リソースにあふれる、日本の大手企業

斉藤知明氏(以下、斉藤):僕自身、大学時代からスタートアップやベンチャーばかりで仕事をしてきた人間なんです。スタートアップの時も、3人で「やったぁ、お金調達できた!」といっても5,000万で……みたいな世界で戦ってきていたのが、日本の大手企業にはもうリソースにあふれてるなと思うんですよ。

小杉俊哉氏(以下、小杉):そうなんです。だからそういう人から見ると……。私もそうなんですけど、大手企業が羨ましいんですよ。

斉藤:羨ましい。数億円、数十億円だったら、ちゃんと稟議で説明できればとれるし。リソースってお金だけじゃなく、それこそ今までの顧客基盤だったりですとか。

小杉:そうです。名刺が一流企業のものだったら、その名刺で人が会ってくれるじゃないですか。

斉藤:(笑)。

小杉:あと、毎月決まった給与が入りますよね。

斉藤:そうですね。

小杉:これがでかいんですよ。

斉藤:でかいですよね。

小杉:自分が業績を上げようが上げまいが、ちゃんと給料が払われる。

斉藤:死なないですもんね。

小杉:すばらしいですよ。食うに困らないですし、会社のためを思ってやったのなら、就業規則に反しないかぎり失敗したってすぐクビになるわけじゃないですから。

斉藤:それこそ活用できる資源があるたくさんある大手企業が、このリーダーシップのあふれる人材になったら「そりゃ勝てるよね」という話かなって、あらためて思いました。

60~70%が「自律した社員」だった、80年代のリクルート

斉藤:例えば、Origamiさんがすごくがんばって築き上げてきた「日本のQRコード決済市場」をPayPayがドン! と取っちゃうような。まさにそれって、(そこまで規模の大きくない企業が)作り上げてきたものを、リーダーシップを持ったエンタープライズが取りに来た。そんな動きだったかなと思うんですけれど。

SoftBankさんを例に出すわけじゃないですけど、まさにこれって「鶴の一声」もあったと思うんですよね。自律型に限らない動きでもあったかなと思うんですけれども。

なんというか「『(リーダーシップ)4.0』になりきること」が重要なのか。それともある意味で「『1.5』から『4.0』を行ったり来たりするもの」なのか。チャットでもあったんですけれども、20パーセントの人が自律型の組織になっているところって、例えばどんな企業で、どういうふうになってるんでしょうか。具体的に、すごく成功しているイメージを持ちたいなと思いまして。

小杉:古い話をすると、リクルートなんです。リクルートの江副(浩正)さんの時代、1980年代のリクルートにいた人たちですね。この人たちはたくさん事業を作り出して、リクルートを出た後も起業して成功している人がたくさんいるじゃないですか。「人材輩出企業」と言われているわけですよ。

彼らの中に大勢知り合いがいるので話を聞くと、その当時60~70パーセントは、私が言う意味での「自律した社員たちだった」と言っているんですよ。別に「リクルートのためにやってる」んじゃなくて、「リクルートというおもしろい組織を使って、世の中の不安・不満・不足といった“不”を解決するんだ」と。そういって、おもしろいことをやっていったわけです。それがたまたまリクルートだったという、それだけの話なんですよね。

なので彼らは、社員の時からビジネスパーソンの時から“起業家”だったんですよ。だからそのまんま外で同じことをやって、成功している。それは会社内で練習しているわけですから強いですよね。

「広いフェアウェイのOBゾーンを作るんだ」

斉藤:当時のリクルート、KPIマネジメントの教本を書いている中尾(隆一郎)さんという方がいらっしゃって。彼と週1回ぐらい話す場があるんですけど、もともとリクルートテクノロジーズの社長をやってた方で。彼に「リクルートの中でリーダーシップを持った人がたくさん生まれた時代に、どんな制度があったんですか?」というのを聞いたことがあって。

1つが「広いフェアウェイのOBゾーンを作るんだ」という表現をされていたんですよ。

小杉:なるほど。

斉藤:これ、まさに「リーダーシップが生まれやすい組織を作る」という組織論の1つなのかなと。広いフェアウェイのOBゾーンって、ゴルフでいうところの「なにをやってもいい。でも同じゴールを目指そう。『こういう世界を変える』というゴールを目指そう」と。

ただ「広くやっていいことはあるんだけど『これだけは絶対にやっちゃいけない禁忌』みたいなこと。例えば『顧客のことを裏切る』だったり、そういう禁忌を確実に決めた上で、自由にやっていいという組織制度をしいてたんだ」みたいな。そういった抽象的なお話をされていたことがあって。

なにが聞きたいかというと、リーダーシップを発揮できる当時のリクルート型組織だったり、そういったものを作るにあたって。どういうふうにマネジメント層、経営層、ないしは人事だったり、リーダーの役割を持っている人、管理職の役割を持っている人は動いていくべきなんだろう? と考えてるんですけど。小杉さん、いかがでしょうか?

小杉:今の「広いフェアウェイ」というのは、すごくいいですよね。普通の会社だとOBゾーンがすごく広くフェアウェイゾーンが狭いから、すぐOBになっちゃうんです。それでみんなOBが怖いから、ドライバーで打たなくて、安全なアイアンで打ったりするわけですよ。

斉藤:なるほど。

小杉:あるいは萎縮して、余計にチョロっちゃたり(打ち損じたり)するわけですよね。すごくわかりやすいですね。

「まずはやって、ダメなら撤退」を3ヶ月ごとに繰り返す

小杉:あと、リクルートがやってるのは「Ring」(「RING」「New RING」を経て、2018年に現在の名称となった、リクルートグループ会社従業員を対象にした新規事業提案制度)ですよね。要するに「3ヶ月とりあえずやらせてみる」ということです。少ない予算でやって、その代わり撤退条件を明確にしておくということ。これは先ほどの「OBゾーン」と言ってもいいと思いますけど。

「まずはやって、ダメなら撤退」。それを3ヶ月ごとに繰り返していって、だんだん予算がたくさんついてくる、と。その代わりなにやってもいいし。けっこうびっくりするのは、リクルートの人が1人だけいれば、あとは別の会社の人とやってもいいわけです。

斉藤:へー!

小杉:前に聞いた、おもしろいエピソードが。3段階目を超えて予算が2,000万円ついたので、もう1人がソニーの人だったんですけど「辞めて来ちゃいました」って言ってましたけど。そういう自由度を促す仕組みがあるんだなと、すごく感心しましたね。

斉藤:おもしろい。それって今でもある制度なんですか? 

小杉:話を聞いたのが数年前なんで、今でもあると思いますよ。これが1つ、仕組み的に自分で提案したくなるんですね。すごくハードルを下げて「とりあえずやれ」と。ただしダメだったら撤退をすると。

要するに、言い方はアレなんですけど“多産多死”なんですよ。たくさん生んでたくさんなくなっていくのが、前提。その中で“強い子”だけが生き残っていくというやり方をしているのが、リクルートとかサイバーエージェントですね。

斉藤:だからこそ「1.5型」と共存性しえないなというのを、すごく感じました。多産するためには多死の仕組みが必要じゃないですか。

小杉:そうなんです。なので、さっきのゴルフの話じゃないですけど、死んじゃいけないから、みんな“置きにいく”んですよね。会社・上司に受けそうなことをやるじゃないですか。提案するとしても置きにいくんで。そうすると、現状の延長線から外に出ないですよね。だからおもしろいアイデアが出てこなくなっちゃいます。

斉藤:なるほど。

27年前、最初にAppleで議論した「MBOはもう止めよう」

小杉:あともう1つ。私が提案しているのは、例えば社風は変わらなくても「Management By Objectives(MBO)で、目標管理制度をやってますね」と。これがけっこう諸悪の根源なんですけれども、止められないからもう必要悪です。

私がAppleに入った27年前。最初に議論したのが「MBOはもう止めよう」という話だったんです。その後、日本企業もみんな取り入れるようになって。「成果主義」を行うには「なにか指標がないといけない」ということで。だからあれは、ドラッカーが言っていた言葉の本来の使い方ではないわけです。ドラッカーは「Management By Objectives and Self-Control」で「自己成長につなげる。上司はそれを支援する」と。

晩年、彼は嘆いていましたから。それで(多くの企業が)後半(「and Self-Control」)を取っちゃって、前半(「Management By Objectives)だけ使って社員の報酬やボーナスを決めたりしているんです。

このMBOをすぐに止められないとしたら、今はGoogleとかもやってる「OKR=Objectives and Key Results」ですよね。これを100パーセント使うのが難しかったら、それこそGoogleの「20パーセントルール」とか、3Mの「15パーセントルール」を真似して。自分の時間の15パーセントでも10パーセントでもいいから、そちらをOKRで会社の中長期的な方向性やビジョンに資するようなアイデアを出して、そこで「今期はその中でなにをやるか?」というKPIを出して。それをちゃんと見てあげる、ということはできるんじゃないですか? と。

ですから、働き方改革で残業時間をギュッと絞ったじゃないですか。特に今、在宅の人もけっこう増えて、在宅の日数や時間も増えていて大変だという人もいるんですけど。一方で、時間的に余裕があるという人もまた、たくさんいるわけですよね。やり方によっては、自分の時間の10パーセントを「自分のビジョンと会社のビジョンが重なるようなところに使う」ということを会社側が制度として用意して、そこに向けてやってみてはどうか、ということです。

そこは加点でもいいわけですよ。「やらなくてもいいよ」と。でも、「やった人はちゃんと加点するよ」ということですよね。一部であればそんなことができるんじゃないか? と思います。

「好きなようにやれ。その代わり売上は毎年2~3倍にしろ」

斉藤:そうですね、すごく難しいですよね。僕自身も「1つの組織で成果を出していく」という時に、同じ“北極星”を目指すべきなのか。同じ目的を目指すべきって、これはこれで正しいと思うんですよね。「資源を活用しあえる状態を作る」ということだと思うんですよ。

バラバラな方向にいろんな資源を活用しちゃうと、結局、それってただの“資源の集まり”でしかなくなってしまうので。社会を変革するなんらかの集団である「カンパニー」というのは、そういうものだと。「社会を変革するための共同体」という原義があると思うんですけれども。

これは成し遂げると共に、あらためてこの「リーダーオブリーダー」。一番経営に立つべき人間だったり、リーダーシップを発揮する個人は、現状に対してどういう向き合い方をしていくといいんだろう? って。けっこう固定化されている状況だったり、出る杭が打たれがちだったり。そういった組織って、どこから変えていくべきなんでしょうか?

小杉:例えば『起業家のように企業で働く 令和版』を出した時に、あとがきでニトリの富井(伸行)さんという人を紹介しているんですね。

斉藤:はい。

小杉:この方は、法人事業の責任者なんですよ。基本的にニトリはBtoCじゃないですか。そのBtoBのビジネスを先発・先行しているライバルがいっぱいいるわけですけど、実は後発でニトリも始めたわけです。そこの責任者をやっている人なんです。

最初に出会ったのは5年ぐらい前なんですけど、その時はまだ担当者だったんです。30代で新卒で入った会社に出戻ってきたんですね。それで彼は私の本を読んで「自律」ということを自分で決めて。会社を利用して「起業家のように」じゃなく「起業家として働く」と決めました、と言っていました。

それをやっていった結果、業績を上げ続けたんです。もともとパイが小さいということもあるでしょうが、 毎期2~3倍に上げてたんです。2年後に事業部長になって、社長直轄となり、150人ぐらいの部下を率いるようになったわけです。会長から「富井、お前の好きなようにやれ」と。「その代わり売上は毎年2~3倍にしろ」と言われているんですって。実際に2~3倍にし続けて、このコロナ禍でも黒字を続けてるんですね。

斉藤:へ~。

小杉:BtoCはもちろんですけど、BtoBのほうでも。今や「BtoBのほうで成功した事業をCのほうに持ってくる」みたいなモデルもだんだんできてきて。そういったやり方で、彼は今300人を超える部隊のトップとなったんです。そして、担当者から4年で執行役員になったんです。

この人は配下の部門では全員に私の本を読ませて、完全に自律型組織を運営してるんですよ。そこの集団だけ自律型なんです。なので「会社全体で制度化する」というのはなかなかハードルが高いとしたら「新しい部門はそれでやらせる」ということは可能なんです。それが全社のお手本になっていくという、このパターンはありだと思いますね。

日本企業の社長が「面倒は見ない」と言う、ラガードたち

斉藤:小杉さんも「2パーセントを20パーセントにするんだ」とおっしゃってましたもんね。「2パーセントを100パーセントにするんだ」って話じゃないですもんね。

小杉:ええ、違いますね。ラガード(もっとも保守的な人たちを指す言葉)という「2:6:2」でいう最後の20パーセントは、今はもう日本の企業の社長でも「彼らの面倒は見ない」と言ってますよね。

昔は「すべての社員を」と言ってましたけど、もうそこまで面倒見切れないと。勝手にしてくれと。「変わりたくないんだったら、自律したくないんだったら自律してもらわなくていいよ」と言ってますよね。

斉藤:すごいですね、なかなか時代は変わりましたね。

小杉:だいぶ変わったと思います。ですからそういうことをやらないと、特にグローバルでやってる企業の経営者は「とても勝てない」という相当な危機感を持ってますよね。

組織の課題としての、エンゲージメントや組織風土

斉藤:ありがとうございます。ここで少し「Unipos」のご紹介をさせていただいた上で、たくさんいただいているQ&Aに入っていきたいと思います。

あらためて今、マネジメント・リーダーシップというものを考えていくにあたって、僕らの「Unipos」はなにをしているサービスか? といいますと。エンゲージメントや組織風土を組織の課題として、さまざまなご意見をいただくんです。

例えば「組織の戦略と自分のつながりを感じにくい」とか「減点主義の組織風土が残っちゃってる」「コミュニケーションがなかなか取りづらくなってる」みたいなご意見・ご質問をいただいて。

その中での「Unipos」とは? というところで。○○さんから○○さんに対して、「こういうことをしてくれてありがとう。○ポイント」というメッセージを、オープンの場所で送り合うことができるWeb上・スマホ上のアプリケーション。そんなサービスをご提供させていただいています。

「2の人」の背中を押し、「6の人」を引っ張り上げるサービス

斉藤:実際にご導入いただいた企業さんの中で「2:6:2」でいうと、(下位の)「2の人」の背中を押すサービスだし「6の人」を引っ張り上げるサービスだなと考えています。

なぜかというと、よく「Unipos」で上がってくる声って、チームを越えてだったり、もしかしたらチームの中かもしれないんですけど「工夫をしました」「新しいことをしました」という時に「それいけてないね」ではなく「いいじゃん、いいじゃん。もっとやりなよ!」という声なんですよね。

それに対し「よかったね」。感謝を含めた称賛・激励・いたわりというような言葉を掲げているんですけど。「このチャレンジはナイスだったね。こういう結果に結びつかなかったこともあるけど、こういうチャレンジはこういう観点でよかったと思うよ」という声を掛け合うような、そんな組織になっていくと。

孤独なイントレプレナーシップ・アントレプレナーシップって、なかなか自走しづらい考え方の中で「やってみよう」と思った時に「いいじゃん」って背中を押してくれると「やってよかったな」って思えるんですよね。次のステップに動こうと思える。

そういう組織にしたいなと思って、この「Unipos」というサービスは自社でも使っておりますし、社外にも提供させていただいております。たくさんの企業さんでもご利用いただいていて。

アース製薬さんだったり江崎グリコさんだったりといった、エンタープライズ系の企業さんでもご導入いただけるようになってきている中で。背中を押し合えるような組織を作っていきたいなと考えております。

この「Uniposウェビナーの実践編」というのもやっているんですけれども。エンゲージメントの高い組織とか組織風土、風通しのいい組織ってどうやって作っていくんだろうか? という考え方から、最後、Uniposでどうやってそれをやっていくのか? という実践編のウェビナーも開催しておりますので、ぜひご興味をお持ちの方はお越しいただければなと思っております。

企業は「制度としてやらないといけないのでは?」と考えがち

斉藤:小杉さん。僕、このUniposというのをこうやってご提供していく中で、思想としては今みたいなことを考えてるんですね。「組織を変える行動を増やす」というのを、実は裏側でのプロダクトコンセプトとして持っていて。

その変える行動をした人が背中を押されて「もっかいやってもいいかな」って思える。そんな組織を作りたいなと思っているんですけど、こういう思想ってどう思われますか?

小杉:とってもいいと思いますね。「いい」と言うのは別に持ち上げてるわけじゃなくて、すぐ企業って「制度としてやらないといけないんじゃないか?」みたいに考えるんですけど、特に人事とか。制度化するって、なかなか大変だし。さっきのマネージャーの話じゃないですけど、制度を作っても現場の運用ができないという人がいて。

だったら「お互いにお互いを承認する」「背中を押してくれる」ということをピアでやるというのは、すごく有効だと思いますね。関係性がよくなるということからスタートする、ということですよね。

斉藤:ありがとうございます。まさにそうですね。すごくうれしいなと思うのが「勇気出してやった行動をUniposで称賛されたら、スマホでスクショ撮ってたまに見返しています」という声をいただいたりして。

小杉:なるほど。

斉藤:本当に「みなさんの勇気になれてるなら」と感じる瞬間は、すごくやってよかったなと思います。