スピーチの3つのパターン

野村尚義氏:こんにちは、プレゼンテーション・アドバイザーの野村尚義です。さて、今回のスピーチ講座。今日のテーマは「プレゼンテーション、スピーチのコンセプトはnot A but Bこれで考えろ」この内容でお話したいと思います。どういうことでしょうか。そもそもスピーチで何を伝えているのか。まずは大きくプレゼンテーション全体を3つに分けてお話したいと思います。

スピーチ、プレゼンテーションの中で結局3パターンに別れると。情報提供、モノを売る、考え方を売る。じゃあスピーチのときにどれをやるのかというと、簡単に結論を言うとこの考え方を売るですね。

情報提供、例えばニュースのような、例えば商品紹介のような、これってこうなんですよとその事実を謳うのがスピーチか、違いますよね。そして、モノを売る。いわゆるセールスプレゼンテーション的な形か。無形有形とかそこの話ではないと、違いますよね? 結局スピーチでなされることは、常にここ(考え方を売る)であると。こういう考え方ってありますよね、こういう考え方どうですか、この話をしていくのが結局スピーチでほとんどの場合です。

じゃあこれ、考え方を売ると言ったとき、受け手の考え方が「そもそも自分が伝えたいことを前々から思ってました」と言ったら何も物事って動かないですよね。ちょっとイメージしてみてください。

BeforeとAfterとは

Beforeの考え方、Afterの考え方って書きましたが、そのスピーチの中でこういう考え方どうですかと提示、提案がなされるわけです。そもそも聴衆はその領域に関して何らかの考え方はしているわけですね。それで、もしBeforeの考え方とAfterの考え方がほとんど変わりませんというなら、聴衆にとってそのスピーチには価値があったのか。聞く前と聞いた後で特に自分の考え方に変化が出てこないんですから、それってイマイチ価値って高くないですよね。聴衆の心を打つのか、なかなか打ちにくいですよね。

だからこそ、聴衆の前々から持ってる部分と大きく違う新しい考え方を提示していく。これがそもそもスピーチというものの構造上起こるものです。で、自分が語るスピーチは、聴衆のBeforeの考え方と大きく違う、そして価値あるものが提案できているのか、それをチェックして欲しいということです。そしてそれをチェックするために使って欲しい構造が先程言いました、not A but Bにあると。それは何なのか少しご説明します。

not A but Bとは

not A but Bはこんな感じですね。こういう考え方(A)じゃなくてこういう考え方(B)しましょうよ。not AこのBeforeの部分の考え方、聴衆が元々持っている思考や価値観がこのAのボックスに入ってくるわけですね。こういう考え方じゃなくて、but Bこちらに新しい価値観や思考が入ってきます。こういう考え方してみたらどうですか。

リーガルハイを使った1つめの例

今からですね、2つ例を紹介したいと思います。1つ目の例が、リーガルハイ第9話、別の映像で絶対見て下さいと紹介したものです。

参考スピーチ1:リーガルハイ第9話

この中で、どういうような価値観の転換が語られるのか。

Beforeに聴衆が持っているのはこれなんです。ある村の村民たちが、「金がすべてではないんです。金を貰っても使い切れないし、お金お金言ったら皆さんが可哀想ですよ」「金がすべてではないんです」って実際に口にするんですね。それに対して、スピーカーである古美門研介(堺雅人)が言うのはこういうことです。

「金なんですよ、あなた方が尊厳を取り戻す方法は。金こそが、皆さんが徹底的にこだわるべき部分だ」こういう風に話すんですね。こんな表現使います。「金がすべてではない」「金なんですよ、皆さんが相手に一矢報い、意気地を見せつける方法は。奪われたものと失われた尊厳にふさわしい対価を勝ち取ることだけなんだ」こういう表現を使います。

そこって大きな価値観の転換なわけですよね。皆さんのその考え方は間違っている、このスピーチの中ではかなりバーンとnot Aだという風な表現が使われます。そしてそこからその手前とその後の部分でいかにこの考え方が自分たちを貶め、自分たちを辱める考え方なのか。そして、こちらの考え方のもとで戦うということが傷を負う覚悟をもつということが、いかに自分たちの誇りを取り戻させることなのか、これを滔々と語るわけですね。

価値観の転換、not A but B、コンセプトでギュッとこれを持ってきているというのは、非常によくわかってもらえると思います。この説明だけだと、正直わかりにくいと思いますので、是非映像をご覧いただきたいなと思います。

スティーブ・ジョブズのスピーチを使った2つ目の例

もう1つ別の例でご紹介しましょう。私が行なったスピーチがあります。スティーブ・ジョブズの「Stay hungry, stay foolish」ここから学んだこと、こんなテーマで話したのですが、そこで私が語ったことはこんな感じです。

参考スピーチ2:Stay hungry,Stay foolishから学んだこと

not A but BのAはもともと聴衆の多くが持っている価値観はおそらくこれだと設定しています。「多くのものを身につけるのが安心だ」経験を積んでいき、やれることが増えていく、それは自分を守ることになってくれる。自分ができることが増えていくというのは、違和感なくないですか? そうだろうと、それこそ成長だと。

その中で私が語ったこと、私が語ったことというか、ジョブズが語ったことなんですが、そのスピーチの中で私はこういう表現を使いました。「身につけてきたものが重い足かせになっていませんか?」いつのまにか自分を縛ってはいないでしょうか? 「今まで多くのことを身につけてきて、こんな歳になって今さら新しいことできないよ、自分が磨いてきたスペシャリティはここにあって、それ以外のことは自分にはできない……」

自分が身につけてきたものが、自分のチャレンジを阻害する。自分をストップかけるものにしてはいないだろうか。捨てることが実は今重要なんじゃないだろうか。こんなスピーチをしました。URLのリンクを貼っておきますので、よかったら見てみていただければと思うのですが、言いたいことはここです。やはり、not A but Bです。聴衆の既存の常識的なとらわれや考え方から、もっとその人にとって生きやすい、もっとその人にとってプラスに繋がるような考え方。そっちじゃなくてこっちじゃないですか? この思考、価値観の転換を起こしていくことこそが、スピーチであると。

もう一度自分自身のスピーチをチェックしてみてください。あなたのスピーチはどういう思考、価値観を提供しているのでしょうか。そして、それは言われなくてもわかっていることなのか、言われて初めてbeforeの状態から転換できるものなのか、どうでしょうか。あなたのスピーチ、この表現(not A but B)で、もう一度チェックしてみてください。AとBを入れてみてください。

以上、プレゼンテーション・アドバイザーの野村尚義でした。