2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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斉藤知明氏(以下、斉藤):小杉さん、ありがとうございました。ではここからディスカッションに移っていきます。
斉藤:あらためて今回の資料の特に最後のスライドが、全体を表していらっしゃるのかなと思いました。この1910、1920年代までのリーダーシップから、この「リーダーシップ4.0」へと変わるにあたって……この中央集権権力者が生きていた時代にも、成果を出していた時だってあったと思うんです。
斉藤:それがなぜ今の組織だと「成果が出せない」というふうに変わってきていて、バリュークリエイション、支援者型のリーダーシップ、または自己実現をすべての構成員がする必要がある時代に変わってきたんですか?
小杉俊哉氏(以下、小杉):これ、少し時間をかけて説明してもいいですか?
斉藤:もちろん。
小杉:もともとは王様とか荘園領主とか藩主とか、いわゆる「権力者が下々の者を従える」というのが、太古の昔からのリーダーシップの原型ですよね。ザ・リーダー。これを産業界に持ち込んだのが、ヘンリー・フォードという“自動車王”だったと考えられるわけです。
それはなぜかと言うと、世界最強と言われたプロイセンの軍隊をお手本にしたからです。司令官の指示のもと、末端の兵士まで一挙手一投足乱れず動く。それまでモノ作りっていうのは、職人さんが一つひとつ、手で作っていたわけですよ。車だって同様で、作るのに非常に時間がかかり、値段も高い。19世紀までは金持ちの道楽だったわけですよね。
それを1900年初めに産業界に持ち込んで大量生産を可能にした、と考えられるわけです。
小杉:それがどうして分権に移ったか? というと、これはユーザーの変化なんです。
例えば初期の「T型フォード」というのは真っ黒い1車種だったんです。「馬車の延長」みたいな。自動車をみんな手にして、みんな喜んだんですけど、いったんモノを手にしたお客さんというのはいろいろワガママを言うようになりますよね。
「赤色にしてくれ」とか「もっとエンジンをデカくして速くしてくれ」とか「移動にしか使わないから、もっとちっちゃくていい。その代わりに安くしてくれ」とか、いろんなニーズが出てくるわけですよ。
斉藤:多様になってくる。
小杉:それを一人の人間が全て指揮することができなくなって「他の人間に責任者を任せてやらせる」というのが出てきて。これが事業部制ですね。それからアメリカではGeneral Motorsがその先鞭をつけたと考えられるわけです。
これは1920年代後半なんですけど、日本では松下電器産業の創始者・松下幸之助さんが、同じ頃に事業部制を開いているんですね。「任せる」「やってみなはれ」と。その代わり、経理部員を配置して数字は押さえると。この「分権」という先鞭をつけたわけです。
その後、時代は下って1960年代の後半から、日本の高度経済成長期と合致しますが「社員はファミリー・家族である。働く意味を与えて、お互いすごく近しい関係で働く。会社は運命共同体」という、日本型の経営者。これを「調整型」と言っているんです。
小杉:今日お聞きの方がどれぐらいが認識されているかわかりませんが、アメリカの会社でも「エクセレントカンパニー」といわれたところは、日本的な経営・日本的なリーダーをお手本にしていたわけです。
長期雇用がベースで労使協調で、そして年功的な給与体系で運営をしていたんです。「こういう会社がエクセレントで、将来も永続する企業なんだ」ということが、いろんな本でも紹介されたんです。「エクセレントカンパニー」だけじゃなくて「セオリーZ」とか「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とかですね。
それが90年代に入ってから「そんなことしてたら会社が潰れちゃうよ!」というふうに出てきたのが変革のリーダーで「チェンジ、チャレンジ、トランスフォーメーション」。「自転車を漕ぎ続けろ!」「動いてないと死ぬぞ!」と言われて。それでみんな焚きつけられて、一転して日本の経営者たちもみんな変革のリーダーを、1990年代当時は指向しました。
ところがほとんどうまくいかなかったんです。なぜなら変革をするには、いわゆるリストラクチャリング。社員を切らなきゃいけない。生え抜きのトップには至難の業です。「新卒を一括採用して、彼らを育てて事業をどうやってやるか?」ということをやってきた日本企業。
それは高度経済成長期、安定期にはすごく有効に機能したんですが、変革するとか、新しいものを始めるという状況において、逆に足枷になってしまったわけですよ。押し並べて戦略コンサルタントを雇って「戦略」を駆使したけど、当時はなかなかうまくいったところはないということです。
それで今世紀に入っても、強い、カリスマリーダーを指向している経営者・管理職もまだ多いんですが、実際には世の中を見たら「別に経営者が答えを持っているわけじゃないでしょう」と。「コンサルタントの言うことを聞いたら、うまくいくわけじゃないでしょう」ということが、もうわかっちゃったわけですよ。
そうじゃなくて「一人ひとりの力を引き出す」「みんなで考える」。例えばこのコロナ禍というのは、社長だろうが新入社員だろうが、みんな初体験なわけですよ。どうしたらいいかわからないですよね。だったら、一人ひとりの知恵を活かすやり方をしていかないと、企業の発展や活性化ってないんじゃないですか? ということで、バリュー、イノベーションを生み出すためには「支援型のリーダーシップ」が必要だというふうに、変わってきているということだと思います。
斉藤:今の小杉さんのお話を聞いていて、僕の中で「なにが一貫して変わり続けているから、リーダーシップ・会社のあり方・法人のあり方が変わらないといけなかったのか?」というのを考えていたんですけど。要は「裕福になった」ってことなのかな? と捉えました。
世の中が裕福になって、いわゆる「生きなければならない」という状態ではなくなった。興味の多様性が生まれて、選ぶ権利を消費者が持ち始めたことによって、まずはそれをたくさんの人が享受できるようにしましょうというところで、フォードさんが中央集権にして、コストを削減して、スケールメリットを取れるようなマネジメントを始められました。
そして多様な要望が出ていたので、中央集権が権力分散型になりました。その結果、労働者は「その会社だけで生きなければならない」こともなくなって、多様な会社選びができるようになったし、職業選択の自由も出てきたからこそ「(社員は)家族だ」という調整者型のリーダーシップが出てきて。なおかつ、時代の流れによって変わっていく多様性に対応していくためには、固定化してはいけないから変革者が生まれて。
さらにもっと多様になってきたから「(リーダーシップは)事業部長だけが考えるもの」ではなくて、一人ひとりが市場を捉えなければいけないようになってきたから、支援者型のリーダーシップが生まれていて。「意思決定をする人の割合が増えます。その人たちが使えるリソースの量を増やします」ってしないと、この多様化には対応できないから、どんどん組織が変わってきている。もう、必然の流れなのかな? と考えたんですけど、この捉え方っていかがでしょうか。
小杉:正しいと思いますね。あともう1つが「マズローの欲求五段階説」で、最初のまさしく貧しかった時代にはとにかく「生存欲求を満たす」ことが重要で。食うために働くというのが、最初にくるわけです。
斉藤:なるほど。
小杉:そこからだんだん社会的な承認といったような欲求があって、最後、自己実現にいって。その自己実現のさらに最高位に、マズローが「サムシンググレート=自己超越」と晩年に示唆したと言われているんですけど「世のため人のため、世の中になにを貢献するか、残すか?」という上位概念があるんだと思います。
だんだんそういうふうに、人も満たされていくと変わっていくわけですよね。そういったこととも合致していると思います。
斉藤:なるほど。まさに「裕福になった」という表現をしてしまいましたけれども、そこが満たされるようになって高次の欲求が現れてきて。すると多様性が生まれてきて、という流れなのかなと。
小杉:そうですね。ですからこれが「全世界的にみんな当てはまります」というわけではないですよね。まだ貧しい国々、例えばアフリカの国々では、まだそこまで、とてもいかないわけですから。
斉藤:そうなってきた時に、いわゆる「日本の経営者」とくくってしまってはいけないかもしれないんですけれども、もっとも「ジャパン・アズ・ナンバーワン」「日本型」と言われていた「調整者の時代」から、この「支援者型」に変わるというのは必然的な流れというか、やらないと生き残れない流れなのかな? と。すごく難易度が上がってると感じるんですけれど。
小杉:そのとおりです。
斉藤:これはどうすれば乗り越えていけるんでしょうか? 「リーダーシップとマネジメントの違い」と表現されていらっしゃいましたけど。
小杉:この難易度が高いのはなぜか? というと、自分が育ってきた環境と違うからですよね。今の管理職以上の人というのは、上からめちゃくちゃ叩かれたりとか、とにかく「四の五の言わずに言われたとおりやれっ!」というふうにシゴかれて、それに耐えに耐えて上がっていく、と。そういう人が上にいくとどうなるか? というと、同じことをやろうとしてしまうわけですよね。なので「管理しようとする」わけです。
斉藤:なるほど。
小杉:「俺の言うことが聞けないのか!?」「私の言うことが聞けないの!?」とやってしまうと、これはジェネレーションの問題があって。デジタルネイティブの人間たちはそういう育ち方をしていないので、反発しますよね。それでマネージャーの方は「なぜうまくいかないんだ?」と。こういう悩みが非常に強いんです。
なので企業としては、コーチングや1on1ミーティングのやり方とかのトレーニングをしたり、いろいろ策を行うわけですけど。根本的に発想・思想が「リーダーシップ3.0の支援型」になっていなければ、なかなかそういうやり方を教えられてもうまくできない人が多い、というのが現実じゃないかなと思います。
斉藤:チャットでもいただいていまして。この「リーダーシップ4.0」って、「役職についてる方がリーダーシップを発揮しないといけないんだ」という「3.0」から、「役職者じゃなくても、一人ひとりがリーダーシップを発揮しないといけない」となったら。ある意味、社会の多様的欲求に答えるために一人ひとりが自律的に意思決定できて、なおかつ革新を示そうとして長期的展望を語れるようになるというのって、最終形なのかな? と感じました。
変わりゆくマネジメント・リーダーシップのあり方というもので、「4.0」の先の世界とかってあるんでしょうか? もう、ある程度まで進みきったかなという気はしたんですけど。
小杉:私も「4.0」で最終形じゃないかな? というイメージを、今は持っています。これはAI・ロボットの共存みたいなのになってくると、また違うフェーズが起こりうるんですけど。少なくとも人の間でやってるということでいうと、「4.0」が今のところ終着点かなと思いますね。
質問にもありますけど、「4.0」って、さきほど斉藤さんもおっしゃいましたように「マネジメントする側じゃなくて本人にとってもハードルが高い」というのは、間違いないんですよ。ただ『起業家のように企業で働く』というイントレプレナーの本も書いてるんですが、確実にどの組織にも自律で会社を利用して、会社のリソースを利用してやりたいことをやっている人がいるんです。これは、いわゆるアントレプレナー,起業家よりずっと楽なんですね。自分で起業するというのに比較して。
斉藤:絶対に楽です。
小杉:だったら、会社を使ってやりたいことを引っ掻き回してやればいいじゃない? って。大企業だと、その比率が2パーセントぐらいしかいないんですよ。50人に1人、100人に2人ぐらいなんですね。でもそれだと組織はすごく不活性なんです。
だからこの比率を20パーセントにするというお手伝いを、いろんな企業でしてるんですね。いわゆるイノベーター理論だと、イノベーターは2.5パーセントぐらいしかいない。でも彼らが自由に動けるような制度とか施策を行い、背中を押してあげる。そうするとアーリーアダプターがついてくるんですね。そうするとマジョリティがくっついてくるんですよ。
日本企業の場合は、タレントオンデマンドではないわけです。「ビジネスに必要なスキルのある人間を採ってくる」というんじゃなくて、新卒を採る。さっきお話ししたように「彼らをトレーニングして、どうやってビジネスをやるか?」って考える。そこは当分変わらないと思うんですよ。中途採用とか出戻りとか併用しながらも。
そうするとやっぱり「トップだけ走らせればいい」という考え方じゃなくて。よくアメリカ企業とかだと、優れたエンジニア1人で300人分ぐらいの働きがあるから「トップオブトップスを採ってくるんだ!」っていう発想で動かしてる会社も、けっこうあるわけですけど。日本企業の場合、なかなかそういかないですよね。
そうすると「マジョリティをどうしたらいいか?」ということを考えていくなら、やっぱり意図的にそういう“数パーセントのスーパースター”じゃなくて、そういう人が“少なくとも20パーセントぐらいいる”という状態にして、後から「こうやっていいんだ」「こんなふうにやれるんだ」ってお手本があると、マジョリティが動いていく、というほうが機能しやすいのです。
そうなれば過半数の社員が自律的に動くようになる、と。こんなことを実現してる会社もいくつかありますね。
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