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人気アニメの聖地巡礼は根本解決にならない、群馬県桐生市からみた地方の人口減少にあるリアル

人気アニメの聖地巡礼は根本解決にならない、群馬県桐生市からみた地方の人口減少にあるリアル

街に人を集めることで、新たな形態を作りたい――。2017年1月、群馬県桐生市が日本初となる街探索型GPSゲーム「2116 feel and color」をリリースしました。ゲーム制作の指揮をとったのは、同市出身のゲームクリエイターである、殿岡氏。目的は街の活性化ですが、その結果はどうだったのでしょうか。今回の鼎談には、殿岡氏のほか、運営を担当したキッズバレイ星野氏、同市の産業経済部産業政策課・石原氏に、ゲームを作った狙いや桐生市が抱える課題などを聞きました。

(提供:NPO法人キッズバレイ)

シリーズ
【鼎談】桐生市・石原氏×ニュートロンスター・殿岡氏×キッズバレイ・星野氏
2017年3月11日のログ
スピーカー
桐生市産業経済部産業政策課 課長補佐 石原智貴 氏
株式会社ニュートロンスター 代表取締役 殿岡康永 氏
NPO法人キッズバレイ 代表理事 星野麻実 氏

街歩き促進ゲームからセンサー網整備への狙い

―ゲームを作る上で苦労したところはありますか? 石原智貴氏(以下、石原) そうですね、そのあたりは私は直接関わっていないのではっきりしたことは言えませんが……。そもそもビーコンを取り付けさせてくれないところがあったりなど、その交渉などはけっこう大変だったようです。商店街を回って「ビーコンをつけさせてください」「なにするんだ?」というところですよね。 IMG_0772 ビーコンにもいくつか種類があります。両面テープでつけるものと、ビス止めするもの。後者だとやはりお店本体などを傷つけるわけですから、許可してくれるところがそもそも少ない。「ポケモンGO」のおかげで説明しやすいところはありましたが……それでもまだちょっとわかりづらいですよね。 殿岡康永氏(以下、殿岡) うちの親もそうなんですけど、世代としてガラケーを使っている人が多いんですよね。スマホを持っている人には説明しやすいんですけど、ガラケーしか持っていない人には説明しづらい。そういった障壁もありましたね。 あとは、そもそもインターネットをやったことがないとなると……。説明がもっと難しくなる。 石原 商店街の店主の方々は、ほとんど高齢者ですから。「GPS? なんのためにそんなものをつけるんだ?」となります。ただ、こういったモデルがどんどん広がれば、先進事例になる。例えば「桐生市が若者で賑わう街になったんだよ」とPRできれば、ほかの自治体でも「ああいうことなのか」と理解してもらいやすくなる。 今回に関しては、商店街組合単位で協力してくださったんです。「組合所有のアーケードや電灯にとりつけていいよ。なにになるかわからないけど」と。まずはそこからスタートしました。 とにかくこれはもう、桐生市にとって1つの実験ですよね。街歩き促進ゲームができた、それが今後どんな成果を出すのか。成果によっては「あ、こういうことなのか」が広がってくると思うんです。 そうなれば、公共交通やバスの利便性向上、あとは貸自転車。そういったものの運用管理にも広がればいいですし。あとは防災という観点でも、センサー網が整備されれば活用できると思うんです。今は、あくまでも実績作りですね。 ―でも確かに、監視されているような気持ち悪さはあるような気がします。こちらがどこにいるかわかるということですので。センサーを切りたい時もありますよね。 星野麻実(以下、星野) ありますね。 殿岡 そこは選択だと思うんですよ。便利な機能をつけたい時を明らかにすればいい。したくなかったら、切ればいいだけなので。そういった選択もどんどん生まれると思います。 IMG_0738 僕は選択を与えたいと思っているところがあります。便利な生活を作る上でインターネットを使う・使わないがある。使いたくない人は本を読んで学んだりすればいい。そこは進化だと思っているので、果敢に攻めていきたい。そこで「したくない」という人がいれば、センサーを切ればいい。そう思っているんです。

市町村がビーコンを導入した事例は桐生市が初

―その点でいくと、今回アプリを作る上で「とくにここを気をつけて設計した」みたいなところはありますか? 殿岡 実際にやってみて思ったのは、ビーコン自体のアプリケーションに関するノウハウがほとんどなかったので。トライ&エラーじゃないですけれど、そこは改善していかないといけないところですね。 ―まだ始まったばかりなんですよね、ビーコンって。私の中でも、イベントなどで少しずつ使われ始めているイメージしかないです。 殿岡 そうなんです。小規模なものはあったとしても、大規模なものはまだないので。我々としても、地域活性化というモデルでの導入は、先駆者としてどんどんやっていくしかないところですよね。 ―ある意味、たまたま殿岡さんが桐生市のご出身だったから、地域活性化のビーコン導入モデルとしてめずらしいトライアルをする場になったということですよね? 殿岡 いえ、それにはいろんな状況が重なっているんです。例えば石原さんに会わなかったらできなかっただろうし、星野さんがいらっしゃらなかったら運営もうまくいかなかったかもしれない。そこは、やってみないとわからないところがけっこうありました。想定内と想定外だと、想定外のほうが多かったんです。やはりトライ&エラーなので、どう対処していくかみたいなところだと思いますね。 ただ、今は会社の方向性や考えていることに関しては、順調にいっていると思っているので、どんどんやっていきたいですね。

ゲームが持つ「なにもない場所」に価値を与える力

―ちょっと気になっていたのが、世間的にも地域振興やUターン、Iターン促進の話題はよく耳にしますが、実際にうまくいったケースというのをあまり聞かない印象があります。 温泉があるなど観光資源が豊富な地域がある一方、そうじゃない地域もあります。その場合、インバウンドとして有効な方法は成功事例には、どういったものがあるんですか? 殿岡 一般的な話だと、アニメ聖地が1つですね。 ―ああ、ありますね。 殿岡 今だと『君の名は。』の関連で「ロケ地に人が集まりました!」という事例はあります。でも、京都市でゲームを作った時に聞いたんですが、これってけっこう短期的なんですよね。その時だけヒットするけれど、継続的ではない。 その点、桐生市の場合は住んでいる人がハッピーになって、それが継続するカタチを作っていければ、どんどんこちらからプッシュできるので。 ―なるほど、プッシュできるんですね。ある意味、アカウントを握るというか。 殿岡 そうですね。そこはあると思っています。 IMG_0768 あと、なにもない場所でも、ゲームに関してはなにかを作ることが可能なんですね。というのも、実際にその場所へ行かないとわからない問題などは、別に観光地じゃなくてもいい話なので。例えば「ここにある番号がかかれている。その番号を答えさせよう」となったら、みんな番号を見つけるために現地へ向かう……みたいな。 なにもない場所にストーリー性を持たせたり、特徴をもたせたり、こちらでハンドリングするんですね。「なにもないところでも人を呼べる」の強みはそこかなと思っています。 今、地方の活性化がうまくいっていない事例の中には、プロジェクトを継続的にやっていなかったり、システム自体はまだ薄いベースだったりがあります。そこをもうちょっと拡張すれば、結果は出てくると思うんです。 今回の地方創生加速化交付金が8,000万円だったという話がありましたけれど、いろんなものをやっていけば、その桁はどんどん大きくなってくる。そういうところを継続的にやっていかなければならないですね。 ―アプリで人を呼ぶ一方で、データを取り続けるなど、複合的に活かすことが重要ってことですよね。 殿岡 そうですね。いろいろやっていく。それを思考していくところですよね。

上京組にも地元に思い入れがある人はいる

―そもそも桐生市におけるインバウンドの考え方もあると思いますが、これまでのトライ&エラーで「ここはうまくいった」「ここはうまくいかない」というのはありましたか? 石原 私は観光振興担当ではなくモノづくり系企業や商店街等の支援などを続けている立場の者なので、なんとも言えないところがありますけれども。 観光に関して言うと、桐生市は織物産業で栄えてきた街であり、その名残りというか、古い伝統的な建物がずいぶん残っているんです。「ノコギリ屋根」といって、織物工業で使われていた工場跡を美容院やケーキ屋さんが使っていたりする。そういったものが点在しているんです。なので、来てみるとなかなか見応えのある街だったりするんですね。 そのほか、伝統的な建物が数多く残っている重要伝統的建造物群保存地区みたいなものもあるんです。そういったところに今、観光客が来るようになっているんですね。 ただ、そういった伝統的な建造物や観光施設等は一箇所にまとまっているわけではなく、点在していたりします。なので、そういった建築物での観光だけでアピールしていくのは厳しい印象がありますね。 なので、今回のゲームアプリみたいに、拠点と拠点をつないで、自然に歩き回れるコース作りができたら、おもしろいと思ったんです。 IMG_0783 あと、今観光に来られている方のほとんどが年配者なので。建築物や織物産業の商品など、伝統的なものを見たい人には、年配者がけっこういます。そこで若者をいかに引っ張ってくるか、今回のゲームに期待しているところがありますね。若者が街を歩いていると活気も出てきますし、そういった人向けの産業が起こる可能性も出てきますから。 桐生市に限らず、ほかの地方都市でも、若者がみんな都心へ出てしまって、超高齢化社会になってきているんです。でも、桐生市の若者には、東京へ行っても地元に思い入れがある人が多くて。なにか仕事があれば戻ってきたいと思っている人もいるんです。 星野さんのキッズバレイでは、東京で活躍していて、かつ地元に思い入れがある人たちが戻ってくるきっかけづくりや仕組みづくりができないかと取り組んでもらっています。UターンとかIターンとかJターンとか、桐生市に思い入れのある若者を惹き付けることは、ほかの若者が戻ってきやすい雰囲気作りにもなるんですよね。 ―仕事はどこでもできるので、あとは快適な空間があるかどうかですよね。 殿岡 そうなんですよね。まだ東京に一極集中状態なので。なにか行動を起こさないと、変わらないところがありますよね。

仕組みを作れば、自由な発想が生まれる

―先ほど、観光客を呼び寄せる部分に関してアニメなどがあるけれど、そういったものはわりと一時的なもので終わってしまうのが課題だというお話がありました。実際にこういったアプリを作ることで、再訪問率を上げるなど、具体的になにか方法があったりするんですか? 殿岡 そこは、将来的なあり方に関わってきますね。だから、開発コストが非常にかかります。そこで、うちが仕組みを貸し出して「あとは自由に開発してね」というのが理想だと思っているんですよ。 今、一般的にアプリを作ろうとなると1億8,000万円くらいかけて作っていたりします。それが500万円で作れるようになると、非常にいいと思うんですね。クリエイターさんたちがどんどん安価で開発できる状態。うちは、仕組みの利用料だけもらうみたいな感じで、どんどん数も増やしていけるだろうし。 ―でもそれをやると「桐生市の高校生が勝手に同じようなゲームを作って、それが呼び水になるかもしれない」みたいなイメージじゃないですか? 殿岡 今はゲームだけでなく、LINEスタンプもあります。なので、仕組みの中にも自由な発想はいろいろあると思うんですよ。 おそらく、僕たちが想定していない層でも、なにか作れたりする。そこは新たなメディアというか、テレビ番組、Webサービスにいる人たちも参入しやすくなるのかなと思いますけどね。

街に人を集めることで、新たな形態を作りたい

―ありがとうございます。お時間が迫ってきましたので、最後になにかひと言ずつ。 殿岡 僕は桐生市出身で、今回20年ぶりに戻ってきたんです。やっぱり子供の頃と今の街は形態がまるで違っていたんですけど。でも、人を集めたいという気持ちはあるんです。それは人を集めることで昔の街に戻れるとかではなく、新たな形態として、新たな街づくりができたらいいなと思っているんですね。 ―観光客というよりも、街の人を増やす。 殿岡 ライフスタイル自体を変えていきたいんですよね。 今、実家で親と一緒にいるんですけど。先ほどお話したように、若者のほとんどが東京で就職しなくちゃいけない状態になっている。しかも、東京に長くいればいるほど、そこでしか生活できないような状態になっていく。それにストレスを感じている地方出身の若者もいるんです。ただ、脱却する具体的な方法が見つけられない。僕自身、東京で働いていたので、どういう状態かわかるんです。 なぜ脱却できないのか。「ネットがあればどこでも仕事ができるじゃないか」と言われても、実際にできないんですよ。今でも、ビジネスやお金が一番回ってくるのは東京です。仕事でも、実際に会ったりその場所へ行ったりしないとできないもののほうが多い。 なので、地方にある意味、新しいスマートシティというか、産業自体を呼べばなにかできるんじゃないかと思っていたりするんですね。 ―確かに、産業を呼び込めたほうが強いですね。 殿岡 今はIoTとかスマートシティとかいう言葉が登場していますが、具体的な事例を桐生市でできれば、どんどん展開できるんじゃないかなと。 ―星野さん、なにかありますか? 星野 今回、私たちはゲームの運営というカタチで参加しています。その中で、ゲームだけでなく、地元の体験とセットにしたツアーなども何回か組んでいました。例えば、染め物体験とゲームを組み合わせたり、着付けして着物でゲームに参加してもらったり。それが、思っていた以上に「体験したい」という人がいると感じたんですね。 IMG_0816 なので、ゲームをきっかけに「よく知らない街だったけど、来てみたら楽しかった」「ファンになった」という方を地道に増やして、その先で本当に好きになってくれたら「週末だけ遊びに来よう」「引っ越してこよう」となってもらえるんじゃないかと。 私もしばらくの間、東京と桐生市を行ったり来たりする生活をしていたんです。東京からこちらへ戻ると、やはりストレスというか、高い建物がないせいか開放されるような気持ちになるんです。 そういった意味でも、距離感を活かした働き方や暮らし方が、今回をきっかけに新しい時代の流れに乗りながら提案できるんじゃないかなと、すごく期待しています。 ―ありがとうございました。

  
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