石油の消費速度は、できる時間の100万倍!
"時間"で読み解く、資源問題の本質

バイオマスの時間旅行 #1/2

石油などの化石燃料の代替として期待される「バイオマス」ですが、そもそも石油も元をたどればバイオマスの一種。目の前の資源確保に奔走するだけでなく、「資源を育てる」という考え方の重要性、そしてバイオマスと時間の関係性について、東京大学院准教授の五十嵐圭日子氏が説きました。(TEDxTodai 2013 より)

女性のような名前が五十嵐氏にもたらした経験

五十嵐圭日子(以下、五十嵐):(会場からの拍手を受けて)すごいですね、やっぱり、この拍手は。何かクセになるってのがわかります。私、こういうような顔をしてて、実はバイオマスの研究者という、そんなことをやっております。バイオマスって何なのか。そういう風に聞かれた時に、多分みなさんあんまり馴染みがない言葉だと思うんですね。だけど、それ以上に馴染みがないんじゃないかなって思うものが、私のこの名前ですね。

(会場笑)

あの、今笑われた方はちょっと、日本語圏ではわかるんじゃないかなと思うんですけど、これ一応海外にも放映しているらしいので、ちょっと聞かせてください。この名前、典型的日本の男の名前だという人、ちょっと手を上げていただいて。

……誰もいない。これはあなた、女でしょうと、どう見てもこの名前を見たら普通女でしょ(と思う方は?)……はい、そうなんですよ。この名前のお陰でですね、私、今までいろんなエピソードがあります。

(会場笑)

小学校4年生の時にはですね、家庭科の授業が始まるじゃないですか。その時に裁縫セットって、……今でも売ってるのかな? わからないけど、あれを買うんですよね。その裁縫セットで男の子がカブトの絵、女の子が手毬の絵。私のところに何が届くかっていうと、これはまあ、皆さんのご想像の通りなんですけど、手毬のやつが届く。

小学校6年生になると、今後は上履きですよ。私もう、だいぶ大きくなっててですね、足のサイズが27cmくらいあったんですね。で、ある新学期の時に上履きを共同購入しまして、きた上履きを見てみたら、無いんです。こないんですよ私のが。「何でこないんですか?」って先生に聞いたらですね、「今作ってます」って。で、数日後に届いた上履きというのが、赤い27cmのですね……。

(会場笑)

もう、その27cmの上履きがきた時に、私は履こうかと思ったんですね。だけどちょっと、どうしようかなって思って「すみません、27cmの青色をお願いします」という風なことをしました。

こういう風に聞くとですね、だいたい皆さん、私が子どもの頃嫌な思いをしてただろうから、もうこんな名前嫌なんでしょう? って思ってるかも知れないんですけども、実は結構いい名前なんですね。これは、パッと皆さんすぐに、「あんな女みたいな名前の五十嵐だ」って思うと思うんですけど、そういう風にすごく見てもらえる。

「子」にまつわるストーリー

で、私の家系図。

これは、私の名前がついているというよりも、むしろですね、私の息子ですね。こんなことをここで話すと兄に怒られるかもしれないですけど、兄の息子もちょっと見て頂きたいんですけれども、皆さん付いてるでしょ。

この「日子」って名前が付くとですね、だいたい日本の方は女性だと思われる。息子さんにそういう名前を付けると、だいたい嫌がられるだろうと思うかもしれないですけども、さっきも言ったように、私はすごくいい思いを結構したんですね。その証拠に、私の兄も自分の息子に同じように付けてる。

それどころか、私と兄にこの名前が付いてるという事は、どういう事かというと、私の両親、つまり私の父ですね、父がやはりいい思いをしたからこの名前を付けてるんですね。親子三代、孫までいって三代目ですよ。そうすると、もう由緒正しい名前なんですね、っていう風に、皆さん思われるかもしれないですけど、よく見てください。

(会場笑)

五十嵐:もう亡くなられているので、じいちゃんには悪いけど名前をちょっと出させていただきました。祖父には付いていないんです。つまり、祖父の趣味で始まった名前だということです。

(会場笑)

五十嵐:私自身、生まれた時からこの名前だったのであまり気にしなかったんですけど、「なんでだろうな」ってそう思ってました。ただ、これを見て頂いて、皆さんにもう一つだけ気づいて頂きたいことがあるんです。

女性陣。私の娘とか、うちの兄の娘とか、その辺は元々五十嵐家なんですけれども、嫁いできて、要は奥さんになられてる方いらっしゃいますよね。私の奥さんとか。そういう方の名前を見てみると、確かに「子」が多い。私の娘なんかは「子」が二人とも付いてますよね。私も「子」が付いてる奥さんを絶対もらおうと思ったので、「子」が付いております。私の母親も「子」が付いておりまして、おばちゃんも名前が「子」でございます。

じゃあ「子」が付いている名前が一般的なのかというと、実は兄一家のところでいうと、男の人にしか「子」が付いてない。すごい面白いでしょ。もっとすごいのは、この名前をうちのじいちゃんと一緒に始めたはずのばあちゃんの名前に、「子」が付いてない。

ここまでくるとですね、私ちょっと、ムラムラと研究者魂みたいなのが出ちゃうんですね。一体どういうことなのかというのを、やってみた。

「常識」は時代によって移り変わる

五十嵐:明治安田生命というところが毎年出している、名前ランキングってあるじゃないですか。あれはホームページにトップ10の名前が出るんですけど、それを私、全部表計算ソフトに移しまして、ちゃんとアナライズ(分析)したんですね。

そうしますと、すごく面白いことがわかった。1900年代くらいからですね、いきなり「子」が付く名前ってのがグッと出てきてるんですね。一方でそれが何十年か続いたと思ったら、1974年という、このラインを境にもう、ほとんど無くなってしまってる。

つまりどういうことかというと、「子」が付く名前、皆さんは当たり前のごとく「女性っぽい」と言いましたけれども、実は今や、そんなにポピュラーじゃないということなんですね。

しかも実は、「子」が付いてる名前は女の人だ、という風潮は、1915年~1974年までのたった60年間しかないんです。皆さんよく思い出してください。小野妹子さんとかですね、……「さん」つけるかどうかわからないけど。すごく昔には、ほとんど男子の名前だったんですね。何故か、私の生まれた世代の時だけが女子の名前で、私は女性に間違いられると、そういうことが起こってた。

これ、今日何でこんな話をいきなりイントロダクションでしてるのかと言いますと、常識っていうものについてなんです。例えば皆さん、「子」が付く名前は常識的に女だと思われてるかも知れないですが、もうそんな常識は40年前に、だいたい私が生まれた辺りなんですけど、終わってるということなんですね。

で、その時間ですよね。常識ってものの賞味期限っていうか、そういうようなものをフッと感じて頂けたらいいかなと思っています。

知っているようで知らない「バイオマス」の定義

長いイントロダクションになってしまいました。私は、バイオマスというものを研究しております。バイオマスっていいますと、皆さん、何のこっちゃよくわからんっていう方が多いんじゃないかと思うんですけども、これは造語なんですね。「バイオ」って言葉と「マス」っていう言葉。この「生物」と「量」っていう2つの言葉を掛け合わせて、バイオマスという言葉になってるわけです。

言ってしまえば「生物量」なんですけれども、これはちょっとでも皆さん知ってる方だったら、例えば「木とか、草とか、そういうようなものがバイオマスだって、よく知ってるよ」とこういう風におっしゃると思うんですけれども、実はこれ、生物資源なので、生物量でもある。つまり、これは動物でも植物でも、別に構わないんですね。

例えば、皆さんのからだ自身、これも実際には自然界の生物の成り立ちから出来上がってるものなので、バイオマスなんですよ。つまり、地球上で生物学的に出来上がっていく、そういう「物質量」ってものが、これが全部バイオマスだということになるわけです。

そう考えると、結構いろんなものが私たちの周りにあるということに気づきます。私の場合は、それをいかにいろんなものに利用していこうか、そういうことを考えています。

すでに暮らしで使い倒されているバイオマス

これは私の研究というものを、一枚の絵にしています。立教大学のサイエンスコミュニケーターである工藤さんという方が絵にしてくださってるんですけれども。たぶんこの端っこにいるのが、私じゃないかなと思うんですが、とにかくですね、循環型社会というものを作るために、どうやってバイオマスを利用していくか。

その中で私が特に力を入れているところというのは、酵素。皆さんご存知ですよね、酵素パワーとかいうようなやつです。その酵素を使って、いかにこういうバイオマスを利用していくか。

あとは、木とか草とか、そういうようなもの。特に私の場合は木なんですけれども。木を壊すことが出来る生物というのは、非常に少ない。その中でも特にキノコですね。スクリーンの絵でも生えてますね。こういうようなキノコというのは、木を分解する酵素をいっぱい持っていますので、そういうものを使ってどうやってバイオマスを変換していくか、どうやって利用していくか、そんな研究をしています。

じゃ、何をそんなに五十嵐は「バイオマスを使え使え」って、言ってるんだと。その割にさっき、いろんな所にバイオマスがあるじゃないか、という話をしました。実際そうなんです。例えば、私たちはもうすでに、社会の中でバイオマスっていっぱい使ってるんですね。

例えば、皆さんや私が着ているシャツもそうですし、コットンにしてもウールにしても、コットンの場合はダイレクトに木とか草とか、そういうものですよね。例えばウールなんていうのは、あれは羊が植物を食べて作ってるものなので、これもバイオマスなんですね。要は、衣食住の中の衣の部分っていうのは、これはもう間違いなくバイオマスがはびこってる。

じゃ、食のほうはどうか。例えばここ(スクリーン)に美味しそうな物が出てますよね。お刺身ですとか、海老、カニ、何でもそうです。ご飯もそうですし、日本酒もそう。そういうようなものというのは全部、本当にこれは全部と言っていいと思いますが、全てバイオマスなんですね。そうすると「食」ってことに関しても、これも別に問題ないだろうと。

じゃ、住のほうはどうか。日本では特にそうなんですけれども、木造で家を造りますよね。そうしますと、木造で作った家というのはもちろん木から出来てますから、ほとんどがバイオマスということになる。そう考えると、「何のためにバイオマスを使うってことに一生懸命がんばんなきゃいけないんだ」、こういう風に思うわけですね。

こういう、人間が暮らす為のすごく基本的な衣・食・住に関してはこれはもう、バイオマスは使われているということになる。

現代文明は石油で成り立っている

じゃあ、これをもうちょっと見ていきます。

例えば薬。これは結構、薬の成分とかそういうのっていうのは、石油から作られてますよね。例えば、私たちが使っているこの会場でも、あの中でバイオマスがどれだけ使われているか。ほぼ無いと思いますね。そういう物にはほとんど使われていない。

最後に例えば、ビルとか交通、こういうようなもの。これって皆さんも見てお分かりかもしれないですけれども、ほとんど文化的な生活。つまり、より長く生きる為に薬を飲むとか、より便利に生きる為にコンピューターやらスマホを使う。

で、人間が本来、足とかだけでは行けないようなところにたどり着くために、交通を使ったり、本当は狭いスペースしかないのに、高いビルを建てて住むとか。そういうことのために実は、石油とかそういうものを使っていて、しかもそれが文明というものと非常に密接に関与している。ここの部分がすごく難しいんですね。この部分に対して私たちは、バイオマスをどうやって使うか。そういうようなことを考えていくわけです。

これだけ石油がはびこってしまって、石油化学というのはを私たちはだいたい150年くらい、すでに使い続けてですね、本当にキレイに使えるように出来てしまってるんです。それに対してバイオマス。どうやって頑張るんだよ、って話になります。

私たちも、これだけのものに使わなければいけないという量と、また石油というものが、あまりにもキレイに使われてるということに対して、これをどうやってやろうかっていうのは、すごく難しいんですね。

バイオマスの可能性と問題点

だけど、今日はひとつ、こんなイグザンプル(実例)を持ってまいりました。

これは東大の岩田先生という、バイオプラスチックの先生が作られたものなんですけれども。これはコーンですね、トウモロコシを原料にして作っている。これはペットボトルじゃないんですよ。PETっていうのはポリエチレン・テレフタレートがペットボトルっていうんですけど、これはPETではないんですね。ポリ乳酸から作ったボトルでございます。

これはもう、本当に普通に使えるものなんですね。なんですけれども、こういうようなものを、石油の代わりに使うか、使わないかという、そういったような選択というのを私たちがしなくてはならないわけです。

「そうか五十嵐、よくやった。これだけバイオマスが使えるようなものがあれば、もうガンガンこいつを使えばいいじゃないか」と、そういう風に皆さん思われるかも知れないですが、ただ、これには、まだ何個か問題が残っています。

例えば、今、私はコーンやトウモロコシから作ると言いましたけれど、トウモロコシから作ってるということは、実は食べ物と競合してることになるわけです。そうしますと、食べ物を使ってプラスチックを作る。こんなことをやるのかというようなことになってしまいます。

あとはこれ、トウモロコシから作っているんですけれども、次の例にも関係してくるんですけれども、そもそも、トウモロコシというか、稲とか、そういうものもみんなそうなんですが、例えば1年かけてそういうようなものが作られている。それに対してこれは、どれだけもつんだと。そういうようなことがすごく重要になるんです。「時間」っていう考え方ですね。

結局、いくらバイオマスを使っても、例えば皆さんがご飯を食べるときとすごく似ているんですが、1年分のお米ってだいたい秋に収穫されますよね。それをそれ以上に食べてしまったらどうなるか。もちろん、なくなってしまうわけです。これは全くバイオマスの場合、同じなんですね。出来るのに1年間かかる草を使って、1年ももたないような物を作ってしまったら、これは困るということになるわけです。

じゃあ、例えばこれが木になるとどうなるかというと、木というのは大きくなるまでに20年かかる。そうすると、それを使うということは、やはり木は20年間かけて育ってくるわけですから、その20年分ってのを大切にしなければならないことになる。

こうなってくるとですね、バイオマスというのは実は、利用するところってのもすごく重要なんだけれども、「その20年のために育てる」ってほうが、すごく重要になるってのが、皆さんわかってもらえると思うんですね。つまり、なぜ私が農学ってところからこういうようなアプローチをしてるのかというと、結局、それを支えるのが農業だということになってくるわけです。

「資源の成長」にかかる時間と、消費の時間

まあね、ここまで来ると、そんなに頑張ってバイオマス使わなきゃいけないのか、というようなことをよく言われます。最近だとシェールオイルとか、そういうようなものもいろいろ出てきてますよね。

さて、この石油とか石炭。これを私たち、今使っているんですけれども、これって3億年とか5億年とか、こういうようなすごく長い時間で作られてきた物なんですね。それを私たちは、だいたい300年とかそれぐらいで消費しようとしている。つまりどういうことかというと、出来る時間の100万倍の速度で使っているということになってしまうんですね。

これ、例えば、1年の草とかそういうものになると、だいたい30秒くらいで使い切っていることになってしまう。こんなことをやっていてもダメだろうと。そういうようなことで、私たちが頑張ってバイオマスを使って、ってことなんですね。

そろそろ終わりにしますけれども、例えば皆さん、そもそも石油とか石炭って何から出来てるかってご存知ですか? 石油・石炭って、何となくそこから掘って出てきたものなので、あまり気づかないんですけれども。例えば石油というのは、すっごく昔の動物じゃないかと言われております。石炭というのは、これは確実に、昔の植物だと言われています。

さあ、みなさん。一番最初に私、バイオマスって何だって言いましたっけ。生物の作ったものというのは、全てバイオマスだということなんですね。

つまり結局のところは、すっごく昔のバイオマスが時間をかけていくことによって、化石資源、石油・石炭っていうようなものに変わっていったっていうことになるんですね。そうすると、今バイオマスを使うか使わないかっていう、そういう風な話ですとか、石油とか石炭をどうしようか、そういう話ってのが世の中にすごく蔓延してるんですけど、そうではないだろうと。

要は、地球上のそういう有機物の資源っていうものを、そもそも何年で出来たものを、何年で使っていくのか。そういう「時間」っていう感覚。私、バイオマスの研究をしてると必ず言われるのが「時間がかかり過ぎる」、こう言われるんですけれども、やはり、時間をかけてそういう使い方を学んでいく。そんな姿勢が重要なのかなって風に考えています。

最後、皆さんに持って帰って頂きたい一句。私も作ってみました。

「バイオマス 時をかければ 化石資源」圭日子

どうもみなさん、ありがとうございました。

<続きは近日公開>

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