非常に気になります。見てるとですね、もっと暴れて欲しい。もっと限界を試してほしいなあと思います。

最近ですね「国内志向」という若者の傾向があると言われている、そういう関係もあると思います。

私は、そういう人たちもぜひ、自分の「コンフォートゾーン」はどこまであるのか認識した上で、あえてそこから踏み出して、日本の「大陸棚」と同じように拡大させて、それで、程よくストレスを感じながら、楽しみながら、自分の「手形」をしっかり将来に付けてほしいと思います。

以上です。

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