時代を超えて連なっていく琳派の系譜

小崎哲哉氏(以下、小崎):またまた話がずれていますが、お二人にぜひ伺いたいことがあるんです。琳派にはいろんな特色があるとされていますが、世界的にめずらしいとされている「私淑(ししゅく)」がありますよね? 繋がってない。

どういうことかというと、本阿弥光悦(ほんあみ こうえつ)とか俵屋宗達(たわらや そうたつ)は16世紀ですよね。ところが、流派でないものを彼らが死んで100年後に尾形光琳(おがた こうりん)が写したりして復活させる。

光琳はもちろん光悦や宗達とは面識がないわけですよね、時代が違う。でも作品を見て「すごい! 俺も真似してみよう」というので始める。さらに、光琳が死んで100年経つと酒井抱一(さかい ほういつ)が復活させる。で、明治期に神坂雪佳(かみさか せっか)がそれを学ぶわけで。

有名な人は直接繋がってない、というか切れてるんですよね。だからポイントとして「私淑」というのがあると思うんですが。お二人は私淑のようなものはありますか? 影響された先輩とか、これを継いでやろう、というのは。

しりあがり寿氏(以下、しりあがり):僕は直接お会いしてもないし、教わってもいないけど、影響を受けたというのはやっぱり赤塚不二夫さんですかね。

小崎:天才ですよね。

しりあがり:生きているうちにお会いしたことはなくて、でもそういうのを感じますね。

小崎:壮絶にお酒を飲んだ方なんでしょ? 伝説がいっぱいありますよね。

しりあがり:そこを習いたいなと思ってんですけど(笑)。

小崎:タモリにマンションをポンとあげちゃったとか、いろんな伝説がありますよね。

本能に埋め込まれた琳派のスイッチ

小崎:日比野さんは誰かいますか?

日比野克彦氏(以下、日比野):繋がってないというのは「繋げなくても大丈夫だった」ってことだと思うんですよ。脈々と1個の技法を、師匠から弟子に、弟子から孫弟子に伝えていくんじゃなくて。ポンと生まれるっていうのは、すごい動物的なものなのかなと。

きちんと意図的に伝えないと無くなるってことじゃなくて。本能的に「あるタイミングになると、やらざるを得ないスイッチ」が自分たちのDNAの中に入っていて、そのスイッチがポンと入るときがくる。

きっと琳派の前後に、これが必ず生まれなきゃいけない理由があったと思うのね。たとえば、しりあがりが絵を描き始めているときに2時間絵を描いていたとすると、頭の中でストーリーを描いていた時間があると思う。

「最終的にクシャクシャにするから、ここを濃くして」とか「キャラ入れたほうがバランスいいかな」って頭の中で考えてる時間が30分あったとしたら、それが爆発して、どうでもよくなって手が勝手に動く時間が3分間ある。

そうなると頭がちょっと休まるから、また頭で考えるような絵を描いていって。30分になるとまた頭がいっぱいになって、勝手に手が動き始める時間が3分間ある。きっとその3分間みたいなところが琳派なのかな。

小崎:100年間眠ってるけどポンと出てくる、みたいな。

日比野:だから、教わらなくてもわかる。先人たちの作品を見るなかでドキッとして「そうだ、これだ!」と思ってやり始める100年後の人たちがいたというのは、そのようなことかなと。

1958年生まれの我々の世代だと、「もの派」とか学生運動とかが前にあって、後ろの世代にはデジタルがある。「失われた10年」という言い方があるけども、前後のがっちりとした流れとは違う息継ぎをするようなところがあって。そういう世代によって入るスイッチがあるのかなと。

しりあがり:そういうのって、何世代かで出てくる遺伝子の感じもそうだし、もしかして人間ってそんなに幅広くないのかなって。繰り返すってことは、そうですもんね? スカートの丈が足より長くならないのと同じように。

小崎:そうきたか(笑)。

完成度が上がってくると、どこかで反発が来る

しりあがり:何か知らないけど、どっかで繰り返さざるを得ないような。人間が足がすごい長くなったら、また全然違うアートが出てくるのかもしれないけど、人間の進化が変わらない限り、もしかすると、ある範囲で繰り返してるのかな、みたいな感じはありますね。

小崎:そうですね。本阿弥光悦が江戸に移ったのは、江戸幕府が成立して、ちょっと落ち着いた頃合いだから。それこそ光悦が生まれた頃には千利休がまだ生きてたのかな? 「わび・さび」が一段落ついて、もっと綺麗さとかが出てきた時代だというのもあるかもしれないですね。

しりあがり:わりと最近で感じるのは、湯村輝彦さんが出てきた直前っていうのは「スーパーリアリズム」が流行ってたんですよね。

小崎:山口はるみさんとか、空山基(そらやま はじめ)さんとか。

しりあがり:そういう上手なほうにいくと何か我慢できなくて、ウワッと崩すと(笑)。音楽でいったら1977年っていうのは、ちょうどセックス・ピストルズが出てきた年で。湯村さんがヘタウマの『ペンギンごはん』を描いたのと同じ年なんですけど。

そういうふうに大人しく完成度が上がってくると壊したがる。今のイラストとか絵画を見てると、すごく上手なものを志向してるほうが多いですよね。具体的で上手い絵。ピクシブとか見てても本当に上手なのが礼賛されたりだとか。

だから絵柄があることまでいくと逆の流れが出てきて。そういうのは何となく、ここ何十年かで感じたりしますね。

小崎:これからは、しりあがりさんも漫画に金箔をかかさず貼る……なんてことにもなるんですかね?

しりあがり:そうですね(笑)。

一夜限りのお祭りだからこそできること

小崎:日比野さんは今度、4月末に「六本木アートナイト」のアーティスティックディレクターをつとめられますけども、なかなか派手なものが出ると小耳にはさみましたが。

日比野:「ハルはアケボノ」というタイトルで、今年の特徴はライゾマ(株式会社ライゾマティクス)の齋藤精一さんがメディアアートディレクターというポジションで入ってもらって。

メディアアートのトラックが六本木をグルグルと回る。みんなのスマホとか事前に集めたデータ、ファンとのインタラクティブに反応して歌ったり音が出たりする。そんなトラックが六本木を走り回るという作品なんですけども。

小崎:ゴージャスな感じが尾形光琳と通じる気がしますね。

日比野:六本木の街って飲食が朝までやってたり、ときどき危ない事件も起こったりするようなところで。たぶんお客さんも3分の2くらいは日頃アートに積極的に興味がない人たちなんだけれども。

けど、そういう人たちが集まってきて街の中を歩いてると、お客さんの雰囲気でいろんな物がアートに見える変なマジックが起こるんですよ。このアートナイトも5回目なんだけども、作品を持ってやってくるやつが多いのね。公園で人だかりができていたり。

小崎:便乗だ。

日比野:そう。街の中でそういうことが起こってくるし、アーティスティックディレクターの立場であんまり言っちゃいけないんだけど。一晩だから規制のしようがないんですよ、やり逃げみたいな感じで。1ヶ月とか半期やってるような芸術祭だったら大変だけれども。

逆にそこがアートナイトのおもしろさというか。たとえば町とか屋外でやるものって越後妻有(えちごつまり)とか瀬戸内とかあるけれど。一晩だけ六本木の町場でやって、あっという間に終わるので。

その一瞬の輝きさ加減というのは、さっきの話に無理やりこじつけると、突然1年に1回ポーンと異空間の異次元のアートが出てくるということで言えば、琳派が突然ポーンと出てくるのとすごい人間っぽいところが。

小崎:ちょっと無理やり繋げてるかもしれませんけど(笑)。

日比野:人間っぽいところがアートナイトですね(笑)。

お行儀がいいアートだけじゃつまらない!

小崎:確かに六本木ってところは歴史からしてヤバい町ですからね。そういうものが出てくるのは実は正当なことかもしれないですね。ヴェネチア・ビエンナーレなんかでも、オープニングのときは世界中から変わった人がいっぱい出てきて楽しませてくれたりしますけどね。ハプニング的にいろんなことが起こるのも想定内っていうのかな?

日比野:だから今日こういうアートフェアをやってるじゃないですか? アートフェアもマーケットなので。さっき始まる前に、しりあがりが言ってたけども。しりあがりの言葉がおもしろいと思うのは「野菜を売るように並べられてるね」みたいな。

やっぱり、つくるほうとしてみれば「お行儀よく並べられて息がつまる」みたいなところがあるわけですよ。コレクターに引き取られて、部屋にバンと飾ると「イヒッ」としてくれると思うんだけれども。

やっぱりアートってのは本当の日常の、その人の趣味趣向と混ざるもので。美術作品だけがあると不健康だよ。リビングがあって作品があるとか、生活があって作品があるならいいけど。

あれだけ作品が所せましと並んでいると、本当になんかこう奴隷市場で「売られていくんだな、この子たち」みたいな。見てて、つらーい感じがして。

(会場笑)

小崎:でも、そういうアートフェアもあってもいいし(笑)。

日比野:あってもいいし。でもあれだけがアートだと思って、ここだけに通ってちゃダメだと思うの。町場とか美術館だけ通ってもダメだし。アートフェアだけに行って、見た聞いた知ってる、となってもダメだし。

小崎:確かにね。

日比野:やっぱり、町場に行って今の空気を吸って。それこそ日常の、もっと言えば海まで行けって話なんだけども、自分が動きやすいとこだけ動くんじゃなくって。

いろんなところに行くというのが、そこでドキッとすることがあったりとか、日常のちょっとした価値観のズレがあったときに「何かいいな」と思うものが見つけてこれるかどうか。だから額縁、本当に回していいと思うよ。

(会場笑)

しりあがり:ありがとうございます!