人事管理プラットフォーム「jinjer」の企画・開発

−−お二人のこれまでの経歴と、ネオキャリアにジョインした理由を教えてください。

松葉治朗氏(以下、松葉):新卒で入ったのが人材系のベンチャー企業で、営業と管理部を経験しました。一通りのことをやったので転職先を探していたんですが、そこで紹介されたのがネオキャリアでした。

創業メンバーである専務の加藤(賢)の話がすごく興味深かったことと、jinjerの「1Master 1DB」という世界観(注:「一つのプラットフォームに人事業務の全てを集約する」というコンセプト)に共感して入社を決めました。2015年当時、HR Techがアメリカで盛り上がっていて、日本の市場でも伸びる可能性があるのがすごくいいなと思いました。

高村亙氏(以下、高村):私は当初、Webとは全く関係ない別業界にいて、庭師をやっていました。そこから23歳くらいでWeb業界に入ってテスターから始めました。社内でステップアップしていくよりは、転職を繰り返しながらステップアップをしていったんですよね。

テスターの次はプログラマーをやって、その次にプロジェクトリーダー、またその次にプロジェクトマネージャーをやっていったんですね。ここでもう少し大きい自社プロダクトをやりたいという想いから、ネオキャリアに入った感じですね。

−−お二人の現在のポジションと業務内容は?

松葉:商品企画・事業企画・業務提携など、営業以外のすべての業務をやっています。ブランディングというかたちで、「jinjer HR Tech 総研」の所長も兼任していて、さまざまななセミナーで登壇させてもらったりしています。

また、カスタマーサクセスの領域も見ていますね。受注したお客さまの運用支援については、すべてチェックしています。

高村:私は開発側の統括マネージャーです。jinjerの勤怠・人事・経費・労務などの各プロジェクトにマネージャーがついているので、そのマネージャーを統括しています。加えて、ヒューマンマネジメントの部分を共に進めていっています。

勤怠・人事・経費管理を一元管理できるクラウドプラットフォームへ

−−jinjerはどういった理由で立ち上げられたのでしょうか。

松葉:アメリカではHR Techが進んでいて、Zenefits(ゼネフィッツ)というユニコーン企業があります。人事・勤怠・給与をSaaSで提供していて、すでにオールインワンのプラットフォームになっていて、無料で提供しています。

ただ、アメリカはオバマケア(注:医療保険制度改革の通称)の決まり上、保険には必ず入らなきゃいけないんです。なので、ゼネフィッツは保険の代理店販売でマネタイズしているビジネスモデルなんですよね。それが前提としてあります。

日本では、勤怠管理はA社、人事管理はB社、経費はC社みたいにバラバラのシステムで管理している会社が多い状態です。それをjinjerが「1Master 1DB」を掲げて、日本で初めてクラウドで統一されたオールインワンプラットフォームを作ろうとしています。こうやって日本の人事を変えていくのがミッションでもあります。

ネオキャリアという会社自体、「昔ながらの営業会社」といったイメージがあると思います。営業力を前面に出す、地上戦に強いスタイルです。最近はマーケティングや開発も含め、お客様のカスタマーサクセスも強いのが特徴だと思っています。

SaaSは売って終わりではなく、そのあとのフォロー機能としてのカスタマーサクセスが大事だと言われているので、そこの人員がしっかりといるところは、ネオキャリアとjinjerの強みだと考えています。

開発ロードマップのおかげでjinjerに光明

−−松葉さんがjinjerに関わってきた中で、苦労されたことを教えてください。

松葉:自分自身としてはオンリーワンプラットフォームを企画することは前々からの目標で、2015年入社後すぐに、ローンチ前の「jinjer勤怠」のプロダクト開発に関わることになりました。当時は開発主導で作られていたのですが、細かい機能部分のところで足りないところが数多くありました。競合の勤怠システムを徹底的に調査して、シフトや有給、休暇周りなど、勤怠管理で必要な機能を細かいところまでリスト化しました。

2016年3月の「jinjer勤怠」ローンチ当時は、システムとしての機能が足りなくて苦労しました。当初は飲食店をターゲットにしていて、お店で最低限できる機能を実装したところだったんです。

ただ、勤怠の集計ができる前提で契約をいただいているのに、一部のお店では集計できなくて……。初歩的なところでつまずいて、問題が起こるたびにお客様のところに謝りにいくことも多かったですね。

そこから、とにかく問題を1個ずつ潰しながら、いい機能を追加して、より「jinjerらしさ」と開発を進めていきました。そのなかで、転機が訪れたのは2016年末ぐらいですかね。正式に、僕が開発のロードマップを立てるポジションになりました。

それまでは開発面で改善できないことだらけで、それがいつ改修されるかもわからない状態だったんですが、「いつ頃に改善箇所が実装されるのか」という半年間のロードマップを立てたんですね。これにより、いつ実装されるかがわかるので、営業もサポートもしやすい。それが1つ目の光明でした。

2つ目の光明は2018年11月です。勤怠だけではなく、人事・コンディション・経費管理を含めたサービスのローンチをして、「1Master 1DB」が真の意味で実現できました。これがさらなる大きな進化だったなと思っています。これまでに大きなアップデートもあったのですが、2018年末が、やはり一番大きな進化だったかなと思っています。

「見える化」導入で開発スピードが向上

松葉:2019年に入ってからは、人事管理・勤怠管理・給与・経費・コンディションの各プロダクトの開発が複数走っていたんですね。それぞれに開発のプロジェクトマネージャ(PM)レベルがいたかというと、実際はそうではなかった。プロダクトがいい感じに成長していく一方、スタッフが増えすぎて管理がうまくできず、開発スピードが落ちてしまっていたんですね。

2019年9月に高村さんがジョインしたあとに、新しいPMをたくさん連れてきてくださって、開発スピードが上がりました。企画と開発のお互いのタスクを「見える化」できたのも高村さんのおかげです。プロダクトが増えた結果、構成が難しくなった部分を整えていただいたんですね。

−−実際にどうやって「見える化」をしていったんでしょうか。

高村:「企画・開発双方をしっかり連携させること」が、ジョイン当初に自分に課したミッションでした。「これぐらいのものを、これぐらいのスピードで作っている」ということを、企画側・開発側が共有することで、一緒に進んでいこうと思いました。

例えば、開発量が今200であれば、来月までに210にするというコミュニケーションをしています。実際の数字を見ながら、お互いが認識を合わせて開発を進めていく。

「こんなのは入らないよ」「すごく企画が無茶言ってくるんだよね」というコミュニケーションは数値化ができないので、しないことにしています。自分たちの実力を共有せずに要求されて「できないです」ではなくて、「自分たちの実力は今これぐらいある」というような話ができるんですよね。

そして「スピードが上がってきたから、このスピードをキープしようね」ではなくて、常にそのスピードを上げ続けたい。こういったところが、ジョインしてから取り組んでいるところですかね。

松葉:企画側で実装したい機能のリストがあるんですが、今まで機能1つにどれぐらいの工数がかかるのか、完全に可視化できていない部分が一部あったりしました。工数を10段階にしたり、大中小に分けたりしていました。

今では、過去に実装した項目など何らかの基準に対して、要望を実現するにはどれぐらいの工数がかかるのか、しっかりと数値化します。そして実際の開発スケジュールに落とし込んでいます。それをベースに、さらに開発の工数も可視化できます。「優先順位が変わったから、こことここを入れ替えよう」みたいな会話も、今後はできるようになると思います。

独創的なアイデアを生み出す土壌

−−しっかりと企画・開発が連携されていますが、jinjerチームならではの特徴はどんなところでしょうか。

松葉:ネオキャリアには、jinjer以外で商品企画専門の部署がないので、その時点でjinjerというプロダクトの体制自体がちょっと違うかもしれないですね。こうして開発も含めて議論して、よりよいプロダクトにできている組織なんじゃないかなと思っています。

高村:たぶん社内で一番、開発と企画の仲がいいんじゃないですかね。やっぱり「見える化」をしたところが一番大きかったと思います。

お互いによくわからないものをぶつけあうと、どうしても相手に対して不信感ができてしまうと思うんですよ。自分の持っているもの・やることをすべて見せることで、その不信感が取り除かれるんですよね。

松葉:そうですね。自分はやりたいことがかなりある人間です。ただ、それを要求すると、「できない」と言われるケースが多かったんですね。僕は「できないならできるために考えろよ」と思うタイプなんですよ(笑)。

(一同笑)

それが原因で、たまにぶつかる人もいたのですが、今ではそういうことはなく、「成長するためにどうすればいいのか」をしっかりと話し合えていますね。できない理由をしっかりと説明してもらったり、代替案を提案してもらったり。そうしていくことで、信頼はもちろん、人間的な面でも打ち解けられますよね。

僕も高村さんもふざけることが好きな人間なんですが、jinjerチーム内は生意気なヤツやふざけているヤツが多いので、そういったところを含めて、仲良くしている感じですかね。

この前jinjerは4周年を迎えたんですけど、そのときに「jinjer大打刻祭」を開催したんです。打刻って、作業的でつまらないじゃないですか。一方で、人事担当は勤怠締めが遅れちゃうので、打刻漏れを絶対になくしてほしいじゃないですか。

だから、打刻を楽しんでもらうために、打刻をしたら一定の確率でプレゼントが当たるキャンペーンをjinjerで開催しました。そういうアイデアは堅苦しい考えだったら浮かばないと思います。あとは、「誕生日打刻」というかたちで、誕生日の日に打刻すると「ハッピーバースデー」とシステムに出るんですね。

アメリカでも「エンプロイー・エクスペリエンスを上げましょう」という機運があります。単なるツールではなく、少しでも従業員の満足度やエクスペリエンスが向上するツールにするべきという考えもあります。だから、このアイデアは堅苦しい思考じゃ絶対に出てこないと思っているんですね。

自分がこのあと実装したいなと思っているのが、打刻をすると、あるキャラクターが成長するんですね。悪役キャラとして高村さんに登場してもらおうと思っているんです。

(一同笑)

ふだんはウソと冗談しか言わないカルチャーの部署なんですけど(笑)。そういうところを含めていろいろと仲良くしていますね。

高村:チャレンジ精神が豊富なメンバーと働きたいな、とはいつも思いますね。「こういうのをやりたいんだけど」と言って「できない」みたいなことを言われると、つまんないと思っちゃうので。

できないことを「どうしたらできるようになるんだろう」というところまで含めたチャレンジ精神というか、「なんでもチャレンジしたいんだ」という人と一緒に働きたいですね。

「業界初」「世界初」を連発するチームでありたい

−−jinjerのこれからのビジョンなどを教えてください。

松葉:大きく2つの目標があります。jinjerは、最初は勤怠管理だけのシングルプラットフォームから、今はオールインワンプラットフォームになろうとしています。次は「アクションプラットフォーム」になることを目指しています。

アクションプラットフォームというのは、従業員のエンプロイー・エクスペリエンスを向上させるために、勤怠管理などを基軸として、従業員に福利厚生サービスやラーニングコンテンツなどを提供したり、プラットフォーム上で従業員自身がさまざまな提案を受けたり、アクションを起こすことができるプラットフォームです。

例えばアメリカでは、営業の人が企画に異動したいときに、「あなたはこのスキルが足りていません」「これを学びましょう」と提案してくれるツールがあります。海の向こうでは、ツールがいろいろな提案をしてくれる社会ができています。日本もそのうち、AIを含めて絶対そうなるだろうと思っています。

jinjerの次の目標は、まず人事・勤怠・給与が統合されたオールインワンプラットフォームを作りあげて、それを確固とすること。そのあとに、いろんな福利厚生も含めたアクションプラットフォーム化することは、1つの目標にしています。

2つ目は、InsurTechやFinTechなど、HR領域以外のテクノロジーとの融合を目標に掲げています。これからは人事・勤怠・給与が連動していないといけない世界だと思っています。それらがプラットフォーム化されている上で、企業のデジタルマネーが支払い可能なアプリと連携させて、よりシームレスなお金の流れを実現する。そこはちゃんとオールインワンじゃないと実現できないはずなので、HRのプラットフォームになるのが目標ですね。

−−最後に、これからjinjerチームをどう成長させたいかを教えてください。

高村:会議とかでもよく話題に上がるんですが、「世界初」を連発したいです。みんながびっくりしたり、おもしろがることを連発するようなプロダクトを目指したい。そういう開発をどんどんしていって、わくわくするような開発をしたいなと思います。

具体的には、開発量の伸び率を、1.2倍、1.5倍とかではなくて、最終的に1年振り返ってみて10倍にしたいと思っています。10倍にするというとすごく難しく考えてしまうかもしれないんですが、まずチャレンジすることがすごく大切です。

チャレンジしないと、ミスが発生しないんですね。そうすると、同じ開発量しか作れなくなってしまう。逆にチャレンジすると、ミスが発生する。今度はそのミスの再発防止をすることで、そのミスがもう発生しなくなるんですよ。チャレンジした分だけ、それが伸びしろになるんですね。

それを積み重ねていくうちに、気がつくと10倍になるんじゃないかなと思っています。実際10倍はきついなと思っているんですけど、1年かけてしっかり10倍にしてみたいですね。

松葉:R&D(研究開発)をしっかりと強くして、業界初・世界初の取り組みをガンガンしていきたいなと思いますね。「jinjer大打刻祭」も間違いなく銀河一、銀河初と言っているんですが(笑)、そういった“業界初”をやり続ける。個人としてはHR Tech総研の所長として、そのブランディングもしたいですね。

プロダクトとブランディング双方を回して、jinjerを必ず業界ナンバーワンにしたいなと考えています。

−−ありがとうございました。