便座は家のなかでもっとも清潔な場所の1つ

ハンク・グリーン氏:あなたは今までにトイレの便座をお皿替わりにして食事をすることを考えたことがありますか? もしないのであればちょっと考えてみてください。

私たちの脳は目に見える脅威に対してはとても敏感に反応するようにできています。排せつ物などはその最たるもので、ほんの少しでも体に付くととても不快に感じられます。そのため誰もがトイレ掃除に精を出すのです。

しかし、実際にはトイレの便座は抗菌仕様のうえ掃除がしやすいように作られているため、家のなかでもっとも清潔な場所の1つなのです。ですので、次から野菜をカットするときは、まな板ではなく便座を使ってみてはどうでしょうか。

アリゾナ大学で環境と病気との関連性を研究している微生物学者チャック・ガーバ教授の研究によると、平均的なまな板には平均的な便座の約200倍の大腸菌が付着しているそうです。さらに、平均的なディッシュタオルには約2万倍、平均的なスポンジに至っては約20万倍もの大腸菌の付着が認められるとのことです。

これは単にキッチンが清潔に保たれてないからというわけではありません。それらの台所用具が細菌を繁殖させる好条件を備えているからなのです。

例えば、まな板についた細かな傷、そしてスポンジのくぼみ。これらは細菌に食物のカスを与え、消毒液から身を隠すための場所を提供しているのです。

ここまで聞いてあなたはきっとこう思っていることでしょう。私は毎回用を足した後キチンと手を洗っているから大丈夫。我が家で大腸菌がトイレの外に出ることなんてありえない、と。しかし、私は人間によってもたらされる大腸菌の話だけをしているのではありません。

ガーバ教授によると、実際、キッチンから検出される大腸菌のほとんどは人間以外の動物からもたらされたものだそうです。具体的には、私たちが食材としてキッチンに持ち込んだ肉、血、そのほかの部位などです。

つまり、食材となった動物がエシェリキアのような大腸菌に感染しており、それがかたちを変えてキッチンに持ち込まれるのです。もしあなたが牛の飼育小屋や養鶏所を見れば、それらがいかに非衛生的であるかわかるでしょう。ひょっとしたらこれは人間に食べられる彼らのささやかな復讐なのかもしれません。

しかし、どのようなルートを辿って大腸菌がもたらされるのであれ、それは切迫した危機を意味するわけではありません。むしろ、私たちが普段使用する便器が予想外に清潔であることに驚かされます。

2007年に行われた研究によると、スポンジを水に濡らし、電子レンジで2分間加熱するだけでそのスポンジに付着している細菌のほとんどを死滅させることができるそうです。またこの処理によりスポンジの臭いも改善されます。

今回私がもっとも感銘を受けたのは、私たち人間がいかに精巧な細菌探知の技術を持っているかということです。また、ありがたいことに、私たち自身の体も、低いレベルの細菌であれば十分対処できるだけの優れた防御機能を持っていることもわかりました。

ガーバ教授の研究はとても興味深く、そして少し恐ろしいものでしたが、実際のところ、私たちは細菌に対してけっこう上手に対処できていると思います。しかし、まな板をしっかり洗浄することやスポンジを電子レンジで加熱することは今後しっかり実践していきたいと思います。ただ、トイレの便座の汚れは必要以上に気にする必要はありません。便座は今のままで十分です。