クラウドの時代にERPはどう進化していくのか

荻島浩司氏(以下、荻島):チームスピリットの荻島でございます。本日はチームスピリットのスペシャルセッションにお越しいただきましてありがとうございました。

チームスピリットは勤怠管理や経費精算をセールスフォースの1つのクラウドで一体化したERPのフロントウェアでございます。このたびお客さまが500社、6万ユーザーになりまして、その感謝も込めましてガートナーの本好さんに講演をお願いすることになりました。

お話の内容としては、このクラウドの時代にERPはどのように進化していくのか。また企業はそれに対して対応していくのかというお話だと伺っております。

我々も実はERPのフロントウェアという名前をつけてるんですけども、ガートナーさんの分類の中で、その辺がどういうところに位置づけられるのか、非常に個人的にも興味を持って私もじっくり聞かせてもらおうと考えております。

それでは本好さん、よろしくお願いします。

(会場拍手)

本好宏次氏(以下、本好):ガートナーの本好と申します。今日はセールスフォースのイベントということでCRMとか営業、フロント周りにご関心のある方がたくさんいらっしゃると思うんですけども。

ERPというキーワードでこちらのセッションに来ていただいた方は、よほどERPに対して課題認識、あるいは問題意識を持ってらっしゃる方かなと思いますので、このイベント全体ではマイノリティかもしれませんけども、ここに一堂に会したということで、これも何かのご縁だと思いますので、よろしくお願いします。

ERPのコンセプトはガートナーが1990年に作った

今日は、その皆さまに今さらというところもあるんですけども、まず私どもの考えているERPという言葉の定義を簡単にご説明させていただきます。

実はERPというコンセプト自体は、弊社が1990年に作った造語でございまして。今私どもの定義も年々変わって進化してきているわけです。最初の定義はこちらに書いてあるとおりでございます。

いろいろと書いてあるんですけども、業務系のトランザクションを財務に集約して連携させていくところが1点と、それから業務領域が、かなり会計とか生産以外にも広がってきてるところですね。

一番重要なのは、今回アプリケーション戦略と書いてありますけれども、ERPというのはパッケージのことではなくて、私どもは「テクノロジー戦略」と呼んでます。

戦略ですから何をするのか。もっと大事なことは「ERPで何をしないのか」というのを戦略的に選んでいく。それが一番重要になってきてると思っております。

ERPは管理系と実行系の2つに分けられる

もう1つ、これからいろいろな切り口でお話ししますけれども、今日覚えて帰っていただきたいキーワードは実はこの2つではなくて、「ポストモダンERP」というのがキーワードになりますので、そこかしこでポストモダンERPと申し上げますので、それを念頭に置いていただいた上で、周辺の切り口ということでこちらのほうをご覧いただければと思います。

私どもはERPを2つに分けております。もともと管理系ERPと呼んでいるところは財務情報、財務に代表されるような法制度対応とか、正確にデータを記録して監査に耐えうるようなシステムになります。

ある意味、この左側の管理系の部分は、他の会社さんとそこまで差別化をする必要がないので、きちんと標準化をできればいいところになります。

最近、特に日本の企業さまですと、カスタマイズが多くなりがちなので、右側の実行系と呼んでるところでして、生産管理とか販売管理とかですね。業界とか業種、あるいはその国、地域によって地域差、国の法制度の違いも含めて、これは商習慣の違いですね。ローカルのユニークさが出やすいところになります。ERPと一言で言っても、この2つを大きく分けて考えていく発想が大前提になります。

過度にカスタマイズしたERPはレガシーになる

その上で私が最近、私に限らずグローバルでもそうなんですが、大手のユーザー企業さんからお問い合わせで非常に多いのが、「ERPをこれからどうしていったらいいのか」ということなんですけども、私どもが出している予測がこちらになります。

上がグローバルに出してる予測で、下が私が日本の企業さん向けに出した予測になるんですが。「レガシーERP」という言葉をここで申し上げてるんですけども、過度にアドオンとかカスタマイズをしたERPは、来年にはもう「レガシーERP」と呼ばれるようになるということでございます。

レガシーの定義は、私どもは「変化に柔軟に対応できなくなっている硬直化したシステム」という定義をしてますので、まず皆さんのお使いになるERPがこうならないかな、なってないかなというところは、1つ問題意識として持っていただければと思います。

これと密接に関連するんですけども、日本企業さまの中で最近多いのが、今のERPは塩漬けにして、そのライセンス報酬だけを打ち切って、第三者ベンダーさん、最近日本に参入されたライセンスの報酬だけを請け負う第三者ベンダーさんに切り替えるとか。

あるいはERPそのものをダウンサイジングしたりして、他のベンダーさんに乗り換えることをご検討されるケースが増えてきております。

この予測は注意を促すためにこういうものをつくってますので、こういう形に陥らないようにどうすればよいのかということを、これからERPを導入される皆さんは当然考えなければいけません。

そしてERPを刷新する皆さまは、これから刷新したあとにまた数年後に同じような課題にぶち当たらないようにどうすればいいのか、そういったことを少しお話ししてまいりたいと思います。

日本企業向けに実施したERP満足度調査の結果

ここに出しておりますグラフは、ERPの満足度を私のほうで日本企業さま向けに調査した結果になります。ちょうど昨年の11月にやったばかりの調査なんですけども。

赤字でハイライトしているところは比較的満足度が低くて不満が高いものになりますね。青字のものが満足度が高いものになります。

満足度が高いもの、見ていただくとわかりますとおり、システムの安定性というのが最大に満足度が高いということになっております。一方で不満が大きいものについては、コストパフォーマンスになってます。

これは端的に言うと、ERPを入れたことによって安定的なシステム運用ができているけれども、それだけで本当に今払っているコストに見合うものなのかを自問自答してる。そういったユーザーさんのIT部門のマネージャー層が多いことを示しております。

それ以外にはビジネス成長の実現とか全般的な機能性、あるいはサポートの対応、そういったものも満足度が高いんですけども、これはある意味パッケージを入れれば機能はある程度あるし、サポートもしっかりとしてもらえると。で、生産販売も含めて機能範囲が広がってますので、ビジネス成長に寄与できるというところなんですけども。

テクノロジー面の革新性とかグローバルサポート、あるいはカスタマイズ性、こういったところにもやはり不満が募っておりまして、外資系のERPパッケージを入れているユーザーさんでもテクノロジーの革新性とかグローバルサポート、これの満足度が比較的低いんですね。

ですから、パッケージとしてはグローバル対応できていたとしても、必ずしもそれを導入支援するパートナーさんがグローバルに出ていないとか、あるいは古いバージョンでカスタマイズがたくさん残っているので、バージョンが古いまま残ってしまって最新のテクノロジーを享受できないという状況を示しています。

ですから、この赤いところをERPの刷新で考えるときには、いかに不満足を低めて満足度を高めていくのか、これが極めて重要になるということであります。

ERPのライフサイクルを考える

少し複雑な図をお出しして申しわけないんですけども、おそらくハンドアウトがないので見づらい方もいると思うんですが。これもメッセージは非常にシンプルでございまして、いろいろ書いてはあるんですけども、この図はマーケットクロークと私どもが呼んでいるものです。

このマーケットスタートという一番上の12時から12時間で考えていただくと、夜のだいたい左側のコストというところから日が暮れて夜になっていくようなイメージなんですけども。

いろいろなテクノロジーが出てきた中で、成熟度と外側にいくとコモディティ度というのが高まるんですけども。成熟度とコモディティ度とこの2軸で成り立つ側面で、ERP関連のテクノロジーをパッキングしてるというものになります。

簡単にご説明しますと、最初にある「アドバンテージ」というフェーズは先進的なテクノロジーがたくさん出てくるフェーズですので、まずそこにあるテクノロジー自体を取り入れることで他業さんに先んじて競争優位性とか差別化につながるようなテクノロジー活動ができるということで、「アドバンテージ」と呼んでます。

次に「チョイス」と書いてありますのは、選択肢が急激に増えるので「チョイス」。そのあと「コスト」と書いてありますのは、コスト競争になるので価格を見て選ぶというフェーズになるということでございます。

「リプレースメント」というのは、陳腐化のフェーズに入りますので、徐々に最初に出た頃はコモディティ度が低いので選択肢もないんですけども、だんだん「コスト」とか「チョイス」のところになりますと、選択肢が増えてコモディティ度が上がってくる。

最後に「リプレースメント」のフェーズで選択肢が減ってコモディティ度が減るので、コストが高くなっていきがちであるというライフサイクルを描いております。

3層クライアント/サーバー型のERPに陳腐化リスク

冒頭に申し上げたメッセージは単純です。というのは、赤くハイライトしている「コスト」というフェーズにあります「N層クライアント/サーバー型ERP」。これが今のERPの主流のアーキテクチャになります。

N層と書いてありますけども、具体的には3層でございまして、プレゼンテーション層、UIの層ですね、それからアプリケーション層、そしてデータ層と。

特別にERP専用のクライアントがあるようなイメージが、まさに3層ERPになると思うんですけども、これがERPの今の主流のアーキテクチャなんですけども。

見ていただくとわかりますように、青い丸が陳腐化までのスピードを指してる、あるいは次のフェーズへのスピードを指してるんですけども。薄い青色は2年から5年、これから2年から5年後に陳腐化のフェーズに入ることになります。

したがいまして、今から新規導入されるとか、あるいは今から刷新をされる対象としては、3層クライアント/サーバー型のERPというのは、もう入れたらすぐ陳腐化してしまうリスクがあることが、ここでのメッセージになります。

もう1つは右側の「チョイス」というところに書いてあるマルチテナント、あるいはシングルテナントのクラウドサービス型のERPとか。

チームスピリットさんのPaaSベースERPというところに入ると思うんですけども、このクラウドのプラットフォームベースで作られたERPが今急速に市場で注目を浴びてきて、なおかつ成熟度を高めてますので、これから入れるのであれば、クラウドを抜きにしては考えられないというところでございます。その2つを言いたいというスライドになります。

エンドユーザーやビジネスリーダーの“ERP離れ”も

それから、ここはERPのエンドユーザーさんにちょっと目を向けたスライドになります。プラットフォームのテクノロジーとしてレガシー化しているというお話に加えて、エンドユーザーさんのやはりエンゲージメントとか満足度というものも、きちんと考えていく必要があると思います。ともするとエンドユーザーとかビジネスリーダー、こういった方々の“ERP離れ”というのが今起こりかねない状況でありまして。

これまでの歴史を振り返りますと、この一番下の青いユーザー、トランザクションベースの処理を中心にやってらっしゃるパワーユーザーさん。イメージ的には経理部門の経理担当者とか、あるいは受発注担当者とか工場にいらっしゃる生産管理担当者とか、そういうトランザクション志向の強いパワーユーザーさんに、これまでのERPはフォーカスをしてきておりますので。

例えば極端な例ですと、グリーンスクリーンでコマンドラインで入力をするとか、あるいはキーボードだけでタブとかリターンキーとかファンクションキーで入力をする。こういうERPも確かにそのパワーユーザーさん向けには最適化したユーザーインターフェース、使い勝手を実現してるわけなんですけども。

最近は例えば営業拠点の課長さんレベルの方々であるとか、あるいは経営層、インフォメーションユーザーと私ども呼んでますけども、ダッシュボードを見たりして日々意思決定をしてくような方とか。

それから海外拠点とか新しいビジネスを担当するビジネスリーダーの方。それから私もそうなんですが、大多数のERPユーザーさんのカジュアルユーザーさん、例えば経費精算とか勤怠管理とかタレントマネージメントの一部の機能しか使わない。

こういった形でユーザー層がバックオフィスからフロントエンドのアプリケーションへどんどん広がってきてますので、この赤くちょっと怒り顔になってるユーザーさんをいかに取り込んでいくのか。ERP全体としていかにユーザー層全体をサポートしていくのか。これが今日的に非常に重要になっているということであります。

IoT経由で取得できるデータが重要に

もう1点、ERPのテクノロジープラットフォームがいろいろ変わってきているというお話の中で、クラウドの起用がありましたけども、もう1つ、やはりクラウド以外にビッグデータ、あるいはIoTから取られるさまざまな多種多様なデータ、「モノのインターネット」経由で得られるデータ、そういったものの重要性も高まってきております。

昨今、デジタルビジネスというキーワードがどこのITベンダーのイベントに行っても出てくると思うんですけども。私どもとしてもやはりデジタルビジネスは非常に重要なトレンドだと捉えております。

弊社としては、すべての企業さんがテクノロジーカンパニーになると申し上げていたり、あるいはテクノロジーの機能とかで会社を買収することで、テクニカルなアクイジションである「テクイディション」という造語を作ったりしてるんですけども。とにかくビジネス環境が目まぐるしく変わってきてる。

それからここに書いてありますように、物理的な世界というのがデジタルの世界に融合してきておりまして。

これまでですと物理的に在庫管理という形で、確かにモノの情報は扱っていたんですけども、これからはモノ自体がセンサーを例えば経由してモノ自体が情報発信して、人なりビジネスとやり取りする、あるいはモノ同士でやり取りする世界になりますから。

とにかくビジネス環境が急激に変わっていって、昨日までのパートナーがもう競合になったり、その逆もしかりという世界になってきますので、ERP自体も柔軟性とか俊敏性が極めて重要になってきております。

したがいまして、新たなビジネスプロセスをいかに俊敏にサポートするのか。それからビッグデータも含めた新しい情報を多種多様な情報をどのようにアナリティクスにつなげていくのか。こういったものが重要なんですけども。

これまでのERPはその正反対、重厚長大型の一枚岩の巨大なERPで。動きは非常に鈍いタンカー型とか私どもは呼んだりしますけれども、モーターボートのような動きが求められる中で、タンカーの動きになっておりますので、このギャップをどのように埋めていくのかという話を、これからしてまいりたいと思います。

コンシューマ化の波が4つの分野で迫りつつある

1つ目のギャップを埋めるためのお話として私どもが注目しておりますのは、一言で申し上げると、コンシューマ化の波でございます。テクノロジーのコンシューマライゼ―ションと呼んでおりますけども。

コンシューマの世界は比較的普及が速かったテクノロジーとしてクラウド、それからモバイル、あるいはビッグデータ、それからソーシャルというキーワードがあります。

これはもういろいろなところでお話があるので、単体で見ると当たり前になってきている側面があると思うんですが、ここで申し上げたいことは、私どもNexus of Forcesと呼んでいるんですけども、これ4つの力、Forcesが結びつくNexusということで。

2つ以上のこのキーワードをしっかりと取り組まれているのかどうかが、ベンダー選定で重要になってきてると思います。ベンダー選定、あるいは皆さんのERPの計画、ERPに限らないんですけども、ERPの計画を立てる上で2つ以上のキーワードを結びつけて何か発想していけてるのかということであります。

具体的には、例えばモバイルでダッシュボード経由のリアルタイムに近い情報の分析をやりたいといった場合に、モバイルでのアクセスが増えてくるとデバイスが先ほど冒頭のビデオでもありましたけども、マルチデバイスになりますのでアクセス数が膨大に増えていくわけですよね。 

そうしますとやはりクラウドのほうがスケーラビリティがありますので、インフォメーションをモバイルでしっかりと活用したいといったときにも、クラウドのほうがアーキテクチャとして適してるというケースは増えてきていると思います。

それからクラウドの場合はやはり初期コストは圧倒的に抑えられるであるとか、導入期間をもう本当に今までにないような短期間で入れられるとか。

それから何よりベンダーさん側でどんどん進化してくれるというところがありますので、こういったことを契機にしてERPの世界でも、今クラウドというのが聖域がないような感じで検討がなされるようになってきております。

今申し上げたこの4つの力の結びつきという中でも特にクラウドが重要ということなんですけども、冒頭で今日覚えていただきたいキーワード、1つだけですということで「ポストモダンRRP」というキーワードを申し上げました。

ちょっと前置きが長くなりましたけども、いよいよその説明に入らさせていただきたいと思います。

制作協力:VoXT