昭和を引きずる会社の3つの特徴

藤野英人氏(以下、藤野):僕は投資家、会社を見る専門家なので、日本の企業は昭和97年の会社と令和4年の会社の2通りがあると、最近よく言っていて。いわゆる昭和のルール、昔の成功体験をずっと引き継いで、少しずつ悪化している昭和97年の会社と、新たな価値観や生き方をしようという令和4年型の会社がある。

でもまだ昭和97年の会社が多いから、全体とすると成長しないと思っているんですけど。

成田悠輔氏(以下、成田):昭和97年の会社というのは、手続きや業務プロセスみたいな、基本的なところが昭和のまんまな会社というのを主に想像されている感じですか。

藤野:成長する会社には3つの要素があって。1つはお客さま中心主義。要はちゃんとマーケットやマーケットの変化を見ていますというところ。2つ目は目線が長期主義。ロングタームの目線がありますと。3つ目がデータ・オリエンテッド。良い会社には必ずこの3つがある。

昭和97年の会社は、だいたい会社都合主義で、短期主義で、それからデータ主義というよりは、自分たちの経験主義かなと思っていて。

ある商品や製品を作るじゃないですか。日本の人の場合は特に磨きこむということがすごく好きなんです。ある種「道」のレベルまで磨きこんで、オタク的に磨きこむところがあるんだけれども。

ある課題に適合する商品や製品を世の中に提供してリターンをいただくというのが本来の目的だけど、日本の場合はだんだん目的と手段が変わっていく。

物を作るとか、顧客とは関係なしに製品プロダクトを磨きこむみたいなところがあって。それが、今、日本の大きな問題の1つじゃないかと思うんですよね。

成田:磨きこみはすごいですよね。家電についているボタンの数とかも、すごいことになっていますもんね。

藤野:そうですよね。

成田:付加価値がついているのかどうか危ういところで、異常に磨きこんでいるものが多いというのは、たぶんそうですよね。

藤野:そうですね。

成田:昨日たまたまテレビ番組の制作とかをやっている人たちと話したんですけど、テレビ番組もそうで。日本の番組はVTRとスタジオの組み合わせで、ナレーションがちょうどのタイミングに来てみたいにすごく作りこんでいるじゃないですか。

そんなものを誰が求めているのかと言われるとよくわからないけれども、制作現場のプロセス上でだんだん複雑化、職人化していき、流れ作業化するとそうなるっていう。あれはけっこうこの国の文化だろうなって感じがしますよね。それが全般に出ていて、同時に呪いも作り出す側面もあるということですよね。

なぜ日本の企業や役所でDXが進まないのか?

成田:その関連で言うと、この国の企業も、自治体やパブリックセクターも、データソフトウェアと異常に相性が悪いように見える場合が多いじゃないですか。

これもイノベーターのジレンマ的な部分があるんじゃないかという仮説を持っているんですよ。というのは、この国の生活や仕事の仕組みを作るハードウェア的な部分がすごく優秀だったために、移行に失敗したんじゃないかという仮説です。

その場合のハードウェアは、紙みたいなハードウェアもあれば、人間というハードウェアもあると思っていて。

会社や行政の手続きは、印鑑もあればFAXもあれば紙もあるみたいな感じですごく非効率なんだけど、がんばってやっていくとコンプリートできるようになっているじゃないですか。

人についてもすごく非効率で、会議室Aから会議室Bに印刷した紙を持っていって、そのサインをもらって帰ってくるフローだけをなりわいとする人が大量にいて。ものすごく非効率だけど、けっこうみんなしっかり仕事をするために、一応それで回っている。

これだけ非効率でステップが多いプロセスをちゃんと回せる国ってあんまりないと思うんですよ。

アメリカで生活していると、基本的に人って信用できないじゃないですか。バスの運転手とかもちょっと疲れると停留所をとばして走っていくような感じですよね。

旧共産圏とかの肥大化した官僚組織みたいに言われるところも、あっという間に市役所とかが動かなくなって、賄賂を渡して動かすしかないみたいになると思うんですよね。

そうならずに、一応プロセスと言えるもので、これだけ非効率なものを動かせるという日本のすごさが、DXをすごく拒んでいるんじゃないかという感じはするんですよね。謎の自分本位の非効率な作りこみと、すごくアナログな体質をちゃんと管理できる謎のスキルとパワーが、この国の企業や役所になぜかある。

そのすごさが、今の日本の昭和97年感を作り出している感じがなんとなくあると思いますね。

日本が「非効率」を解消するタイミング

藤野:それを解消するには、何かが壊れないといけないじゃないですか。例えば、支えているベテランの人たちがリタイアしたとか、少子高齢化でますます労働不足が起きて我慢と根性ではシステムが回らなくなりましたと。

どういうことがきっかけでこれが変わるんですかね。また、変わることがいいことなんですかね。

成田:たぶん、回らなくなると変わるんじゃないかという楽観的な期待を持っていて。回らなくなりつつあると思うですね。介護にしても教育にしても、もう物理的に人がいない。

こんなに急に国境を閉じたり、研修生とかに人権がない労働環境を提供するような国に、そんなに移民は来てくれないんで。物理的な労働力が足りないというステージに完全に入っているわけじゃないですか。

それから、一億総貧困化みたいなのもだいぶ進行していて。渋谷や新宿を歩いていても、夜中はすごく危ないなと感じるようになっていますよね。だからマクドナルドとか24時間営業のところが、最近、夜中に警備員をつけたり、夜中にトイレを開けなくしたりするようになっていると思うんですよ。

なので、徐々に日本が国際的に見ると普通の国になりつつある感じがあるんですよね。

早晩、アナログに仕事をコンプリートする力を持つ日本人のプールがガーッと減ることで、どうにもこうにも回らなくなって変化するしかないというステージが来てほしい感じはありますね。

藤野:やっぱり、来始めていますよね。

成田:来始めていると思うんですよね。それがデジタル庁みたいなものを作る機運にもなっているんじゃないかと思います。

成田氏が今一番「投資」をしているもの

藤野:この番組は、お金と投資の番組なんですね。別に株に投資することだけをインベストメントというわけじゃないじゃないですか。時間も投資だ、教育も投資だし。エネルギーを誰かに投入することも投資かもしれないという面で見ると、成田さんが今一番投資をしてることってどういうところですか。

成田:一番は、自分の心と体への投資が、圧倒的にリターンが高いのではないかと思いますね。

藤野:心と体、それは自己投資という意味ですかね。

成田:要は、自分の嫌なことをやって消耗しないとか。単純に食事とか睡眠とかベーシックな健康に関わることや精神衛生に関わるようなこと。

ここで、お金のために無理しなくていいようにするのは、すごく大きいですよね。

データやエビデンスがあるわけではないですが、自分の肉体や精神への投資は、他の金融商品への投資とかとは比較にならないようなリターンを持っているんじゃないかという感じがあります。

この番組でこんなこと言っていいのかわかんないんですが……。

藤野:いや、いいですよ。

成田:ほとんどの人にとっては、金融商品への投資を考える前に、自分の生活への投資が圧倒的に重要じゃないかという気がします。

藤野:今恐る恐る言ってくれましたけど、大丈夫です。ありがとうございます。僕も金融商品が大事だとぜんぜん言っているわけではないので。

成田:そうですよね。なので、広く考えると投資という概念はものすごく広いですよね。

他国に比べ「仕事が苦痛」「会社が嫌い」が多いワケ

藤野:その時にたぶん言われるのではないかなと思うのは、「『嫌なことをしない』というのは強者の論理だ」という人がよくSNSとかでもあるんですけど。それに対して成田さんはどういうふうにコミュニケーションしていますか。嫌なことをしないということを、普通の人ができるのか。

成田:まずホリエモンとか、ひろゆきさんみたいな典型的な強者っぽいコメントをしてみると……。

藤野:(笑)。

成田:「そういうことを言って我慢しているから弱者のままなんだ」って彼らは言いそうですよね(笑)。

藤野:言っているわけですよ。それも、一理も二理もあるけども、共感が得られにくい言葉なんですよね。

でも、成田さんは嫌なことはなるべくしないと。僕もそう思っているわけです。それが結果的に非常にパフォーマンスを上げるし、自分のエネルギーや時間も含めたパフォーマンス効率が高いと思っているわけだけれども。

多くの人は、「仕事とは誰かから与えられるもので選択できるものではない」と言う。それをコンプリートして、我慢料が給料日に支払われると。これが仕事だと思っている人がすごく多い。

だから日本は仕事が苦痛であるとか、会社が嫌いだという人が他国に比べて極端に高い。これをなんとか、そうじゃない価値観に変えたいという気持ちはあるんだけれども。

成田:その問題を作り出している要因の1つは、私たちが仕事を選ぶ、職場を選ぶ時に重視する項目を間違えている可能性が高いんじゃないかと思うんですよ。つまりその会社がどれくらい有名かとか。

藤野:そうね。

成田:人に説明して恥ずかしくないか。給料はどれくらいか。正社員かどうかみたいな。こういう基準をまず最初に持ってきちゃうじゃないですか。

藤野:そうですね。今言ったことに関しては、「当たり前だろう」って声が聞こえてきそうな感じですね。

成田:なので、その思い込みをどう取り外せるかが大事じゃないかと思っていて。

その軸と同じか、それ以上に「自分で自分の生活の主導権を持てるかどうか」とか、仕事の内容を変えなくてはいけないと思った時に「自分の意思で変えられるか」みたいな。

仕事の中身と主導権に関する価値観を、もっと前面に出していくことが大事じゃないかという気がするんですよね。