4割の女子がラブホテルでも割り勘

牛窪恵氏:私が草食系男子の研究に入ったのは2006年で、本を書いたのが2008年なんですが、ここに至るまでに、男の子が非常に恋愛クールだなというのは感じていました。

ところが、その直後から、女子についても「これおかしいな」、「恋愛にあまり期待してないな」と思うようになりました。「どうせこういうのは物語の中だけだし」「バーチャルでキュンキュンすればいいかな」「私にはどうせ無理だし」と可愛い女の子たちが言うんです。

一番最初にびっくりしたのが、2008年だったかな。『モテるおカネのつかい方』という本を書いた時に、2、30代の女性400人に調査したのですが、なんと20代前半の女の子たちの4割が「ラブホテルでも割り勘」と言っていました。

私もすごくびっくりしまして、「ラブホテルで割り勘って女の子としてどうなのかな」と。「そこまで自分を下げなくてもいいんじゃないかな」と思いました。こう言うと本当に語弊があるんですが。

あまりに驚いたので、若い女の子たちに、しかも読モみたいに可愛い女の子たち6人に急遽集まってもらいまして、グループインタビューしました。その内の半分以上は、やはり「ラブホテルで割り勘」と言っていました。

しかも、その中で恋愛というプライオリティーがとっても低いんですね。エッチをするにもかかわらず……。

今の若者にとって、恋愛はコスパに合わない

私たちバブル世代の女性は、多少大げさに言えば、馬に人参をぶら下げるみたいに、「私とエッチしたいでしょう?」どうだどうだと言って男の子にいろんなお金を出してもらったり、美味しい所へ連れて行ってもらったりしようっていう部分もありました。

でも、今の若い女の子たちはものすごくクールで、男の子たちも恋愛って面倒だ、しかも恋愛の話をしようものなら、「なんなの? リア充自慢なの?」「他に楽しいこといくらでもあります」「恋愛なんてしなくても毎日充実してるから」。これらが20代の子たちがよく言うセリフです。

あるいは、「恋愛は何かネタっぽい」と。それから「キミ、恋愛ばっかしてるんだよね」「なんかメンヘラっぽいよね」と。(メンヘラとは)メンタルヘルス板という2ちゃんねるの板に恋愛ネタを書き込む子、さらにはリストカットするような危ない子という意味合いもあるんですが。

それに「恋愛はコスパに合わないし」と。今の若い子たちはコスパ、コストパフォーマンスをよく言います。付き合うとなれば、男の子たちはお金を出さされて、お店の予約もさせられて、その割には別にたいしたこともないなというぐらいの感覚です。

ただ女の子たちも、「コスパに合わない」と言います。これは彼女たちからすると、自分の貴重な時間を彼らに費やしているのにもかかわらず、男の子は美味しいお店も知らない、話もつまらない、気分も上がらない、「3重苦なんですよ」ということさえ言います。

その時間があれば「女の子ともっと楽しいことできたのに」あるいは、「1人で美味しいお店に行けたのに」と非常に後悔しています。

女性は社会進出でコスパ重視化した

これまで、女性たちが社会進出をしていくと未婚化が進むということが、永らく言われてきました。また昨今は、男女平等。女性たちがいろんなお仕事を得る、今年「輝く女性推進」なんてことが言われて、どんどん女性たちが働くようになると、男性にも嫌なものは嫌だよとハッキリ言います。

というのも、私たちの時は、まだ1つ上の新人類時代は圧倒的に専業主婦で、会社で働いていても20代後半で「まだ結婚しないの?」と肩たたきに遭いました。皆さん早い段階でお仕事を辞めて良い男性と巡りあって専業主婦になるしかないと。その過程で多少意にそわなくても、男性に従うべきだという社会風潮もありました。

ところが2005年の段階で女性たちの未婚化が非常に顕著になり、この頃から「負け犬」「お一人様ブーム」なんていうのが起こりました。2010年現在、これが一番新しい国勢調査ですけど、今30代の男性は4割以上、女性は3割近く、東京でも3割越えています、が未婚ですね。

因みに未婚という場合は1回も結婚していない、未だ結婚せずなので、これ以外に離婚した方で、バツ1、シングルという方が別にいらっしゃいます。

独身・シングルというと、バツ1、バツ2がここに加わってきます。今29歳までに結婚したカップルは、36、37パーセントが離婚しています。つまり、3組に1組以上が離婚をしているということで、非常に独身・シングルというのが増えている。

実は日本だけでなく、中国も韓国も女性の社会進出が進んできてから、どんどん負け犬現象が起こってますし、アメリカでは日本よりも10年以上も前に、シングル女性というのが目立ち始めました。

そして、90年代後半に『SEX AND THE CITY』というドラマが出てきました。負け犬女4人のドラマなんてことを言われて、サラ・ジェシカ・パーカーさんとか、おしゃれな自立する女性たち、働く女性というのが格好いいという見られ方をしていたんです。

草食化は日本だけじゃない

ただ、私たちバブル世代は均等法第一世代で、バリバリ働いてつまらない男性と無理に結婚するくらいなら、いい人が現れるまでまだ1人でいいかなというような感覚がありました。でも、今の20代の子たちはいつかは結婚したいんですね。にもかかわらず、「恋愛は面倒」なわけです。

例えば、20歳の時点で交際相手がいる方、これをオーネットさんという結婚紹介所がずっと経年調査をしています。

それによると、バブル期やその直後は、6、7割の男女に彼氏彼女がいました。特にクリスマス前に焦って「彼氏彼女を見つけないと」というのも定番で、ナンパなんていうのも盛んでした。ところが今、本当にナンパが起こりません。ハワイでもナンパが起こらない。統計的にも、例えば「旅先での出会い」はどんどん減っています。

この間、スペイン、ポルトガルの駐在員の方に聞いたら、あちらでも草食系の男性が増えているということでした。アメリカ、イギリスなども含め、彼氏彼女がいない状態というのが全世界的に広がっているようです。

日本でも、20歳の時点で彼氏彼女がいない割合を見ると、いない男子が79パーセント、いない女子が71.5パーセントです。20代全体に広げても彼氏がいない女子が6割、彼女がいない男子が7割強、8割近くですね。

非正規・低年収の男性ほど結婚が遅い

その内の、今年一番びっくりした情報としては、内閣府さんが出した調査ですね。彼氏彼女のいない人の4割前後、女性が実に4割以上が、「彼氏・彼女がいらない」と言っています。その一番の理由が「恋愛は面倒だ」ということですね。15年前の調査では、彼氏彼女がいない人の9割が「彼氏・彼女が欲しい」と言ってたんです。

では、この間に何が起こったんでしょう。よく言われるのが、男性の非正規・低年収が、「失われた20年」の間に爆発的に増えてきたということですね。実際に非正規・低年収の男性ほど結婚が遅かったり、なかなか結婚しにくいというのはこれまでも言われてきました。

現に未婚率でいうと、内閣府の調査では、正規男性は20代の段階ですでに26パーセントくらいが結婚をしています。30代では3割くらいが結婚をしています。ところが、非正規の男性に関しては、20代で結婚する方は1割もいません。30代になっても、まだほとんどの方、9割が未婚ということで。まず正規・非正規が、結婚に関して大きな分かれ目になります。

実はそれだけじゃないんですね。結婚は確かに女性もいろんな条件で相手を見たりしますが、恋愛に関しても、男性の正規と非正規、あるいは年収によって2倍以上、彼女のいる割合に開きがある。

女性はやはりある程度計算高かったり危機感があったりしますので、20代の時は特に非正規の女性ほど結婚が早いんです。ところが、男性は「なかなか条件が……」と見られると、結婚だけではなく恋愛もしにくくなってくる。不況だったり「失われた20年」というものが恋愛市場においても大きな影響を与えているなというのがわかります。

ところがそれだけではないんです。むしろそれ以上に影響を与えていそうな要素がわかってきました。この件はこの後、干場社長ともいろいろやりとりさせていただこうと思っていることの1つです。

7人に1人がセフレあり

それが、私がこの本(『恋愛しない若者たち コンビニ化する性とコスパ化する結婚』)の中の第1章で書きました、5つの恋愛レボリューションということで、一番大きそうな原因が、やはり「超情報化社会と性・セックスのコンビニ化」。いつでもどこでも。性衝動のセルフ化コンビニ化感覚ですね。

そして、2番目が「男女平等社会といわれる中で、男女不平等な恋愛」。つまり男の子とすれば、男女平等が当たり前でそういう教育も受けてきて、就職段階でも何でも「男女同じですよ」って言われるのに、いざ恋愛の場面では、「男がおごって当たり前だろう」「男のくせに予約もしてくれないのか」など、いろんなことを要求されてそれが納得いってない。というのがありました。

女の子も逆に「7人に1人がセフレあり」。これは、『anan』さんのデータなんですが。女性たちは「彼氏がいない」「恋愛は面倒」と言いながら、実は20代の約7人に1人がセックスフレンドという、いわゆる彼氏ではない相手とセックスの経験があって、しかもそれがその相手と1回限りというだけでもないと。これが私がこの本を書く上で一番の衝撃で、うちのライターとも相当議論をしました。

20代や30代前半の子たちは、「牛窪さん、セフレなんて普通にいるに決まってるじゃないですか。なんでそんなことが不思議なんですか?」「えっ、なんでそんなこと。何にも要求せずにそういうことするの? なんで?」「いや、彼氏とはいろいろ面倒なんですよ。1回体許しちゃえば俺の女みたいに言われたり、Facebookとかtwitterとかで行動監視をされたり」。

男の子もそうですね。女の子たちから、「彼女がいるのに、あの子と出かけてる。おかしいじゃないか」「あの子にLINEでハートマーク送ってた。あいつは軽い男じゃないか」なんて、女の子たちから「フルボッコ」にされるんですよ。

(会場笑)

でも、自分は彼女とは単なる友達で、気が向いたときだけエッチする。それがウィンウィンの関係であって、本当の意味で男女平等じゃないですかと。で、今回読者のおじさまたちがすごく食い付いていらっしゃったのが、ここの「女子の7人に1人にセフレあり」の1文ですね。

(会場笑)

私が全国に講演に行くと、よく上の世代から、この部分の質問が出てきます。「なぜセフレが?」と。ただ、今の若者は男女平等社会と言われながらも不平等な状態に置かれているということに、まあ自分で気付いているのか気付いていないのかわからないのですが、「おかしいな」っていうような疑問は感じてるんだなと実感します。

超親ラブ現象と恋愛意欲の封じ込め

そしてもう1つ、非常に大きかった恋愛阻害要因が、「超親ラブ現象と恋愛意欲の封じ込め」。これが、お母様と中学高校になってもお風呂に入る男の子がいらっしゃるという事実で……。

ある有名私立中学の中2のクラスで取材した記者さんによると、そのクラスの男の子の半分がお母さんと一緒にお風呂にまだ入っていると手を挙げたと言っていました。また、尾木ママに聞いたところ、高校生でも何人もいると。

こういうことになってくると、男の子は当然「男性性」を封じ込めます。実際に射精年齢というのも、ここ数年どんどん遅くなっているんですね。そこには親御さんとの関係というのがありそうだと、他の学者の方々も指摘しています。

今の20代は、親御さんのことを皆が大好きと言います。女の子もパパのこと大好きという子が85パーセントくらい。男の子たちもママのことを大好きという子が77、8パーセントいます。

ただ両親のような結婚をしたい男女は、4割しかいません。6割がああいう夫婦にはなりたくないと言ってるんですね。なんで親御さんが好きなのにああいう夫婦になりたくないのかというと、そこにまた彼らの、時代の狭間に翻弄される姿というのがあるなと。昔のように「男女不平等」な夫婦には、なりたくないのでしょう。

自己責任に翻弄される若者

ただ、やっぱり一番大きいと思うのは、「自己責任」という言葉ではないかと。例えば、草食系世代へのインタビューで100人に調査した時に、74人が物心ついたときに、「これからは国も会社も守ってくれない」というふうに親に言われた記憶があると言っていました。すごくショックでした。

2000年代に入って小泉内閣が自己責任という言葉を使った。そういうつもりで内閣は言ったのではないのですが、若者からすると、以来、何かと自己責任を問われる。そういう中でセクハラだ、ストーカーだ、パワハラだ、今ブラック企業なんて言葉もありますけど、何かと自己責任になる。

自分の選ぶ目が悪かったら全部自分に降りかかってくる。それを全部自分で責任とりなさいよ、国も会社も守りませんよ、というような中でやってきた。

そんな中で恋愛というものは、一番コスパに合わない。失うものやリスクが山ほどあるのに、得る物が少ないというところで、ものすごく価値が低下していたんですね。

でも、今いらしてくださっている世代の方は、「この年代になっても恋が1つずつ増えていきます」とかですね。「未だに恋愛が楽しくて仕方がありません」とかいうメールをよくいただきます。私も同じ世代なのでその感覚は、大きくは変わらないのですが。

本音では、若いのに恋愛できる時にしないともったいないでしょうって思うんですけど、こういういろんなリスクを見てくると、確かに今の時代に恋愛することは大変だな、と。私も今の時代に若者として生きてたら恋愛してないかもなって思います。老婆心ながら「恋愛しといたほうがいいよ」と言いたいことは確かですが、それは余計なお世話ですよね。

「恋愛しない若者」へ

ただ問題は、これからお話しさせていただきます干場さんにこのお話をしたときに、干場さんがおっしゃったことです。彼女は、「若者が恋愛しないことは社会としては確かに『えっ』と思うけれども、それだけでは社会に対する問題提起として足りない」と。

つまり、若い子たち、20代の9割近くは「いつかは結婚したい」と言っていて、その結婚したいというイメージは、相変わらず親御さん世代のままの恋愛イメージである。恋愛結婚というものをイメージしている。

にもかかわらず実際には恋愛は面倒で、毎日それ以上にやりたいことだったり、友達とか親との関係を重視している。こういう子たちがズルズルいって結局は恋愛しないとなれば、旧来の「恋愛結婚」イメージを引きずる限り、さらに結婚しない男女が増える。そうでもなれば、日本の国として大問題でしょう。

今、少子化対策で、安倍首相が保育園を視察したり、さらに増やそうとしてますけど、その手前ですよね。恋愛しないから、婚活しても結婚しないんです。しない自由もあっていいんだけど、この状態になってしまうと彼らが望む恋愛結婚に辿りつけない……。

ということは、恋愛と結婚を一旦切り離して、「恋愛はしてもいいし、しなくてもいい」、「でも、結婚は結婚だよ」「恋愛と結婚は、一旦切り離そうよ」という考えに変えていかないと、彼らはなんとなく一生お一人様になってしまう。そのままはっと気付いたときに、「これで良かったんだっけ?」ということになってしまうんではないか、と思うんです。

この「恋愛と結婚の分断」や「恋愛結婚でなく、連帯(レンタイ)結婚」が、この本の第3章に出てくるところなんですが、そこが一番言いたかったことです。これからその概念を広げていかなければならないと思うし、若い子たちがなんで今こういう「恋愛しない」状況に至っているか。

彼らの悩みや不安をずっと補填してきたのは親御さん世代だったり、日本がこれまで蓄えてきた貯金だったりしてるんですね。でもこれが必ずここ10年で破綻します。

だから、この間に何とか彼らに、新たな価値観に気付いて欲しい。親世代の私たちも、「失敗しても大丈夫だから、一度やってみたら?」と背中を押してあげられたらいいなというのが、この本を書いた一番の理由でした。

恋愛しない若者たち コンビニ化する性とコスパ化する結婚 (ディスカヴァー携書)