新聞記者の仕事内容

前島恵氏(以下、前島):早速はじめさせていただきたいと思います。最初のテーマ、記者やジャーナリストが今どういうことをやっているのか、後はWeb時代において変わっていくのがそもそも必要なのか、いろいろお話ししていけたらと思うんですけれども。

まず大前提として、そもそも一般の人って記者の方が何をやっているのかわからないと思うんです。僕も最初打ち合わせで山川さんとお話しさせて頂いたら、こんなこともやっているんだと驚くことがあったので、まず記者ってどういう役割なの? という話をして頂けたらと思います。

山川一基氏(以下、山川):基本的には皆さんの想像の通り、取材して、それをまとめて記事に書くというところまでが記者の仕事で、そこから先は、いわゆる内勤と言われている、見出しを付けたり、割り振ったりして人に手渡して、そこで終わりとなります。

それで次の取材に行ってまた書いて、とやるのが記者の仕事です。これはいつの時代でも変わらないのですが、質問の主旨としてはきっと、日常どういった生活を送っているのという話だと思います。私は経済記者と言いましたけれども、入社すると最初はまず地方の支局というところに送られて、初めは山形でした。

山形は殺人事件が2年間に3件しかなくて、非常にのんびりして、駆け出しの記者として、いいのか悪いのかわからないのですが、比較的のんびりしていました。とはいえ、いろいろな事件もあって、最初はだいたい警察を担当するので警察にいって取材するんですが、警察としては刑事裁判になった際に公判維持が必要なので、話したことが新聞に出てしまうとデメリットが多いというケースが多く、そこからどうやって話を聞き出すか、ということをほとんどの記者が経験します。

何をやるかというと、キーマンとなる人にとにかく話を聞かなくちゃいけなくて、警察の場合、警察署だったり、役所だと役所で深い話を聞くのは難しいので、プライベートなところにいって話を聞く。例えば自宅を割り出して、夜に待ち構えていて聞いたり、いわゆる朝回り夜回りと呼ばれているものです。

特ダネをめぐる戦い

前島:朝駆け。

山川:そういうことをひたすらやっている。抜き抜かれということがあって、特ダネをみな書こうと思って取材をしているので、当然ライバル紙も同じことをやって、翌日新聞を見て愕然とすることもあります。

またこっちはこっちで抜き返してやるぞといって取材して、ひたすらこれを繰り返す。実は経済部でも政治部でも社会部でも、どこに行っても基本的には同じです。

つまり独自の特ダネを書こうという話です。世の中に出ていない話を、何とか掘り起こして自分たちで書こうという、いわゆる独自のネタというんですけれども、こういったものの為に日々努力しているのが記者の仕事です。

一方で発表のニュースを聞いて、それを記事にするというのもあります。何のテイストもつけずに書けば、短い記事になり、そういった比較的誰でもできてしまうような記事の価値がすごく失われているのが、今の世の中なのかなと思っています。

速報ベースの取材と調査報道

前島:誰が読んでも同じように書いているんですよね。今のお話しだと、わりと記者の求めているものって、速報と、もうひとつは誰が聞いてもじゃなくて、コミュニケーション的なスキルなり、人脈なりがあって、その人が聞きに行かないと聞けないことをとっていくみたいなところがあると思うんですけれども。後者が薄れているという話ですか。

山川:そうですね。薄れているというか、両方やらなくちゃいけなくて、例えば事件とか事故とかのニュースだと、警察は普通に発表します。発表文というのがあって、昔だとFAXで流れて来たり、もしくは電話でしか聞けないケースがあったりするんですけれども。何時何分にどこどこでこんな事故がありました、その事故はこういう事故でしたっていうのをさらっと書いてあるので、それだけだとなんだかさっぱりわからないので、また電話をして、これ実は、どっちの人が右折してきたんですかとか、どっちが悪いんですかとか、普通は再取材します。速報という形では比較的難易度が低くて、とにかく早くというものです。

逆に有名な事件で言いますと、皆さん多くの方がまだ生まれてらっしゃらなかったかもしれませんが、リクルート事件という……。リクルート関係の方が多いと思うので(笑)、ちょっとなかなかあれですけど、この事件、実は検察は着手したんですけど、ある時点で止めちゃったんです。

前島:捜査を?

山川:捜査をです。ところが、メディアがこれはおかしいだろうと取材していって記事にしたら、検察がやっぱりやらなきゃっていって、動いた事件です。ちょっと例に出すのはよかったのかな、今日(笑)。そういう、いわゆる調査報道がありますね。

メディアが関わらなければ世の中に出てこなかったニュースの取材が記者の花形と言われているのと同時に、それぞれの新聞社が特色を出して、しかも価値を付け加えている世界が、新聞社では今も続いていると。

番記者の癒着問題

前島:本当に足で稼ぐ感じですね。僕もそうですし、一般の方もそうかもしれないんですけど、割と記者会見にばっかり出るのかなというイメージがあったんですけど、もっとこう泥臭いというか、もう本当に時間をかけていろんな場所に行って人に話しを聞いてという調査員のような仕事のほうが多いですか?

山川:半分半分です。あとは担当の持ち場によるんですよね。例えば私、財務省で詰めてた時は、1日に何回も会見があったりするので、それはやっぱり出ないといけない。出て、話を聞いて、そこからニュースが生まれることがすごく多いので、これはやります。

ただ一方で、調査報道だけをやっているチームもあって、そういう人たちは記者会見とかは全くないので、自分たちで取材をしています。記者はみな両方だいたい経験がありますが、それぞれに極端なケースもあるという感じです。皆さんテレビでよく見る、例えば、官房長官会見とか、あれは確かに毎日2回会見しているので、ひたすら追わなければいけない記者もいます。

前島:もうそういう人は、べったりついてやってるような感じですかね。

山川:例えば番記者がいてですね、今だと菅官房長官番が必ずいまして、その人はずっとそれこそ朝から晩まで、家を出たところからずっと夜帰って来るまで追っかけていて、ここは想像ですけど、記者を中心にしたオフレコの懇談会が多分あって、そこにも参加してひたすらもう一体化して取材するのが伝統的な政治記者の取材でした。

前島:ちょっと聞いたことがあるんですけど、田中角栄の番記者が、番記者をやっているうちに人として好きになっちゃって、親父って呼び始めて、あんまり批判できなくなっちゃったという話を聞いたことがあるんですが、そういうある種の癒着は、実際のところあるんですか?

山川:実際は結構あると思います。特に政治だったり社会だったり、難しいところですね。間合いの取り方が難しくて、向こうに気に入られないとネタがもらえない世界もあるし、かといって批判しなければ、何を取材してるのかということになる。そこは大きなテーマですけども、そうやって生き馬の目を抜くような世界が繰り広げられたのは事実だと思います。

前島:ありがとうございます。

Web媒体の多くは新聞社の一次情報をそのまま流しているだけ

前島:じゃあちょっと話題を変えまして。川原崎さん、いつもログミーを見させていただいていて、記者会見っていう、1個重要なコンテンツをテーマにされてるみたいなお話を以前されていたかと思うんですけど。

ある意味でログミーのコンテンツの形って、記者をちょっと否定するじゃないですけど、その先にあるものなのかなって感じていて。これまでだと今の話であったように、ある閉じられた空間で記者だけしか聞けなかった話をWebの力でオープンにして、そうすると僕らみたいなメディアの専門家が見て、詳しい人がコメントできちゃう。かいつまんで、重要な部分だけ記事にできちゃう部分があると思いますけど、そういうメディアをやってらっしゃる視点から見て、Webにおける記者の役割は意識されたりしますか?

川原崎晋裕氏(以下、川原崎):いや、Webも旧マスコミもあまり関係ないと思いますね。今Web媒体で人気の芸能記事とか重要な政治記事とかは、マスコミの記者や通信社が持ってきたものがそのまま載っているというだけで、Web専門の記者がWeb用にとってきたネタというわけではない場合が多い。

たとえば僕のいたサイゾーは、もともと紙媒体の情報ネットワークがあって、それとは別にWeb媒体の編集者がそれぞれ独自のネットワークを持っていて、一次情報を自分たちで持ってきています。ジャニーズコミュニティに属しているライターと仲良くなったりとか、芸能記者とつながっていたりとか。

それはWeb特有のものかっていうと、別にそんなこともなく、基本的にそういう構造になっているんじゃないのかなって。

メディアが勝つ道は2つしかない

前島:逆に言うと、今まで紙でやってきたものが、ある種Webに平行移動しただけという側面もあると思うんですよね。コンテンツ的にも仕組み的にもそうだと思うんですけど、例えばYahooのポータルのトップを見ても、既存の紙メディアの会社が出したニュースがそのまま載っているみたいな状況があって。もちろん写真とテキストだけみたいな。

だからWebならではのコンテンツって、今あんまり生まれてないのかなってところで、その辺に関しては、ログミー自体も今はテキストベースじゃないですか。その辺をWebの、例えば物量を関係なく出せるとか、動画を使えるとか、双方向性があるとか、いろいろ特性があると思うんですけど、Webならではのメディアとして何かやろうとかは考えてらっしゃいます?

川原崎:Webメディアが勝つ道って、僕は2つしかないと思っていて、誰でもできることを誰よりもうまく早くやるのが1つ。もう1つが、誰もできない、もしくは誰もやりたくないことをやるというこの2種類しかないと思っています。

サイゾーなんかはまさに後者で、宗教団体から内容証明が届いたり、芸能事務所に嫌われたりっていう、誰もやりたがらないところにあえて突っ込んでいったり。あと大手のクライアントを敵に回すと、当然お金が入らないわけじゃないですか。でも、そこをやってのけるっていう。

もう1つ誰でもできることを誰よりも上手くやるのは、例えばnanapiとかはすごいなあと思っていて。ノウハウを書きます、ハウツー書きますってそもそもCGMですし、プロの編集者じゃなくても書けたりしますよね。

ただ、あれを本当にすごく最適化して、SEO対策もそうなんですけど、どんなコンテンツが今読まれているかとか、スピードだったり、量だったりで他を圧倒しているわけじゃないですか。

一方、ログミーで言うと、こんなつもりじゃなかったというのは実はありまして、書き起こしなんか誰でもできるじゃんっていうので、すごい量産できるイメージだったんですよ、僕は。

200人くらいライターを使って1日100記事作って、誰も追いつけない体制をつくるみたいなビジネスモデルを考えていたんですけど、著作権の問題で許可取りにすごく時間がかかったりとか、あとそもそも書き起こしただけじゃ誰にも読まれないんですよね。

人がしゃべる言葉って、文法めちゃくちゃなので、ちゃんと読める内容に直してあげるっていうのが、まず第一。あとはWebで流通させるためには、すごくいいタイトルをつけなきゃいけないんですけど、書き起こしの対象となるイベントとか対談とかって雑談に近いんですよね。

だから趣旨がすごく読みづらくて、タイトルは普通の記事に比べると圧倒的につけづらいですね。結局編集力がいるよねとなってしまって、今スケールがなかなかできないでいるのが、うちの悩みだったりします。

書き起こしをコンテンツ化するには「編集力」が必要

前島:一般的なログミーさんのイメージと違うかもしれないですね。ただ書き起こしているとは言わないですけど、本当にまっさらなままでテキスト化して載せてるんだろうなあ、みたいなイメージがありますけど、結構手を入れていると。

川原崎:内容は変えずに、読みやすくするために結構手を入れてます。ログミーが出た後に書き起こしサイトがいろいろと出てきたんですけど、大体もう更新が止まっています。それはなぜかというと、書き起こしが大変過ぎる割にPV取るのが難しいからなんですよ。

書き起こし自体は誰でもできることなんですけど、そもそものネタ選びであったり、書き起こしたものを読んでおもしろいものにするためには相当編集力が必要で、そこを今うちは死ぬほど頑張ってやってる感じですね。

前島:じゃあ初期の頃に言われていた、世の中に出ていない情報とか、その場にいけない人のためにそのまま出すっていうよりは、わりともう編集に力点を置いてきているっていうことですか?

川原崎:両方ですね。話がヘタな人だと、書き起こしただけだと言いたいことが真逆の意味になっちゃったりとか。その場の空気もありますし。でも変えすぎてもいけないので、バランスをとりながらやっています。

猫の写真はジャーナリズムか?

前島:ありがとうございます。では、中野さん。ちょっと話が重複してしまうんですけれども、例えばWebで言うと、書いた記事のPVが如実に見えちゃうとか、いろいろと紙との違いがあると思うんですけど、そこの部分のお話を。

中野渉氏(以下、中野):確かに今やっている仕事ですと、記事ごとにページビューとか、どれだけの読者が付いたかが一目瞭然なので、それははじめてWebに行った新聞記者としては非常に新鮮でした。

それが絶対ではないんですけれども、かなり編集者、記者を判断するにあたっては大きい数字で、意味を持ちますね。だから、新聞から行った人間からすると、ひとりよがりかもしれないですけど、ジャーナリズムが大事なんだと思ってかたい記事を上げたりしても、なかなか数字が取れない。

これって本当に読者にとって必要なのかどうかは非常に考えています。今でも考えたりしてるんですけど、逆にビューが取れるのは、写真がいっぱいついた記事であったりとか、動画がついている記事であったりとか、非常に柔らかいネタであったりとか、うちの媒体で言ったら猫のスライドショーをよく載せているんですが、じゃあそれがジャーナリズムかどうかは非常に難しいんですけれども、そういうふうに感じています。

今までの話の流れで言うと、会見の書き起こしみたいな話も出たんですけれども、我々も極力それはやるようにしていて、それはページビューが取れるか取れないかで言ったら取れるものなので。

特に去年は皆さんご存知のように佐村河内の会見があって、野々村県議の会見があって、非常に会見のスターが生まれましたので、そういうものは書けばそのまま読まれるし、逆に編集で削ると嫌がられたりするんですけど、ただ今お話があったように、まるっきり100%載せていると、非常に読みづらい。

全文とは言っても、多少手は入れなきゃいけないんですよね。話し言葉はノイズが多い、文法がおかしい、繰り返し同じ言葉が使われたりだとか、意味が通らなかったりするので、それを直してあげなきゃいけないんですけれども、それに合わせて、例えばインタビュー、うちの媒体はオリジナルなコンテンツとしてインタビューをできるだけやるようにしてるんですけれども、例えば1時間インタビューすると、文字に起こすと3万字くらいになるんですね。

ただ、じゃあそれは新聞ではどれだけ載るのかっていったら、1時間話を聞いて3万字分の話が出たとしても、新聞ではそれは2千字以内にしないといけない。10分の1以内ですよね。

ただその時に、どれだけ臨場感、話している感じが伝わるか、話し言葉であってわかることがあって、その人の人と成りをあらわれているように、感情を残しながら書くようにはしてるんですけど、新聞だと凄く難しいっていうか、厳しいっていうか、かなり恣意的に削って意図的に書いてたんだなあとは思います。

ただ、ネットでやる時も、3万字をそのまま載せると読者がまるっきりついて来れないので、僕だったら意識して3千字以内とか4千字以内にはするようにしています。それでも10分の1ぐらいですけど、新聞の2倍とか3倍は書けるという。それがいくらでも書けるネットの特徴で、そこを活かしながらやってるところですかね。とりあえず。

自分の仕事はハフィントンポストをPV至上主義にしないこと

前島:先ほどジャーナリズムというお話があったんですけど、僕の印象だと、自分自身もWebメディアをやってる立場として、さっきも言ったように、PVが見えちゃう。読まれるのか読まれないのか、ある程度予想がつくようになっちゃって。

そうすると、どうしてもジャーナリズム精神よりも、読まれるものばかり書いてしまいがちになるような。一方で、新聞って総体として売るっていうか、全体の一部として売るじゃないですか、かたいネタから柔らかいネタまでパッケージにして。

なので、読まれているか読まれていないかそんなによくわからない。逆にそれがいい面もあって、記者のほうがジャーナリズム、自分の信念に基づいて、その総体の中で自分の熱意のままにやっていくっていうことが可能なのかな、みたいなことを思うんですけど、その辺はどうなんですかね。ハフィントンポストでは、PV見えちゃうから、紙の新聞に比べると、ジャーナリズムを発揮できない面があるみたいな。

中野:とりあえず数字を追う面はあると思いますし、それは否定しませんけれども、ただ今の媒体ですと、ハフィントンポストって、編集と取材をしている人間が10人もいないんですよ。それに対して朝日新聞は2,000人以上、3,000人くらいの記者がいて、各県庁、市役所、警察、全てに記者を張り巡らせていて、そこに普通に取材でやっても勝負して勝てるわけがないんですよね。

ただ、交通事故とかも新聞記者は書きますけど、それはネットでは必要ないですよね。だから、読まれる記事を意識して、かつ意味がある、おもしろいテイストを、自分達のハフィントンっぽいものを出せるようには意識していやっています。

あとは、編集者は10人足らずで、朝日からは私ともうひとり行ってるんですけど、私たちの役割としては、数字のほうに流れすぎないための歯止めというか、これは必要なことだよねと。

例えば政治で憲法の話になったりだとか、経済でも大きい出来事とかが来ても、そういうものは読まれないかもしれないけれども最低限入れろと言ってくれれば、皆もそうだよねって言ってくれますし。

後はちょっと工夫次第で写真ものに変えてみるとか、動画を付けてみるとかってしつつ、読者に届くようにはしています。あと、会見の話の流れで言うと、僕らは記者も少ないですし、夜回りなんかもできないですから、本当にディープな取材源ってなかなか掴めません。

例えば警察取材、警視庁は記者クラブがあって、そこに加盟している社の記者じゃないと、事件があったことすらも言わないっていうか、プレスリリースで出しているようなことさえも教えてくれなかったりして、いまだに記者クラブの壁があるので、それは経済系のところもそうですし、なかなかそういうところで勝負できないので、会見をやるとか、インタビューをやるとかでオリジナリティを出せたらなと思っています。

制作協力:VoXT