大事なのは、形にすることではなく仲間を巻き込むこと

柳澤大輔氏(以下、柳澤):これ(ブレストをしてアイディアを出すこと)を地域に活かしたいと思ったのが、9年前から始めた「カマコン」というものです。単純に、町を楽しくしようと思ってやり始めました。仕組みとしては、まず町でおもしろいアイディアがあるとか、すでに活動している人や、これからやりたい人を呼んで、5分でプレゼンしてもらったあと、さっきの2つのルールに厳密に則って、ブレストしてもらいました。

(ブレスト中に)持論を言い出す人とかもいるんです。そういう方にはポンポンと肩を叩いて、「アイディアですか?」と言ってアイディアを促す。頭が硬いと、なかなか出ないんです。3~4回参加してると、だいたい出るようになりますね。

ブレストの過程で自分でアイディアを出してみたら、最後には、その活動がまるで自分が作ったかのようになっていくんですよね。それで、「(活動を)手伝いたい人?」と言うと手が挙がる。

ただ、実際にそのプロジェクトが着地するかしないかは、プレゼンテーターのファシリテーション力、リーダー力によるところもあるので、そのまま空中分解することもあります。でも、必ずしもちゃんと形になる必要はない。仲間が増えて巻き込みやすくなればいいと思っています。

ここからプロジェクトが生まれることもたくさんあります。毎月5つくらいプレゼンをやっているから、年間でいうと60プレゼンあって、形になるのはだいたい5〜6個です。けれども、巻き込めるんです。例えば市長が来て、新しい施策があるときに「この施策をどうやったらみんなに広がるか」というのをブレストしてもらう時点で、もう自分ごと化して人に広げる体質になっちゃうんです。

ブレストをすれば「新しさ」を受け入れやすくなる

全国でカマコンをやってみてわかったのが、やっぱり地域には本当にブレストが必要だな、と。これは先ほどの市来さんの話からありましたように、新たに来た人は、なかなか地域に受け入れられないです。会社も一緒で、大企業だと入った人がいきなり「この会社を変えます」と言っても、必ずしもすぐに受け入られるわけではない。

でも、うちのような会社の場合、ブレスト体質の会社になっているので、新人が入ってきて「この会社を変えます」と言ったら、「すごくいい人が来たな」となるんですよ。それはもう完全にブレスト体質だから、そういうことになります。一方で、地域は移住したての人が何かやりたいと言ったとき、家を買って住んだりしない限りは、なかなか(話を)聞いてくれないという構造はどうしてもあります。

だから、ブレストをやっておくとけっこう(新しい人を)受け入れやすい体質になるんです。もうカマコンも9年やっていて、僕がいつも思うのは、鎌倉に住んでいない人が「鎌倉でこんなことやりたい」という提案をするんですよ。それならみんなで応援しようみたいな話になって、応援したその結果、その人が移住してくるという構造ができてきたんですね。

このように、ブレストは、人と人との垣根がなくなることにも一役買っている。これがあるから、さっきの「まちの社員食堂」みたいな取り組みも、一声かけてみんなが参加してくれることになったのかなと思います。

たぶん10年前に「まちの社員食堂」をやろうと言ってたら、レストラン側や企業側も、参加してくれる人って、新しい物好きの数社ぐらいしかいなかったと思います。カマコンという下地があったから、「まちの社員食堂」というアイディアが出た時に、行政も地域企業もみんながやろうと協力してくれた。

今では、鎌倉以外の約30ヶ所以上の地域に、カマコン式ブレストが広がっています。やっぱり、地域のコミュニティがまとまらないところって、何も起きない気がするんです。それにはブレストが重要かなと思っています。

ここまで何の話をしてきたかというと、心のあり方として楽しむためにはブレストが一番だという結論に、20年やってたどり着いたんですね。どんなに町が廃れていようが、会社でいえば業績が悪かろうが、ブレストをやればおもしろがれる世界があるんです。それはある種、究極論です。

「おもしろがるために」大切な3つのこと

次に、心のあり方とは別に、「おもしろがるために重要なことって何だったんだ」という話です。我々がやってきたことをよくよく紐解くと、「誰とするか」「どこでするか」「何をするか」の3つだと。この辺をしっかりやると楽しめる、ということがわかってきたんですね。

(スライドを指して)とくに一番下の「何をするか」は、当たり前の話です。会社ってやっぱり仕事をするところですから、「おもしろがっていますか」と社員にアンケートを取ると、業績が悪いチームといいチームでいうと、いいチームの方が結果的におもしろがっていることがわかる。

これは会社という単位を広げて、国でいうと、やっぱりGDPが上がると幸せということは正しいんです。GDPという指標はわずか数十年前に作られた指標なんですけれども、ある種わかりやすくそれを伸ばしていけば、幸せになる。僕らは幸せとおもしろさを同量で捉えています。

それは間違っていなかったんですけれども、今はなかなか比例しにくくなった。そもそも(GDPが)伸びにくくなったということで、資本主義の限界が来ているという話です。それで資本主義の話に入っていきます。地方も経済資本をしっかり伸ばすことで、ある程度、幸せ度はあがる。まずこれが大前提ですね。

会社としては、ここは一生懸命やっていくところです。ただ、我々としては「おもしろがるためにこれだけやっていればいい」という話には思えなくて、「誰とするか」と「どこでするか」にもこだわってきた、という思いがあります。

社会資本と環境資本を測れば、地域資本主義が見えてくる

まず「誰とするか」にどうこだわってきたかというと、シンプルな話がひとつ。全員の職種を揃えよう、ということです。これも話すと長いのですが、職種が揃うと、どういう人を評価するか、どういう人に高い給料を入れるか、価値基準がある程度一致するので、働いていて楽しい。

「どこでするか」もけっこう重要です。鎌倉あたりに住みたい人は鎌倉に移住します。今、子会社として秋葉原のゲーム会社があります。ここで働いてるメンバーは、全員じゃないですけど、秋葉原から一歩も出たくないというアキバ好きも少なくない。なるほど。やっぱり「どこで働くか」というのは、幸せに相当影響するし、これはけっこう重要だな、と。

「何をするか」「誰とするか」「どこでするか」この3つをよくよく考えて、バランスよく伸ばしていくと、人って幸せになれる。つまりおもしろがられると、おもしろがれるんです。

そのときに、会社や国のGDPの指標って、経済資本ぐらいしか測ってないんです。(スライドを指して)この右の社会資本と環境資本の2つって、まだ測れる要素があるし、上澄みがありそう。GDPとしてはもう限界になっちゃったんですけれども……ということを少し書いたのがこの「鎌倉資本主義」という本でございます。

鎌倉資本主義――ジブンゴトとしてまちをつくるということ

なので、ちょっとまとめますと、おもしろく働くことを追求したら資本主義に行き着き、それが地域に合いそうだなということに気づく。それであれば、地域の中の資本をしっかり進めて、社会資本と環境資本の2つを測ったら、“地域資本主義”というガイダンスができるんじゃないかな、ということです。

生まれたところに一生住む必要がない時代

それはそれでいいんですけれども、そういう考え方の中で、ビジネスを立ち上げてみようと思って作ったのが(スライドを指して)この「SMOUT(スマウト)」です。地域に関わりたいとか住みたいという人が、自分のプロフィールを登録すると、自治体や行政からスカウトがくるんですね。今までも移住メディアはいっぱいありましたけれども、こういうアプローチのものはなかったので、去年立ち上げました。

今6,000人登録していて、東京の方が多いです。(ユーザーの)7割ぐらいが20~30代というサービスになります。求人の業界では、転職したい人が登録するとスカウトがくるというのは当たり前でしたけれど、移住系ではなかったんです。

具体的には、各地域がいろんな職だったりイベントだったり、おもしろい情報を発信しています。それに興味を持ってくれた人がいいねを押すと、「興味を持ってくれたんだな」と思ってスカウトがくる。1,800自治体のうち、200以上の市区町村に使っていただいています。いろんな地域とも連携して、紀伊半島全体で協定したり、いろんなことをやっています。

これは「ADDress(アドレス)」といって、いろんなところに住もうという定額制のサービスです。定額制でいろんなところに住める「ADDress」と連携して、「SMOUT」に登録すると住めるというような。

やってみてわかったことを、少し話したいと思います。サービスを立ち上げてわかったのは、地域に関係なくいろんなところに住みたいという人がいるんだな、と。やっぱりその辺はテクノロジーのおかげなんでしょうね。生まれたところに一生住む必要がなくなってきている。徐々にそういう人たちが増えて、選ばれる地域になるためには、やっぱりどんどんおもしろさとか魅力を発信していかないと、人は集まってこないんです。

我々は鎌倉での取り組みもあり、日本のいろいろな地域をおもしろくしていきたいと思っています。カヤックでは、おもしろいコンテンツを提供する地域プロモーションや「SMOUT」で、地域を盛り上げて、仕事を案内して、サービスをつなげていっています。地域と一緒におもしろがることによって、地域の中からも魅力的なコンテンツがどんどん生まれてきて、おもしろい地域が増えていく循環を作れたら、もっと日本がおもしろくなると思っています。

社員とランチに行くときも自然とブレストが始まる

市来広一郎氏(以下、市来):はい、ありがとうございました。

(会場拍手)

僕も柳澤さんのお話を初めてお聞きしたのが、軽井沢で、去年1月ぐらいでした。

柳澤:はいはい。

市来:たまたまお聞きした地域資本主義の話は、僕らがまさに考えていたことだったんです。環境資本と、経済資本と、社会(つながり)の資本とか、そのあたりを考えてみたらカヤックの経営だったということで、すごく共感したことを改めて今思い出しました。Sli.do(注:イベント参加者からの質問を匿名で集められるサービス)には、「SMOUTを登録しました、ナウ」というコメントもありました。

柳澤:ありがとうございます。今日は「SMOUT」のメンバーもいるので、もし行政の方とかいらしたら、ぜひ相談してください。

市来:はい。あと、ちなみにさっきブレストの話が出ていましたが、「半年の間でどのくらいの回数ブレストするのでしょうか?」と。これは会社でということなのかな?

柳澤:いや、相当やると思いますよ。

市来:半年なんて単位じゃないということですね。

柳澤:いや、ないです。結局ほぼ毎日やるんですね。社員とランチ行くじゃないですか。その場でもブレストになっちゃうんです(笑)。

市来:なるほど。もう完全に体質として染み付いちゃうということなんですね。取り入れたいなと思いました。

柳澤:右脳系になります。どっちかというと、右脳を活性化するみたいな。

市来:僕も今までまちづくりをやってる中で、いかに受け手じゃなくて「つくる人」を増やすかを、ずっと意識してやってきましたが、それをブレストという手法に落とし込んでやるのはすごいなと。なかなか「つくる人」を増やそうと思っても、具体的な策がないと難しいと思っていました。

柳澤:『HUNTER×HUNTER』という漫画に、ネテロという最強の人がいるんですよ。その人は10年間、正拳突きだけで最強に強くなったんですよ。

(会場笑)

柳澤:もう毎日、これだけ。僕の中でブレストもこんな感じです。ただただブレストをやっていたら、全部、いろいろ行き着いたということなんです。やっぱり1つのことを追求すると、そういうことになるかなと。

市来:なるほど。わかりました。ぜひ熱海でもがんばります。(みなさんも)まだまだ聞きたいことがあると思います。後ほど後半のセッションの中で、お話ししていきたいと思います。

柳澤:はい。

市来:柳澤さん、ありがとうございました。

(会場拍手)