データからわかった“選ばれる街の条件”とは?

司会者:それでは「住みたい街ランキングから読み解く『選ばれる街の条件』」と題しまして、株式会社リクルート住まいカンパニー、SUUMO編集長・池本洋一よりプレゼンさせていただきます。

(会場拍手)

池本洋一氏:みなさま、こんにちは。池本です。お手元の資料は資料集としてご用意したと捉えていただいて、あとでゆっくり見ていただくページもあるという前提でお聞きいただければと思っております。

本日伝えたい5つのこと

今日みなさまに私のセッションのなかでお伝えしたいことは全部で5つございます。

1つ目が、「人気の街とその理由」。

2つ目は、街の魅力というものは、商業の力や交通の力といったハードのスペック的なものだけでなく、そこに住んでいらっしゃる方やイベントなどのコトで形成されるものもあるんだよ、ということ。

3つ目が、自治体のみなさんの目線では「市」や「区」という単位でいろんな施策をお考えになると思います。 が、我々SUUMOの運営側からは、多くの方々は「駅」を中心に街選びを考えていらっしゃるということがわかります。ですので、今日も「住みたい街ランキング」は、主に駅を中心にお話をします。

4つ目は、ほかの街との対比のなかで、その街の優位性を消費者の方は見ていらっしゃいます。「外から見てうちの街はどう見えるんだろうか?」という視点を持つことが大事です。

最後、5つ目。ランキング上位の街というのは、ひと言で言えば、テレビやネットでよく紹介されている自治体が上位に来ています。

つまり、いろいろな方々にシェアしてもらいやすいネタを作ったり見つけたりすることが、おそらくシティプロモーションの1つの大事な仕事なのかなと思います。この5つを主軸にお話を進めたいと思います。

松下幸之助さんが「製品は『商品』しなければならない」ということをおっしゃっています。つまり、いくらいいスペックのものを作っても、商いにつながる、人々が買って、それをほしいと思ってもらうことができなければ意味がないんだ、ということです。

いくらいい情報、魅力的なネタがあったとしても、一般の消費者に伝わらなければ意味がないと考えていただきたい。住みたい街ランキングは、人気投票ですから「街の魅力」ランキングではなく、「街の魅力が伝わっている」ランキングと捉えていただければと思います。

「AISAS」という広告の基本の考え方があります。実際に興味をもっていただいたあと、みなさんほぼ検索行動をされて、それで実際に街に行かれ、その街で「こんなものがおいしかった」「ここの街並みは素敵だった」ということをシェアする。こういう時代ですので、この「AISAS」に倣って、プロモーションを考えていく時代かなと思います。

最新の住みたい街ランキングを読み解く

では、まず住みたい街ランキングのお話からさせていただきます。2016年1月の終わりに調査した結果です。

2016年の住みたい街ランキングで起こった変化は、1つ目に、ずっと1位だった吉祥寺が2位になって、初めて恵比寿が1位になった、というものです。

それから2つ目が、武蔵小杉という駅が、調査開始以来一度もランキングを落とすことなくずっと上位にきて、ついに4位まできたということ。

3つ目として、池袋という駅が、実は2年前に3位に浮上してすごく話題になったんですね。今年のランキングでも、総合では7位ですけれど、シングルでは2位になっているということ。このあたりがトピックスかなと思います。

それから11位以下を見ていただきますと、トピックスは北千住と赤羽です。18位の北千住は、前年は28位でした。20位の赤羽にいたっては、前年は48位でした。大きくこの2つの街がランキングを上げている理由についてはあとでお話させていただきます。

郊外の街に目を向けますと、まず大宮が21位。それから立川が29位。

それと、たまプラーザが27位。たまプラーザにいたっては、ファミリーでは16位というかたちで健闘しています。

とくに、立川はここ最近開発が進み、いろいろなメディアで紹介される機会がありました。昔は国立は街並みがきれいで住みやすそうということで人気がありましたが、だいぶランキングを下げています。今は、商業のほうが評価される時代になってきてるかなというのを感じます。

なぜその街に住みたいんですか?

この住みたい街ランキングでは、「なぜその街を選んだのですか?」という理由、「なぜその街に住みたいと思ったんですか?」という理由を60近い項目に分けて聞いております。それを大きく括ってグラフにしたのが、このページです。

例えば、武蔵小杉という駅は、水色のラインでございますけれど、明らかに「交通の利便性」と「商業の利便性」と「資産性・発展性」というところがピッと突出していることがおわかりいただけると思います。

一方、自由が丘は「洗練・高級」といったところでポンっとはねている。吉祥寺は総合的に高いんですけれど、「商業」と「個性・独自」というところではっきり出ている。やはり街それぞれに特徴があります。

郊外系の駅をみてみますと、立川は「交通利便」と「商業利便」が勝ってくる。

ところが、鎌倉の波形はかなりおもしろいです。鎌倉になると「自然が身近」であることや、「個性・独自」、それから「洗練・高級」といったポイントが高くなる傾向があります。

街によって住みたい理由は異なる

先ほど「北千住と赤羽がジャンプアップしています」とお話をしました。その北千住は「交通利便」と「商業利便」が高く、赤羽のイメージでいうと「個性・独自」と「交通利便」が高かったり。そういった特徴がございます。

このなかにあえて豊洲を入れていますけれど、豊洲は完全に「洗練・高級」と「資産・発展性」のところが抜けています。やはり街独自でいろいろと住みたい理由は異なってるということになります。

これから人気が出そうな街は?

それからほかにも住みたい街ランキングは調査をしております。「今後地価が上がりそうと思う街」。こちらはすべてのライフステージで武蔵小杉が1位、それから豊洲が2位、品川が3位ということで綺麗に揃っています。

おもしろいのは、海老名が5位にきていたり、橋本が8位にきていたり。海老名はちょうど今、駅前の再開発が進んでいたり、橋本はリニアモーターカーの話が上がっていたり。

それから、北千住、清澄白河、このあたりも上位にきています。

それから郊外。あえて「郊外の駅でこれから人気が出そうな街ってどこですかね?」って聞いてみると、1位が武蔵小杉、2位が立川、そして3位に和光ときました。それから7位、浦安。

9位の本八幡も駅前の開発が進んでいます。あとでご紹介します「流山おおたかの森」もベスト10に入ってきています。

最後は「穴場な街ランキング」です。実は、穴場な街ランキングは、点数でいうと断トツで1位・2位が抜けてます。北千住と赤羽です。

それから少し離れて池袋がくるんですが、4位(巣鴨)・5位(大塚)・6位(駒込)・8位(東京)・10位(高田馬場)、いずれも山手線の北のほうの駅がだーっと入ってきているということは興味深いです。

そして、13位の元住吉は、12位の武蔵小杉の隣駅です。武蔵小杉の発展を横で見ながら、ブレーメン商店街のような商店街がもともとある。物件の価格は武蔵小杉より一段安くなる。「隣の原理」みたいなところで、穴場と言われていたりします。

閑静な住宅地から交通・商業利便重視へ

参考までに、ザ・住宅地的なブランドを持つ街のランキングをざっと並べてみました。

先ほど言いました、立川の隣の国立駅が今86位です。聖蹟桜ヶ丘130位、あざみ野142位です。郊外のブランド力ある住宅地がそこまで高い順位ではないというのが、実態としてございます。

このページは、各県別に各県民や都民がどの駅を選んでいるのかというランキングです。よろしければあとでご覧いただければと思います。

この後、さいたま市の方が登壇されるので、1つショッキングなデータをご紹介しますと、埼玉県民が選ぶ住みたい街1位が、なんと埼玉県の駅ではなく池袋である、というようなこともあります。

ライバル都市は県内だけではないみたいなことも、現実としては起こっております。

全体をまとめますと、大きな潮流は、閑静な住宅地から交通・商業利便のほうに移っている。

なぜかといえば、未婚者の方・非婚者の方、それから共働きファミリー、アクティブシニア、都市におけるライフステージのメジャーが変わってきているということですね。昔はお子様2人の家族がメジャーだったわけですけれど、そこが変わってきている。

それと、「資産価値」を街選びの基準のなかに入れる方が出てきているということ。

もう1つ「再開発・洗練」に加えて、街にカラーがあるところの人気が出始めているというところも踏まえながら、この後お話をしていきたいと思います。

住みたい行政市区、1位は「港区」

参考までに「行政市区ランキング」というもの取っております。(東京都)港区が今年は1位です。ちなみに去年は世田谷区が1位。トップ10のうち、実に9つを23区が占めていて、(神奈川県)鎌倉市が唯一入っています。

11位以降を見ていただくと、そこではじめて横浜市の中区が出てきて、(横浜市)西区、(横浜市)青葉区、(横浜市)港北区。横浜市がずらずらっと出てくるかたちになっています。

それから30位まで見ていただくと、ここではじめて千葉の船橋市、さいたま市の浦和が登場してきます。

今、選ばれる街4つのトレンド

では続いて、今日は1つのテーマが「選ばれる街とは?」ですので、私の私見でざっと4つの型を見つけてまいりました。

1つ目が「大規模開発型」。2つ目が「じわじわリノベ型」。3つ目が、その複合型。4つ目が「ターゲット特化型」とさせていただきました。

大規模開発型の真骨頂は、おそらく武蔵小杉でしょう。そのなかでも、私は「グランツリー」という商業施設に注目しています。

このグランツリー、見ていただいてわかるとおり、武蔵小杉のなかでもかなり規模のある商業施設です。このように屋上がまるで大きな公園のようになっていて、アスレチックだったり、水が噴射してくるような場があったりします。

そしてグランツリー、もう1つすごいと思ったのは、この1つ下のフロアです。4階フロアは、人工芝がひいてあって、大型のビジョンがあります。タリーズコーヒーのなかにも子供用の椅子とか席が用意されていたり、紀伊國屋書店のなかにも子供向けの席が用意されていたり。

徹底してターゲットニーズに合った空間づくりをテナントも巻き込んでできているというところがあるわけです。

このへんは学ぶべきポイントではないかと思います。Facebookとかで一気にシェアされることになるわけです。今だったらInstagram、LINEですね。

古ビル改装 テナント力で人を呼ぶ

2つ目、じわじわリノベ型の街です。東日本橋・馬喰町のあたりからお話をします。

日本一の衣料問屋の一部に「アガタ竹澤ビル」という築50年以上のビルがあるんですが、このなかに入って行くと、ギャラリーとかダイナー、アパレル、ドイツ雑貨、東欧雑貨という店が入っているんですね。

今、古いビルの改装でけっこう人が集まります。大事なことはテナントですね。どういうテナントが入るかということが重要です。

そのテナントで成功している街が、清澄白河や蔵前という駅です。

これは自治体ががんばったということとは別かもしれませんが、話題になった「ブルーボトルコーヒー」の1号店、ふつうは恵比寿とか吉祥寺に作りそうなものですが、清澄白河に1号店ができました。

2つ目、同じくサンフランシスコ発祥のチョコレート屋さんでけっこう有名な「ダンデライオン」の1号店は、蔵前という街にできました。

はじめて出てくるテナントがどの街に1号店を置くかということの街選択に変化が起きていることを感じています。リノベ文化が生まれて点が面になっている街が選ばれてますね。

もし福岡にご出張される機会があれば、福岡に「冷泉荘」という、築年数の古いビルがあります。僕は、古いビルのリノベーションとしては日本で一番成功しているビルなんじゃないかと思います。

こちら(スライド)には今、3階までしか出ていませんけれど、もっと上の階まであります。本当に古いビルなんですが、いろいろなテナントが入っています。

ここはテナントさんがテレビに出たり、自分達でどんどんイベント開いてもらうことを推奨しています。イオンのように商業施設全体で集客するのではなく、店ごとにお客様を呼ぶ行為をがんばって、その集客がほかのお店にも貢献して、という方向性を打ち出しているんですね。

ちなみに、この点では福岡が非常に進んでる認識があります。よろしければ見に行ってください

開いた大学が知的なイメージをプラス

3つ目、北千住です。再開発+リノベ複合型の街ですけれど、東口は大きく再開発されまして、東京電機大が来ています。非常にオシャレな雰囲気になって、学生がドーンと増えました。

いままで手薄だった知的イメージが北千住に付け加わって、子育てされる方にとっても「駅前でこんなにいろんなイベントがあるんだったら行ってみようかな」というきっかけになっています。地域に開く大学というのは、街おこしのキーワードになるかと思います。

逆のサイド、西口、ここはけっこう猥雑な街でございます。ピンク街的なものも、今もたくさん残っています。

しかし、そういう街並みに「リノベカフェ」が面で広がる変化が北千住で起こっています。

「へー意外、こんな店が北千住にあるんだ」と感じた人が友達を呼んで、またその友達が友達を呼んでいる。人が「この街、おもしろいよ」「そこでこんなカフェをやってるから来てよ」「僕もこういうことやってみたかったんだ。ここでやってみよう」、こういう連鎖が起き始めているという感じです。チャレンジしやすい街、北千住ということです。

その場所で暮らす人の声を伝え、共感を呼ぶ

最後、ターゲット特化型です。流山市では数年前から「母になるなら、流山市」というシティプロモーションが行われています。

マーケティング課を作ったり、街に明確なコンセプトを作ったり。先進的な考え方の市長が職員のみなさんやNPOと施策を推進しています。

有名なところでは「送迎保育ステーション」。駅前に園児を連れて来てもらえれば、そこから各園に送り届けます。お迎えいただくときも駅前で全部済ませられます。

こういった取り組みもすばらしいんですが、私自身が注目しているのは、シティプロモーションのなかで、ここに住んでいる素敵なママを取材して、その人がこの街でどんな風にいきいき暮らしているかをプロモーションページでうたってるということです。人の共感が、人を呼び込めてるんじゃないかと思います。

また、我孫子市はずっと待機児童がゼロということで有名な街です。

ある記事で読んだのですが、 市長が各保育園を回って、保護者の代表者の方と話して、「今ある保育園に入園する子供が増えるのと、待機児童が我孫子市にいるのと、どちらがいいですか?」と問いかけたそうです。もともと我孫子市は幼児1人あたりの面積にゆとりがあったわけですけれど、「保育園に入れない子供をつくるくらいなら、今より窮屈でもいいですよ」と保護者の方々が返事されて、結果として、ずっと待機児童ゼロを成し遂げられてるというお話があったりします。こういった話も、「いい話!」というかたちで広がっていくといいのかなと思います。

認知をつくるにはネタが重要

では最後に、ここはスライドの枚数があるので少し飛ばし気味になりますが、「どう街の魅力を伝えていくのか?」というお話をさせていただきたいと思います。

「認知」をつくるネタが必要と言われてます。マスコミの方々とお話すると、この4つの観点「新規性」「意外性」「汎用性」「社会性」。テレビの場合はプラス、「絵になること」。これが重要だと言われています。

住まい暮らし系だと、ここにあるようなキーワードに対応した打ち手だと取り上げやすいと話をよくさせていただいております。

マツコの発言がランキングに影響!?

それから、今はテレビだけじゃなく、やはりネットニュースやSNSで拡散されるという話があります。マツコ・デラックスはかなり影響力をお持ちです。北千住や赤羽の人気を引き上げたのは、マツコさんのおかげもあるんじゃないかって思います。

こういったかたちで、人々に「確かにその視点あるかも」という新たな価値観を提示して共感を得ていくのも手です。

「東京北区赤羽」という漫画もしくはドラマはご存知ですか? これが赤羽人気に火をつけています。

赤羽は再開発はそんなにやっているわけじゃないですよね。 綺麗な街並みやおしゃな店などの街をハード的に訴求するのではなく、人に流されない自分を持っている人が赤羽にたくさんいるということ、人が魅力なんだということが、この本とドラマによって伝わっている。これが今の若者の時流の心を捉えているのだと思います。

同じように、「自宅で仕事をしたい」というお母さんがたくさんいるわけです。街に住み、街で好きな仕事をする女性にフォーカスして、私もこの街でこんな暮らしをしたいと感じてもらう。

それから、最近、南池袋公園がリニューアルされたのをご存知でいらっしゃいますか?

全面芝生化して、ラシーヌ(RACINES)というオシャレなカフェができたんですけど、まるでニューヨークっぽい感じなんですよね。画像検索すると公園でヨガをやっている写真が出てきます。三日月のポーズとか。

同じタイミングで神戸市も東遊園地が同じように芝生化されました。そして画像で出てくるのはやっぱりヨガなんですよ。

つまり、こうやって公共の場に絵になる空間を作って、そこに絵になるソフトを入れていく。その絵がいろんなSNSのタイムラインに載って拡散されていきます。

選ばれる街の条件と魅力の伝達方法

最後に、選ばれる街の条件と魅力の伝達方法をまとめさせていただきます。選ばれる街というのは、やはり街になにか話題がある。

話題づくりは、もちろん再開発やリノベでもいいし、週末はこんな地域活動してますという人の暮らしアピールでもいい。憧れ、共感を呼べる人のメディア露出はけっこう有用です。それが次の人を呼んで、点が面になる力をもたらします。

最終的な発信ネタの判断基準は、シェアされるかどうか。自分がFacebookなどで発信した時に「おもしろい!」って言ってもらえるかどうかです。

最近はInstagramもきています。ビジュアルがすごく重要な時代になっている。映える絵を作れるかどうか。これはテレビ露出を獲得する上でも重要です。

このあたりをヒントに、街の魅力を一緒に探していけたらと思っています。

さて時間となりました。いかがだったでしょうか? 私の話は以上とさせていただきます。ご静聴ありがとうございました。

(会場拍手)