マスなニュースって、必要?
新聞社が"おせっかいな記事"をつくりつづけるワケ

Webと新聞から考える、新時代のニュースとメディア #4/4

ニュース解説メディアCredo主催のイベント「Webと新聞から考える、新時代のニュースとメディア」が2015年5月7日に朝日新聞メディアラボにて開催。朝日新聞メディアラボの山川一基氏、ハフィントンポスト日本版ビジネス&マネー編集長の中野渉氏、ログミー株式会社代表取締役社長の川原崎晋裕氏が登壇、Credo編集長の前島恵氏がモデレーターをつとめました。本パートでは、紛争地域での取材を経験してきた中野氏を中心にネット時代におけるメディアの公共性のあり方について議論しました。(「Webと新聞から考える、新時代のニュースとメディア」より)

紛争地域を日本人が取材して、日本人に伝える意義

前島恵氏(以下、前島):そろそろ最後の展開になってくるんですけど、今の話とちょっと関わる話で、そもそも皆で議論するとか、マスなニュース、皆が知るべきニュースは必要なのかという。 

僕もいち現代っ子として思ったりするんです。特にWebの世界において、好きなものばっかり読もうと思えば、いくらでもできちゃう。一方で新しくメディアをやる方だったり、新聞社の方って「いやいや、もっとメディアは公共性があるべきだし、議論の元になるべきだし、皆が知るべきことがあるんだ」みたいなことをおっしゃるんですけど、またざっくりとした質問で申し訳ないんですけど、その辺について「マスなニュースって何で必要なの?」みたいなところのお話を聞けたらなと。

例えば中野さん、紛争地域を取材してらっしゃって、紛争問題って若者視点で「知らなくても別に困らないし、日常生活を送れるし」みたいな意識があるんですよ。そういう中でも伝えてきたという立場からお話を頂けたら。

中野渉氏(以下、中野):そう、パキスタンとかアフガニスタンのニュースってすごく読まれなかったという話がありました。私は新聞で編集もやったことがあり、昔レイアウトまでやったんですけど、すごく重要なのが、価値判断付けで。

新聞は見て、どこに何が置いてあるのかでニュースの価値って決まってきて、すごく厳密にやるんですけど、自分が書いた記事がなかなか一面に載らないっていうのを日々、感じていたんです。

例えば、パキスタンは日本人が入れるけど、アフガニスタンだと普通の日本人って入れないんで、あそこに今日本人は100人くらいしかいないんですけど、それは日本政府の大使館員と、JICA関係者くらいしかいないので。

つまり日本人がTwitterで発信することの期待もできないので、そういう意味で、そういうところに記者が行って伝えるのは意味があると思ってやっていました。つまり情報発信という。

それも外国の通信社の記事を訳したらいいだけっていったら、そうかもしれないですけど、こちらとしては、日本人が行って日本人が伝えることに意味があると思ってやってましたし、例えば価値判断、ニュースでこれが重要なんだっていう判断は、まだプロの目で総合的に見てやってあげないと、ネットみたいにどんどん右から左にニュースが流れていくのとはまた違う大切な点があるんだと、僕は信じてやっています。

前島:ちゃんと物事を伝えられる人が行って、書いて伝えることに意味があると。

中野:というふうに信じてやっていますけれども、そんなのいらないよっていう人もいるんで、そういう人たちがいるのはちゃんと尊重しますが、じゃあその中でどうやって解決していくのかという。

なぜスマニューは社会面のニュースをトップに出すのか

前島:僕のまわりもそうなんですけど、若い人たちは別に好きなことだけ見てればいいし、メディアもそうで、中立性とかいらないんじゃないかみたいなお話があるんですけど。さっきの川原崎さんの話でいうと、どこかの大企業の下に属するんじゃなくて、独立している必要がある。それってなぜなんですかね。

川原崎晋裕氏(以下、川原崎):独立している必要があるのは、本当のことを書くためにですね。マスなニュースっていう言葉が、もう定義が変わってきてるんじゃないかと思っていて。

昔で言うとテレビが配信しているものがマスなニュースですよね。それがイコール、皆が多く見てるものだったので。今はそうではないので、昔と比べてマスの定義がそもそも変わってきてるというのが1つあって。あともう1つは、知っておくべきみたいな、いわばおせっかいなニュースの出し方をするべきなのかどうかっていう話ですよね。

前島:そうですね。

川原崎:なんでスマニューが社会ニュースをトップ面に出しているのかっていう話ですよね。あれに関して言うと、知らないことによって国民の9割が損をするとか、危険な目にあうとか、不利になるものだったら出したほうがいいと思うんですけど、今はそこまで絞られてないと思っています。

まだまだ記者の方だったりとか、編成の方の主観がわりと強いし、伝統が強いと思っていて、本当はマスなニュースってもっと削れるんじゃないのかなっていうのが、何となく印象としてはあります。

前島:なるほど。今SmartNewsという言葉がありますけど、SmartNewsはまさにそうで、本来だったらWebの媒体を見ていて、知るはずのないものを、どう人の視界に入れるかみたいなことをすごく経営者の方が言っていて。

偶然性、そのことによって紛争の解決とか、属している属性だったり文化が全く違う人たちでもわかりあえる、中間領域ができるんじゃないか、みたいなことをおっしゃっていますね。

新聞社の価値判断が独善と言われる社会になってきた

前島:最後に山川さんお願いします、熱いお言葉を。

山川:そこが一番重要なポイントだと思っていて。おっしゃった通りで、新聞がこれまでやってきた仕事は、おせっかいは良い言葉だと思いますけど、おせっかいで抱き合わせ商法なんですよ。

新聞は新聞社が考える記事の「重要性」で順番が決まっていて、一面のアタマが一番重要で、さらにすごく重要なことは見出しがでかくなっていたりとか、横見出しというのが一番すごくて、その次に左側の記事が重要で……、といったルールに縛られていて、これは100年くらい変わっていないんですね。なぜかというと「興味ないかもしれないけど、これ読んどいたほうがいいよ」っていう「抱き合わせ商法」をしてきたからです。

当然、いまのこの世の中でそれが通用するわけがなく、それぞれの関心や、さっきの損得の話はすごく面白いと思います。「損するよ」というのも難しくて、ある人は損するけどある人はそうではないというふうに世界がどんどん細分化している気がして。読者としてもこれがすぐに自分のことだ、というふうに考えにくくなっているように思います。

そう考えると、さっきの「9割の人が損しなければいい」という話でいくと、でも新聞からすれば1割のすごく辛い人がいて、これは社会問題じゃないのか、というものを一面の頭に持ってきて、皆に考えてもらう、という仕組みでした。

ところがそれって独善だよね、というふうに変わってきているのが、いま新聞社が厳しくなってきている社会だと思います。

だからマスメディアがニュースをどう届けるかという部分で工夫しなければいけないのが、さっきから色々と議論しているところであって、イマーシブなものであったり、ロイヤルなカスタマーだったり、そういう方法でやっていくのが今のところ考えられる手法ではあるんですけれども。

マスのニュースって取材にお金がかかるんですよ。人がたくさん必要でベテランの記者だったり知見も必要で。どうしてもお金がかかっちゃうので、ひとりでできてしまう記者というのもいるかもしれないですが、少ないし、すごくお金がかかってしまう。

そういったものをサステナブルにしていくのが一番重要だと思うし、それがなくなってしまうのは社会的損失だと思っているんですが、残念ながら世界中のメディアでその答えを見つけ出せているところはひとつもない。なので、試行錯誤してこういう試みをやっているわけです。

マスなニュースに関心がないわけではない

前島:最後に非常に難しいけれど、公共性には相当意味がある、僕もいち若者と言ったものの、けっこうそちら側で、目には見えない損得なんだけれども、実際は広く知っておかないと民族問題とかなんでもそうなんですが、どんどんわかり合える範囲が狭くなっちゃって、もう本当に争いばかりの世界になっちゃう心配があって。

山川:ニュースってどこまでが得でどこから損になるかがわかりにくいと思うし、どこでどうつながっていくかもわからないので、そこはなるべく広くみんなで情報を知りましょうって世界。

マスのニュースに全くみんな関心がないかというと、トマ・ピケティの本が突然売れたりとか。池上さんの週刊こどもニュースって一時期、実は視聴率が16パーセントあって、超お化け番組だったんですけど打ち切られちゃって。その理由は非常に簡単で、子ども向けに作ったのに大人ばかり見ているという。

前島:ターゲティングが外れてきたと。

山川:そう。つまり、そういったことに不安だったり知りたいと思う人はたくさんいるわけですよ、まさに今、前島さんがCredoでやっている難しいニュースをわかりやすくするという試みは必要とされているし、そこにマネタイズは何らかの形であるんじゃないかとおぼろげには思っています。

前島:頑張ります。それではお時間になりましたので、最後に全編通してご質問がありましたら挙手お願いします。

4月にハフィントンポストで一番PVがとれた記事は?

質問者:今日は貴重なお話ありがとうございました。LINE株式会社でBLOGOSというサイトの運営に携わっているものです。メディアに係る議論っていま流行っているというか、次世代のメディアはどうなるか、ニュースはどうなるかって話はいろんなところでされてると思うんですけれども、日々、ニュースの運用に携わっている者からすると、どういう記事がウケるのかが非常に気になるところであります。

なので、お三方に最近の記事で一番ウケたもの、ウケなくても一番手応えがあったもの。それがPVなのか、ソーシャルでの拡散なのか、世間へ影響を与えたのか、ご自身での尺度でけっこうですので、どんな記事が一番ウケたのか、そしてその尺度はなんなのかを教えていただきたいです。

中野:ウケたという意味でいうとページビューがとれたのは先月(2015年4月)は佳子さまの入学式です。めちゃくちゃアクセスが来ました。これは芸能ではないんだけれども、皇室の話ですし、良い話ですよね。社会的な背景もあるんだけれども、写真を100枚つけたらものすごく見られたという。こういうこともやんなきゃいけないなと思っています。

あと単純にこの前、パッキャオのボクシングの試合があったんですが、テレビの地上波ではやっていませんよね、じゃあ日本では何時からどうやって見られるのという記事を出すと、すごく見られたりしますね。直前になってみんなグーグルで検索するんですよね、どうやったら見られるの、何時になったら見られるのと。それらは単にビューを稼ぐというだけのお話です。

川原崎:うちでいうと、『はあちゅうのゲスアワー』っていう、はあちゅうさんにいつもシェアしていただいているんですけど、「青学のテニスサークルは本当にチャラいのか?」とか「女子に男の家に行ってもいいかもと思わせる秀逸な誘い文句」「彼女の部屋で大人のおもちゃを見つけたときの正解の対応法は?」「おっぱいを揉み足りない男性における悲劇」みたいな内容なんですね。

なぜ僕がこれをすごく気に入っているかというと、ログミーをうまい具合に崩してくれているんですね。僕はあまり意識の高いメディアをやりたいというのはないんですよ。結果的に、ログミーは意識の超高い人にたくさん読んでいただいています。

でも僕がやりたいのは書き起こしの可能性を追求することなんですね。そういった意味では別に女子大生がスタバでしている女子トークを書き起こしてもいいですし、こういうセミナーでもいいですし、おばあちゃんの世間話でもいいですし。

書き起こしの可能性はたくさんあると思っていて、そのなかのひとつの最たる例が、ゲスアワー。YouTubeでの再生回数よりログミーでの閲覧数のほうが多いものもあるんじゃないかと思うんですけれども、こういうおもしろコンテンツがGMO熊谷さんの良い話のあとにサッと入る。これがすごく楽しいと思っています。

新聞の紙面やWebのフリーミアムモデルの限界を感じた

山川:この2年くらい記者を離れてしまっているので昔の話になってしまうんですが、今2つ思い出しました。ひとつは手紙がきて珍しく褒められたやつで、もうひとつはいつも通りけなされたやつなんですけど。アメリカでゼネラル・モーターズ(GM)という会社が一度潰れまして、それを取材することになってずっとデトロイトで取材していたんですけれども、倒産しそうだ、こんなふうに経営状況が悪くなっていて、負債がすごくかさんでいるとか、政府が支援するとか書いても反応はあまりなかったんですね。

でもGMで働いていた人の家に密着して、その人がどういう人生を歩んでいたかを書いて、実はその人のお父さんもおじさんもみんなGMで、昔はGMに入るだけで人生安泰という話だったのが、今はこうなっていて給料も全部見せてもらって、給料の上がり下がりの棒グラフを書いて、そのひとの人生とGMの隆盛をあわせた記事を書いたんですよ。

それには結構面白いと言ってくれる手紙が相当きて、そのときまだ2008年くらいだったのでWebもここまでまだなっていなかったので、投書が多かったという。

更にその後でたくさんご意見いただいたのが、いまでもググると出てきちゃんですけれども、IMFっていう国際機関があって、ここの幹部が会見で日本の財政は世界のリスクだと初めて言ったことがありました。

他のメディアはなぜか書かなかったんですけど、ちょうど私は会見に行っていて、理由はみなさんもご存知のとおり、財政が非常に厳しいので、いま潰れることはないけれど、将来的には日本の財政は危ないから世界に影響を与える可能性があるよねという話の前段があり、このままいくと危ないし、そうならないために消費税を上げなさいって話になっていくんですけど、リスクという言葉を使ったのがその時はじめてだったんですね。

新聞記事って後ろからどんどん削られていくっていうんですけど、頭でっかちに書いて、後ろからどんどんなくなっていくのを前提に書いているんですね。だから起承転結じゃないんですよ。

その結果、「日本の財政が世界のリスクだ」っていう部分だけが記事になって載っちゃったんですよ。それがデジタルのほうでいくと今度は、弊社のデジタル版はフリーミアムになっているので、お金を払わないと最初の数段落しか読めないんですよ。

そうすると、日本経済は世界のリスクだって部分だけ無料で読めるようになってしまって、まず読者からまた売国新聞やったのか、捏造したのかときて。IMFのほうからも、そこだけ取り上げるのはどうかみたいなのが来たりしたんですが、実際は背景とかをきちんと書いてるんですよ。

だけれども新聞というメディアの限界があったり、Webでフリーミアムの仕組みをやっている限界で、そこだけが出てしまうことによって、すごくネガティブな反響がきたことが非常に経験として残っています。なので、見せ方の難しさみたいなものをすごく学んだ記憶がありました。

前島:ありがとうございました。それではお時間になりましたのでトークセッションはこれにて終了にさせていただきたいと思います。改めまして、本当にありがとうございました。

制作協力:VoXT

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