英国のエリート校で徹底的に教えられる、ユーモアの概念

中竹竜二氏(以下、中竹):私も一応、そこが専門ではなかったんですけどイギリスに留学してて。専門が社会学とか人類学だったんですけど、イギリスはやはりChristian masculinity、キリスト教男性主義みたいなところがあってですね。

篠田真貴子氏(以下、篠田):おもしろい(笑)。

中竹:いい意味で「カッコつけなきゃいけない」みたいな。感情はあらわにするけど、アンコントローラブルになっちゃいけないっていう(笑)。その教育は実は多くのパブリックスクール、いわゆるハロー校とかイートン校とか、あとオックスフォード、ケンブリッジに紐づくところでは、かなり重要視されてますね。

で、もう1個の概念としてやっぱり、私がいいなと思ったのは……社会学の語源って言いますけど、ユーモア。humourみたいな、あの言葉ですね。あれってどうかというと、自分を俯瞰して自分をコケにするみたいな。要するに怒ってる自分も客観視して「こんなことで怒ってるんだよ、俺は」みたいな。そのトレーニングはいわゆるエリート校では、勉強を教えるよりも、そういうことを徹底的にやってましたね。

篠田:なるほど。今の「自分を客観視して、自分をわざとコケにする」っていう表現は、アメリカ英語でもよく聞きますね。「Don't take yourself too seriously」って、人にかける言葉。例えば子どもにとか。字面どおり言うと「自分をあまり真面目に扱うな」っていう、直訳するとそういう表現なんですけど、たぶん意図としては今のhumourとまったく一緒で。

私たちってほっとくと自分が一番大事で、自分の感情こそが真実で「これを大事にしてくれない周りが悪い」っていう態度になりがちなところを、そうじゃなくて。自分の感情をそんなに真面目に取り扱わず、もっと相対的に「自分の気持ちをもっとライトに」とか「自分の状況をもっと軽やかに見たほうがいいよ」っていう意図なんですね。

中竹:ですね。イギリスの1つの文化な感じします。チャップリンがイギリスで生まれて、文化を作ったのはそこですよね。自分たちそんな裕福じゃないけど、心は貧しくなりたくない。そうなると一番大事なのは、つらい自分を客観視してそれを笑うことが一番エコシステムとしていいんだ、みたいな。そういう文化はありましたよね。

聴くスキルもユーモアも、訓練によって身に付けられる

篠田:こうやって聞いていくと、初めのところではわりと、組織変革の中でbeingの領域で入っていくし、実際そうなんだと思うんですけど。それが今日聞くと、持って生まれた資質によってずいぶん違っちゃうような印象を持ちがちだけど。ここでずっと伺ってきたり、私も経験したことを思い出してお伝えしている話って「簡単ではないが訓練可能であるし、スキルとして身につけられるものですよ」ってことなんですよね。「聴く」っていう話とか。

中竹:まさにそのとおりです。

篠田:ユーモア。自分を客観視して、ちょっと感情的になっている自分をどこか別の自分が見て「バーカ、バーカ」って言ってるみたいな感じとか(笑)。そういうのは訓練可能だっていう、これを知るだけですごく可能性が拓ける感じはしますよね。

中竹:そうですね。あと今日聞いている方々って、たぶんけっこう意識の高い方も多いと思いますし、普通にbeingの話……「doingとbeingは違っていて、beingだよ」って言っても、わかる方は多いと思うんですね。これ、意外に業界違うと「なんだそれ、なんで急に英語が出てくんだ?」って感じですけど。

篠田:(笑)。

中竹:beingは大事なんですけど「beingってあり方だから、心の持ちようだよね」みたいな感じで思われてるのは、誤解ですね。実はbeingに変革を起こすには、結局、行動しないと。doingをちゃんとやらないとダメなんですね。個別具体的な課題であったりスキルを徹底的に極める、そのプロセスに実はbeingがあるので。「やっぱりbeingが大事だからね、doingなんかもう、スキルとかどうでもいいよね」とかって言ってる人は、残念ながらbeingも絶対に変革を起こさないので(笑)。

篠田:(笑)。

中竹:この感覚をうまく伝えられたらいいな、とは思ってます。

チームボックスが行う、徹底的なスキルトレーニング

中竹:チームボックスはそういう意味ではbeingにアプローチするんですけど、実はトレーニングでやってる間は徹底的にスキルを高めていくっていう。見え方としては、徹底的なスキルトレーニングなんですよ。

篠田:へぇー、例えばどういう感じなんですか?

中竹:目標設定は必ずやってもらうんですね。日々の目標を立ててもらう。目標設定ってスキルなので、いかに未来の自分とか未来のことをビジュアル化し、言語化するかっていう。

そういった目標設定をするトレーニングと、自分を振り返る、内省・リフレクションのトレーニングっていうのを、言語化も含めてトレーニングし。あとはプログラムによっては傾聴する、相手をちゃんと聴くトレーニングであったり、自分の言葉で話すっていうトレーニングであったり。そういうことを徹底的にやるんですよ。だからやってる最中はもうbeingどころじゃなくて、日々なんかもう……。

篠田:必死(笑)。

中竹:必死なんですけど(笑)。気づくとそれをやってる時に、あり方が変わってくるみたいな感じですかね。

篠田:本当そうですよね。だって自分のやってることからしか、インプットって入ってこないからなぁ。それをどう解釈するか? から、ちょっとずつ変わっていくことがbeingのあり方に影響してくっていう。肌感覚だと私、そういう感じですね。

中竹:まさにそうですね。

篠田:いや、本当そうだな……(笑)。自分ができてないことを今いろいろ思い出して、自分で笑っちゃいました(笑)。

昔は「知ったかぶり癖」を持っていたという、篠田氏

中竹:(笑)。だけど篠田さんは、私が言うのもなんですけど、本当に素直な学び手ですよね。おこがましいんですけど。

篠田:いえいえ、恐縮です。そう言っていただけてうれしい。今日「中竹さんにそう言ってもらった」って書こう(笑)。素直、そうですか。ありがとうございます。

中竹:(笑)。お会いする前は経歴だけ見ると、今回の『恐れのない組織』の逆で、恐れ多い……(笑)。

恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす

長銀からマッキンゼーで、しかも英語ペラペラで、みたいな感じで。どんだけコトとかを切り裂いていく人かなっていう、ちょっと怖い人かなと思ったんですけど、ぜんぜんそんなことなく。素直な学び手って感じですよね。

篠田:(笑)。ありがとうございます。

中竹:それは意識されてるんですか?

篠田:いや、どうだろう……意識は別にしてないですけど、やっぱり変遷は過去からそれなりにはあって、変わってるところと変わってないところがあって。たぶん変わってないところは、基本、好奇心が強くて。新しいことを知れた時とか「これとこれ、つながってんだ」ってわかった時とかって、ものすごいうれしいんです。

そこにドライブされてるっていうのは、たぶんあんまり若い時から変わってないと思うんですけど。もうね、若い時はそこに変な、まったく意味のないプライドみたいなのが乗っかっていたので。知ったかぶりをやたらする、良くない癖が。

中竹:そういった癖があったんですね。へぇー。

篠田:知ったかぶりって、絶対バレるじゃないですか。で、バレて恥ずかしいなっていうことも何度もあるんだけど(笑)。それはちょっとずつ自分でも反省もしましたし。あとやっぱり、本当に私は運が良くて。これまでいろんないい職場で働いてきたんですよね。

するとやっぱり立派な方って必ずいらっしゃるので。そしたら「この人立派だ。すごい尊敬する。ああいう方みたいになりたい」って思うような上の方って、やっぱり大概が素直でいらっしゃった。

そういうところから少しずつですけど、自分が憧れるのでそれのマネをしようとしているうちに、やっとだんだん知ったかぶりはすることが減ってきたんだと思うんですけど。知ったかぶりって要は、自分が「この人から学びたい」っていう人に「同時に自分が認めてもらいたい」っていう気持ちがたぶんあって。

中竹:自然ですよね。

篠田:それが強く出た時に「知ってる知ってる」って言っちゃうんですよね。言った瞬間「もう、私のバカバカ」っていう(笑)。そんな感じでした。

中竹:いや、けどそれを言えるってすごいですね。コメントにも書いてる方が多いですけど。「知ったかぶりしてました」とか「ついついしちゃってたんです」みたいなことって。

篠田:今だって危ないですよ。「知らない」って言うのにちょっと躊躇するときがある(笑)。でもさすがに「もうこれだけこの問題については考えてきたんだ、今、躊躇してるのはダメ。ちゃんと知らないって言おう」とか、自分にちゃんと言ってから「え、それ何ですか?」とかって言って。だからワンテンポ遅れたりすることがちょいちょいあります、今も。

中竹:いや、素敵ですね。やっぱり多くの人はそこにたどり着けないですね。勇気がいるのでできないんですけど。