Apple CEOからの招聘

若宮正子氏:そうこうしているうちに、Appleから日本語でメールが届きまして。私の話をいろいろお聞きになって、1ヶ月ぐらい経ってから「若宮さん、ご一緒にアメリカに行きましょう」と。別に一緒にアメリカに行かなくたって……と思いました。正直言って、私はアメリカがあまり好きじゃなかったので。

(会場笑)

「他の人との約束があるから行けないけど、どうぞよろしくね」と1回断ったんです。そうしたら、Appleの方がゾロゾロとお見えになって、「どうしても行きましょう。若宮さんにどうしても会いたいっていう人がいるんです」とおっしゃいまして。

「Apple社には親戚も友達もいないし、どなたがお会いになりたいんですか?」「CEOでございます」「CEOって会社で一番えらい人?」って言ったら、「そうです」って。そこまで言われて行かないのも失礼だと思ったのと、日にちは変えてもいいっておっしゃってくださったので行くことにしました。

ティム・クックを“stimulate”した若宮氏

日本の大会社の社長さんだったら、「Nice to meet you」と言って握手すると、スーッといなくなってしまいますよね。だいたいお付きの人も一緒になっていなくなってしまう。そういうものだと思っていたんですけど、CEOのクックさんは違うんですね。

「じゃあ、さっそくiPhoneを見ながら、いろいろお話を聞かせてください」ってどっかり構えちゃって。「どうしてここはこういうふうにしたんですか?」「このテキストは、字が小さくて読みづらいですよね? 年寄りの人は読めないでしょう?」とか、すごく細かいところまでいろいろ言ってくださって。

私はそのとき、つくづく思ったんです。さっきもお話ししたように、確かに年寄りにとってスマホって使いにくいです。だけど、それを電気屋さんの兄ちゃんに言ったってしょうがない。「僕たちは決まったものを売っているだけですから、そんなこと言われても困ります」って(なりますよね)。

じゃあ、箱モノのメーカーさんにお願いしたって、たぶん「うちは言われたとおりの箱を作っているだけですから、そんなこと言われても困ります」って言われると思うんです。でも、いま私の前に立っておられるこの方がCEOでいらっしゃるいうことは、会社で一番えらい方だということですから、箱にも中身にも責任を持っておられる。

そのうえ例えば普通のところだったら、「消費者のニーズなんです」って言ったら、「いずれ担当部署と上司に伝えます」って言われるでしょうが、あの方はきっと会社に上司がいらっしゃらないから、最終的に自分が引き受けるしかないんだと思ってたのです。だから、私の思っていることをみんな聞いていただこうと思って、必死になってしゃべりました。

でも、一生懸命に聞いてくださって、最後に、「あなたは私を“stimulate”してくれた」と(言ってくださった)。テレビのニュースでは(stimulateを)「勇気づけられた」って言っておられましたが、“刺激を受けた”とか、“触発された”といった意味なんですね。私はあんまり英語に詳しくないからよくわからないですけれど。

いずれにせよ、そういうふうにおっしゃって、ハグしてくださいました。

(会場笑)

hinadanの多言語化に挑戦

そんなこんなで、オーストラリアから来た10歳の坊やと、日本から来た82歳(クックさんがいい間違えをされた)のおばあちゃんが紹介されました。それで、(胸のペンダントを持って)そのときに堂々とこれをぶら下げて行ったということなんですね。

Appleの本社でも「せっかく見てくださった方が世界中におられるのだから、多言語化しなさい」って言ってくださったのです。多言語化するには、作り直さなきゃいけないのね。端的に言えば、英語がベースになって、日本語も外国語の1つになっちゃうみたいな。

「作り直すのはAppleの開発者がお手伝いしますから」って言ってくださったので、日本語のできる方に、遠隔授業で教わりました。去年の暮れに英語版をリリースして、今年の3月に中国語版をリリースしました。次のひな祭りの前に、韓国語版をリリースします。

あと、できればスペイン語、ロシア語、アラビア語をやりたいと思うんです。私もいろんな仕事がいっぱいあって、なかなか進んでいません。

プログラミング学習を阻むもの

そういえば、日本では2020年からプログラミングが小学校の必須科目になるってことで、最近プログラミングブームになったんです。ところが、ある60歳近い男性にそのお話をすると、「やめたほうがいいですよ」と。

「僕は昔プログラマーだったんですが、まずは眼精疲労で目がおかしくなって、その次に肩が凝って、最後に高血圧になって、開発部門から違う部門に配置転換してもらったのです。あれは健康に良くないです。うちの娘にそんなことを教えないでください」とおっしゃるんです。

だけど、いまは違います。昔は大企業とか大きな工場なんかの、デーンとした大きさのプログラミングの一部分をやっていたから大変だっただろうと思うんです。ところが、いまはプログラミングも多様化しているんですね。

例えば、従来からあった大規模なもの以外に、アプリ系、しかも、スマホだけじゃなくて、ウォッチとかAIスピーカーとか、いろんなものがそれぞれのアプリを必要としてるわけです。あと、電子工作系で、ロボットとかいろんなものもあったりして、すごく多様化してます。

それからもう1つ、これからIoTの時代になってきますから、プログラミングがもっと身近なものになってくるんですね。とくにこれからは、台所にもそういうIoT、インターネットが入ってきますから、もっともっと身近なものになります。

(スライドを指して)日本中で猪の被害がすごいんですけど、この檻の罠がどうも上手くいかない。ところが、福井県の谷川さんっていうおじいさんは、これを解決するのにプログラミングが役に立つんじゃないかと思われたらしいんですね。それで、「IchigoJam」というアプリを、たった9行(のBasicのプログラムを)書いて改造されたのです。そうしたらその年に猪が92頭も引っ掛かってきたのですって。

要するに、どんなにプログラマーが優秀でも、猪のことがよくわかってない人が作ったんじゃダメなんです。今まではプログラマーがプログラマーとしての道を極めていて、余計なことをしたら「素人はうるさい」なんていう時代だったんですけど、これからはより身近なところにプログラマがいるんじゃないかと思います。

身近な人を助けるためのアプリ開発

それから、アプリの甲子園っていうのがあります。高校生のアプリコンテストで、ここで2015年に優勝したのは17歳の高校生です。おじいちゃんが徘徊するんで、おばあちゃんが困っているんですよね。いつも探しに行かなきゃいけない。そこで彼は、おじいちゃんの靴のかかとにセンサーを付けて、それでおじいちゃんの居場所を調べて対応しているとか。おじいちゃんが途中で靴を脱いじゃったりするんですよね。

(会場笑)

そういうものを作ったんです。ところが、若いお父さん・お母さんにせよ、もうちょっと上のクラスになってくると、40代・50代ぐらいの人はプログラミングっていうのはあんまり良くないことだって思っているんですね。机にかじりついて、パソコンの前に座り込んでいると。

ところが違うんです。この高校生は、パソコンの前にずっといたんじゃないと思うんです。おばあちゃんがおじいちゃんを探してあちこちウロウロしてるときに、一緒になって手伝ったんだと思うんです。だから、靴を脱いじゃうとか、そういうようなことがわかるわけですね。

だから、プログラムをやるっていうことだけではなくて、リアルな生活をしっかり把握している人が作れるんだと思いました。それから、リアルな誰かの役に立つこと。農家の方がみんな猪に困っていて、そういう人の役に立つということです。

(スライドを指して)それからこれは???ハンガーと書いてあるんですけど、お母さんがいつもベランダに洗濯物を干すたびに、はしごで上がって行かなきゃいけなくて。何回も上がっていて、(一度干し終わったものが)まだ濡れて少ししっとりしているとわかったら、また(干しに)行ったりしていたんですね。

だからセンサーを付けて、「洗濯物が乾きました」っていうメッセージが届くようにしたらしいんです。それから「にわか雨が降ってきました」というメッセージも届くので、お母さんがいちいちベランダに見に行かなくてもすむようになった。これもお母さんのためにやっている(ことです)。