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「働きがい改革」のリアル~専門家と実践者が語る働きがい向上への道~(全5記事)

自己承認にダイレクトに効く「活動の棚卸し」による成長実感 これまでの経験を言語化し、他者に説明することの大切さ

働き方や働く人の価値観が大きく変動する現代において、組織には「働きやすさ」だけでなく「働きがい」をいかに高めるか? が求められています。しかし「働きがい向上」に関する課題は企業ごとに千差万別で、「自社にあった『働きがい向上』をどう実現していくか?」について試行錯誤を繰り返している企業も少なくありません。そこで、働きがいの専門家であるGreat Place to Work® Institute Japan 代表 荒川陽子氏と、組織づくりの実践者であるサントリーパブリシティサービス 清水雅理氏が登壇されたウェビナーの模様を公開します。

組織ミッションや文化に共感した“すべての人”への信頼

斉藤知明氏(以下、斉藤):では、このままQ&Aに移らせていただきます。

斉藤:最初の質問ですが「『すべての人』と『信頼』は、馴染みにくいように感じます。組織なので『組織のミッションや文化に共感した“すべての人”』という理解でいいでしょうか? それとも、組織に共感しておらず、斜に構えている人も含めた『すべての人』を信頼するということなのでしょうか?」。

これは荒川さんへのご質問になると思いますが「すべての人と信頼」って、確かになかなかに難しい問題だと思います。あと「ミッションに共感している状態」というのも、なかなか難しいなと思うんですが、やっぱり「すべての人」を目指していくべきなんでしょうか?

荒川陽子氏(以下、荒川):そうです。ただ、いきなりはやっぱり難しいので、まずは「組織ミッションや文化に共感した“すべての人”」で、正解です。まずはそこをしっかりとやることで、その結果として共感できない方には、厳しい言い方ですけど「去っていただく」という選択肢も持ちながら、共感いただけるように努力をする。そういうことが非常に大事だと思いますね。

日本企業って「ミッションには共感してないけど、お給料がもらえるからこの会社にいる」みたいな人の比率が、諸外国・先進国に比べるとちょっと高いんです。離職率も低いですし。そこはもうちょっと、流動性が高くてもいいんじゃないかなとは思いますね。

斉藤:ありがとうございます。本当にちょっと流動性低いですよね。全体的に。

荒川:そうです。もっと高くていいと思いますね。

斉藤:「離職率が低けりゃいい」というものでもないですが、なかなかそれを言うと、調達側のみなさんも大変だなぁと思われることが……。

荒川:そうなんですけどね(笑)。

「合ってるか合ってないか?」の相互確認=「聴くこと」

斉藤:ありがとうございます。続いての質問は「相手の言いたいことと、感じてることを正しく受け止めて聞くには、具体的にどうしたらいいのでしょうか?」。これは清水さんに伺いたいのですが、やっぱり「聞くのは難しいな」という声が、たくさんQ&Aの中でも上がっています。

この質問は、けっこうみなさん共通で持っていらっしゃる悩みだと思うのですが、清水さんの中で「人のことをすごく聞けた」もしくは「自分のことを(誰かが)聞いてくれたな」って思われた、うまくいった体験とかってありますか?

清水雅理氏(以下、清水):例えば今、斉藤さんがおっしゃったことを「こういうことですよね?」って一発で上手くで聞こうと思うと、聞き取れないんですよね(笑)。

「今、斉藤さんがおっしゃったことって、私は『こういうことだ』と受け止めたんですがあってますか?」と、繰り返して確認をするとよいかと。「いや、違います」と言われれば、「あ、違ったんだ。じゃあ、こうですか?」と確認をすると「だいぶ近づいてきました」とお互いに正解を探り合えますよね。

一発で聞き入れるんじゃなくって「合ってるか合ってないか?」「こういうことが言いたいのか言いたくないのか?」ということの相互確認をする、そのプロセスが「聴く」ということなんじゃないかなと、私自身は思っています。繰り返しすぎると、すごくしつこくって相手にされなくなりますけど(笑)。

斉藤:(笑)。

清水:それだけ相手のことを「正しく受け止めよう・正しく理解したい」という気持ちで聞く・聞き合うことが……面倒くさいと思われるかもしれないですが、すごく重要なんじゃないかなと思います。

斉藤:確かに。せっかく話したのが「あ、そうなんですね」「なるほど」だけで終わってしまうと「本当に伝わってるのかな?」って不安になりますよね。

荒川:ですよね、すごくわかります。でも一方で、ちょっと「なるほど」ってわかった気になってる自分がいることに、今すごい反省しましたよね(笑)。

「自然にお互いが聞き合える状態」を作るための取り組み

斉藤:(笑)。そうですよね。もう1つ別の問いでも上がってきてるんですけど、雑談とか聞く機会があったとして「あなたのことを聞かせてください」って、たぶんお互いグイッと身構えると思うんですよ。そういう“場”になっちゃうと。

でもふだんの対話の中だったり、今考えてることから深掘っていったり、そういうやり方もあるのかなぁと思ってるんです。そういう「聞く機会」とか、(オンラインスクール)「ミンナハレ」の中でもあったと思うんですけれども。個人の内発的なものとシンクしていくような機会って、どんなふうに持たれてらっしゃいますか?

清水:すごい難しい質問ですね。今の質問について、聞いてもいいですか? もう一度確認させてください。

斉藤:まず「聞く」ことって、自分の内面・個人の内面を知る機会だと思っているし、それを解釈をするための時間だと思っています。でも「聞く場」として、いきなり「僕に清水さんのことを聞かせてください!」といっても、ちょっと身構えると思うんですよ。

それをまず「自然にお互いが聞き合える状態」を作るためにやってらっしゃる取り組みがあれば、お伺いしたいなと思います。

清水:よくわかりました。例えば斉藤さんが今おっしゃったように「清水さんのことを聞かせて」とか、いきなり相手の心の中を探っていこうと思うと、確かに身構えますし、正しく聞き入れられる自信はちょっとなくなってくるんですけど。

それぞれの「一緒に話せるテーマ」というんですかね。それぞれの中というよりも、それぞれが関係するテーマに対して「どう思うか?」という話をしていくというのは、1つのやり方かなと思っています。よく「対話型アート鑑賞」みたいなことが最近は流行っていますが。

例えば斉藤さんと私とが同じものを見て「どう思う? どう見える?」ということのように、あえて「『自分個人について』ではない共通のテーマ」で話をしていくというのは、相手について安心して知っていくためのきっかけ作りなのかなと感じます。

「なんで斉藤さんにはそうやって見えるの?」っていうのは、あとあと深掘っていけると思うんですけど。いきなり単刀直入にこじ開けられるよりも、そういうやり方もありかなと思います。

斉藤:「問いを間に置く」とかいいますよね。それと似たようなお話かもしれないんですけれども。例えば、いきなり清水さんの過去の行動を掘り返して「なんでこの時こんなことしたの?」と言われるとちょっと身構えますよね。「評価されるのかなぁ?」とか(笑)。

清水:身構えますね。

斉藤:ではなくて。例えば僕らが一緒の部署で仕事をしているとしたら、今、目の前の事業の状況とかお客さんの例をとって「こういうことがあったけど、清水さんはどう考えてる?」とか「俺はこう考えてるんだけど」みたいなことを問いにして、その価値観や背景を知っていく、という作業なんでしょうね。なるほどなぁ。

尊重であり、連帯感を高める施策でもある“絆ミーティング”

斉藤:Great Place to Work®が調査されている中で、(コロナで経営者への信頼が上がったのは)「経営層が従業員を尊重してくれていると思うから」というスライドがあったじゃないですか。こういう機会をうまく作ってらっしゃる会社さんって、どういう取り組みをされてらっしゃいますか? 

荒川:例えば最近で素敵だなと思ったのは、中規模部門の第1位にコンカーという会社がいらっしゃって。

斉藤:(代表取締役社長の)三村(真宗)さん。

荒川:4年連続1位のコンカーの三村さん。この界隈ではかなり有名人なんですけど。三村さんとこの前話をしていて「コロナ禍でやり始めたことに『絆ミーティング』というのがあるんですよ」って教えてくれて。「それ、なんですか?」と聞いたら「毎週木曜日の朝に30分、オンラインで朝礼やってるんです。出入りが自由で誰が入ってもいいし、途中で出てもいい。まったく出欠とかはとらない」と。

こだわったのは、「社長が毎週話す」こと。最初はコロナに関連する世界情勢というような話をしていたそうですが、途中から、社員の人をゲストに呼んで最近がんばっている仕事を掘り下げたり、その人との対話みたいなことをされたそうです。

「今は月に2回に頻度を減らした」っておっしゃってましたが、そういったことをやることで「三村さんが今なにを大事にしているのか?」や、三村さんと対話することで、その従業員の人が「今はこんなことをがんばっている」といったことが全体にわかる、という効果があります。

それを“絆ミーティング”と名付けて、みんなの絆を高めるためにやる。このことってけっこう私は「尊重」だと思っています。尊重であり「連帯感を高める施策」だなと。これ、素敵だなと思うんですよね。

必ずしも「1対1の場だけで尊重を作りにいく」ということではなく、そういった「1対他の場」だったりとか「三村さんと誰かがしゃべっているのをみんなに見てもらうこと」への影響力みたいなもの。そういうのは、すごく尊重につながるんだろうなと思いましたね。

高い位置で従業員のことを尊重する場作り

斉藤:なるほど。ちょっと僕らの話にもなっちゃうんですけど。Uniposの社内で毎週、ハンズオンの全社会議が150人ぐらいであるんですけれども、そこに「旗揚げ」というコーナーがあるんですよ。立候補制で「自分が今考えてること」とか「この会社をどうしていきたいか」を話す。これを“旗を立てる”という意味で、旗揚げっていうんですが。

「僕はこういう旗を立ててやっていくんだ」というのを宣言していく。例えば心理学についてすごく詳しいエンジニアの社員が「そもそもUniposは心理学的に見たらこうで、こういう価値があると思っているから、僕はこう広げていくのがいいと思う」みたいなことを、エンジニアの観点において話してくれるコーナーがあって。それについてみんなが盛り上がってコメントしてる時って、すごく「やってよかったなぁ」と思うんです。

特にさっきの「絆ミーティング」でも、たぶんパっと当てて「話して!」ってお願いすると、ドキッとする人が出てくると思うんです。「三村さんと話したい人~」みたいなかたちで、手を挙げた人と話して「みんなの場でその人のことを教える」ってなると、高い位置で従業員のことを尊重している場作りというのもできていくのかなぁと感じました。

でも「晒されて怖そう」って思う人も、たぶんいると思います。実際、チャットでも「私はちょっと苦痛だなって感じる」というコメントもありました。これはもちろんそうだと思うし、そういう方もいらっしゃるということが1つ。それも多様性だと思います。

もっと「1対1が好きだ」という人もいれば「僕のことをみんなに知ってほしい!」という僕みたいなタイプ(笑)。「全部を知ってほしい!」という人も居て、というのが組み合わさった状態で「どう思われたい、どう理解されたいのか?」ということをお互い聞く、というやり方もあるんだろうなと思いました。

「やりがい」と「エンゲージメント」は違う?

斉藤:では続いての質問です。「荒川さんに質問です。御社では『働きがい』という表現をされていて『エンゲージメント』という言葉は出てきませんでした。これらは同義語ととらえて良いですか? それとも、何かしらの区別をされていますか? 教えていただきたいです」。というものです。

荒川:区別してないです。「ワークエンゲージメント」について、今の日本では「エンゲージメント」という言葉で語られていますので、その意味合いであれば「働きがい」とほぼほぼ同義で間違いないと思っています。

斉藤:逆に「ワークエンゲージメント」以外のエンゲージメントって、どういう意味なんですか? 

荒川:もともとはエンゲージメントリングとかの「婚約」とか「結婚」とか「人と人とのつながり」みたいな話がエンゲージメントなんですが、今の日本で「エンゲージメント」というと、「仕事とか会社に対して没頭できるか。熱意を持ってやれるか」みたいな「やりがい」に近い概念で話されることがありますそういう意味での「ワークエンゲージメント」であれば、もう(「働きがい」と)一緒ですね。

斉藤:そうですね。確かに「働きがい」の中の「働きやすさ」と「やりがい」の中で言うと、エンゲージメントは「やりがい寄り」な言葉な感じがしますね。

荒川:そうですね。

斉藤:あと「働きやすさ」は従業員満足度とか、それこそ「ネガティブなことがないか」とか「大変なことがないか」という要素が強いけど、エンゲージメントは「やりがい」のほうに寄っている要素。

荒川:寄ってるかなと思いますね。もちろん「やりがい」を担保するためには、人事制度だったりお給料の水準とかも大事だったりはするので。衛生要因を必ず確認はしているとは思うんですけれどね。いろんな調査などで。

斉藤:ワークエンゲージメントという捉え方で言うと、まぁ比較的近しい概念になるんじゃないかというところ。

荒川:そうですね。

「今までの自分の活動を棚卸しする」という時間

斉藤:ありがとうございます。では次の質問ですが。いわゆる「個の尊重」というのが今回のテーマの1つだったかなと思います。もちろん「今までの要素がいらなくなったよ」という話ではなくて。

旧モデル・新モデルとあった時に「旧モデルのものが内包されて、新モデルに進化している」という考え方だと思うので、特にその“差分”にフォーカスして、僕のほうでファシリテートしています。

「個の尊重」の中でもまだ扱いきれてないと思うテーマとしては、それこそ「ミンナハレ」で書いてらっしゃったような「自分らしさを解放できる、自分と向き合える職場」。これも尊重の一要素だなと思っています。

清水さんの中で「自分を尊重していること」って、どうやったら“場”として作っていくことができるんだろう、というのをお伺いしたいです。「傾聴があったり他者から尊重された結果として、自分のことも勝手に尊重できるんですよ」というわけではないと思うんです。ですので、SPSさんの中で「自分たちを尊重する場作り」ってどう実施されてきましたか?

清水:ありがとうございます。まさに「ミンナハレ」でも行っていますが、「今までの自分の活動を棚卸しする」という時間があります。

例えば「企業に入社してからこれまでを棚卸しします」と。「これまでどういう時にどんなことが起きて、どういう気持ちになったのか?。さらにそういう経験を通じて、どんなことが自分の糧なったか? 身についたか?」ということを、あえて言語化して書いていただくことをします。

書く・言語化するという作業・行動を通じて、それを他者に説明をします。そしてそこから身についたことや学んだこと、気付いたことってなんだろう? ということを客観的に振り返るんです。

他者からいろいろな感想をもらうことによって「自分の今までの経験は価値のあるものだ」と感じることができて、これがとても重要だと思っています。「私、なにもやってきてません」と言う人ってすごく多いですし、私もそういう時があったなと思いますが、「なにもやっていない」ってことは、絶対にないんですよね。

「自分にとって、あの時の数々の経験が今の自分を作ったんだ」という成長実感が、自己を承認することにダイレクトに効いてくるんじゃないかなと思っています。先ほど(ウェビナー冒頭の)コメントでも「仕事、成長実感できた時」といただいてたんですけど、まさにそうだなと感じます。

斉藤:そこってやっぱり、他者との尊重関係が「ナナメ」じゃないと難しいですかね? 上司とか既存の同僚とかと、いきなりこういう深い話をするのはちょっと抵抗感強い方のほうが多いのかなと思っているんですが。実際はどういう関係性で、こういうのって実施されますか? 

清水:「ヨコ」もしくは「ナナメ」ですね。オブザーブをされる場合には絶対に「タテの関係」の人は入らないように、シャットアウトします。

斉藤:やっぱりそういう意味で、ちゃんと本当の気持ちを引き出すために、そこはあえてシャットアウトして実施されて、というかたちなんですね。

「働きがい」が、会社の成長のために必要になってきた・浸潤してきた

斉藤:もうそろそろお時間となります。僕らUniposとしては「働きがい」とか、その中にある「働きやすさ」と「やりがい」という要素を作っていくことは「新しく出てきた概念だなぁ。自分たちも取り組まないとなぁ」と思っていたのですが、この5年で「さらにモデルが刷新されました」という“わたわた感”って、きっとみなさん感じてらっしゃると思います(笑)。

人が息づく組織においては「イノベーションが生まれている組織から学んでモデルが刷新されて、それに対して解釈を進めていく」というのを、継続的にやっていかないといけないんだなと思います。ただ、言われている本質ってあんまり変わらなくて。「一人ひとり個々人の能力が最大化される状況をいかに作っていくことができるのか?」ということが、ずっと「働きがい」として言われていたポイントで。

それが主に、自分の組織の中とか関係性というところにあったのが、(スライドを指して)この旧モデル。一方の新モデルでは個人の生活だったり、企業として目指していくパーパスだったり。それが「事業成長・法人としての成長にもつながっていくいうところまで拡張されたなぁ」という受け取り方をしています。

それが成果に伴って、なんとなくふわっとしている「働きがい」というものが「本当に会社の成長のために必要になってきた・浸潤してきた」というのが、この昨今なんだろうなぁ受け取っておりました。

その中の1つの切り口として、今日は特に「相互尊重・個人尊重」というテーマについて扱わせていただきましたが、他のテーマについてもぜひいろいろディスカッションしていきたいなと思います。

では最後に、清水さん、荒川さん。お一言ずついただけますでしょうか? 

荒川:はい。今日はありがとうございました。清水さんご自身のお話と自社のお取り組みを聞きながら、そこを斉藤さんに深めていただいたので、すごく楽しくお話をさせていただきました。

「働きがい」ってすごく大事なんですけれども、結局は1社1社に落とし込んだ「その会社らしい働きがい」というのを作っていかないとだめなんですよね。そこをまさに実践・体現されていてすばらしいなと思いましたし、斉藤さんが噛み砕いて新モデルを解釈してくださったのは、最高にうれしかったです。どうもありがとうございました。

清水:貴重な機会をいただきまして、ありがとうございました。本当に「働きがい」ってすごく壮大なテーマですね。会社の中での従業員の「働きがい」をこれからも追求していきたいと思いますし、私自身の「働きがい」も日々いろんなことを通じて変わっていってもいいのかなとも思います

一人ひとりが自分自身の「働きがい」について追求しながら生活を楽しんでいく、仕事を楽しんでいくということを実現していきたいなと思っております。ありがとうございました。

斉藤:では本日のウェビナー、こちらで締めさせていただければと思います。あらためて荒川さん、清水さん、ありがとうございました。

荒川:ありがとうございました。

清水:ありがとうございました。

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