2024.12.10
“放置系”なのにサイバー攻撃を監視・検知、「統合ログ管理ツール」とは 最先端のログ管理体制を実現する方法
ミライセルフ井上真大氏(全1記事)
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井上真大氏(以下、井上):人と違うことをすることに恐れを持たない、今までされたことがないことに挑戦することが好きという私の気質は経営者である父から受け継いだものかも知れません。
父の会社は大きな会社ではありませんが、昔から続いている会社です。大橋などに使われる大型のボルトナットというねじや、免震用ベースプレートなどを作っています。まさに「町工場」といった感じの会社で、代々長男が継いでおり、父が3代目です。
藤岡:そういった環境の中で、井上さんに対する教育方針などで何かご記憶に残っていることはありますか?
井上:父が口を酸っぱくして言っていたのは「人との縁を大切にしなさい」ということで、私も大切にしています。父の会社が地場企業なこともあり、人との縁で成り立っている側面があるのだと思います。
また、言われたことではありませんが、自分の考えをもって自分で物事を決める父の姿勢には大変影響を受けました。「私も自分自身の意思で物事を決めて行きたい」「誰にも文句を言われずにやれる会社を起業しよう」というところに繋がったのかと思います。
井上:大学時代は真面目な学生でした。毎年自分で目標を決めて、1年ごとに自分がどれだけ成長したかを確認するような、今思えば真面目な学生でした。大学3年生ではベンチャーでアルバイトもしました。
藤岡:ベンチャーでのアルバイトも当時珍しかったのではないですか?
井上:そもそもITベンチャー自体が少なかったです。京大工学部出身の方が立ち上げた「Lang-8」という語学学習SNSをやっているベンチャーだったのですが、実際に自分でもサービス作りをしてみたい、その上でRuby on Railsを勉強したいと思い、アルバイトとして入りました。10年経った今でもお付き合いは続いています。
藤岡:ベンチャーでのアルバイトでは何が印象に残っていますか?
井上:本当に学ぶことが多かったです。仕事をしている以上、そこには締め切りや給料をもらう責任が発生します。やる気も起きましたし、勉強も凄くしました。CTOもいらっしゃったので、知識や技術なども直接学ぶことができました。
そこで学んだからこそ、Googleでのインターンもできたし、入社もできたのだと思い、大変感謝しています。
藤岡:もともと、新卒で外資系に入社し、エンジニアとしてキャリアを歩むお考えだったのですか?
井上:そんなことは全くなくて、むしろ自分が育ってきた日本のために官僚になりたいと思っていました。ただ、官僚、とくに国家公務員第1種の世界はすごい学歴主義だと知るにつれ、「ちょっと考えていたのと違うな」という思いに至り、断念しました。
民間で働くにしても、自分の時間を大切にしたいという希望と、きちんとお給料をもらえるところという条件を満たせるのは外資系しかほぼ選択肢はありませんでした。今でこそITベンチャーなどがありますが、当時はまずなかったです。
藤岡:実力主義で評価される会社が良かったのですね。その中でもGoogle本社を選ばれた理由は何だったのでしょうか。
井上:実は、最初に日本のGoogleから内定をいただいていました。
もともと、大学院1年目の夏にGoogle Japanのインターンに参加し、秋に内定をいただいていたのです。しかし、その後人事から「海外で働くことに興味はありませんか」とメールが来たので、「非常に強く興味を持っております」と返信したところ、しばらくしたある日に突然Google本社から電話が来て英語の面接が始まり、結果本社からもオファーをいただいたのです。
人事からは「好きな方を選んで良い」と言われ、アメリカで働くことにしました。
藤岡:「エンジニアとして働きたい」という志向はいつ頃からお持ちだったのですか?
井上:もともとものづくりが好きだというのがベースにあります。コンピュータも昔から好きで、中学でも物理部という名のコンピュータ部に所属し、N88ベーシックでゲームを作ったりしていました。
ソフトウェアエンジニアと言ってもさまざまな分野があり、基盤ソフトウェアを作るようなエンジニアからWebサービスを作るようなエンジニアまで幅広くいますが、私は後者寄りです。一般のユーザー向けにものを作ること、そして彼らが使って楽しむところを見るのが好きなのだと思います。ご存じのとおりGoogleも一般向けのサービスがほとんどです。
藤岡:新卒でGoogle本社に飛び込まれたわけですが、どんなご苦労があり、どのように乗り越えられたかお聞かせ下さい。
井上:立ち上がったばかりのチームに配属されたのですが、さすがに心細かったです。英語の読み書き以外は全然ダメだったのでまともに意思疎通もできず、ただでさえみんな自分の仕事で精一杯だったので基本置いてきぼり。何もすることがなかったです。
とは言え給料だけは一人前にもらっていたので、「何の貢献もしなければ、絶対に首になる」と思い、一日も早く会社のために自分にできることをしようと思いました。
幸い社内には教材は豊富にあったので、まずはそれらを読んで勉強しました。Googleでは例えばGoogle MapやYouTube等ほとんど全てのコードがオープンだったので、先輩の書いたコードを見たり、社内のドキュメントを読んだりする生活が半年近く続きました。
藤岡:長かったですね。日本人コミュニティのようなものはなかったのですか?
井上:そもそもGoogle本社で働いている日本人が少なかったですし、私が所属していた事業部には皆無でした。
でも、家族や友人の期待を背負って来たわけですから、「英語ができなくて首になった」と日本に帰るわけには行かない。「とにかく成し遂げなければ」という責任やプレッシャーがあり、これまでの人生の中でも一番頑張った半年間かも知れません。
藤岡:言葉が通じない環境で結果を出すというのは大変なことだったと思うのですが、そんな中で井上さんの評価が変わり、仕事をもらえるようになったきっかけは何だったのですか?
井上:きっかけは社内営業です。本当に仕事がなかったので、よそのチームまで出掛けていって「何か仕事はないですか」と転々と回っていたのですが、そんな中でようやくもらった仕事を一気に片付けると、また新たな仕事をもらえるようになりました。
そのうちに、徐々に「マサは意外と仕事ができる」と評価が変わってきました。与えられた仕事できちんと結果を出すことで、周りの私を見る目が180度変わった気がします。
藤岡:その後、エンジニアとして高い評価を受けていくわけですが、エンジニアスキルを高めるにはどうされたのですか?
井上:教育カリキュラムなどはあまりなかったので、ほとんど自学自習です。
自分が今いるプロジェクトに必要なスキルが何かもあまりわからない状態だったため、非常に広範囲を勉強していたのですが、これが後になってすごく活きました。
とくに、今までにないプロジェクト等では過去の知識だけでは太刀打ちできず、その周辺やボトムの知識・技術が必要になったりするのですが、そういう場面で役に立てることが増えて来ました。
それからはちょっと複雑な、今までとは違った新たな知識や技術が必要なプロジェクトを任されることが多くなり、きちんと達成することで評価もされるようになりました。背水の陣でがむしゃらに勉強した経験が、最後まで私のアドバンテージとなりました。
井上:いい意味で、Googleで働き続けることの先が見えてしまった。ここで働き続けてもすぐには自由になれないだろうと感じたというのが一番の理由だったと思います。新しいことをしたいというのもあったと思います。
まずは、チームを変えてみようと思い、Googleにある社内転職サイトのようなもので、検討を始めました。
すると、同時期に別の方面の3人から声が掛かり、3社にいずれも創業者兼CTOという立場で入り、今も在籍しているのはミライセルフだけです。
藤岡:声が掛かった3社全てに参画されたのですか。
井上:3つやっていたら、1つくらい成功するだろうという甘い思いで……。
でも、スタートアップって、やってみると立ち上げの時が一番忙しい。CEOよりCTOの方が忙しいこともあるでしょう。エンジニアはプロダクトを一から作り上げないといけないので、外注しない限りは自分自身でやるしかない。一番時間を取られるポジションであることに気が付きました。
そこで早々に1つは辞めて、1年以内にもう1つ辞め、結局一番可能性を感じたミライセルフに絞ってやることにしました。
井上:後者ですね。Googleでも全く関わりのない分野でしたし、大多数のエンジニア同様、HRやそもそも人に対してあまり興味はありませんでした。表(注:ミライセルフ代表取締役社長。井上氏と共同創業者)を尊敬していたので、表と一緒に何かできるなら楽しいだろうと思って始めたというのが正直なところです。
実際、資金調達で投資家回りをしたときにも、「なぜHR Techをやるのか?」とよく聞かれました。HRは当時からレッドオーシャンでしたし、表にしてもHRに高い関心は持っていてもHRの専門家ではなかったので、投資家からは「なぜか」と問われたのです。
藤岡:2015年頃には「HR Tech」という言葉もなかったですしね。
井上:表はモルガンスタンレー出身で金融畑のバックグラウンドがあったこともあり、むしろ投資家側からは「FinTech(Financial Technology。「金融」と「技術」を組み合わせた造語)をやったら」という話が多くあったくらいです。
ただ、実際にやってみるとすごく面白いし、新しい試みだという印象です。やはり人間にはいろいろな個性があり、それぞれの性格や相性なども踏まえ、データに基づいた分析・改善をシステムとして広く一般的に行おうとする試み自体はこれまでになかったと思います。
藤岡:ミライセルフ立ち上げから3年が経つわけですが、今やスタートアップ業界では知らない人はいないくらいです。 今に至るまでにはいろいろなご苦労があったと思いますが、とくに創業メンバー、そして、CTOとして経験されたご苦労や、それらをどのように乗り越えられたかお聞かせいただけますか?
井上:会社立ち上げに関わる事務作業、書類作業の多さには驚きました。表はUCバークレーでMBA取得中だったので、私が基本的に全てやらざるを得ませんでした。
例えば、定款変更するのも勝手に変更できるわけではなく、登記が必要となります。取締役会、株主総会の書類作成が求められ、さらに各書類をダブルチェック、トリプルチェックして……膨大な時間が掛かります。
もともとエンジニアだったこともあり、「事務作業は誰かがやってくれるもの」という感覚だったので、多い時は1日の半分が事務処理に取られるというのは辛かったです。
藤岡:どのように対処されたのですか?
井上:初めはデッドラインに追われながらとにかく目の前にあるものをこなしていましたが、アルバイトを採用してうまく割り振れるようになりました。事務作業は何かを生み出す時間ではないので、もっと早く人に任せればよかったというのが反省点です。
藤岡:そうしたご苦労もある一方、この仕事でやりがいを感じるのはどんな時ですか?
井上:CTOの立場でお話しすると、一から自分たちで作ったプロダクトをお客様に利用していただき、フィードバックをいただくことで改善し、また新たなお客様がついて……という成長が見られるというのは魅力です。とくに、初めて課金していただいた時は本当に嬉しかったです。
藤岡:井上さんご自身がお客様の前に出て、フィードバックをいただくような場面もあるのですか?
井上:普段は大阪で開発をしているので、私が営業するというのはごく稀です。ただ、最初の頃は、どんなプロダクトを作ったら良いかのヒントを得るため、表の営業に随伴してお客様からお話を伺ったり、議論させていただいたりもしました。
藤岡:プロダクトを一から作る場合、お客様にとっても初めて目にするサービスですから最初は懐疑的だと思うのですが、それを認めていただけたと感じたのはどんな時ですか?
井上:昨夏(2017年)にリニューアルをしてからですね。mitsucari適性検査はフリーミアム(注:基本的なサービスや製品は無料で提供し、更に高度な機能や特別な機能については料金を課金する仕組みのビジネスモデル)なので、当初はトライアル後に課金に至らなかった原因等をお客様にインタビューして回りました。そうすると、我々が気付かなかったような問題点が見付かりました。
そして、お客様からいただいたフィードバックを踏まえて、よりわかりやすく、使いやすく、結果をアクションに繋ぎやすくしたリニューアルが大変好評で、以降課金企業数が5倍以上に増大しました。
コアの技術的な部分は変わっていないのですが、お客様の声を聞いて、その不満や悩みを解決した形です。
井上:私はCTOですが、CEOとして経営も見ています。私の持論として経営者として最も大切なことは、会社の成長に対して何がボトルネックになっているかを的確に見抜いて特定し、必要に応じて人の力も借りて解決することだと思っています。
会社全体の成長に限らず、製品の改善に関しても、より良いプロダクトを使ってもらうにはどうしたら良いかを見抜く力はすごく大事です。
ボトルネックを見抜くためにいろいろ測定し、ヒートマップを入れたり、ABテストしたりという方法も当然ありますが、mitsucari適性検査に関して言えば問題は少し違い、「何だか良さそうなので使ってみたけれど、どう使えば良いかわからない」という声が圧倒的多数でした。
私たちもある程度仮説は立てて対応を考えるのですが、やはりユーザーである人事の方にとって最良の改善方法は最終的には直接聞かないとわからなかったので、お客様を含め多くの人事の方にインタビューを行ったのです。
PowerPointでモックを作成して人事の方に見てもらい、「これはいらない」「これは欲しい」という声を集め、フィードバックしてまた見てもらい、というのを繰り返し、version 40くらいでようやく人事の方からも高評価をいただけるようになりました。
最後、「これが出るならすごく嬉しい」という意見しか出てこなくなった時点で実装、リリースしたところ結果として数字も跳ね上がりました。
また、プロダクトを作りながらだとPDCAループが遅くなるので、まずはPowerPointで80点程度まで持ってきて、そこから100点まではプロダクト作りながらやることで、かなり効率良くできました。
PDCAループを回すと、どうしてもDoの部分に時間が掛かります。そこの時間やコストを無駄にしないためにPowerPointを使うという判断はCTOの視点、エンジニアだからこそできた判断でした。
藤岡:今後ミライセルフに入るエンジニアにとって、ここで働く魅力はどんなところにあるとお考えですか?
井上:私自身エンジニアなのでわかりますが、ビジネスモデルや社会的意義などよりも、どれだけ専門性を高められるか、自分のしたい仕事がストレスのない環境でできるかという部分に魅力を感じるエンジニアが多いと思います。
私たちの会社で言えば、エンジニアである私が代表権を持っていることで、エンジニアにとって自由で働きやすい環境が整っています。また、まだ起業間もない時期の参画ではストックオプションも貰えますので、会社が成長した暁にはきちんと報酬として返ってくるところも魅力だと思います。
藤岡:日本ではまだスタートアップに参加するエンジニアは多くありません。井上さんから、その魅力や、逆にこういう部分は覚悟しておいた方が良いと言うようなことはありますか?
井上:大企業との一番大きな違いはスピード感でしょうか。スタートアップは基本的に人手が足りないし、動きが速く、やることもどんどん変わって行くので、幅広い内容に対応できることが求められます。そういった意味では、スタートアップは普通の会社よりも勉強することは多いと思います。
フェーズにもよりますが、スタートアップだとサーバーサイドもフロントエンドも見ないといけないこともあり、専門性を広げられる一方で、新しいことをどんどん意欲的に学ぶことがより必要になってくると思います。
スタートアップに向いている人というのは、こういう環境を「自分の知識や技術が広がる、増えるチャンス」と喜べる人だと思います。
藤岡:初めてベンチャーに転職されるエンジニアの方から、「わからないことは社内の誰かに聞けば解決できたが、人数の少ないベンチャーでは解決に時間が掛かり、成長のスピードが遅くなるのでは」といった懸念の声があります。井上さんはこれに対してどうお考えですか?
井上:私にとっては、「人に聞いたら、わかる」と言う方がカルチャーショックです。恐らく大きい会社は定型業務、つまりそれまでに経験のあった業務が多いからではないでしょうか。
スタートアップのビジネスでは定型業務は少なく、自分で調べて考えてスキルを身につける作業は必ず求められます。しかし、それで成長が遅くなると感じたことはありません。
藤岡:井上さんご自身のご経験を振り返ってみて、スタートアップのエンジニアとして適正があるのはどのような人材だと思われますか?
井上:あくまで経験則に過ぎませんが、元の会社で大きな仕事ができていないことに不満を感じてスタートアップに転職した人は辞めることが多い気がします。
「スタートアップだから大きいことができる、意思決定できる」というのは間違いで、大企業の方がさまざまなビジネスをやっていますから、意思決定もむしろ多くの人に任せられています。スタートアップは単一のまだ大きくないビジネスをやっていることが通常で、経営判断・意思決定ができる人が1人いれば、あとは基本的には遂行者が必要です。そこを勘違いして入られた人はなかなか続かないように思います。
藤岡:最後の質問です。井上さんのご経験から、初めてスタートアップに転職するエンジニアにとって、良い業界、良い会社を見極めるにはどうすれば良いと思われますか?
井上:当社の魅力としてもお話しましたが、技術者または技術に対して理解のある人がきちんと権限を持っているというのは、1つの良い指針になるかと思います。
スタートアップは動きも速いので、トップが技術のことを全然わかっていないと工数を甘く見積もられたり、引っ掻き回されたりして、エンジニアもストレスで疲弊してしまいます。
あとは、スタートアップに入るならしっかり対価を貰うべきですから、ストックオプションがあるかといった部分も重要かと思います。
藤岡:「mitsucari」の公式ブログでも書かれていますが、やはりコーディング面接の有無もポイントですか?
井上:はい。エンジニアの方には言うまでもないかとは思いますが、コーディング面接の有無も大きな指針になるはずです。
藤岡:本日は素敵なお話をありがとうございました。
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