強度がない表現は自然淘汰されていく

古賀学氏(以下、古賀):菊地さんはご存知ないかもしれないんですけど、『艦これ』っていう、旧日本軍の戦艦を擬人化したゲームがあるんです。

菊地成孔氏(以下、菊地):知ってますよ。そういうことだけ知ってます(笑)。

古賀:あれのコスプレを、水中撮影でやっているコスプレイヤーさんがいるんですよ。

菊地:日本人で?

古賀:日本人です。

菊地:『艦これ』のコスプレーヤーって、台湾人が優秀で、台湾の人たちがチームをつくってコスプレをやっているニュースは見たことがあります。あれは水中でやってるのね。まあ、水中設定ですもんね。

古賀:水中出てきますからね。潜水艦の子たちはみんな水中ですから。2013年に『水中ニーソ』を出したときに、水中モーターを担いでいる女の子のグラビアも入ってたじゃないですか。

あれとほぼ同じビジュアルというか、スクール水着でニーハイソックスの女の子が魚雷を持っているイラストが、『水中ニーソ』が出て2か月後ぐらいに艦これがの新キャラとして発表されて。

水中ニーソ自体、当時マイナーだったので、順番が逆だったら、僕が「パクリじゃありません」と釈明しなきゃいけないところだった(笑)。ギリギリセーフで良かったなぁっていう。

菊地:今まで古賀さんのお仕事は、エピゴーネン(作品を模倣すること)を生んでは、エピゴーネンのほうが自滅し、ということを繰り返してきたんですよ。ご本人がご存知かどうかわからないけど、日本人のエピゴーネンの痛いサイトがいっぱいあって(笑)。

都内にはプールのあるラブホがいっぱいありますから、そこでささっと撮って、ちょっと売るんだけど潰れていく、というのがずいぶん繰り返されてきて、自然淘汰の結果、一番リュクスな古賀さんのお仕事が残ってるんですよね。

だけどさっき言ったみたいに、それはポリティカルな力が強かったせいもあったから。要はいろんな強度があるからだけれども、強度がない人たちは自然淘汰していく。でも、どこから強度がある新民族が出てくるかわからないからね。

それが脅かされるときが、本当のインフレが終わるとき。今は独禁法に違反してるわけだから(笑)。独り勝ちじゃないですか。だから、もっと全然違う形の人たちが出てきて、やり始める可能性はありますよね。

新しい「水の中の女の子」はどこから出てくるか

古賀:例えば水中フェチから出てくるんじゃなくて、コスプレから来る可能性があるわけじゃないですか。すぐそばに艦これをやっている人たちがいて。

菊地:そうですね。スポーティーなところから出てくるかもしれないですしね。難しいと思うけど。

古賀:そういう意味だとエピゴーネンというか、フェティッシュな流れじゃないところで水中撮影をやりたい、やっている、あるいはオーダーで水中撮影しますっていうカメラマンとか、出てきてはいるので。

ただ「100年史」じゃないですけど、実は隠されたコンテキストががっつりあるわけじゃないですか。隠されたといっても、菊地さんとこうやって皆さんの前で喋っているわけだから隠してないんだけど。「興味のないコンテキスト」って言ったほうがいい。

菊地:まあ、そうですね。

古賀:全天球なんて見せたら、どういう機材でどうやって撮っているかも丸見えじゃないですか。まあ、見たところで同じものは撮れないだろうって、今のところは思ってますけどね。

菊地:もちろん、もちろん。だから全然違う、もっとインディーで規模が小さいけども、リュクスで強度のあるものが出てくる可能性はありますよね。今はもうオーバーグラウンダーだから。もう地下的じゃないですよ。オーバーグラウンドかつ、リュクスなので。

アンダーグラウンドで、ちゃんとリュクスが出てくる可能性はウヨウヨしてるし、そこはどうなのかなっていう。

デパートフェチでもある菊地成孔氏

古賀:あとアジア含めて、国境がある意味ないので。

菊地:そうね! 「100年史」のときに明らかになったのは「これは古典的な価値だ」ということですね。急にでてきた価値じゃないもんね。

古賀:100年前からある価値。

菊地:むしろ後退しているものもいっぱいあるわけですよね。昔の方が全然お金かかってたりするわけで。余談ですけど、今でも忘れられないことがあって。87、8年にパリに行ったとき。ぼくはデパートが好きで、デパートフェチっていうところもあるんですけど(笑)。

デパートのエスカレーターで店員さんが横たわっている現代美術を見たときには、自らを慰めましたけどね。

(会場笑)

菊地:その人たちはデパガの格好をしていて、全然デパガの服なんて興味ないんだけど、デパートの中にいるというだけで、自らを慰めました。そのときパリにストッキング屋があって。今だと伊勢丹もそうですけど、入るときにバーッとストッキングだけ売っているところがあって。

90年ぐらいかな? 92、3年くらいに行ったら、ストッキングのパッケージが全部水中だったんです。慌てて持っているだけのフラン全部出してね(笑)。

まだユーロじゃない、フランの時代だったんで。とにかく何フラン持ってんだ、何個買えるかと。東洋人がストッキングをまとめて買うなんて、さぞかし気持ち悪かったと思いますけど(笑)。

(会場笑)

菊地:今そのアーカイブを探すとYouTubeに載ってますね。すごいですね。なんでも載ってますね。全部水中撮影で、ストッキングの宣伝のために潜らせてるんですよね。皆さん大変なスキルで、すごいお金をかけてやってる。古典的な価値ですよね。

古賀:今年(2015年)のワコールのカレンダーが水中撮影なんですよ。外国のモデルさんなんですけど。「ワコールの下着だったら、日本人で撮ればいいのになー」みたいに思っちゃうんですけど、すごい素敵なカレンダー。水中ニーソはファッションフォトになってないですからね。

菊地:ギリギリですよ。REALISEさんがもうちょっと関連してきたら、ほぼファッションフォトですよ。

本橋康治氏(以下、本橋):なんか近いところまで来ているような気がしますね。

菊地:もう臨界までは来ているような気がしますよね。

古賀:アートとファッションとオタクやポルノとの交差点みたいなところを……本来は交差しないんですけど……まあ、アートとファッションはするか。

菊地:全部しますよ。

古賀:交差点上にあるほうが、プロダクトの飛距離が長くなるので。駅前に置いといたほうがみんなに見られのと一緒で。

スキルアップはエロティック

菊地:今回は、さっきの話に戻りますけど、古賀さんが興奮されたことが伝わってきますよね。これはかなり興奮してます。

古賀:未収録の写真にも興奮したものがいっぱいあるんですよ(笑)。撮れ高が多すぎるので。

菊地:スキルが上がってくるのを見るのって興奮するんですよね(笑)。

古賀:確かに。

菊地:女の子のスキルが上がってくるのを見るのは、かなり興奮しますね。一般的には「マイフェアレディー症候群」と言われてますけどね。何にもできない女の子が、だんだんうまくなっていく。国によっては、逆に「ヒギンズ症候群」って言ったりしますけど。

古賀:興奮しますね。

菊地:ハイ・スキル自体に興奮するし。

古賀:エクストリームな感じに。

菊地:そうですね。ハイ・スキルの人が、さらにどんどんうまくなっていくのは、2度美味しいですよね。まぁ、古賀さんじゃないと経時的変化は見れないわけだけども。

古賀:ワーゲンさんも一緒になってね。

菊地:ワーゲンさん、若返ったもんね(笑)。

(会場笑)

菊地:回春の力を持っているというかね(笑)。すごいと思いますよ。アイドルを愛でる人は、そこを見ているわけですよね。毎度毎度応援していると、だんだんうまくなっていくとか、あの娘ががんばったとか、そういうことじゃないですか。

私はやらないからわからないし、わからない世界のことを推察で言ってはいけないんですけど。まぁそんなことじゃじゃないかなとも思いますし。

古賀:でも演奏家として他の人を見てると、そういうことがいっぱいあるわけでしょ?

菊地:まぁそうですね。もうギリギリですけど、本当そうですよね(笑)。素人の女の子に歌を教えて、だんだんプロとしてうまくなっていくのを見たら、そりゃ興奮しますよね。まあ興奮しすぎちゃってね、言えないことをやってしまったり(笑)。

それが水中写真だったりしたら、「自分の人生、なんだろうな?」と悶々としますけども、ここにはエロというか、ハメ撮りみたいなものがないから素晴らしいですよね。だって、1対1で撮っているわけだからハメ撮りと同じじゃないですか。

古賀:まあ、確かに。

菊地:……それはグラビアも一緒か。

古賀:アップグレードさせる・していく、みたいなものが。

菊地:スキルアップは、やっぱりものすごいエロティックですよね。スポーツ界が上がっていくことの要因ですよ。やっぱり根本にエロティックがないと、何にも上がっていかないから。

これもバカバカしい設定ですけど、スポーツ界が「別にスキルアップしなくてもいいや」っていう世界だったら何にもないですからね(笑)。

(会場笑)

菊地:スキルアップしかないんだから。0コンマ1秒ずつ縮めていく世界だから、そりゃ興奮するよね。

古賀:「更新した!」っていうね。

スキルアップの中の苦悶が消毒されてしまうと?

菊地:そこには若干、細かくて本当にミリ単位の話だけど、苦悶も入ってくるのね。水中ニーソでは写されてないんだけれども、スキルアップの最中、露骨な苦悶じゃないし、事故で溺れかけてるとかそういうことじゃなくて、頑張っていること自体に、少し苦悶が入っているわけなんですね。

歌の場合だと、高い声を出すのは、やっぱり楽に出る音じゃないから、高い音を出した瞬間にちょっと顔が歪んだりするのがいいっていうのが、全部つながっちゃってる。セックスと。ただ、そこが全部消毒されて結果だけが写ってるっていうところも素晴らしいですよね。

水中フェチっていうものの行方として、窒息の苦悶を入れないかたちで今君臨してるのは、考えようによってはすごいことだなと思います。ほぼそれで動いてきた世界だから。

古賀:本来、苦悶がコアだと。

菊地」それがエンジンだったのに、今はエコカーですよ(笑)。エコカーによってエネルギー問題が完全に解決したんですよ。だからフェティシズムのエコカーですね。

(会場笑)

古賀:コンプレックスでぐちゃぐちゃに入り組んでいるはずのものが、突然ある日整理整頓されるわけですもんね。

菊地:というか、エネルギー問題が解決したわけですよね。

本橋:やっぱりその、「一見さんだとどうせわからないだろう」とか「ノンケにはわからない」ところが割り切れたってことなんですかね。

菊地:そうですね。むしろノンケの人のほうに広く敷衍したんですよね。

古賀:エンジンがなくてもアガるわけですものね。

菊地:ガソリンで駆動してきた古参のオールド・スクーラーのファンたちは、「すげえものだ」と思いながら、リビドーのやり場に困っていると思う。

古賀:「俺がためてきたガソリンをどこに注ぎ込めばいいんだ」(笑)。

菊地:そうそう、「ガソリンいらないの?」っていう(笑)。「電池で走るって? 走るならいいけどさ。高級車だけど。走るの? ……走っちゃうのか」みたいな感じはあると思う。僕はそう思って見てるんですよね。だから、車が高級だから鑑賞してますよね。

古賀:ガソリン自体は、何万ガロンってお持ちなんですよね。

菊地:そうです。まあ、もっとですけどね(笑)。

『百万弗の人魚』のエスター・ウィリアムズもエコカーだった

古賀:僕は今あんまり使えてないけど、かつては僕もガソリン駆動で、だから『blue.』とか作ってたし。ワーゲンさんなんて、誰よりもガソリンを持っている人なのね。

菊地:そうですね。やっぱりオールド・スクーラーですよ。まぁオールド・スクーラーって言っても、100年いるからなぁ。

古賀:水中フェティッシュのオフ会で、みんなエンジン自慢とかしてたのに、タンカー(ワーゲンさん)がやってきたみたいな(笑)。

菊地:巨大タンカーね(笑)。ただ「100年史」見ると、やっぱりエコカーは100年前からありましたよね。『百万弗の人魚』のエスター・ウィリアムズは、別に1つも苦しくないもんね。むしろ地上と同じように振る舞っているわけで、あれは関係ないところにガソリンを撒いて火をつけていたような感じですよね。

車自体はガソリンで動いてないのに、ガソリンをそこに入れるような時代があって。あのときは、もっとエレガンスに見てたんでしょうね。「浮遊してて、天女みたいで綺麗だな」っていう価値観だったけれど、だんだんガソリンが底をついて、苦悶と結びつく時代があって。

古賀:『海底の黄金』くらいには、はっきりとガソリン駆動になるわけですね。

菊地:そういう意味では1世紀またいだって感じですよね。100年後にまた戻ってきたっていう気がしますけど。

古賀:エスター・ウィリアムズまで戻したっていう。

菊地:エスター・ウィリアムズ以前ですね。マーメイドまで戻した。原初期に戻した感じじゃないですかね。あの時、100年前に苦悶で金取ろうなんて、ポルノしかなかったわけで、今よりもひどい穢れだったわけですよね。

古賀:日本以外の国はすごくレーティングが厳しいので、セックスによる苦悶が表現できないじゃないですか。だから息止めの苦悶とか、荷物が重いみたいな苦悶とか、そういうポルノが出回っていて、「これはセックスではない」と言い張る。

菊地:YouTubeとか、そればっかりですよね。

古賀:「世界で一番レーティングのゆるい国、日本」みたいなのがあって。こんなのつくらなくても、苦悶が見せたければ、文字通りのセックスの苦悶のプロダクトがいくらでもある。

水中フェチを探すためにパソコンを購入

菊地:そう。でも水中の苦悶は、日本では少ないですよね。

検索ワードとして「torture:拷問」あるいは「escape:脱出」あるいは「pale:危機」。それで検索すると、だいたい海外の水の中で苦悶する映画のシーンのカットアップが出てくるんですよね。

日本のものでそれがあるかっていうと、なくて。日本のものは全部ニコニコしているから(笑)。あるいは古賀さんの動画が出てくるんですよ。だから日本で水中で苦悶というと、ほんの1部黄金期があって、それらのプロダクトが少ないからワーゲンさんが1つ残らず持っていったっていう(笑)。

(会場笑)

菊地:「全部もらえるんだ!」っていう世界。

古賀:オフ会行くと全部コピーいただけましたからね(笑)。皆さんにはわかりづらいんですけど、15年か17年くらい前、菊地さんは検索エンジンに「水中 セックス」みたいなワードを入れて検索したわけですよね

菊地:自分だけの変な趣味ではないという確信があったの。

古賀:「俺以外にいる!」と。

菊地:絶対地球上にいっぱいいる、下手したらマンションの隣にいると思って、どうやったら集められるのかなと思って、それでパソコンを買ったんですよ。

どうやらインターネットというものがあるから、うまくすると「世界中に散らばっている真田十勇士みたいな人たちの玉が光り出して、バーッと集まってくるんじゃないかな」みたいな。そしたら実際集まってきちゃった(笑)。

古賀:菊地さん家にね(笑)。

菊地:俺の高円寺のマンションに(笑)。牧歌的な時代ですよね。「オフ会」とか言っちゃって、なんのオフだかわからないけど、みんなで飯食ったり、コレクションを持ち寄ったりして。

古賀:ワーゲンさんは、キングなんですよね。

菊地:ワーゲンさんは圧倒的なキングだったですね。

古賀:菊地さんが、途中からオフ会に来られなくなるじゃないですか。

菊地:そうそう。僕は言いだしっぺのオピニオンリーダーだっただけで。あとはちょっと、アレしてましたけどね。

古賀:何回かオフ会を続けていくと、みんな「もうネタを出し尽くしたね」って言って単なる飲み会になっていく中で、ワーゲンさんは「まだ自分のコレクションの一部なんだけど……」って(笑)。

菊地:ネタの出し疲れがないっていうね(笑)。枯渇がない。すごいですよね。

古賀:みんなが「タンクの大きさが違う」って言い合ってる中にタンクローリーでやって来るっていうような人で。

菊地成孔氏が語る「実践派」エピソード

古賀:今菊地さんが50代で僕は40代ですけど、当時だと30代と20代で、20代は当然持ってないじゃないですか。持ってないし、知らない。持ってる・知ってる自慢大会のオフ会だと、超弱者なんですけど、後に「作れる」っていう。

菊地:そうそう。そこに回ってね。三国志ですよ。一番コレクションが少なかった人が、今度は作り手側に回って天下を取った。

古賀:おじさんたちが砂金を集めている横で錬金術を発明しちゃったということですね(笑)。

菊地:そうですね。

古賀:ワーゲンさんのすごいところは、そこでこっち側を支援するところですよね。

菊地:そうですね。でも財産がすごいから。アブダビの石油王ですからね。そのとき私は自分でプライベートで撮ってたんですよ。今やってなくて時効だから言いますけど、日本で一番早かったと思いますね。セックスのハメ撮りじゃなくて、プールのあるラブホテルで、そういうものを撮ってたので。素人芸ですけど。

インターネットのない時代と自分に名声がなかったことに、神に感謝しますけどね。というのは、その子の家に全部置いてきちゃってるので。世が世なら完全にリベンジポルノとして上げられてますよ。

別にポルノじゃないけどね。少なくとも映像中はポルノじゃない。でも、上げられたら終わりだと思ってビクビクする時代も終わった。「どうやら上げられない」ということがわかったので。

古賀:「菊地成孔に撮影されました」っていう映像が(笑)。

菊地:たまさか、手前がちょっと出てる場合もありますからね。鏡とか多い世界だから、ヤバいです。本当に。そういうことも実践してたんですよね。それは僕の場合はセックスと密接にというか、地続きにつながっていたので。

女性がいるのでアレですけど。今はもちろん、全然やってないですよ。何十年もやってないけど、当時はやってたんですよね。「実践派です」っていう。

古賀:8ミリテープをいっぱい回してたんですよね。

菊地:そうです。8ミリテープを、でっかいカメラで回してたんです。

古賀:ホテルにすごい機材を持って行って(笑)。

菊地:うん。撮影の人だと思われてた(笑)。まあ、ちょっとイベントなんかでは言えないようなことなんかもしたりして。

それで古賀さんは作る方にまわって、ワーゲンさんは石油王として君臨している(笑)。三国志ですよ、本当に。

古賀:ワーゲンさんは誰よりもガソリンがある。で、僕がガソリン駆動じゃない車を発明した。

菊地:そうそう。私は収集家になったっていう(笑)。絵のコレクターみたいな感じですね。

水中ニーソキューブ