音楽ストリーミングサービスの現在

鈴木貴歩氏(以下、鈴木):音楽とテクノロジーを掛けあわせて、こんなことができるんじゃないかということをお二方にお話いただければと思います。「音楽ストリーミングサービスで狙う海外展開」というテーマで、まずはTuneCore Japanの野田さんにお話いただきたいと思います。野田さんよろしくお願いします。

野田威一郎氏(以下、野田):よろしくお願いします。簡単に自己紹介をさせていただきます。TuneCore Japan代表の野田威一郎です。

僕はWano株式会社というインターネットのWebサービスを作る会社と、TuneCore Japan、兼任して代表をやらせていただいているんですが、本日はTuneCore Japanという、音楽のディストリビューションサービスについてお話をさせていただければと思っています。

音楽とITについて、概要を簡単にまとめてきたんで、こちらを説明した上で、僕らのサービスについて説明させてもらって、実際にこういう形で海外でアーティストが活動していますというのを、ご説明できればなと思います。

世界の音楽売上は約1.6兆円規模

まず2014年の数字になりますけれども、IFPIと日本レコード協会さんの数字からひっぱってきています。

去年は(世界全体の売上で)約1.6兆円の数字が出ています。1位は米国で5,300億円、日本に関しては2,900億円で、これ換算が結構前なんで(1ドル)110円で計算しちゃってるんですけれど、大体こんなもんです。

全体の半分ぐらいはトップ1、2の国で大体シェアされてます。みなさん業界の方多いんでご存知の方も多いと思うんですけど、日本は相変わらず2位というところで維持しているという状況になっています。

去年については、世界的に「CDとデジタル配信が半々になった年」というふうに言われています。

いわゆる「フィジカル」と海外では言うんですけども、「フィジカルのCDがデジタルに追いつかれて、ちょうど半分になった年」というのが、トピックとして去年は挙がっていました。

さらにもう1つ大きかったのが、ダウンロードとストリーミングというところですね。ストリーミングに関して、かなり大々的に推されていて、去年だと40パーセント増、「大体4,100万人のサブスクライマーがいます」というような形で報告されておりました。

今日はここのストリーミングの部分をメインにお話しできれば、と思っています。

日本のデジタル音楽はまだ黎明期

日本で言うと、今年たくさんのストリーミングサイトが出てきたところなんですが、日本自体のシェアでいうとこんな感じになっていて、いちばん上が世界で、フィジカルが青でデジタルが赤、ライツが緑っていう感じになっています。

世界で見ると46パーセントと46パーセントの半々でありまして、先ほど言ったとおり「フィジカルとデジタルが半分になりましたよ」ということです。

米国のほうが、デジタルが71パーセントでフィジカルのほうが26パーセント。逆に、日本は全然フィジカルがまだ多くて78パーセントで、デジタルが17パーセントしかない。

今後こちらの数字がどう変わっていくかということが、これからストリーミングサービスだったりデジタルのほうに流れていくなかで、見所かなと思ってます。

国内デジタル市場を細かく見ると……

さらに、これを国内のデジタル音楽のところに切っていくと、こんな感じになってるかなと。実際に430億円ぐらいの市場で、全然まだまだ小さいです、正直。

昔はガラケーとかがあって、もっとリングトーン(着信音)とかが大きかったり、あったんですけど、現状こんな感じです。

今までデジタルのほうでは、いわゆるダウンロードというところが66パーセント。レコチョクさんだったりiTunes storeさんだったり、moraさん、Amazonさんとかっていうのがありました。

これ2014年度の数字なので、この(ストリーミングの)18パーセントの中にAWAさん、LINEさん、Apple music、あとGoogleさん等はまだ入っていないんですが、今日一緒に御対談させてもらうKKBOXさんとかは、去年から数字が入ってます。ここの18パーセントが今後どうなっていくかっていうところが、今話題になっていることです。

全体的に考えると、「日本ってまだまだデジタルの部分で手つかずなんだな」という気が若干しております。なので、僕は「まだまだ伸びる余地があるんじゃないか」と期待している状況です。

日本の音楽市場はまだまだ拡張する

全体で、乱暴な言い方をするとこんな感じで、「デジタルが伸びるぞ」っていうのと、「ストリーミングが伸びるぞ」っていうのと、あと「海外が伸びるぜ」みたいなのがざっくり言われているのかなと。

さらに言うと「コンサートも伸びてる」と言われてるんで、「どこも伸びそうじゃん」と僕は思っていて、「まだまだ全部延びしろがあるんだぞ」というのが今の現状になっています。

ただ、簡単に「全部伸びるぞ」って言っても、やはりそんなにすぐには伸びなくて。デジタルだろうがストリーミングだろうが海外だろうが、そんな簡単に放っときゃ伸びるっていうわけではないので、「僕らはこれからどうしていこうか」というのを考えながら普段模索をしていくような感じになります。

こんな状況の中で僕らが提供しているサービスっていうのは、音楽のディストリビューションサービスです。「音楽を流通する」というところで、各国の配信ストア等に音楽をアップする、届けるっていうのが、僕らの仕事なんです。

「誰でも利用できる」というのが特徴で、音源ファイルとジャケット画像と文字情報、この3つさえサイトにアップしていただければ、「こういった配信ストア全部に配信できますよ」っていうのが我々のメインのサービスになります。

なので、ここに配信したい場合は誰でも、権利さえ持っていただければ配信できる世の中になりました。というところが、僕らのサービスの意義かなと思っております。

今現在「100カ国以上」って書いてあるんですけど、ここのストア自体は常に毎月1ストアずつぐらいで追加していってる状況です。今期このへんのストアで終わるんですけれども、世界にはもっとたくさんいろんなサービスがあるので、そちらに配信ができるように目下準備中です。

誰でも簡単に音楽を配信できます

ちょっとイメージがつかないと思うんで、こんなん作ってみました。これiTunesさんのトップなんですけど、僕らのサービス使うと、誰でもこういった形で出せます。

みなさんがiPhoneとかで録音して歌ったものを、こういう感じで「iTunesのほうに出るぜ」っていうイメージ図です。本当に、誰でも手軽にCDが出せる。CDではないんですけど、配信ができる時代になりました。

さらに、ちゃんとKKBOX仕様を用意してきました。これがKKBOXさんです。「バナーとかも取れるぜ」っていう感じです。

これキャプチャーして貼ったんですけど。実際にこの「10年代ネオシティーポップ特集」っていうのをKKさんにやっていただいてるんです(画像下を指して)。ここにはTuneCoreの若き、今推しているシティーポップの10代から20代の前半ぐらいのアーティストの楽曲を載せていただいてる。これはたまたまだったんですけれど。

本当に冗談じゃなく、我々経由で出すと、こういった展開もとれたり、リリースができたりっていう時代になってます。

ここまでイメージとしてお伝えしたんですが、そんな業態なんか対法人としては、今までいくらでもあったんです。いわゆる中間業ではあります。流通業なので。

なんですけど、僕らの特徴としては、「ストアさんの手数料を抜いて100パーセントすべてをアーティストさんに還元します」というところが、世界的にもビジネスモデル的にも稀有な存在かなと思っていて。

「流通コストを極力下げる」というところをコンセプトに、アーティストに優しいサービスを目指してます。

権利ももちろんそのままアーティストさん、権利者さんに残るので、その後も自由に、CDにしようが何にしようが自分でやっていただいて全然結構です。僕らはどちらかというと「流通だけする」というような感じです。

3番の「年間手数料1410円」。100パーセント還元しちゃうと僕ら運用できなくなっちゃうんで、最低限のコストとして、1曲1410円を年間でいただいていると。

最短で2日間で配信開始できますんで、例えば今日みなさんお帰りの時に、iPhoneで鼻歌でも歌ってアップしていただければ、日曜日ぐらいにはiTunesさんとかKKさんとか、こういったストア全部で配信することが可能になってます。

最後に4番。これはITっていうことで、パソコン1台で基本的には全てが完結するような仕組みになってます。販売レポートからお金の引き出しまで、全て一括でできるようになってます。

米国での市場効果

TuneCore“Japan”っていう通り、TuneCoreっていうのは実はUSで2006年からサービス運用していて、これはUSの数字になってしまうんですが、2012年から2014年の数字ひっぱってきてます。これ公開情報なんで全然問題ないんです。

アーティストに還元した金額っていうのが、約90億円から始まっていて、2012年には147億円と伸びてます。2006年からやっているので、累計で約524億円をアーティストに直接還元しているという感じです。

「米国ではかなり大きな規模になってきているかな」というところです。いわゆるインディペンデントって言われているようなアーティストさんが、直で、自分たちでYouTubeなりなんなり使って自己プロモーションして販売して。その収益がこの金額で動いている。

これはストアさんの取り分を抜いた後の数字になりますんで、市場効果でいうとたぶんこれの倍ぐらいの、50パーセントはちょっと多いですけど、1.7~1.8倍は市場効果としてはあると思います。

さらに、この下に書いてあるいくつかのロゴは音楽イベントです。サウス・バイ・サウスウエストは、まさにエンターテイメントテクノロジーのイベントで、オースティンでやられてるやつです。

こちらは元々は音楽のイベントだったんですが、そこに出演してるアーティストの大体30パーセントぐらいは利用者っていう数字が出ていて、かなり浸透している、インフラ化してきてる現状です。いわゆるひとつの音楽インフラです。

どんな人たちが使ってるのかと言うと、簡単にいうと有名アーティストさんだったり、映画とか、ゲーム、リングトーン等の配信だったり。

YouTuberも最近すごい増えてます。

あとリンジー・スターリングとか、グラミーのノミネートアーティストとか。結構インディペントと言っても、比較的有名な人も出てきてます。

特に有名アーティストで言うと、ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーとかは結構、新しいもの好きとして知られています。今Appleのほうでやられてますが、TuneCoreも以前、自分でも使ってリリースしたりしています。

ストリーミングを使った成功例

今回ストリーミングの話っていうことで、具体的にもう少し、2組ストリーミング使って成功した事例を出そうと思ってます。1つがロン・ポープで、もう1つがSilento。

ロン・ポープ自体はみなさんたぶん全然知らないかもしれませんけど。彼は海外のストリーミングサービスで年間20万ドル(の収益を出している)。そんなに有名じゃなかった時から始めてSpotifyのほうで、ファンがバズりはじめて、すごい数字になっていった。

こちらの事例として結構面白いのが、「ストリーミングが増えたらダウンロードも増えたぜ」って彼は言っていて。また「コンサートに来る人も増えた」と。

よく言われている、プロモーション利用が成功した事例なのかな、と。本人は別にプロモーションだと思ってやっていないんですが。

実際お金もこれだけ入ってきてるんで、「なんかすごい嬉しいぞ」という感じでインタビュー記事に答えてくれています。サイトのほうに詳細の記事あるんで、見ていただければなと思います。

あとSilento。これは海外の、17歳の現役高校生ラッパー。これはまさに先ほど森川さん(C CHANNEL代表)が話していた動画ですね。動画でバズって、すごく再生数が増えて、YouTubeにフルバージョンアップしたら、2,100万再生ぐらい。結構数いって。

そのあとデジタル配信しました。その時に使ったのがTuneCoreです。その後、その流れを受けてメジャーデビュー。確かユニバーサルさんの系列会社だと思います(Capitol Records)が、そこでデビューしていく。

インディペンデントでやってる時に1回使ってて、成功して最初のリリースはうちらから出していただいて、その後メジャーデビューしてさらに広げていくっていう流れが、米国では増えてきてるのかなというふうに、肌感としては感じております。

彼らの共通点としては、やはりバズっていうところをインターネットを使って広げていってるところです。

最初に収益的な話を、「売るんだ」「売るんだ」っていう感じでなくて、やはりシェアさせて「(お金は)別にいいや」みたいな感覚でやってるのが共通点かな、と思ってます。もちろんロン・ポープは、活動としてはずっとライブとかで継続してやってます。一応、海外だとこんな感じです。

日本のアーティストで海外に強いのはボカロ、アニメ

国内のほうに関しては、我々の利用者っていうのは結構ばらついているんですけど。有名なアーティストさんを含めて、今後の新人の若い子たちまで、比較的幅広く利用者が増えてきてる状況です。こちら、普通のリリースをしてくれてたアーティストです。

ジャンルでいうとボーカロイドとかアニメが、日本特有としてあったりとか。テレビ、映画CM等の駆け込み寺として。2日間でできるんで、「納期間に合わない」っていう現実問題があって、そういう時に使っていただいたりとか。いろいろあります。

あとゲームですね。ソーシャルゲームのリリースが、最近は増えてきてます。着信音とかも増えてきてます。先ほど海外で「YouTuberが多い」っていうところで話したとおり、日本でもYouTuberに結構使われるようになってきていて。

前回、8月にヒカキンくんにうち経由で出してもらったんですけど、彼は自分でチャンネル持ってるんで、「デビューしました」と言って配信先に楽曲を置いてある。

『Youtubeテーマソング』っていう、ちょっとふざけた名前だったんですけど。結構売れて、ドリカムさんがアルバム1位だった時期に2位にいたっていう感じですかね。

ただ、その後も各ジャンルでは継続的に売れる。これもインターネット特有かなって思います。CDの時は「最初の1~2カ月ぐらいにばっと売る」っていう感じですけど、YouTubeとかに載っけてると、ずっと売れ続けるというのが面白い事例だなと。

日本から世界へ

最後になるんですけど、日本のアーティストで海外攻めてる人はどんだけいるのかと。正直、まだ事例としてはこれからだなと思っています。ストリーミングもこれからなんで。

海外でも、2つ絡めてやるっていうのはすごく大変なことだなとは思ってるものの、とはいえ徐々に兆しが見えてきているアーティストもいたり、「面白いこと勝手にやってんな」っていう人もいる。2つ、事例として紹介します。

まず1組目が、多国籍ユニットMiliさん。もちろん日本でもライブとかやられているんですけど、台湾で総合1位をとったり。

Cytus、Deemoという無料のゲームアプリ、音ゲーなんですけど、海外では有名で、800万ダウンロードされています。そこに音楽提供してて、それがバズってランクインしたっていう実績が出たり。日本総合でも結構いい線いったりっていうのが、事例として出ています。

あとはボカロPのコンピ作品「ボカロのパレード feat. 初音ミク」。これは海外でのストリーミングサービスで、50万再生以上。最近ちょっと伸びて、最初全然伸びてなかったんですけど、何がきっかけか、本人たちもよくわからないっていうところです。聞いてはみたんですが、「一気に50万再生増えていて」って、ただ各国のボカロPと共作したのも世界で再生された一つの理由かと思います。

また面白いなと思ったのは、ダウンロードも増えたっていう。「約40パーセントぐらいダウンロードのほうも増えたぜ」っていうのが結果として出ていたと聞いてます。

実際「いろんな使い方があるんだな」というのが、僕らが肌感としては感じてるところです。こういった事例がどんどんどんどん増えていって、日本のみなさんも同時に同じものを聞いているとか見ているという時代になってくれればいいかなと、僕は思っています。

海外への配信率は

最後に数字、ちょっと長くなっちゃってすいません。海外への配信率っていうのを、僕らのサービスとして出してみました。

僕らのサービスの利用者の9割ぐらいが、海外にも配信してるっていうデータが出てきてます。

ただストリーミングに関しては、ストリーミングサービスを選ぶ率は大体半々ぐらいですね。全然選んで配信していただいてもいいんですけど。現状は、ストリーミングという形態に対して、半分ぐらいのアーティストが配信するというような状況です。

あとストリーミングの単価ですね。こちらも数字があまり世の中に出てないかなと思うんですが、大体みなさん0.4円とか、「低いよね」っていうイメージがあると思うんですけれども。

一部配信ストアによっては6円ぐらいまで出たりとかっていう事例もあるので、1再生6円だったら「まあそこそこいいんじゃないの」っていうところです。100回で600円なので。

アーティストさんに返す金額でこの数字なので、一概に平均っていうとまだわかんないんですけど。今、日本の市場では、大体これぐらいの数字が出たりもしていますよ、というようなことになってます。

簡単ですが、僕からは以上になります。

制作協力:VoXT