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パネルディスカッション(全5記事)

マーケティングの課題設定は「愛されるよりも愛したい」 クラシコム青木氏が語る、セレンディピティ溢れるメディアのあり方

2019年6月25日、永田町GRIDにて「『選ばれ続ける』ブランドになるためのマーケティング戦略」が開催されました。本イベントは、ECメディア「北欧、暮らしの道具店」を運営する株式会社クラシコムが、企業のマーケティング担当者様向けに開催するリアルイベント。今回はゲスト登壇者として、「ZENB」という食品ブランドをD2Cモデルで立ち上げた株式会社ミツカンの高橋宏祐氏と、「ソフラン」「キレイキレイ」といったマスプロダクトのコミュニケーションを担当するライオン株式会社の内田佳奈氏が登壇。選ばれ続けるブランドにしていくためにどのようなことを考え、日々の試行錯誤をされているかについて、株式会社Moonshotの菅原健一氏、株式会社クラシコムの青木耕平氏を交え、パネルディスカッションを行いました。本記事では「愛されるより愛したい」派なクラシコムが考えている、メディアのあり方について語ったパートを中心にお送りします。

大事なのは「誰と結婚すれば一番幸せになれるか?」のマインド

菅原健一氏(以下、菅原):どこかやり方がスタートアップっぽいですよね。

高橋宏祐氏(以下、高橋):そうですね。

菅原:やりながら学びあうといいますか。掘ってもなにもないところは掘らなくていいし、探っている感じがしますよね。

内田佳奈氏(以下、内田):数字といっても、今までミツカンでやられていた数字の上げ方とDtoCではぜんぜん違いますよね。数字の立て方さえ難しいなと、なんとなく思っています。

菅原:やっぱり「みんなが買うといったことではなくて、深く長いコミュニケーションじゃないとダメなんですよ」というような話への共感がないと、数字の作り方もたぶん変わってきちゃうんですよね。

高橋:いいところを質問するね(笑)。今日の話、みなさんから共感されるようなら、今週代表に持っていこうと思っていたの。

(一同笑)

青木耕平氏(以下、青木):どうすれば自分たちが対象とする人を見つけられるかというのは、現実にはすごく難しいし。逆に僕は、当たっているか外れているかは「決めの問題」だという気がしています。僕はいろんなところで言っているので「またか」と思われるかもしれませんが、「愛されるより愛したい」なんです。

内田:KinKi Kidsですね(笑)。

(会場笑)

青木:それはなにかと言えば「誰からであれば愛されるのか?」という思考方法は、決定的に間違えている可能性があるから。「自分は誰の役に立ちたいと心から思えるのか?」という課題設定が、僕はいいと思っています。

決めの問題ということは、「誰のためだったらがんばれるのか」を軸に置く。結婚するようなものですよね。マインドとしては「誰と結婚すれば一番幸せになれるか?」と思っている。

菅原:「新しい人が来たらまた変わるの?」といったことになるんですよね。

Amazonと比べられたら何もできない……だからもう愛するしかないんだ

青木:「自分で決めた!」感がすごく大事だとして、それに「こうした人に届いて欲しい」というようなものが軸にあると、非常にものごとが決めやすくなる。「こういう人たちのために届けているんですよ」というような言葉に力が乗って、それが結果に結びついていくということはありますからね。そこを言語化する作業は、僕は最初、相当やっていましたね。

菅原:2年か3年ぐらい前、青木さんとアドテックの……福岡かな? そこでご一緒しましたよね。そこには明石ガクト君がいて。明石君が痛風になっちゃって、ずっと喋っている間ボーッとしていた。

(一同笑)

菅原:僕はモデレーターだからあまり喋りたくないというか、二人のいいところを引き出したいんだけど、明石君はずっと放心状態だった。痛風になったその日なので、放心状態になってしまって(笑)。そこで青木さんと二人で話した記憶を思い出しましたが、あのときも「どうして愛されるんですか?」って。

そういたら「スガケンさん、それは違う」と。「僕たちは、Amazonなどと比べられちゃうとなにもできないから、もう愛するしかないんだ」と。

(一同笑)

青木:ほんとうですよ(笑)。

菅原:あれにはしびれましたよね。

青木:売れない役者の卵の男の子がプロポーズをしているような状態ですよ。

菅原:こっち側から正面を向いて、しっかりやらないといけないわけですよね。

青木:「誰であれば、口説いたらすぐに振り向いてくれるかな?」というような感覚でターゲットを選ぶことができるケースもあると思いますが、「これから新しいことをやろう!」というようなときは、そもそもが予測自体が当たることがほぼない。そう考えると、初期設定はどこに設定をしても、ほぼ成功確率は変わらなかったりするんですよ。

最初はこういうターゲットにしたけど、始めてみたら全然違って、再設定しなければとなる。そうしたとき、ド新規じゃないけど、ゼロから考えなければいけないわけで。それなら、そうしたことで固めたほうがいいときもありますよね。

自分に似た人の課題解決で得られる「癒やし」の効果

内田:そうした考えだから、クラシコムさんのメディアはセレンディピティに溢れているというか。「愛されるより愛したい派」だから、いろんなアプローチをもらえるんですね。

(一同笑)

高橋:よくこうした切り口で記事を発想できますね。

青木:いやいやいやいや。結局、誰を愛しやすいかというと、僕らの場合は自分を愛しやすかったんです。

内田:自分?

青木:自分のことが好きだった。

高橋:やばいやばい。

(一同笑)

青木:自分に似た人を助けると、自分が癒されるということがありますよね。若い頃の自分がして欲しかったことをするのも、癒しになる。そうした効果があるから、僕らは「自分みたいな人」という課題設定にしています。本題なんだと思うんですよ。野菜や子どものおやつっていうのは、うちの社員にとっては本題なんですよ。

菅原:もともとの読者など、サイトを見ていた方が社員になっているんですよね。

青木:9割方は元読者の人。

内田:9割も? すごいですね(笑)。

青木:「見ていたときはどうだった?」の一言でほぼなんでも成立しちゃう、というような。

内田:なるほど、ポケモンのようですね。

菅原:ポケモン?

内田:すみません、やっぱりいいです(笑)。

菅原:ちょっと! 教えてよ!(笑)。

内田:株式会社ポケモンは、ポケモンファーストらしいんですよ。会社がポケモンのためにあるんですって。

(一同笑)

内田:それみたいだなと。みなさんが「北欧、暮らしの道具店」のために働いている、というような。

菅原:そうそうそう! 本当に。みんなが好きな場を守りたくて、「青木さんに任せているとアレだから〜。私も入社してがんばります!」というような、そんな感じでどんどん入ってくるんですもんね。

青木:そうですね、はい。ありがたいことに。そういうところはありますね。

ファンベース施策のコミュニケーションから出てきた課題

内田:さきほどプレゼンをしたのにアレなんですが、私は「愛してくれる人のところに、とにかく出ていく!」というファンベース施策のコミュニケーションを中心にしていて。でも、それがひとつ、新しく出てきた課題でもあったんですよね。

愛してくれている人のところに「キレイキレイです!」と出ていくだけなので、ありのままを愛してくれるじゃないですか(笑)。ですから「とにかく包み隠さずキレイキレイを(愛してくれるファンの前に)出せばいい」という状態だったんです。

でもやっぱりそれだけでは、びっくりするような、良い意味で衝撃的なきっかけというか、セレンディピティが生み出せないということが最近課題として感じているところです。

菅原:普通になっちゃう。

内田:普通のアウトプットになっちゃう。なので今は「愛してもらうだけじゃなく、愛し始めないといけないのかもしれない!」と思います。……なんの話だろう(笑)。

青木:なるほど。

高橋:今日のテーマは「愛」ですね。「愛」がテーマ(笑)。

菅原:やっぱり事業をやる、プロダクトを見てもらうといったことは、それくらいの覚悟でやった方がいいかもしれません。僕はどちらかといえばずっとスタートアップなので、課題ドリブン型ですが、青木さんが言うようにどちらも変動要素がありますよね。

合うターゲットを探すというやり方もあれば、自分たちが決めた人たちに合うようなやり方を考えるというのも、どちらも不確実性がある。でも、両方やり続けると不確実 × 不確実だから一番良くないということですよね。

プロダクトを変えないで合う人を探すやり方もあれば、自分たちがなんでも作れるからプロダクトも変えて、そのお客さんに合うものをひたすら考え続けるというような。そうすると、もうターゲットはブレない。「北欧、暮らしの道具店」のようにどんどんどんどんユーザーさんが残っていって、要はずっと見ているわけじゃないですか。

青木:いやー、ありがたいことに。そういうところはすごいですよね。

CTR11パーセントを叩き出したコラボレーション

菅原:すごいですよね。そういったファンをある意味では借りるというか、コラボをして情報を届けたいと。ZENBとの取り組みでも、他メディアと比べてCTRが10倍違うなんてことはないじゃないですか!

高橋:あれはすごいですよね。

内田:おかしいですよね! CTR11パーセント(笑)。

菅原:聞いたことがないというか。

高橋:あの後にアンケートもあるんですが、そのアンケートの熱量がすごい。

内田:すごいですよねー! ラブレターですよ、あれ。

菅原:「北欧、暮らしの道具店」に広告を出したことがある方?

(会場挙手)

菅原:どうですか? アンケートの実感はありますか? 「めっちゃアンケートくる!」というような感じ。

内田:なにも当たらないアンケートね。

菅原:なにも当たらない?

内田:書いたとしても。

菅原:インセンティブがない、というね。ただみなさんが、読者さんが思いの丈を語る。

高橋:だけどすごく「そうそう!」「自分はこう思う!」というような、すごくいい長文を書いてくれるんですよね。

菅原:「自分の声を拾ってもらえている感」が読者の方があったりして、そしたら今度レスポンスをやればいいじゃないですか。その言葉を聞いて、「僕たちは聞いているよ」、「私たちは聞いているよ」ってできますから。

ついつい最後まで聴いてしまうラジオの秘めたる効能

菅原:記事でもいいし、いっしょにラジオをやってもいい。

青木:ラジオはやっているんですよ。

菅原:ラジオやっているんですか? 冗談というか、適当に言ったんですが。

青木:コンテンツで実は一番伸びています。

菅原:ラジオとはどういう?

青木:今、ネットラジオで『チャポンと行こう』という番組タイトルでやっていまして……。

内田:かわいい(笑)。

青木:恥ずかしながら、僕の妹と妻がやっているラジオなんです。むちゃくちゃ恥ずかしい。共同創業者が妹で、弊社で僕の妻も働いているものですから(笑)。二人が遊び半分で始めたものが、今、1回あたりの聴衆が15,000人くらいになってきているので。

一同:へえ〜。

青木:ラジオというのはおもしろいものでして。性質上、聴き始めたら途中でやめないんですよ。だから視聴完了率が、8割9割まで、20分の番組などでいってしまうので。ラジオというものはおもしろいなと、今すごく思っています。いろいろ、そうしたことばかりをやっているんですよね。

菅原:そこでは別に、主に青木さんの愚痴が話されるなんて、そういうわけじゃありませんよね?

(一同笑)

青木:軽くふられることはありますね。ネタがないとき。

菅原:やっぱり、ネタがないときはね(笑)。

菅原:おたよりを読むのもおもしろいですよね。

青木:そうですね。実際にそのラジオというのは、お客様からいただいているおたよりにお答えするというスタイルでやらせていただいています。

内田:声で答えるから、一番暖かく伝わるコミュニケーションなのかもしれませんね。

青木:そうですね。

菅原:人の感じがするというか。

高橋:うちのアメリカのチームにいたメディアプランナーもプランにラジオと書いていて「なんだこれ?」と思っていました。

菅原:きているんですよ。

高橋:トレンドがきているのかもしれない。

青木:主婦の方は落ち着いて何かを視聴できる時間が少ないので、音のメディアは支持率が高いんですよね。まだやりがいがあると思います。

内田:年代も広いですよね。私もクリーピーナッツのオールナイトニッポンゼロを毎週聞いています。

菅原:完全にヒップホップ(笑)。

高橋:コアなものですね(笑)。

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