恋愛は美男美女のもの?

牛窪恵氏(以下、牛窪):彼ら(恋愛しない若者たち)の背中を押してあげられたらなというのが、この本(『恋愛しない若者たち』)を書いた一番の理由でした。ここからぜひ干場社長に入っていただいて。

恋愛しない若者たち コンビニ化する性とコスパ化する結婚 (ディスカヴァー携書)

干場弓子氏(以下、干場):牛窪さんから、5本ぐらいの本の企画を頂いて、どれも興味深かったんですけど、「恋愛」にしようということで決めさせていただいた経緯からお話します。

2008年、山田昌弘さん、白河桃子さんと一緒に、『「婚活」時代』という本を出させていただいたんですけど。そのとき山田昌弘先生がおっしゃったことがすごく印象的で。

「恋愛というのは、そもそも美男美女のものだ」と(笑)。恋愛結婚至上主義っていうんですか?

牛窪:はい。

干場:恋愛結婚至上主義が生まれたのは、ほんのこの数十年のことであると。それまではもちろん経済的な要因など、多くの人が恋愛とは関係ないところで結婚していたと思うんですね。

恋愛が美男美女のものだったと言われれば、まあそうかと。では、どうして美男美女でなくても結婚できたのかというと、私よりももうちょっと上の世代の、恋愛結婚そのものがなかった時代には、職場結婚が盛んでした。とにかく結婚しないでいると上司が「さっさと結婚しろよ」とか言って、繋げると。それから、結婚相手を探す一般職も多かったし。

それから、お見合い結婚。私の友達でもお見合いは結婚ありました。名家などは皆、お見合い結婚でした。

女性が、今の自分よりちょっと上の生活をするには、結婚するしかなかったというか、女性は結婚する以外に、ほとんど生きていける道はなかった。だから、恋愛力のない男性でも結婚できたと。そういうことですよね。

牛窪:はい、そうですね。

干場:そうなんだけれど、今は違ってきたと。「恋愛結婚が正しい」という、そもそもの仮説を一旦取っ払ってみたところで、もし9割以上が結婚したいんだったら、恋愛と結婚のあり方自体を考えようと。そういうことですね?

牛窪:はい、そういうことですね。ありがとうございます。 この場を借りてあれなんですが、干場さんに最初にアプローチしたのが、Facebookでですね。ビジネスマナーとしては本当になってないんですが。

昔から干場さんに憧れてたっていうのもあるんですけど、「一度お会いできませんか?」っていうメールを出したのが最初です(笑)。

干場さんがこの本を出し終わった後に、「牛窪さんって繊細なところと大胆なところがありますね」って、さらっとメールで書かれてたんですが。

どういうあたりがそう思われてたのかっていうのが(笑)。アプローチがやっぱり失礼だったとか、そういうことだったんでしょうか。

干場:いや、全然そういうことはない。ごめん、覚えてない(笑)。

牛窪:すいません(笑)。この大胆っていうのはどういう意味だろうって、ずっと思ってたんです。

干場:たぶん、表現じゃないでしょうか。

牛窪:「コンビニ化する」とか、そういう言い方? なるほど。

干場:皆さん、取材の方も多いと思いますけど、すいません、記事にならないようなつまんないこと言って良いでしょうか?

牛窪:もちろん(笑)。

エッチ後のラブホ割り勘は、女の価値を下げる?

干場:私、世代が違うのかちょっと違和感をもっていたことがあるんですよ。先ほどのお話の中で、「ラブホ割り勘に驚いた」というようなことがありましたが、なぜ割り勘がいけないんでしょうか?

男がいつも払うべきというのは、私に言わせれば、女性が自分のセックスを売り物にしてるってことじゃないですか。だって同じように自分も楽しむんだったら割り勘で良いじゃないですか? それから、お給料も今は男性も女性も変わらないし。

牛窪:本当、その通りなんですね。

(会場笑)

干場:そこにすごい違和感があるんです(笑)。

牛窪:すいません。そうなんですよね。だから、私達(バブル世代)が、いかに女性を売り物にして、男性からお金を出させてたかっていう。ただ、バブル世代の青春時代は、まだ「男女平等」が根付いておらず、均等法も社会に浸透する前。「女性」を前面に出して男性に評価されないと、という焦りもあったと思います。

一方で、私、一番びっくりしたのが、08年に20代の未婚女性たちにグループインタビューしたとき。「ラブホで割り勘」が4割もいたので、「どのタイミングでお金を出すか」って聞いたんですよ。

そしたら、エッチが終わった直後や、そのあとスタバとかに行ったときに、「私も半分(4000円前後)払うから」と言ったり、あるいはそのホテル代を払う瞬間に、彼氏のポケットにこっそり3000円ぐらい入れる、などと言うんです。

まだ、エッチの前に払うっていうのは何となくわかるんですけど、終わった後に払うって、何かこう、それも不平等なんですけど、「私、ちょっといまいちだったかな?」みたいな、そういう「女性の価値」を下げる感じにならないのかなっていうのが、すごい驚きでした(笑)。

干場:楽しませてくれてありがとうっていう意味でしょうか。

牛窪:なるほど! そういう感謝がないところが、男女不平等なバブル世代の感覚だったかもしれないですね。

干場:私は1つ上の世代、ウーマンリブの時代だったので。割り勘じゃなかったですけど、でも、後にして考えると変だと。特に今の時代ですと、大きい会社なら20代くらいだとお給料変わらないので。女性のほうが良い。

恋愛は一部の特権階級

牛窪:逆転現象ね。本にも書きましたが、20代ではすでに男女の年収の逆転も起こってますね。

干場:収入があるほうが払えば良いのかな。うちにも若いスタッフがいっぱいいて、今35歳くらいになる女性社員が新入社員のときに自分から告ったという話をきいて驚いた記憶があります。10何年前ですよ。

要するに、女性から告白するのが、半々ぐらいだと。10何年前。そのときは私も驚きました。そうだったんですか?

牛窪:はい。実際統計上も今、「告白」については男女割合が同じか、調査によっては逆転現象が起こってます。私も明治大学の諸富先生と『【年の差婚】の正体』を書いたときに調査をしましたら、やはり6割が女性から告白をしてました。

付き合ってるカップルでも、やっぱり女の子からすると、ホンネでは男性から告白して欲しいんだけれども、待ってるといつまで経っても何も起こらない。だから、結局自分のほうから「付き合う?」などと声をかけると。

男性からの告白も、「うちら付き合ってることになってるけど、どう思う?」とか、「とりあえず付き合っとく?」みたいな。それもLINEとかメールとかでですね(笑)。

男性からすれば、告白を断られたときのショックを和らげようっていうのもあるようなんですけど、もうひとつは『101回目のプロポーズ』みたいなことをすれば、ストーカーと思われてしまう恐れもある。

干場:それもありますよね。私は早くに結婚したんですけど、旦那との馴れ初めを聞かれたときに「彼との約束を5時間くらいすっぽかして寮に帰ったら、寮の前で(彼が)待っていて、それで情にほだされて」って話したら、「干場さん、それストーカーです」って言われて。ああ、そうだったんだって(笑)。今本当に、恋愛できないですね。

牛窪:そうなんですよ。だからナンパもね、統計的には減ってますし、男性からすると冤罪リスクみたいなのもあるので。SNSで常に友達から見張られてるっていうのもやっぱりね。

干場:先ほどのお話の中で、恋愛がダサいとか、SNSの中での話とか……。さっきの話で言うと、恋愛って一部の人にしかできないのに、大多数のできない人たちが足引っ張っているんじゃないですか? そんなことない?

牛窪:それもありますよね。一部の特権階級のものみたいになってますから、逆にしない方が大多数なんで。あんまりこういうの世代論で言うのもなんなんですけど、やっぱりゆとり世代の一番の良いところは、過度に競争して誰かの足引っ張ってやろうっていう意識があんまりなくて、皆で仲良くして、皆で社会を良くしていきましょうって。

特に今の20代半ばとその下は、学校で何らかのボランティア教育や環境教育を受けてますし、周りの空気を読むっていうこともとっても重視するんですよね。

逆に言うと、自分が集団から浮くっていうことをものすごく怖く思ってると。背景には、深刻ないじめの問題なんかもあるって社会学的には言われてますけれども。やっぱり浮いたり、悪目立ちしたくないっていうのは、彼らの中で強いんですね。

息子と母親が2人きりで海外旅行は変なのか?

干場: 2035年には50歳で結婚していない、いわゆる未婚の男性が38パーセント、女性が34パーセントになるんでしたっけ。

牛窪:女性では4人に1人。生涯未婚ですよね?

干場:たしか女性も30パーセント以上でした。30パーセント代前半で、男性が30パーセント代後半だったんですよ。

息子が高校1年生か2年生のときに、2人でイタリア旅行に行ったんですね。そしたらそれを聞いたうちの夫の友達とかが、私を非難したんですね。

牛窪:2人きりでいらっしゃったんですか!?

干場:2人きりでね。「高校生にもなってお母さんと2人で旅行に行くなんて信じられない」なんて、すっごい非難されたんですが。

でも、30代前半かそれぐらいの東大出の社会学者の方とご飯食べててそのことを言ったら、「それ、普通じゃないですか」って。「僕も大学時代からお袋と2人でよく行きました」って。

「お金出してもらえるから」とか言って。そのとき「うちは異常なのかな?」って悩んでいたから安心しました。

牛窪:はい、実際、取材でも多いですよ(笑)。

干場: 2人で旅行なんて普通。特別なことではない。

牛窪:統計的にも、親と仲が良いと答える男性の1割以上が、お母さんと2人で海外旅行に行ってますから。さっき干場さんおっしゃったように、それが当たり前と思えば、全く不自然なことじゃないんですよね。

「一生おひとりさま」は不安

牛窪:実際に人口の話で言うと、野村総研の見込みでも、2030年に全人口の半数がおひとりさまになります。

これはもちろん高齢者の女性が増えてくるっていう部分が大きくて。男性より平均寿命が6~7年長いですからね、そこはあるんですけれども。ただ、若い世代も含めて、今以上に結婚しなくなるだろうっていうところも大きいので。

干場:1つ疑問なんですけど、調査をすると、90パーセント以上がいずれ結婚したいと思っていると。それは本当なんでしょうか?

牛窪:データ上はそうですね。ただ、インタビューすると、「本気で結婚したいのか」と言えば、微妙なところですね。でも、確実に言えるのは、おひとりさま不安が震災後確実に高まっていると。

干場:ひとりだと寂しい。

牛窪:ひとりで生きるっていうのは、絶対イメージしたくないんですね。親御さんと一緒に生活してる若者は、今の生活にそこそこ満足してるし。「でも、親御さんもいつかは先に亡くなっちゃうんだよ」っていうこと言うと、まあ7、8年前からその質問してたんですけど、「やめてください」「考えたくないです」って泣き出しちゃう子とかいるんですよ。

彼らも、もちろん気付いてはいるんですけど、自分の人生は親をなくしては考えられないっていう状態ですよね。「国も会社も守ってくれない」「親が最後の砦だ」っていう意識もありますから。

干場:先程女性の経済力のことを申し上げましたが、うちの息子なんかを見ていても、男性は男性で未婚が楽っていうのはありますね。

牛窪:楽?

干場:要するに、結婚しなくても家事やいろいろお母さんが何でもやってくれるから。今は結婚しちゃうと、勤めていても家事も育児も分担じゃないですか。大変ですもんね。

牛窪:そうですねえ。女の子でも30代でパラサイト、結婚するまで親と同居してる方が75パーセント。男の子でも70パーセントが同居してる。また、ある調査を見ると、男女ともにそのうち3割以上が、家に1円もお金入れてないんですよね。

女の子も実は、同居してる方の9割以上が家事をやってません(笑)。ですから結婚するとなると、女性もそうだし男性ももちろんイクメンだなんだって言われるわけですから、今より確実に大変にはなるんですよね。

だからそれを上回る価値として、結婚とか子作りっていうことを考えられるかどうか。未来への保険として「結婚・出産は早いほうがいい」と考える子と、二極化が進んでる状況です。東大なんて、妊活教育を男の子にも行ってますから、そういう子たちはやっぱりコスパでいろんなこと考えて、計画的に「どうせなら早いほうが」と考える。

まあ人生、計画通りにはいきませんけれども、本気で計画的な人生を送ろうとする子たちは、割り切って早め早めに手を打つんですよね。その機会にも恵まれやすいし。でも、一般の人たちっていうのはなかなか、そこまで余裕がないんですよね。

今の幸せを守ることに精一杯で、そこまで先のこと考えたくないし考えられないっていう状況なので。なかなかそこを、当面の現実問題を差し置いて、今どうこうしなきゃっていうところまでいかないですよね。

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