グリーの分析組織の存在意義は「事業貢献」

北川拓也氏(以下、北川):せっかくなので、ご自身の分析チームを運営する上で一番大切にしていることを聞きたいと思います。何かキーワードはありますか?

五十嵐航氏(以下、五十嵐):キーワードとしては「事業貢献」が大きいと思います。ひと言でいうと、分析組織はなくてもいい組織だと思っていて、要は僕が何もしなくても、ウチのチームが何もしなくても、事業は回っていくんです。

なので、(分析組織がなくても)何かが急に止まるわけではないといったときに、それでも分析組織が必要だと思われるためには、事業貢献をしなければいけないと思っています。

ある程度頭が良い人はいるから、いろいろ考えて、いろいろ(データを)持ってはくるんですけど、「結局それが何になるのか」ということが説明できないと、意味のある分析ではないと思っているので。

北川:事業貢献は何で計るんですか?

五十嵐:(分析によって)売上がダイレクトに出せるわけではないので、なかなか難しいんですけど、僕としてはそんなに定量的に見ないようにしています。ただ、それがきちんと事業貢献になっているということを説明させます。

さっきの(樫田さんの)「わかりやすさ」の話もそうですけど、誰が見ても事業貢献していることを評価できるというような説明のさせ方をするという感じですかね。

例えば、全部が事実というわけではないんですけど、さっきのTVCMの話をすると、TVCMをやろうとしていて、他社との協業タイトルであると。

このまま(の条件で)やるとTVCMが実施できないということが出てきたときに、ウチのチームがきちんと「レベシェアを見直さなければいけない」と言って、結果的にTVCMを実施して、売上が伸びたということがあれば、それは事業の売上の増加分につながっていると言えますよね。

ただ、伸びた分の全部がウチの成果なのかというと、そういうわけではありません。当然プロダクト側の努力もあるわけなので。なので、金額は厳密に求めないけれども、(分析が)売上の伸びにつながったということは説明できます。

北川:ありがとうございます。

DeNAの分析組織は「信頼関係」「属人化」「平準化」を重視

小東祥氏(以下、小東):ちょっと粒度が違うんですけど、「信頼関係」「属人化」「平準化」の3つがあると思っています。

まず「信頼関係」でいうと、五十嵐さんがおっしゃっていたような「事業貢献」を目指す過程で、事業リーダーやチームメンバーとの信頼関係を構築しないと、どんなにいいアウトプットを出そうが、それがプロダクトに反映されないので、信頼関係を構築することが重要だとメンバーにもかなり口をすっぱくして言っています。

例えば、それを個人の評価として反映させることももちろんそうですし、ウチの組織でやっているのは、毎月MVPを選出するときも、プロダクト側のメンバーのコメントを集めてきて、その人たちにどれだけ信頼されているかということを示しています。

メンバーに対して「これが受賞理由なんだよ」ということを組織全体に言って、ステークホルダーとの信頼関係の構築が重要であるという空気感をつくっていくところがあります。

「属人化」と「平準化」については、分析組織は人数が少ないときだと、人によってやっていることがぜんぜん違うというフェーズがあると思っています。

人数が増えていってそのフェーズが過ぎ去っていくと、今度は「平準化」ということで、システムを効率化・自動化するフェーズがあります。

そこを乗り越えてくると、今度は見える化しているだけでは価値が出なくなるフェーズがあって、DeNAはそのフェーズにきているんですけど、そうするとまた「属人化」とそれに伴う分析の高度化が必要になります。

事業が立っていくためにも、誰にも真似できない、すごく強い属人化・高度化が必要だと思っていて、そこが繰り返していくと思うんですけど、「今は属人化・高度化が必要だからこっち」「今は平準化が必要だからこっち」というフェーズを見極めながら、組織運営をするということです。

北川:「コイツ、もう超属人化したな」みたいな例はありますか?

小東:ありますね。すごく昔、私が入社した頃にいたメンバーで、前職でスパコンをつくっていたエンジニアがいたんですけど……聞いただけですごく属人化しそうじゃないですか?(笑)。

(会場笑)

小東:当時の、機械学習がそこまで手軽に使えない環境の中でも、「自分でスクラッチでコード書いちゃったよ。これはいいものだから、君たちも使いなよ」な感じでポーンと渡されて、他のアナリストメンバーは「いやぁ、使えないですね。使い方教えてくださいよ」といった反応でした。何を説明されているのかわからないみたいな(笑)。

まあ、その人はすごくバリューが出ていて、平準化が進むと誰でも使えるツールになっていたりするんですよね。なので、そこのフェーズは繰り返しているなと思います。

北川:すばらしい。樫田さんは?

最高の人材が集まる、メルカリBIチームの強み

樫田光氏(以下、樫田):いろいろあると思うんですけど、あえてシンプルに言ってしまうと、「採用」です。

本当に最高の人材を雇うことがすべてかなと思っていて、自分では僕のチームのメンバーは本当に最高だと思っています。

「採用」で何が大事かというと、今のメルカリだと「勇者」というキーワードがけっこう大事かなと思っていて、自分ですべてこなせるオールラウンダーみたいなところをすごく重要視しています。

それは僕がメルカリで大事にしている「意思決定を支援する」ということと、メルカリという組織体の風土や事業スピードを考えると、最終的にはそのようなオールラウンドなスキルセットを持ったアナリストであることが分析チームとしてものすごく大事かなと思っています。

北川:ご自身がチームを運営する上で、参考にしたデータ組織というか、すごいと思ったデータ組織はありますか? 海外でも国内でもいいんですけど。

樫田:ないです。自社をそうしたいと思っています。

北川:おっ! 残念だな。飲み会でカッシーと話したはずなのに(笑)。

(会場笑)

五十嵐:僕も正直ないと思っています。やっぱりこういう場に来ているのも、そこの答えを求めに来ているということがけっこう大きいなと思っていて、分析組織というのは世の中的に成熟して、答えのあるものではないと思っています。

今の自分を導いてくれる上司はいますが、答えを与えてくれるわけではないと思っていて、上司も自分と同じ役割をしているわけではないので、そこを自分で模索している真っ最中です。なので、他の方からも話を聞きたくて、こういう場に来ています。

北川:たしかに、僕らは他の会社のデータ組織を経験する機会はないっちゃないね。先ほども(休憩時間に)、交換留学みたいな感じで、1週間ずつくらい他の会社のデータ組織で仕事をできる機会があってもいいという話をしていました。樫田さん、ぜひそういうプログラムを立ち上げてください。

樫田:僕がですか?(笑)。

五十嵐:すごい行きたいです。

北川:小東さんはどうですか?

小東:僕もないって言っちゃうとあれなので、世の中的にまだこういう仕事が定着してないので、ロールモデルがいないというのはまさにそうだと思うんですけど、僕は小市民なので、すごいなと思った組織で言うと、海外のNetflixですかね。

北川:僕も同じです。

小東:彼らはすごく膨大な映画やドラマのデータの中から、すごく地道に「この映画はこのジャンルだ」というメタデータを本当に手作業で繰り返していて、それを泥臭く分析して、そこで出た結果に対して、100億規模の投資をする意思決定ができる組織はすごいなと思っています。

しかもそれが、世界最先端のトップ技術を持っているからできるとかではなくて、単純に僕らも当たり前にできるようなことを積み上げて大きな意思決定に繋げている点は見事だと思います。

Google、Netflixに学ぶ分析チームの理想形

樫田:ちょっと補足してもいいですか? さっきの質問の「データアナリストになって後悔したこと」を考えていたんですけど、実は最近1個あります。

ウチの会社のUSオフィスにB氏というすごい優秀なプロダクトマネージャーがいるんですけど。B氏はもともとエンジニアで、そこからGoogleのプロダクトマネージャーになって、自分でもガリガリ分析ができて、1人でPDCAサイクルを回しながら、必要な場合はコードを書いたりコードレビューをするという、めちゃくちゃすごい人材なんですよね。

彼に聞くと、Googleのプロダクトマネージャーってけっこうそういう感じで、いわゆる分析の専任が隣にいなくても、ある程度分析やPDCAサイクルを自分で回せるから、ぜんぜんやっていけるという感じなんですよね。

この話を聞いたときに、僕はすごい後悔したというか、「えー、じゃあ俺らいらないじゃん」みたいな感じになったんです。

本当にGoogleはすごいなと思っていて、最終的に1人でPDCAサイクルを回せるというのは一番最強だと思っているので、本当に最強な分析チームが行き着く先というのは、分析チームがいなくて、B氏のようなプロダクトマネージャーだらけの会社なのかもしれないと思っています。

それは1個の解かなとは思っているのですが、ただ自分はこの分野の専門家もしくは専門部隊のマネージャーとして、それをある程度くつがえせるような、本当に分析の専門部隊だから出せるような価値をつくりたいと思っています。

どのようなかたちかはぜんぜんわからないし、目指すわけではないけど自分が考える1つの理想として、Googleのプロダクトマネージャーの集団みたいなものはありえるのかなと思っています。

北川:たしかにね。先ほどのNetflixの話で、最近日本語化されたんですけど、Netflixの組織文化の本というか、シェリル・サンドバーグが「シリコンバレー史上もっとも重要なホワイトペーパーである」みたいなことを言っている組織文化の話があって、そこがすごい好きだったんですよね。いろいろと書いてあるんですけど、「コントロールするのではなくて、コンテクストを示す」という話があったり、みなさんも興味があったらぜひ読んでみてください。

データ組織に大事なのは「人に依存できる強さ」

樫田:北川さんはチーフデータオフィサーなわけですよね。楽天という超でかい会社のデータ分析のすべての責任を負っていると思うんですけど、北川さんが考える「データ分析チームに大事なこと」を普通に聞きたいんですけど。

北川:そうですね……逆に聞かれると困りますね(笑)。

樫田:カウンターに弱いですよね(笑)。

北川:でも、僕も「10 times more trust 10 times more excitement 100 times more result」という言葉を言っていたんですけど、やっぱり信頼関係が大事だなと思いますね。データ組織のくせに、結局理屈じゃないところで組織を動かさないといけないじゃないですか。

みんなが同じ方向を向いていないと物事を成し遂げられないので、やっぱり雑談したりだとか、仲の良いチームだといいなと思うことがありますね。(会場に)ウチのメンバーも来ているんですけど、どうですかね? ウチは仲良いですかね?(笑)。

(会場笑)

樫田:「仲良い」って言うしかないじゃないですか、それは(笑)。

北川:やっぱり仲の良いチームがすごい大事だと。それと雑談も多いほうがいいなと。これはデータ組織に限らず、一般的にも思います。データ組織という観点では、やっぱり役割分担はすごい大事だなと思いますね。

そこにいる2人はインサイト分析が得意なんですけど、エンジニア寄りだとか、プラットフォームに強い人だとか、プロダクトマネージメントできるような人もいるので、そのあたりの役割分担を、それぞれが腹落ちしたうえで、お互い依存できる関係性が大事だなと思います。

ウチとかは7割くらいが海外の方なので、基本的に文化も言葉も違うので、お互いがリスペクトして一緒に仕事をする雰囲気をつくるのはすごい大事で、よく「人に依存できる強さ」という話をします。

とくに分析者はすごい頭のいい人が多いので、自分ができないということはあまりないと思うんですけど、自分でやらないということを覚悟できる人間というのは、なかなか少ないのかなというところで、「ぜひ自分でやらない強さを身につけてください」という話をしていたことがありました。すみません、ちょっとつまらない話で(笑)。

データサイエンティストのキャリアパス

北川:みなさんいろいろなサービスを育てられていると思うんですけど、せっかくなので「データサイエンティストのキャリアパス」ということで、データサイエンスをやる人の10年後のキャリアパスってどういったものがあると思いますか?

小東:さっきも言ったんですけど、まだデータ分析の10年選手ってそんなに世の中にいないと思っていて、実際にウチの会社の中でも10年後のロールモデルはないです。

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