この世にはオスとメスの特徴を備える生物がいる

ハンク・グリーン氏:あたかも2つの異なる生物を真ん中でつなぎ合わせたような、奇抜な格好をした蝶や鳥を見たことはありますか?

グリフィン(頭と前足はワシで翼を持ち、胴体と後足はライオンの姿をした怪獣)やケンタウロス(上半身は人間で下半身は馬の怪獣)のような、異なる種が合体した生き物のことではありません。同じ種類の、しかし模様の違う固体を取ってくっつけたような姿かたちの生物のことです。例えば、左右の羽の模様が異なる蝶。

片側は赤でもう片側は茶色をしたロブスターなどです。

大変珍しいので目にする機会はほとんどありませんが、確かに存在するのです。

これらの生物は“雌雄モザイク”と呼ばれ、多くの場合、その体の中心線にそって左右半分に分けたかのように、オスとメスの特性を兼ねそろえています。

雌雄モザイクは、10,000分の1の確率で蝶やその他の昆虫、ロブスターをはじめとする甲殻類、節足動物などにみられます。

一体どうしたらこのような生物が生まれるのでしょう?

オスとメスがきれいに半分にわかれるのはなぜ?

オスとメスによって繁殖する生物はすべて、たった1個の受精卵あるいは接合子からその命が始まります。それが細胞分裂のプロセスを経て多くの細胞に分かれていくのです。

どんなに大きな動物も、1つの細胞が分裂して2つに、その2つの細胞が分裂して4つに……というプロセスを繰り返して形づくられます。

哺乳類の場合、このように分裂した細胞が固有の特徴をもつようになるのは、細胞分裂のプロセスの後半です。言い換えれば、最初の細胞分裂の結果生じた2つの細胞は、後々どのような生体組織にもなりうるのです。

ところが節足動物は違います。節足動物の細胞分裂は、初期段階ですでに個々の細胞の行く末が決まっています。最初から、細胞1つ1つが後々なにになるか、不変の運命を背負っていると言っていいでしょう。

例えば、蝶の接合子の最初の細胞分裂の結果生じる2つの細胞は、それぞれ蝶の右半分と左半分を決定づけます。

2回目の細胞分裂の結果できあがる細胞は、蝶の上半分と下半分を、3回目の細胞分裂でできる細胞は、蝶の表と裏を決定づけます。

ここで忘れてはいけないのが、分裂前の細胞には、一対の染色体の中にまったく同じDNA情報が2コピー組み込まれていることです。これは、分裂後に生じる2つの細胞それぞれが同じDNA情報を1コピーずつ受け継ぐためです。

このDNA情報には、X染色体とY染色体の組み合わせによって決定される性別も含まれます。蝶の場合、その組み合わせは私たち人間とは正反対で、メスとなるのはXY、オスとなるのはXXの組み合わせです。この性染色体に突然変異のようなエラーが起きたとしても、多くの場合その遺伝情報は読み込み可能です。

例えばただのXのみでYが欠けてしまっていたとしても、それはメスの情報として読み取られ、あるいはXXXと3つ並んでいたとしても、それはオスの情報として読み取られます。

一番最初の細胞分裂でエラーが起きると、分裂の結果生じた2つの細胞には性染色体が通常通りに分配されません。

人間に雌雄モザイクが起こらない理由

オスのアゲハチョウを例にとって考えてみましょう。オスの蝶ですから、通常各細胞はXXの性染色体をもつはずです。しかしここにエラーが発生して、Xを1つしかもたない細胞とXを3つもつ細胞が生じた場合、先ほど説明した通り、前者はメスとして後者はオスとして読み取られます。

この遺伝情報をもとに、オスとして読み取られた細胞から分裂していく細胞はすべてオスとして、メスとして読み取られた細胞から分裂していく細胞はすべてメスとして、残りの細胞分裂を繰り返していきます。こうして、中心線にそってオスとメスをつなぎ合わせたような雌雄モザイクが生まれるのです。

同じエラーが、細胞分裂のプロセスの後半に起きたらどうなるでしょう。その場合、オスとメスの特性が体の一部分だけに現れたり、所々に表出するようになります。

雌雄モザイクは、1つの固体がオスとメス両方の器官をもつ雌雄同体とは異なります。エラーが細胞分裂のどの段階で起こったか、そしてその動物がどのような生体構造をしているかにもよりますが、雌雄モザイクだからといって雌雄同体であるとは限りません。しかしどちらにせよ、繁殖能力がないケースがほとんどです。

今知られている限りでは、雌雄モザイクが人間やそのほかの哺乳類に起こることはありえません。なぜなら、卵巣からは個体をメス(女性)に特徴づけるホルモンが、精巣からは個体をオス(男性)に特徴づけるホルモンが分泌されていて、このホルモンは性染色体の遺伝情報にエラーがあった時に、それを塗り替えるだけの決定力を持っているからです。

もしこの雌雄モザイクが我々にも起こりうるとしたら、子孫はどうつくられ、はたまた地球上はどんな格好の生き物であふれかえるのか……ちょっと想像しただけで正直気味が悪いですね。