ある種のリスが持つ、脳の再建機能

ステファン・チン氏: 私たちは大人になると、脳の機能が停滞または停止すると考える傾向にあります。幾分かの変化はありますが、脳の大きな部分の機能的な変化はほとんどありません。しかし、冬眠しているリスの場合には例外があると言えます。

ある種のリスは、冬眠中に脳の組織を分解し、再建させる機能を持っています。しかも、彼らはその行為を一度だけではなく、冬眠を終えて夏に地上に出てくるとき、2〜3週間かけておこなっています。

リスにとって冬眠のサイクルは一年に一回以上の頻度でおこなわれるものです。エネルギーを節約するために地下でリスはかわいらしいボール状の状態になり、新陳代謝を遅らせ、体温を下げます。

そして少しずつ、数週間おきに小さな体を自然に温めています。24時間以内に、リスたちは冷たい吊るされた静止画のようになってしまうのです。春までこの状態が続きます。1990年代のはじめに、ロシアの研究者たちがリスがシベリアで冬眠している間、彼らの脳がどのように変化するかを観察することにしました。

研究者たちは、研究が容易なことと、その部分が冬眠をコントロールすることから、リスの脳の海馬に焦点をあてました。しかし彼らが発見したのは非常にショッキングなことだったのです。

シナプス可塑性の変化

活動的な動物とくらべ、3〜4日間冬眠に入った動物はニューロンの樹上突起が短い、または少なく、他の細胞へ連絡を送る神経細胞の広がりが少ないことに気づきました。さらに樹状突起自体のコブ状の連携地帯や突起が少なくなっていることもわかりました。そして30パーセント以上も細胞体が縮んでいることも明らかになりました。

不思議なことに、科学者たちが冬眠から目が覚めたリスを観察したところ、その2時間前に、それまでとはまったくことなる光景を目にしました。樹状突起が回復し、活動的なリスたちよりも一気にその突起が広がりだし、細胞体も大きくなったのです。

これは、ものすごく短い時間にリスたちが全ての細胞再建していることを意味します。のちに、他の科学者はこういった現象は他の脳細胞部分でもおこっていることを発見しました。最終的には、こういった現象は体内のどの細胞でもおこっているのだろうと結論づけました。神経学者たちは、この現象をシナプス可塑性の変化と名付けました。

脳の再建はエネルギーの節約になる?

私たちのように冬眠を必要としない動物が、この現象をある程度行う場合、その速度は目に見えないほどゆっくりです。例えばネズミがこの行為を行う場合に、およそ4ヶ月かかります。しかしリスの場合は、およそ2時間で済んでしまうのです。したがって、他の動物よりもリスの冬眠状態の研究に興味をそそられたのです。

しかしながら、なぜ急激な神経の再建がリスたちの体に有益なのかは謎が多いままです。一つの説では、脳の神経伝達を低下させることでエネルギーの節約になるというものです。これは基本的に動物たちが冬眠する理由と同じです。

しかしながら、脳の再建は特に効果的とは言えません。したがって、脳の神経細胞機能の低下がエネルギー節約に役立っているのかはまだ議論の余地があります。

麻痺治療に活用できる可能性も

寒いときに壊れた物を脳の中で再建させることはあまり見られる現象ではなく、冬眠をしない動物にとっては非常に破壊的な行為だと研究者たちは認識しています。例えばネズミの場合、温度が下がると、彼らの脊柱はなくなってしまいますが、リスの場合はたったの4分の1しかなくなりません。

この事実は、特別なある種のリスは、冬眠中に思ったよりも少ない割合で細胞が壊れているといるのではないかと研究者たちが考えるようになりました。したがって、冬眠後の再建プロセスが非常に感動的なものだとしても、リスたちにとってはそこまで大々的なものではないかもしれないのです。

科学者たちは今でもリスについて研究を進めていて、この仕組みを応用し、将来は病気や麻痺の治療にも効果を発揮できるのではないかと考えている人もいます。ただ一つ確かなのは、リスは素晴らしい脳を持っているということです。