ロボットは人の指の動きを真似できない

藤原和博氏(以下、藤原):ちなみに、今、みなさんにやっていただいた「(10年以内で)なくなりにくい仕事」の議論で、だいたい有識者の意見が一致しているのが、2つ3つポイントがあります。まず1つは、こうしたことが言われています。

目の前で指をこうやってワーッと振ってみて。こうした感じでね。この状態から小学校のときにやったかもしれませんが、こういうの作れる? カエルというの。

日本には影絵の文化があるじゃないですか。これぐらいだと優しいよね。これはロボットでもできるのですが、こうした複雑な動きはロボットにはなかなかできないのですよ。

まず、これでカエルというのをやったことない? 幼稚園の先生、やったことない? 小指を立ててブルドッグというのをやったことない? そう。これ、やったことがある人、ちょっと手を挙げてみて。

(会場挙手)

ほら、何人かいるやん。けっこう世代が古いですかね。

だから、インドへ行ったときに投資をしてもいいかなと思っていたのですが、経営者夫妻とご飯を食べたの。小学生の息子がいたのですが、英語なのだけど話がぜんぜん通じないのよ。しょうがないから、ちょっと来いと言って、僕がこれをやってみせたらすっごくウケちゃって、食事が終わるまで僕の横を離れないの。

だから、たぶん今頃インドで流行っているのではないかと思います。ジャパニーズテクノロジー、技術といったように。

これでなにを言いたいかというと、最先端のロボット技術者がこの中にいるかどうか知りませんが、最先端のロボット技術者でも、これが一番できないと言っています。たぶん、10年経っても人間の指先の動きの真似は、ほぼできない。

つまり、これを真似するためには、全部の関節にモーターとセンサーが必要ですが、1つのモーターではこんな複雑な動き、横揺れや、斜めにこう動くなどはできないのですよ。

ですから、腕や足。これは取られちゃいましたね。パワースーツなどがドンドンと開発されていますが、指先についてはおそらく最後までロボットにはできない。そうすると、この延長で、この動きの中で、例えば工芸だったり職人技だったりというものは当然残ると思いますし、わかりますよね。

ビジネス界でも人間らしい魅力がクローズアップされる

その延長で、例えばなでると癒されるといった話は、ロボットがなでても癒やされないでしょう。そこから例えば保育園や看護にもつながっていくと思います。要するに、手当という、手を当てると熱が伝わって安心するといったものは絶対に残ります。そこが、ここに関連するところですよね。

僕は思うのですが、ロボット社会が進めば進むほど、今までビジネスの社会ではあまり力だと言われなかったこと。例えば、本当に微笑みが幸せをくれるような人がいるじゃないですか。存在そのもので癒されるとか、ただものじゃない優しさを持つなど、そうした人がクローズアップされてくると思うよ。

わかるでしょう? ちょっとぐらい仕事ができても、処理仕事ができるなんてロボットにやられちゃうわけだから。それがかっこいいというのはなくなっていく。どちらかというと「ボーっとしているのに彼といると安心できる」みたいなほうが、やけにウケるじゃないですか。

それと、もう1つは、やっぱり思考力、判断力、表現力のほうですよね。こちらをどれぐらい磨くかという、そうした話になってくるのではないかと思います。わかりますよね。

ですから、先ほど言いましたような、弁護士や医者の仕事でも、こちら側の仕事は取られていきますので、こっち側の仕事だけが残ってそこは変質していく。もちろん、このラインですね。そうしたことになるのではないかと思います。

処理力と編集力を7:3の割合に

では、ここまでやってみて処理力や編集力をなんとなくイメージできたと思いますが、(スライドを指して)日本の教育の意識を動かさなければなりません。

もう1度言いますが、小学校については9割は、まだまだ詰め込める。もっと詰め込んだほうがいい。中学は2~3割でいいんじゃない。高校で、できれば2020年代中に理想的には編集力をつけたいですね。大学はもちろん、こっちばかりでいいのですよ。

今、こっちから(詰め込み教育から)やり直していますが、おかしいんですよ。日本の大学がそういうことをやっているからレベルがどんどん落ちちゃって、東大のランキングがついに27位か37位だったのが50位から落ちました。ランク外。すごいことが起こっていましたね。

全体が今まで95パーセント対5パーセントぐらいの感じがあったと思うのですよ。日本の教育は完全に正解主義だったと思いますが、それを7対3ぐらい(情報処理力7、情報編集力3)にする。正解主義はいらない。「こっちにみんなで行きましょう」ではないのですよ。こっちも大事。

これまでしっかりちゃんとやって、情報処理力を全員がすごく高いレベルで磨いているから、あの300キロ出す新幹線が秒単位で出ていくわけなのですし。こんな社会、ほかにありませんよ。わかりますよね。

あるいは、例えば日本人が言うホスピタリティーというのは、本当に目の前の人を楽しませるホスピタリティーではありませんよね。そうではなくて、どんな人が来てもということなのです。

例えば、レストランに4人で入りました。ぜんぜん違うものを注文しても……これは“同時同卓の原則”といい、最初にすかいらーくが始めたものですが、要するに同じタイミングで運んでくるじゃないですか。あんなのは海外にないですよ。絶対に。わかります?

そういった気持ちですから。「早くてちゃんといい子に」というのは呪文のように100万回唱えられてここにいる人たちは育つわけなのですが。それがだいたい申し合わせ事項として、大丈夫だねという感じになっている社会という意味で、安心して暮らせるの。この社会は。

ですから、こっちを諦めちゃいけないの。こっちを諦めちゃって、もう全部こっちへ行っちゃうというと、イタリア人、フランス人のどうでもいいような社会、あるいは下手するとギリシャになっちゃうので。ギリシャ、ポルトガル、スペインになっちゃうので。

情報処理力を7割で維持しながら、やっぱりもうちょっと情報編集力へ行かないとまずいから、こういうことです。現実には。今、僕が言ってることに、すごく納得感がある人だけ拍手くれる?

(拍手)

「白を黒にするとヒットする商品は?」で議論

後は15分ぐらいなのですが。もうちょっとはっきりこの脳の切り替えを覚えていただきたいので、あるお題を出します。同じチームで取り組んでください。いいですか。

2つの問題を出します。1つはこういうものです。世の中で、白が当たり前、白が標準、白が常識というものを数限りなく挙げてください。例えば、牛乳でもいいです。白い歯でもいいです。なんでもいいです。

シャツを着ている人も、白いものを着ていれば、白が基本だと思えば、とにかく1分くらいのうちに20挙げてください。20挙げるつもりでガーッと挙げれば、たぶん10個以上は挙がると思うのです。いいですか。いきますよ。3、2、1、スタート。

(議論)

はい、そこまでにしてください。ちょっと聞いていい? だいたい10個ぐらい、10個前後は挙がったというところ、ちょっと手を挙げてみて。大丈夫。はい、わかりました。

今、みなさんに発揮してもらった脳が、情報処理脳ね。こっち。つまり、知っていることを早く正確に挙げるのですよね。知らないことは挙げなかったはずなのですよ。ここからなのですよ。

みなさんの脳を情報編集脳に持っていくためには、その知識を組み合わせて、もっと違う、まったく新しいものを生み出しましょう。知らないものを生み出すということね。これをやってほしいわけです。

なにをやるかというと、その白が当たり前、常識のものの中で、黒にするとけっこうおしゃれだねと。これいいじゃないかと。ヒットしちゃうんじゃないかといったものをいくつか挙げてもらいます。挙がるはずですよ。

一番面白くないのは、ホワイトボードを黒板のように黒にする。ぜんぜん面白くない、もうちょっとなにかあると思うのですよ。それを挙げてもらいます。いいですか? この短時間でガッと挙げてもらいます。

次が非常に大事なのですが、ほかのチームもあるわけじゃん。競合他社があるわけなんだよ。だから、だいたい考え付きそうなものがあるじゃない。白髪染めを黒にするような、そういうものも含めて、そんなのは考え付きそう。

だから、そうではなくて、そのチームでなにかこれはわりとユニークだな、ほかのチームは考えていないんじゃないかといった、ちょっと自慢できちゃうかなという感じのものをぜひ班のアイデアとして紡いでくれるとうれしいですね。わかりましたよね。新商品開発というのはこのようにやるのですよ。

すごく短い時間ですが、これをやっている間に、ときどき本当にすごく価値のあるアイデアを思い付くことがあるのですよ。その場合は、黙っていたほうがいいです。いや、本当に、明日にでも特許庁に行ったほうがいい。ですから2番目以降のアイデアをブレストしてください。いきますよ。3、2、1、スタート。

(議論)

手を挙げて情報編集脳を発揮してほしい、けれど?

そこまでにしてください。ちょっと注目して。ここで、すごい実験をしますからね。これ、みなさんが一生忘れられない実験をしますから。

白い商品を黒にするのね。もうわかりましたよね。こっち側の脳を移すのね。情報編集脳を発揮してもらいまして、それぞれにみなさんは人が言ったオリジナル案かもしれないけど、考えを持っていますよね。もうすでに。

「白い商品が当たり前のものを黒にして面白くなるものをなんでもいいから挙げなさい」と言ったら、例えば今、ペーパーを配ったら書けると思うのですよ。なんでもいいけど。最高のアイデアかどうかはわかりませんが、なにか考えを持っているじゃないですか。あるいはアイデアのかけらを持っているのですよね。いい? 

この段階で、みなさんがもし教師であれば、ずっと繰り返して、何千回と児童生徒に問いかけている問いかけ方で僕が今やってみせますから。問いかけたときに、どういう反応を示すかという偉大な実験をやってみたいと思います。

いいですか。みなさんには考えがあるはずなんですよ。考えがあるでしょう。いきますよ。こういう発音ね。みなさんがよくやっていると思う。

白い商品が常識だってわかったよねと。そのうち、なにかこれを黒にしたら面白いんじゃないかといういうアイデアはみんな持っているじゃないと。では、いきますよ。

「はい、わかる人」「意見がある人」。

(会場を指して)見て、このシーンとした感じ。これを忘れないでほしいのですよ。まずは、ほとんどの教室でこれは起こりますよね。今、この瞬間に授業をやってる学校があるとしたら、もう絶対にこういうことが起こっているわけです。みなさんの教室でも起こることになります。