2024.12.10
“放置系”なのにサイバー攻撃を監視・検知、「統合ログ管理ツール」とは 最先端のログ管理体制を実現する方法
パラスポーツ新グラフィックマガジン『GO Journal』創刊記念 パラアスリート写真展 in 銀座 蔦屋書店記者発表会(全1記事)
提供:日本財団パラリンピックサポートセンター
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中井美穂氏(以下、中井):よろしくお願いいたします。まず率直に、蜷川さんの作られた『GO Journal』、すごいですよね。フリーペーパーなんですよね。
蜷川実花氏(以下、蜷川):そうなんですよね。出来上がりを見て、思ったよりもすごく立派になったと思います。やはり紙の重さがずっしりとしていて、手元にとっておきたくなるフリーペーパーになったと思います。
中井:なにしろ、辻選手ご自身が表紙という。
辻沙絵氏(以下、辻):はい。
中井:どうですか?
辻:もう信じられないですね(笑)。うれしいです。こうやってかたちに残していただいて、いろいろな方に手に取ってもらえるものになって、本当にうれしい限りです。
中井:普通に書店置いてあったらいくらですかね? 800円ぐらいですか? 800円でもずいぶん安いと思いますけど、これをフリーペーパーにしました。
蜷川:少しでも多くの方に手に取ってもらいたいのと、(パラリンピックに)興味がない方に、手に取っていただきたいです。
「なんだろう、これ?」と、ある種の違和感からでもいいんですけど、そんなにスポーツに興味を持っていなかった方に興味を持ってもらえて、手に取ってもらって、そこからどんどん広がっていくきっかけになったらいいと思って作りました。立派なフリーペーパーであるということが、けっこう重要でした。
中井:蜷川さんが全部の芸術監督的なことをやられていたんですか?
蜷川:はい。私だけが撮っているわけではなくて、ほかのフォトグラファーの方も参加いただいています。「こういう企画にしようか」「じゃあ、どの方にどういうふうに頼もうかな」ということまで、お話しさせていただいています。
中井:ほかのクリエイティヴのスタッフのみなさんは、最初にお仕事を依頼したときに、どういう反応でしたか?
蜷川:やはり、みなさんとても興味があり、とても快く受けてくださいました。どうやって表現したらいいか、どういう角度から自分たちは入っていくかを、みなさんが真剣に考えて、向き合ってくれたと思いますね。
中井:蜷川さんはリオパラリンピックの開会式、生でご覧になってるんですよね。
蜷川:そうなんです。パラリンピックの開会式を見に行って、解説みたいなことをNHKでさせていただきました。
中井:そのときに一番印象的だったのが、リオの空港からすごい出会いがあったと聞いてびっくりしました。
蜷川:まず、リオはすごい遠いので、ぐったりして降りました。空港の荷物ををピックアップするところで、なんだかかわいい子がいたんですよ(笑)。
中井:なんだかかわいい子?
蜷川:ジャージを着ていて、「あれ、なんだ?」「あの子かわいい」「なんだか光り輝いてるかわいい人がいる」と思いました。それが辻選手だったんですけど、実は存じ上げなかったです。でも、絶対選手っぽい。そして、すごくかわいい。なんだかとっても気になると思って、初対面だったんですけれども、後ろから行って、いきなり声をかけたんだよね(笑)。
辻:はい。いきなり(笑)。
蜷川:「写真を撮っているものです」と、名刺を渡しました(笑)。「蜷川というものなんですけれども、選手の方ですか?」と聞いたら、「陸上やってます」とおっしゃいました。あまりにかわいいので、絶対に撮りたいと思いました。
もちろん、外見がかわいいだけではなくて、内側から光る強さなどが、ものすごく魅力的だったんですよね。辻さんはたぶん、長いフライトなのでノーメイクですよね?
辻:ノーメイクです(笑)。
蜷川:ノーメイクで、片手でスーツケースを持ち上げる姿がすごく印象的でした。「絶対にこの人を撮りたい」という、写真家の欲がまず走ってしまいました。しょっちゅうナンパをするわけではないんですけれども、空港でいきなりナンパをして、「絶対撮らせてね」という約束をして、その場で別れました。その次にお会いしたときが、この撮影のときでした。
辻:そうです。
中井:『GO Journal』を作ることが決まったなかでの再会だったんですね。
蜷川:その日は『GO Journal』というかたちにまで、まだなっていなかったと思いますね。最初は、「パラの選手を撮影しませんか?」という依頼をいただいて、それを揉んでいくうちに、やはりフリーペーパーのかたちがいいと途中でなっていきました。でも、パラの選手を撮りたい思いは、その段階でありました。
中井:じゃあ、辻選手はいきなり後ろから。
辻:はい。
中井:華やかなお姉さんに声をかけられた。
蜷川:(長旅で)ズタボロでしたよ、私(笑)。
辻:リオの空港を降りたときに、「蜷川さんかな?」とわかってたんですけど。でもまさか、このリオデジャネイロの地に、「ブラジルに来てるわけないよな」と。NHKのお仕事があるのも、ぜんぜん知りませんでした。「まさか違うよなぁ」と思って、荷物を運んでいたら……。
蜷川:しかも私、子連れだったんですよ。
辻:そうです(笑)。かわいいお子さんと(笑)。
蜷川:なんだかわかんない集団だったと思うんですけど(笑)。
中井:でも声かけられた?
辻:はい。最初は「え? 本物だ」と思って。「ええ? うそ!?」みたいな。(蜷川氏から)「写真撮らせてほしい」と言われて、「え、私が? え?」みたいな。びっくりしました。
中井:そうですよね。でも、そのときは蜷川実花さんのことはご存知でいらしたんですね。
辻:はい。もう知っていました。
中井:蜷川さんにはどんなイメージがありましたか?
辻:やはり華やかなイメージでした。今着ているお衣装もたぶん、自分のブランドですよね。そういうことがあったりとか、いろいろなプロモーションビデオなどの映像も見させていただきました。
すごい華やかで、柔らかい感じや強い感じがあります。いろいろな表現をされている方で、「すごいなあ」「すごい人だな」と、思っていました。まさか、その蜷川さんに撮っていただけるなんて思っていなくて、本当にうれしかったです。
中井:次に会うのが、もう撮影の日。
辻:はい。
蜷川:「表紙は辻さんがいい」っていう話をスタッフの前でしました。みんなも「それはいいね」という話になって。撮影の日が決まって、現場でお会いしましたね。
辻:はい。
中井:例えばCMやテレビ番組で取材を受けていらっしゃる辻選手の姿は、私たちもよく見かけます。いわゆるファッション誌のような撮影というのは、あまりなかった?
辻:初めてでした。
中井:初めてなんですか?
辻:はい。なので、「できるのかな?」「どうなっちゃうんだろう」「表情をどう作るんだろう?」という不安がありました。
わからないところから始まったんですけど、蜷川さんをはじめ、いろいろなスタッフの方々が、私がナチュラルでいられるような温かい雰囲気作りをしてくださいました。すごい楽しい撮影になりました。
蜷川:でも、本当に芯が強くて、柔軟な女性というのを感じて、撮りながら圧倒されました。かなりいいスタッフを集めて、ありとあらゆるファッションの撮影をしてきたスタッフたちで撮影に臨んだんですけど。全員で「今年一番、誰がよかったか」と話し合うと、みんなが「辻さんだ」と言うくらい、圧倒的に魅了されたんですよね。
中井:すごいですよね。パネルに何点かありますけど。
蜷川:まずけっこう難しいお洋服を着ていただくんですが、ぜんぜん着こなしてしまう。片手がある・ないということは、もはやなにも関係なくなるんですよね。
最初、義手をどう着けるか、どう出すかも念頭に置きながら、どうやってファッションに見せていくかを、いろいろなバランスを繊細にとりながら作り始めました。
最後、「もうどうでもいいね」となったのは、私たちもすごくいい経験だったし、やはり辻さんの人間性に全員が惹かれましたね。本当にすばらしかったです。
中井:先ほど、その人間性を具体的におっしゃってましたけど、「芯が強いんだけど、たおやか」。
蜷川:そうですね、たおやか。本当に外見だけではなくて、美しさが内側から染み出ている。自分で言うのもなんなんですけど、いい写真だと思うんですよね。すごくいい撮影だったなと。たくさん撮影してますけど、とても印象的な撮影でした。
中井:辻さんは、どうですか?
辻:恐縮です。ありがとうございます。
中井:しかも、写真で見ていただければわかりますけど、確かにものすごいファッショナブルなお衣装を着ていらっしゃいます。
蜷川:そうなんです。けっこう難しいお洋服を着てもらってるんです。
辻:そうですね、この表紙の写真は、ストライプのシャツ1枚を着てるんですけど、片方の襟がないのでもう脇の下から手を出しています。
蜷川:(服の部位が)外れる、不思議な服をたくさん着ているんですよ(笑)。
中井:みなさまから見たら一番左側の赤い写真ですか?
辻:はい。
中井:「ザ・蜷川実花」というイメージのお洋服ですけど。
蜷川:(笑)。
中井:ああいう服を普段は……?
辻:ぜんぜん着ないです。
中井:普段は、今日お召しになってるような感じの淡いお色を?
辻:これは今日、準備していただいたんですけど。あまりビビットな色は着ないですね。
蜷川:ぜんぜん着こなしてました。
中井:たくさんお洋服があって、どうでしたか?
辻:並んでるものを見たときに「どうやって着るんだろう?」「似合うのかな?」と思いました。蜷川さんやスタッフの方がイメージしてるものと、実際に着てみて、「ギャップがあったらどうしよう」と。私はファッション誌をやったことがなかったので、本当に不安だったんです。
でも、着ても「かわいい!」と蜷川さんがやはり言ってくれるんですね(笑)。
蜷川:でも本当に、この服たちは内面がないと着れないんですよ。表面だけツルツル綺麗にしていても無理なお洋服を、けっこう集めてきていていました。こう着こなすのは、やはり相当なことなんです。
だから本当にスタッフ全員がため息しか出なかった撮影ですね。
中井:撮影自体も楽しかったですか?
辻:はい。めちゃくちゃ楽しくて、もう忘れられないです。もう1回やりたいぐらい。
蜷川:何度でも(笑)。
中井:実際の競技場など、いろいろなところで撮ってるんですよね?
蜷川:そうですね。
中井:スタジオでもたぶん撮られたと思います。きっと、普段と見える景色とぜんぜん違うでしょう?
辻:ぜんぜん違いますね。トラックの写真は、「トラックの青がこんなに映えるんだ」「こんなに衣装と合うんだ」と思いました。
中井:確かに。
辻:撮っていただいて初めてわかったことですし。スタジオもいろいろな背景とかを使っていただいて、(パネルを指して)このお花のやつだったりとか。
蜷川:カラーペーパーで色のあるライトを当てます。だんだん難易度を上げていった感じですね(笑)。でも、もう最後は「なにを当てても大丈夫」という状態になったし、やはり私たちも辻さんと1日過ごして、すごくいい経験だったんですよね。
やはり、本当にかっこよかった。お話していたときに、「いや、私片手ないだけなんで」とおっしゃっていたんですよ。だから「ぜんぜん大丈夫なんですよ」「なんでもできるんです」と言いました。「こっちも足せばできるし」とおっしゃってて。「そりゃそうだよな」と、すごい当たり前のことなんですけど、思ったんです。
わりとフラットにいろいろなことを見られてるつもりでも、やっぱりふと「片手ないだけなんですよ」って言ってもらうときの、なにかしら受けた衝撃みたいなものがすごく心地がよくて。
そういったことを、いろいろな方にもっと共有していけたらという思いが、やはりたくさんあって。「この本を始めたのはよかったな」と、そのときも思いました。
中井:今日は、義手がない状態。
辻:はい。
中井:競技のときは、あちらの写真に出てますけれどもギアを装着して。日常的には着けるんですか?
辻:着けません。
中井:着けずに生活をずっとしている。
辻:競技用の着けているやつは、動かないもので。
中井:そうですよね。
辻:今は、動く筋電義手(注:筋肉に発生する電位差を用いて制御する義手)も出てきていますけど、私は生まれてからずっとこの状態で生きてきて、この状態で髪の毛をしばったり、靴紐を結んだりしています。いろいろなことを、この状態だからできるんですね。
だから、嘘の手を着けてもなにも変わらないし、私は私だし。逆にありのままの自分を受け入れてもらったほうがいいと私は思ってるので、変える気もないです。
中井:たくさんある写真のなかで、どの写真が辻選手自身は気に入っているのかな? というのが気になります。
辻:たくさん悩んだんですけど(笑)。やはり表紙。
中井:(会場上を)見上げていただくと大きく、『GO Journal』の表紙の写真が引き延ばされていますけれど。これ、かっこいいですよね?
辻:はい。
中井:すごくかっこいい。
蜷川:かっこいい。
辻:実花さんが覚えてるかわからないんですけど、これを撮ったときに実花さんが「目の前に金メダルがあると思って、そこを睨んで」って。
蜷川:ああ、言いましたね!
辻:はい。
中井:へえー。
蜷川:言ったんですよ(笑)。
辻:でも本当に、自分の頭のなかでイメージして。「金メダルがそこにある」「自分は戦って絶対それを獲る」と思ったときの表情だと思うんですよ。なので、競技をやっている私と、ファッショナブルな空気と、実花さんの世界観が全部混ざり合ってる写真だと思ってそれを選ばせていただきました。
中井:そうかぁ……。
辻:はい。
中井:どうやったらこの表情たちが、できあがっていくんだろう? と思っていたんですよ。
蜷川:はい。
中井:今おっしゃったみたいに、本当にいろいろな気持ちが全部ピタッときた1枚なんですね。
蜷川:でも、おそらく、なにか状況を設定したのは、その一言だけですよね。
辻:はい。そこ以外はなにもなく。
蜷川:「わーい」って。
辻:楽しく(笑)。
蜷川:普段そういうことを言わないんですけれど、もう言ってもいいような信頼関係が、撮影することによってできる。
辻:はい。
中井:なるほど。貴重な裏話を聞くと、さらにこの1枚が大事な大事な1枚に思えてきます。
そして裏表紙は山本篤選手のお写真です。夕暮れで、バチッとこちらを見据えている写真。素敵ですね。
蜷川:本当にこの日は神様に祝福されたような夕方で、あまりに美しくて。本当は衣装を着ていただく予定だったんですけど、間に合わないので、普段着ていらっしゃる格好のまま「ちょっと立ってください!」って言って、撮った1枚なんです。
ただやはり圧倒的にかっこよくて、すごい存在感があります。いろいろなことに祝福された1枚だと思います。
中井:(『GO Journal』の)なかを見ていただくとわかるんですけど、スーツ姿で走り幅跳びを飛んでいただいてる写真も載っていたりしますが。辻選手は、普段は絶対に見ない姿だと思うんですよ。
辻:そうですね。スーツで飛んでるところは1度も見たことがないです(笑)。
中井:ほかの写真に写っている選手たちに、どんな印象を持ちました?
辻:競技で、山本篤選手とはけっこう交流があるんですけど、篤さんはこんな一面あるんだという、こんな姿は私でも見たことがないです。「これは本当に篤さん?」というくらいかっこいい。実花さんの見てる世界は、すごいと思いました。
蜷川:いやいや、みなさんのなかにあるものしか、やはり写らないので。本当に、ちょっとしたタイミングであったり、あとは信頼関係ですね。
中井:そうなんですね。やはりアスリートたちの自分と向き合う心理的な面、肉体的な面もそうですけど、自分に向き合う姿の孤独さと、そこから生まれ出た栄光のようなものが、すごくよく写されてると思うんですよね。
それを、かっこよく写されているところがまた、心揺さぶられるところで。
蜷川:やはり、かっこいいですよね。圧倒的な「圧」があるというか。それは悪い意味ではなくて、自分と闘ってこられたことが、自分とのなかで往復してる感情のようなもの、圧力みたいなものがにじみ出ているんですよね。
もちろん、みなさんとても優しいですし、高圧的ではぜんぜんないんですけれども。圧倒的で、持っているパワーに魅了されますね。すごくいい体験でした。
中井:辻選手は、アスリートである自分を表すとしたらどんな言葉を考えますか?
辻:チャレンジャーです。挑戦者。
中井:メダリストになっても、まだまだ。
辻:いや、まだ3位ですからね(笑)。
中井:そうですね。
辻:はい。まだまだ、やるべきことはたくさんありますし、たぶん1位になっても、「もっとできる」と思って、きっとそこに満足しないんじゃないかと思います。だからこそ、競技を続けられるのかなと思いますね。
中井:蜷川さんにとっても、こういったアスリートを撮る、動いていく被写体たちを切り取っていく作業は、やはり挑戦の1つだと思うんですけど。
蜷川:そうですね。そんなにスポーツ選手を撮らせていただくことが今までもなくて。ましてや、例えば飛んでいただくところを撮るのは、普段とまるで違うので。技術的なところでがんばらなければいけないところも、たくさんあるんですけれども。
きっちり向き合って撮っていく。競技されているところだけではなくて、少しファッションの要素を入れるのは、すごく難しいことなんですよね。本来の道からちょっと外れてる、余計なことかもしれないけれども。でも、やはりそういった違和感などが、新しいからこそ見てもらえる入口になるのではないかと思っています。
ファッションに少し寄せているところが1号目はとくにあります。そういった新しい挑戦や、ある種の異物を掛け合わせるときは、すごく慎重で力量が問われるので、そういう意味ではものすごく大きな挑戦だったと思います。
先ほど辻さんとも言っていたんですけど、空港でナンパして「いつか撮らせてね」と言っていたことが、こんなすごい方たちがいらっしゃってくださって、こんな大事になるとは思っていませんでした。
蜷川:「こういう本があったらいいのにな」「ちょっとでも、みんなの意識が変わるきっかけになれたらいいな」と思って、小さく始めたつもりだったので、今、この場で感無量というか。まだまだ続けないといけないですし、ここがスタートなんですけれども。けっこう大事(おおごと)になってきたと思って。さらにがんばろうと思ってます。
中井:まず0号をパラサポで見たときに、「うわあ、すっごい豪華!」と思って。これが完成品だと思ってたんですよ。そうしたら創刊号が出てきて、64ページもあって。
これだけの読み物としても、(これだけの)インタビューが載っていて、グラフィックとしての美しさも兼ね備えていて、「これはただ事じゃないぞ」という。並々ならぬ決意を感じますね。
蜷川:関わってくださったみんなも、わりと業界のトップクラスの人たちが手弁当というか、自分たちの思いだけで賛同してやってくださっています。本当に、その思いも含めて届いたらいいな、と思います。
中井:本当にいろいろな人に、ぜひ手に取って見てもらいたいし、絶対に手元に置いて自慢したくなる雑誌だと思います。
中井:さあ、お二人にいろいろお話聞いてきましたけれども。ここからは、リオパラリンピック、ボッチャ日本代表の高橋和樹選手にも登場していただきます。今回はせっかくですから、ボッチャをやってみようコーナーを考えてみました。果たして成功するか否かわからないですけれども(笑)、やってみましょう。では高橋選手、ご挨拶をお願いできればと思います。
高橋和樹氏(以下、高橋):ただいま紹介いただきました、リオパラリンピック、ボッチャ日本代表の高橋和樹です。
(会場拍手)
高橋:よろしくお願いします。
中井:もういいんですか?
高橋:楽しい女子トークを聞けたので。
(会場笑)
中井:お二人はボッチャやったことありますか?
辻:少ししかないです。ボールを投げただけで本格的にはないです。
中井:なるほど。蜷川さんは?
蜷川:私は初めてです。
中井:今、ボッチャという競技の名前をお耳にしたこともあると思いますし、いわゆる健常者の方と、それから障がいを持った方と一緒にすることもできます。非常にシンプルなんだけど、奥深い競技っていうイメージなんですが。高橋選手にとっては、ボッチャとはどんな競技ですか?
高橋:そうですね。1つは、今もおっしゃったように誰もが同じように楽しめるのがすごく魅力的でもあるんですけど。もう1つが、シンプルな競技と感じるんですけど、実際やってみるとその難しさや奥深さを感じるのが魅力的でもありますので、まず、ボッチャに触れていただきたいのが一番ではありますね。
中井:そうなんです。ということで、今日はこの会場のなかにボッチャの競技を見たことある方。テレビでも構いませんし、実際に現場に行って見たことがある人、どのぐらいいますか?
(会場挙手)
さすがですね。3割ぐらいの方はなんとなく見たり、それから実際に競技の取材に行ったことがある方ですけれども。逆に言うと、7割ぐらいの人は、なんとなく画としてはわかるけれども、実際どんなんだっけ? という感じかと思います。
ジャックボールと呼ばれる白いボールですが直径10センチぐらいで、重さと中身はなんですか?
高橋:中身はプラスチックが入ってるんですけど、重さが、だいたい275グラム。
中井:275グラム。
中井:これが、そのジャックボールと呼ばれる白いボール。このボールに自分のチームのボール、あるいは個人競技の場合もありますので、より近くに投げたものが勝ちという。
高橋:そうですね。ジャックボールを先行が先に投げられるんですね。だから、その投げる距離を自由に変えることができるんですね。
中井:このジャックボールが動いたりするのが、またおもしろいところ。
高橋:そうですね。
中井:止まっていればいいかもしれないけど、より手が複雑になるという。
高橋:そのジャックボールを動かして距離を変えて、相手を混乱させるのも、1つの戦術でもあります。
辻:頭脳戦ですね。
中井:そうなんですよね。詰将棋のように、いろいろな角度から見る世界観がある競技という感じなんですが。
辻:はい。
中井:辻さんはもともとハンドボールやってらしたから、自信はあるでしょ?
辻:でも、ハンドボールは転がさないんで……(笑)。
中井:そうか(笑)。
(会場笑)
辻:はい(笑)。
中井:でも、どうですか? 持ってみた感じの重さとか、それから感触。
辻:革張りがすごい手に馴染んで、いいですね。普段投げなくても握っていたいぐらい。
中井:握るとちょっとやわらかいから。
辻:はい。
蜷川:こういうやつありますよね?(笑)。
中井:マインドを落ち着けたり。
蜷川:なんか、いい感じですね。
中井:あとはなんか、筋肉鍛えたりするような。では、さっそく。コツはあるんですか? 一応聞いときましょうか、先に。
高橋:まずはジャックボールに近づけてもらえれば。それだけです。
辻:はい。がんばります。
中井:はい。1投目です。
辻:緊張する……。
(辻氏、ジャックボールの付近にボールを投げる)
中井:うまいんじゃない!?
辻:やったー。
中井:どうですか?
高橋:上手い。あまりやってないにしては、それだけ近づけられるのは上手いです。
中井:上手い。
高橋:さすがです。
辻:勝負強さが出ちゃいました(笑)。
(会場笑)
蜷川:先ほど練習したときはボールが舞台から転げ落ちたのに(笑)。
中井:そうそう、練習したときは奥までいって、あれはアウトですよ。
辻:先ほどは台の下に落ちてしまったんですよ。
中井:さすがですね。
蜷川:さすが。寄せてきた。
中井:アスリートの方はコツをつかむのが早いですね。
中井:さあ、蜷川さんもいってみましょう。要するに、この赤いボールにより近いほうがいい。
高橋:そうですね。近づけたほうがいいですね。
蜷川:いきます。
(蜷川氏、ボールを投げて、大きく外す)
あー……難しい(笑)。
中井:これはアウト。
高橋:はい。
中井:アウトなんですね。
高橋:はい、アウトです。
中井:今のはなにが悪かったですか?
高橋:強いですね。
(一同笑)
中井:さあ、それではお二人の初ボッチャ投げが終わったところで。いよいよ、高橋さんの試技を見せていただこうと思います。よろしいでしょうか。
ボッチャという競技は、障がいに応じてクラスが分かれていて、高橋さんはもっとも障がいの重いクラスです。あ、今出てきましたけど、すべり台のようなかたちになっている。
「ランプ」と呼ばれる器具、用具なんですけれども。それを使ってやる、ということですよね。この向かい側に座ってる人は誰ですか?
高橋:えっと……。
中井:誰ですかって(笑)。
高橋:新井さんなんですけど。
(会場笑)
中井:新井さん、ありがとうございます(笑)。
高橋:競技アシスタントと言って、ボッチャは障がい程度によってクラス分けがされるんですね。私の場合は自分でボールを投げることができないので、このランプという道具を使ってボールを投球するんです。
このアシスタントと一緒に競技者として戦います。私がアシスタントにランプの長さとか、どのボールを使うかという指示を出して、その通りに動いてもらうのがアシスタントの役割です。
中井:ずっと2人、こんな近い距離で向かい合って、ずっと競技を行うんですか?
高橋:基本はそうですね。ただ、僕は新井さんとこんなに向き合ったのは初めてです。
(会場笑)
中井:では、今日は初バディを組んだ感じになるかと思いますが(笑)。ということは、アシスタントの方は常に、このボールの行方を見ることはできないっていうことなんですか?
高橋:そうですね。ルールとして、アシスタントは喋ることもできないです。選手からの指示に対して動くだけであって。喋ることもできないですし、あまり大きく「うん」と頷いたりもできないです。
投げたボールも見ることはできないので、アシスタントとしては、ボールがコートでどんな状態になっているのかを想像しながら、次に選手はこう動くだろう、こういう指示が出るだろうというのを考えるのがアシスタントの役割です。
中井:おもしろいですね。競技によって特性がぜんぜん違うわけですけど。
中井:さあ、それでは今日初めて、アシスタントと競技者として向き合ってるお二人ですけれども。どんな指示が出てるのか、少しだけマイクを近づけると……。
高橋:(アシスタントへの指示で)ちょっと左。ちょっと左。もうちょっと左。左に。……はい。ちょっと左。ちょっと右。はい。もうちょっと右。
辻:本当にちょっと……。
中井:本当にちょっと。でも「ちょっと」は、人によって違うじゃないですか(笑)。
高橋:この「ちょっと」は、今、僕と新井さんとあまり一致しない(笑)。
(会場笑)
辻:初バディです。
高橋:これが普段慣れているアシスタントですと、「ちょっと」の感覚とかわかるんで。
中井:アシスタントの人は選べるんですか? 「自分はこの人と組んで、ずっとやってます」という。
高橋:はい。基本は選べます。
中井:プロゴルファーの専用のキャディーさんみたいかもしれないです。でも、なんのアドバイスもアシスタントの方はできないし、喋ることもできない。大きく頷くこともできないのが特徴ですね。
辻:(ランプが)伸びてきた。
中井:伸びてきた、伸びてきた。それもアシスタントさんの仕事なんですね。ここにメモリが入ってるわけですよ。メモリの高さのところを指示する。
(高橋氏、ボールを投げてジャックボールに近づける)
辻:すごーい!
(会場拍手)
中井:「はい、やります」とかではなくてもう、さっそく……。
辻:ぴったり。
中井:ご自身ではどうですか? 今の投球は。
高橋:あまり、ダメですね。
中井:えー!? どのへんがダメなんですか!? どのへんをどう狙ったんですか?
高橋:できれば、もう1球投げたいです。
(会場笑)
中井:はい、わかりました。スポーツ選手は負けず嫌い。
蜷川:私のボールだけ落ちています(笑)。
中井:はは(笑)。
(会場笑)
中井:そういえば、赤いボールが1個ないなと思ったら落ちているんでしたね。
辻:これでだめだったら……。
中井:でも陸上もそうですけど、わずか0.01秒とか。
辻:そうですね。
中井:ミクロの世界のなかで優劣が決まったりするじゃないですか。
辻:細かいですね。アスリートって。
中井:細かいですよ。とくに陸上選手は細かいと思います。
辻:本当に、いろいろなメニューの積み重ねなので、細かいと思います。
中井:陸上の人は、少し哲学者っぽい人多いんですよね。
(高橋氏、ボールを投げて白いボールに近づける)
これは狙い通りですか?
高橋:いや、若干右に曲がってしまいましたね。
中井:へぇ……。狙ったのは、どういうことを理想として?
高橋:青いボールと白いボールの真ん中に置きたかったんですよね。
中井:白いボールをどかしたり、上に乗っかったりしているのを見かけたりするんですけど。そういうのも、技術的にはあるわけですよね?
高橋:今、白いボールに一番近いのが青ボールじゃないですか。白いボールと相手ボールの間に、自分の青いボールが何球入っているかで点数が決まるんですね。
辻:ああ、そうか。
高橋:ですので、例えば今だと青が2点なんですけど、もしまだボールが残っていて、もっと点数を取りたいんだったら、そこに寄せて、白いボールのところに思いきり寄せる方法もあるんですけど。それ以外に、ちょっと1個やりますね。
中井:ええ、やってくれるんですか? すごい……おもしろい。テレビで見るのとはぜんぜん違う興奮がありますね。こんな解説してもらえることもないですもんね。
辻:でも、ルールがわかれば楽しむことができますね。
中井:見てる側もいろいろ、自分だったらどこにいくか。
辻:考えますよね。
中井:戦術もすごい考えますしね。あ、長くなった。
(高橋氏、ランプをさらに伸ばす)
辻:長くなった(笑)。
中井:すごい長い……。これはどこのメーカーが作っているんですか?。
高橋:メーカー(笑)。これはマイランプですけど、こういう形にしてもらいたいとオーダーしました。
中井:選手個人が決める、と。
高橋:はい。
蜷川:白い手(補助用器具)がかっこいいですね。
(高橋氏、ボールを投げる)
高橋:失敗だ。もう1回ちょっといいですか?
(会場笑)
中井:はい。やはりアシスタントと競技者のちょっとした呼吸とかもあります。また、競技場の下にどんなものが敷かれてるのかで摩擦の度合いも違ってくるでしょうしね。
高橋:こういうふうに、長いランプを付けて投げると、強いボールが投げられるんです。
中井:確かに、すごい強い。ということで、相手のボールを遠ざけたり、あるいは自分のボールを優位にさせる。
高橋:今だと、近いほうの赤いボールがなくなったので、得点圏が広がりました。一番近い赤ボールのなかにボールを乗っければ点数がどんどん増えていく。
中井:ああ、そうですね。
高橋:ただ単に寄せればいいだけではなくて、まわりにあるボールを弾いたり、動かせたりするので、頭脳戦です。
中井:なるほど。今やっていただいただけでも、刺激と興奮のある競技だとわかりました。
蜷川:ねえ、本当ですね。
辻:見に行きます。
中井:思うんですけど、やはりみんなで見に行きたいですよね。『GO Journal』の読者の人など、私たちでもみんなで行って話し合ったりしながら。
辻:無料チケットのようなものを(雑誌に)付けられないんですかね?
蜷川:はっはっは(笑)。
中井:ねえ。どこで大会やってるんだ、という情報もね。
辻:知りたい。
中井:パラサポのホームページなど、協会のホームページにあるとは思いますけど、せっかくですからね。この贅沢な場をありがとうございました。
高橋:いえいえ。
(会場拍手)
中井:2020年、東京大会があるわけですけど、やはり今のボッチャを見てると、高橋選手は指示を出したりしなければいけないわけですから、周りが「うわーっ」と歓声があると、指示が伝えにくかったり、物理的なことってあるんですか?
高橋:そうですね。たくさんの観客に来ていただきたいのはあるんですけど、実際にリオパラのときは観客がすごい来まして。観客で自分がアシスタントに伝える指示が聞こえない、伝わらないことがあったんですね。ですので、ありがたい反面、そういう練習も必要かなと感じたりしますね。
中井:やはり競技の特性で、スタートのときに水を打ったように静かになったりする。競技がわかってくると、見る側もそれに呼吸を合わせていけるっていうこともあると思います。
高橋:そうですね。
中井:そのあたりは、これからの2020年に向けて東京で。
蜷川:そうですね。
中井:見る側の呼吸を整える、競技を知ることは、重要な手がかりになるかと思います。
中井:先ほどもお話がありましたけれども、もうすぐ(開催まで)1000日。11月29日にいよいよ2020年東京のパラリンピックの1000日前ということになります(注:イベント開催日は2017年11月22日)。
辻選手と高橋選手がアスリートとして、どういう気持ちで大会に向かいたいかというお話をしていただきたいと思います。では、辻選手から。
辻:はい。やはりアスリートとして、自国開催の大会は一生にあるかないかだと思います。毎日のなかで、トレーニングだったり、いろいろなものの集大成を見せられる場所が2020年の東京大会だと思います。選手としては、やはり金メダルがほしいなと思っています。
(会場拍手)
辻:ありがとうございます。金メダルを獲って(表彰台に)日本の国旗を上げて、国歌を流して。「もうこれで1番だ」って思っても、またそこから新たなスタートが始まると思うので。そういった新しい自分に出会えるチャンスだと思っているので、そこもがんばっていきたいなと思います。
リオやロンドンの世界選手権も行かせていただいたんですけど、会場がすごい盛り上がっていたんですね。高橋さんがおっしゃるように、自分の心臓の音しか聞こえないぐらいなので。スタッフの方も盛り上がっていて、みんなが盛り上がれる大会。最終的には健常者、障がい者という言葉ではなくて共生社会、「一緒に生きる」という社会に繋げていけたらいいなと思っています。
中井:心強いです。そしてアスリートとしての活躍も楽しみにしています。
辻:はい。
中井:高橋選手は、いかがでしょうか。
高橋:(開催まで)あと1000日を切ったということで、当然、金メダル獲得はあるんですけど、ただ、そのために1つ1つ、これからの国際大会などで結果を残して。その先に自然と2020年にメダルが見えるように精進していきたいと、選手としては考えてます。
先ほども少し聞かれましたが、やはりその会場の雰囲気だったりも含めて、いろいろな人に当日来てもらいたい。パラリンピックに興味を持ってもらいたい気持ちがとてもあるので。
この2020年に向けて、いろいろな人に興味や関心を持ってもらえるために自分ができることも、これからどんどんやっていきたいな、と思ってます。
中井:高橋選手は、パネルで飾ってあるご自身の写真や『GO Journal』の写真などをご覧になってみて、どんな感想を持ちましたか?
高橋:自分の写真というよりも、本当に辻さんの写真がかっこよすぎて。
(会場笑)
辻:ありがとうございます。
高橋:あとは、ほかの選手は誰もが『GO Journal』を見て、「僕も撮ってほしい」「私も撮ってほしい」と思うと思います。
辻:すでに言われてます。
蜷川:そうですか。
辻:「撮ってほしい!」って。
中井:そうですよね。そして、読み物も雑誌のなかにあるんですよね。そこもすごく重要で、ビジュアルで、それから本人がどんな気持ちを持って競技や毎日の人生を送っているのかを合わせて目にすることができる。すごく贅沢な内容になっているかと思います。
中井:蜷川さんは、2020年に向けて。
蜷川:やっと立ち上がった『GO Journal』を、きっちり、しっかりと良いものとして継続させていくのは、自分のできることだと思っています。できることをきっちりと、ちゃんやっていきたいな、と思っています。せっかく、こういった機会があるので、いろいろなところでいろんな方たちを最大限に活かせたらいいなと思います。
本当に、あと少しですからね。こうやっていろいろな方たちに出会えて「こういうものがあったらいいな」と思ってスタートしたものが、今日こんなにたくさんの方たちに来ていただいて。そして選手たちが撮ってほしいと思ってくださってるというお話を聞いて、今すごく勇気づけられました。今後ともよろしくお願いします。たくさん撮りにうかがいます。
中井:ありがとうございます。
(会場拍手)
白熱して時間が過ぎてしまいましたけれども(笑)。お話をうかがいました高橋和樹選手、ありがとうございました。
高橋:ありがとうございました。
(会場拍手)
中井:そして辻沙絵選手です、ありがとうございました。
辻:ありがとうございました。
(会場拍手)
中井:そして、蜷川実花さんでした。
蜷川:ありがとうございました。
中井:ありがとうございました。
(会場拍手)
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