水の中の女の子同士を撮りたい

古賀学氏(以下、古賀):もう1個、女の子同士を撮りたい。百合を撮りたい。水中で百合を撮るのって難しいじゃないかと思ってまして。それこそ11年前、菊地さんのミュージックビデオのツーショットのシーンを撮るのが大変で。

当時はツーショットのシーン自体は少なくて、主観映像(女の子が見ているもう1人の女の子)がほとんどで、その途中にツーショットが混ざる撮り方をして。理由は2人とも良い表情をしている状態をなかなかつくれないんです。

それで、しまりすちゃんっていう水中で自由自在に動けるモデルに、カミテからシモテを見ている子と、シモテからカミテを見ている子の両方を演じてもらって、特撮合成で1つの絵をつくる「百合特撮」っていうものから始めたんです。

当然彼女は水中モデルとしての打率が高いので、撮れ高もすごく良くて。台湾、京都、浅草橋の展示作品のメインになってて。これ(百合特撮)について特に解説はしてないので、ほとんどの人が、体型の似た女の子が写ってると。

菊地成孔氏(以下、菊地):双子と思われるでしょうね。

古賀:特撮とはあまり思われてなかった。今回の月刊水中ニーソ シーズン2のフライヤーが、しまりすちゃんとしまりすちゃんなんですね。

菊地:なるほど。一応これもフェティッシュといえばフェティッシュですね。双子じゃないし。

古賀:文学的な意味で考えると、鏡だし。鏡だけど、そこにディレイというか、別の時間軸の2人がいて、絡みがあるという。これはこれで掘り下げればおもしろいですけど、さすがにこれで写真集1冊撮るのは、ちょっと無理じゃないですか。わかんないけど。できちゃうかもしれないけど。

菊地:そこだけ伸ばそうと思う人がいたら、伸びるかもしれない。

古賀:そうですね。自分と自分の絡み、みたいなものがおもしろいかもしれないですね。ただ、これを撮っている現場で、たまたま全天球の撮影をやって、1冊目の『水中ニーソ』に出ているひとみちゃんというモデルと、しまりすちゃんをツーショットで撮ったら、撮れちゃったんですよ。特撮しないでも。普通に撮れるんだったら、これから合成で頑張らなくてもいいやっていう。

菊地:なるほど。

古賀:だから、百合特撮は練習というか、脳内で「僕はこういうものを撮りたい」と考えていたものを万能なモデルで試せたので、今度はライブで実際の人間を使って当てはめていく、みたいな感じなんです。

トークイベント「月刊水中ニーソ」出演者とのコラボ

ちなみにシーズン2の最初のゲストが『スクールガール・コンプレックス』の青山裕企さんでした。もともとコンプレックスって劣等感って意味ですけど、青山さんは最初の展覧会の時、自分の恥部を展示したように恥ずかしかったので、展示の間ずっと会場の隅で隠れていたそうです(笑)

それから「REALISE」というセクシーな水着を出しているメーカーなんですけど、作っているプロダクトがすごいクオリティなので。

菊地:話変えましたよね?(笑)。すごいクオリティですよね。

古賀:すごいクオリティです。実際のスポーツブランドのものとあまり変わらない。ものによっては超えてるっていう。

菊地:ものによっては超えてるから、枠によりますけど、うまく載せればすごい売れるんじゃないですか? 今、アメリカンアパレルもちょっとね、CEOがクビになったんですよ。

私、水中もそうですけど、水着フェチも被ってるんで、アメリカンアパレルの動向にすごい注目してるんですけど、アメリカンアパレルが今下がってるので、その隙にガンッていく可能性はありますね。日本からじゃなくても。

古賀:そうですね。外国でも売れてますもんね。

菊地:そうらしいね。

古賀:幕張で7月にやったワンフェスで展示をしたことで、結局3月から7月まで、ほぼ月刊で展示があって、8月に本丸の原宿で展示があるんで、全然展示が途切れていない状況が続いている。

本橋:展示をしつつ、次のコンテンツに反映されていくみたいな。撮影も当然それと平行してやっているので、ハヤカワ五味さんの水着を着せて水中で撮ってみたりとか。

古賀:身に付けるアーティストの作品を衣装提供してもらって、彼女たちが作った衣装と、REALISEを提供していただいて、というのが3作目です。

水中ニーソにはフェットとフェミの壁を撤廃する力がある

本橋:菊地さんが前回のトークイベントで言われてたんですけど、女の子のアーティストは勝手に連帯をしているようなところがあって、その面白さに触発されて、シーズン1の女性アーティストをラインナップしたんです。

彼女たちに実際に聞いてみると、それぞれがどこかしらでつながっていて、既にネットワークができていたのが面白かったんです。

古賀:旧来の(想像される水着のポートレート文脈の)読者はトークイベントに女の子アーティストを呼ぶって思ってなかった。いまだに水中ニーソのお客さんが誰なのか、僕もよく把握はしてないんですけど。

菊地:古賀さんのお仕事の特徴ですよね。ポップというか、要するに痛さがない。最近、痛掛け軸もできたらしくて。

古賀:痛掛け軸?

菊地:美少女の絵が描いてある掛け軸。痛車に続く、痛掛け軸。よくできてるんですよ。掛けても全然痛くない。痛さが無いから、誰でも惹きつけてしまう可能性がありますよね。

さっきのフェットとかフェミでいうと、フェミの枠じゃないですか。自分でウェアリングしてコスプレする女性アーティスト。そうするといずれにせよ、考え方というか、コンセプトはフェミのほうへ向くわけ。

だけど当然フェミのほうが上位で、そこにフェットが便乗されるようなかたち。でもツールとして、フェットだけが目的の人もいっぱい集まってくるような、2段重ねになっているような気がする。

古賀:そのフェット村は、おじさんがたくさん住んでいるところなんですね。

菊地:フェット村のおじさん、ハハハ(笑)。フェット村のおじさんが、フェミまで理解するところに1個壁があるんですよ。この壁を乗り越えちゃうと、だいぶいろんな視点が広がっていて、楽しくなるんだけど、なかなかこれがそうはいかない壁ですから。

古賀:水中ニーソはフェット村から見ると、勝手にお山が動いてフェミ村っていうか、フェミの子が……。

菊地:水中ニーソは、さっき言った壁を撤廃する力があるんだ。ポップだから。

古賀:山に登らずに、壁ごと撤廃する。

セックスに含まれる苦悶がない

菊地:そうですね。1年前も言いましたけれど、SMの要素が全くないので、水中フェティッシュっていうフォルダの中の窒息が好きな人、ブレスホールディング(呼吸制御)の人とか、あと単純に拷問系とか、あんまりよくないですよね。

要するにセックスに含まれる苦悶みたいなものが良い人の喜びが、古賀さんのお仕事には全くないので、水中ニーソには性的で堕落したフェティッシュみたいな人を排除する力がある。

それが今言ったフェットとフェミとの壁を撤廃する力でもあるってこと。そこに生々しい精液臭い、女の人を苦しめたいっていう欲望が入ってきちゃうと、なかなかフェミのほうに侵入できないっていうのがあると思います。

古賀:ポジティブに言っても浄化能力があるし、ネガティブに言っても民族浄化のみたいな意味で、たぶん浄化能力がある。

菊地:そうですね。

古賀:フェット村のおじさんたちを大量虐殺しているわけじゃないですか(笑)。

菊地:というか、選民していますよね。

古賀:選民とか、立ち退きですね。

菊地:そうそう、選別してる。でも、フェット村のおじさんはどんなものからでも栄養が採れるから。アザラシの生肉からでもビタミンが採れるわけですよね。

エスキモーの人がビタミンをどうやって採るのかっていうと、あっちのほうはレモンが全然採れないから、アザラシの生肉を5トンぐらい食べるとレモン1個分のビタミンが採れるようなやり方で、水中ニーソを見ながら、一生懸命「苦しいだろうな」と想像して足していくようなかたちで採るしかないですね。それは大変な苦労というか、努力ですけど。

複合体の中の配合を見極める能力

古賀:オタクもそうなんですけど、フェティッシュって、真っ正面から楽しむものじゃないと思ってるんですよ。例えば女児向けに作られたちっちゃい女の子が見るアニメを見て、オタクのおじさんが喜んだりしている、みたいな風景はいくらでもありますよね。

それと同じで、水の中に潜っている女の子で、「お前たち、こういうのが好きなんだろう?」っていうフェチビデオみたいなものがあったとして。それってフェチにとって楽しいものかというと、ちょっとずれてて。

菊地:芯が食えてないってことですね。

古賀:「そういう楽しみ方がしたいわけじゃないんだけど」みたいな。それよりも、タレントが南の島に旅行に行って、プールでキャッキャッしているほうが全然良いっていう見方もあって。

本来の楽しみ方からズレた楽しみ方をする傾向に、オタクとかフェチってあると思うんですよ。さっきの100年史もそうなんですけど、100年史に出てくるのは、別に女性がもがき苦しむのを見せるための映画じゃないです。

菊地:そうですね。中にはそういうものもあるけれども。そこの推移が100年で見れたこと。

古賀:水中ニーソも、別に水中フェチのための作品ってわけでなくて。ただエスキモーと同じで、水中フェチの人はここから養分を得ようと思ったら。

菊地:100回見たら1回分の養分が摂れるかもしれない。あとただ単に競泳水着が。

古賀:菊地さんは、その成分もね。

菊地:そこができる人は100回も見る必要はないですね。5、6回で。ただ、「水の中だ」と思うだけで、5、6回で摂れる人もいると思うし。フェティッシュっていうのは、こんな言い方は古いですけど、リゾームというか、地下茎化していて、全部絡み合ってるわけで、どっかに中心があるわけじゃないんですよね。

必ず地下茎化していて、全部がコンプレックス、つまり複合体になっているわけで。その複合体の中でどういう配合になっているのかを、すごい速さで一瞬で演算しているわけですね。「食える」「食えない」の判断をして、自分でパースペクティブを決めてる。