ビジネスパーソンとして成長するための選択肢

佐賀駿一郎氏(以下、佐賀):スタートアップへの転職の際、「何から手をつければいいんだろうか?」「気をつけるべきポイントってどこにあるの?」など、想像のつかない方が多いのではないでしょうか。

そんなみなさんに、今日は5つの問いをお渡ししたいと思います。実際に転職を始める際は、ぜひ企業にこの5つの問いをぶつけてみてください。そして、ご自身に合う企業かどうかをチェックいただければと思います。

まず1つ目はこちらです。市場価値を上げるための、スタートアップに挑戦する際に重要な問いとして、「成長産業・成長企業でキャリアを積む」という原理原則をぶらさないようにしましょう。

スタートアップを選ぶ方の大きな動機として、「(自分の)市場価値を上げたい」とか、ビジネスパーソンとして「成長をしたい」といったニーズがあるかと思います。私もそうでした。ですが、「成長をするためには何を押さえなくてはいけないのか」をあえて1つ選べと言われると、これだと思います。「成長産業・成長企業でキャリアを積む」ということです。

弊社ワンキャリアの取締役の北野のベストセラーである『このまま今の会社にいていいのか? と一度でも思ったら読む 転職の思考法』でも触れられている話ですが、やっぱり伸びる産業・伸びる企業でキャリアを積むことは、キャリアを作っていく上で有利です。

上りのエスカレーターに乗るか、下りのエスカレーターに乗るか

大きく2つ観点があります。まず、伸びているマーケット、伸びている企業では、事業が成長することが当たり前になります。

ここにエスカレーターの図を貼っていますが、下っている・縮小している産業や企業でなんとか売上を守る戦いを強いられるのか、それとも、マーケット全体が伸び、成長している企業の中で事業を作っていくのか。

(出典:ONE CAREER PLUS「【図解】20代成長キャリア:スタートアップで目指す『デジタル時代の事業家人材』」)

上りのエスカレーターに乗ったほうが事業成長がしやすいのは、みなさんもなんとなく想像ができるのではないでしょうか。実際にそうです。お話を聞いていると、縮小する産業では売上を守るという、いわば撤退戦のようなこともしなくてはいけません。大きな挑戦ができず、今までやっていたことをプラスアルファでやるような、挑戦がしづらい環境になります。なので、伸びているところに身を置きましょうというのが1つ目です。

そして、伸びている産業・企業では、事業が成長していくと、勝手に組織が大きくなります。組織が大きくなると「イス」が増え、挑戦の機会を得やすいという側面もあります。

マネジメントレイヤーや、新規事業のポジションをつかむということを考えた時、イスが増えるイス取りゲームに参加したほうが、ポジションを獲得しやすいということです。なので、この成長する産業・成長する企業に身を置くという原理原則をぶらさないようにしましょう。

成長産業・成長企業に身を置くメリット

成長産業・成長企業に身を置くと、市場価値が上がっていきます。例えば、さっき組織が大きくなっていくと言いましたが、キャリアが縦にも横にも広がっていきます。

(出典:ONE CAREER PLUS 同上)

現職だとマネジメントレイヤーに上るまで10年かかるところが、成長している企業だとどんどんミドルマネジメント層が不足をしていくので、早期に管理職に上がらなくてはいけない。

むしろ会社から求められ、1〜3年という短いスパンで縦に職域を伸ばしていくことができます。

さらに、新規事業や伸びている事業では、新しい職種がどんどん誕生します。みなさんの会社でセールスと呼ばれている職種が、例えば、今のトレンドのSaaS企業などでは、『The Model』でいうインサイドセールスやフィールドセールス、カスタマーサクセスといった新しい職種が誕生しています。

こういったところでは、既存事業で結果を残した人がその新しい職種にアサインされますので、例えば、最初は経験を活かして営業で入ったとしても、その会社の中で横に職種を広げていくことも可能です。こういった市場価値の上げ方ができることが、成長産業・成長企業に身を置くメリットの1つです。

スタートアップでは年収アップが難しいと思われるかもしれませんが、求められる人材になっていくことで、年収も上げていくことができる。これが成長産業でキャリアを歩むことの価値です。

なので、みなさんが受けようと思っている、「その産業・企業は成長していますか?」というのが、スタートアップに転職をする際の1つ目のティップスになります。

企業が書類で「応募者の適性」を見る際の2つのポイント

2つ目の原理原則はこちらです。「チャンスをつかみ取りやすい環境でキャリアを積む」ことができるのかどうか。このチャンスをつかみ取りやすいというのも、2つの考え方があると思っています。

1つは、「活躍しやすい職種・事業ドメインを選ぶ」ということ。そして、もう1つは「複数事業へ展開している企業である」ということです。

(出典:ONE CAREER PLUS 同上)

(スライドの)左側はチャンスへの挑戦権が得やすいという観点です。右側はそもそものチャンス自体が増えていきやすいという観点です。

1つ目の職種と事業ドメインの知見については、私もキャリア面談の中でよく相談を受けます。「活躍しやすい場所って何ですか?」とか、「企業は応募者が活躍できるかどうか、即戦力かどうかをどこで見ているんですか?」という質問をいただきます。

もちろん、キャラクターだったり志向性だったり、バリューフィットだったりいろいろあると思うんですけれども。書類上で判断がしやすいご経験にフォーカスをしてみると、私は大きく2つあると思っています。それがここに書いた、「職種経験とドメイン知見」です。

(出典:ONE CAREER PLUS 同上)

職種経験はわかりやすいと思います。営業を経験した人がもう一度営業に挑戦するということです。すでに営業の経験があるので、それが活かしやすいというイメージができると思います。

ですが、もう1つの「ドメイン知見」も転職の際に活かしやすい武器となります。例えば、私は前職HRテック企業でキャリアを歩んでいました。なので、同じHRテックのスタートアップであるワンキャリアに転職しても、「前職ではこうだったよ」とか、「そもそもHRマーケットってこうですよね」といった知見を活かせます。こういった業界の知識が1つ。

それ以外にも顧客対象が一緒だったり、ビジネスの相手のことを知っていること。こういうこともドメイン知見として活かせます。例えば、私は前職で人事をやっていましたが、ワンキャリアに入社した際の最初の職種は、その人事向けにイベントを作る仕事でした。

就活生と人事の方々をマッチングする就活イベントを作る仕事では、人事として学生と話をしていたので、ユーザー側の知見を持っている。そして、人事がどうやってイベントに出展するかという意思決定フローを知っているなど、クライアント側のドメイン知識もある。そういったところを活かして、職種チェンジをすることができました。

事業展開の多い企業もチャンスを得やすい

みなさんの中にも、例えば営業の方ですと、どういう業界・マーケットを攻めているのかや、カウンターパートとしてやりとりする相手はどんな方なのか。そういった知見は活かせるかと思いますので、ぜひ参考にしていただければと思います。

スライドのように、メーカーにいた方が製造業向けのテック企業に転職したり、人事・人材系にいた方がHRテック系の企業に転職をするといったケースがそれに当てはまります。

もう1つ、チャンスをつかみやすい、チャンスが増えやすい環境として、「複数事業への展開をしているか」というものがあります。

(出典:ONE CAREER PLUS 同上)

これには、細かく説明をするといろんなパターンがあるのですが、あえて括ると、大きく2つのケースが存在します。「成功事例を別領域へ展開するケース」と「事業自体をどんどん展開するケース」の2つです。

後者だと、例えば、HRの中で「新卒」「中途」と対象をどんどん増やしたり、転職の中で「エンジニア転職」「デザイナー転職」のように増やすというケースですね。このように事業を増やした実績があったり、意思がある企業は「挑戦機会」もどんどん増え、チャンスをつかみやすいという判断ができると思います。

なので、みなさんに持っていただきたい2つ目と3つ目の問いは、自分自身の「経験や知見を活かした活躍ができるか?」という点と、「多事業展開の実績や意欲がある企業か?」になります。

「自身に適したフェーズ」の企業を選ぶ重要性

次はこちらです。「自身に適したフェーズの企業でキャリアを積む」ことができるか。これは「自身に適した」というところがポイントです。ひとくちにフェーズと言っても向き不向きがありますし、得られる経験や、どういう人物が活躍しやすいのかといったものも違います。

簡単に整理すると(スライドの)こんな感じです。

(出典:ONE CAREER PLUS 同上)

もちろん一概には言えないですし、企業個別に見ていく必要がありますが、ざっくり言うと、左にいけばいくほど若い企業になり、経営陣との距離が近い小さい組織になります。

一方で、右側にいくほど企業・組織のサイズは大きくなります。安定感は増していく一方で、業務がどんどんと細分化されるので、業務や職域の広さを求めるキャリアが難しくなるかもしれません。

このように、みなさんが求めるものに合わせてフェーズを選択することが重要です。例えば、スピード感のある環境に行きたいけど、現職が日系大手企業で、わりとレガシーな産業なので、いきなり小さな会社に行くのは、たぶん会社的にも採用しづらいし、自分的にも怖いと。

そういう方が、このアーリーフェーズを選ぼうとするとリスクがありますよね。なので、上場企業などの未経験の方でも活躍した実績のある、レイターフェーズの企業を選ぶほうがいいかもしれません。一方で、裁量権を持って経営者の直下で新規事業の立ち上げをやりたいという方にとっては、上場企業はサイズが大きすぎるかもしれません。

このように、求める内容によって適切なフェーズやサイズがあると思いますので、この見極めもぜひやっていただきたいです。4つ目は「自身に適したフェーズの企業か?」という点でした。

企業に欲しがられる“事業化人材”を目指すポイント

自身の市場価値を上げるための重要な観点の最後は、「事業家人材を目指せる企業か」という点です。最近は企業の方から、「事業を作れる人材が欲しい」という相談をよくいただきますし、事業家人材は数が少ないので、単純に市場価値を上げることができます。

では、どうやったら事業家人材を目指せるのか。先ほどから映してきているスライド内の図は、急成長中のスタートアップであるFLUXさんとの対談中で紹介している、「事業家人材へのキャリアパス」の代表例になります。

(出典:ONE CAREER PLUS 同上)

事業を作った経験がなくても、ドメイン知識を活かせる企業に挑戦することで事業を作る経験を積んだり、あるいは、複数事業を展開する企業に入ることで事業を作る体験をする。こういったチャンスをつかみ取りましょうというご提案になっています。

デジタル時代ならではの重要な観点もあります。

(出典:ONE CAREER PLUS 同上)

先ほどまでの5つの問いの中にも含めていますが、「データによる参入障壁を築くような事業構想はあるか?」という観点です。競合他社との差別化要因があるかという点も見ていただければと思います。

このデジタル時代の事業開発に必要な2つのスキルは(スライドの)こちらです。「仮説検証のスキル」と「プロダクト設計のスキル」になります。

(出典:ONE CAREER PLUS 同上)

事業家人材が犯しがちなミスとして、マーケットにはまらないプロダクトを作ってしまうという課題があります。

自身で「この事業がいいのではないか」と考えて動いても、市場にニーズがなかったり、特定の顧客には刺さるけど、それ以上のマーケットがなくグロースしないという課題もあります。

こういったところの検証をちゃんと積めるような環境で事業を作っていくと、事業家人材を目指せると思いますので、こんな観点も持っていただければと思います。

スタートアップへの転職を考える際は、ぜひこの5つの問いを持っていただき、選ぼうとしている環境が市場価値を上げやすい環境かを確認するご参考にしていただければと思います。

(出典:ONE CAREER PLUS 同上)

今チャット欄で「自分は伸びにくい産業に勤めていますが、面接で伸びる産業でキャリアを積みたいということを伝えた場合、どのような印象を持たれますか?」というご質問をいただいていますが、ぜんぜん悪く映りません。

今ご自身がいる産業の成長に限界を感じ、その流れに身を任せることに危機意識を持って飛び出そうとしている。これはすごくポジティブに映るかと思いますので、転職の中で語っていただいてぜんぜん問題ありません。

ぜひみなさんもこういった観点を持って、今後のご転職に活かしていただければと思います。ありがとうございました。