赤ちゃんの頃の記憶がない理由

マイケル・アランダ氏:赤ちゃんの時の記憶はありますか? もちろんないと思います。というのも、3歳より前の記憶は思い出せないのです。

これは幼児健忘症と呼ばれていて、誰にでも起こり、脳の発達に関係しています。8~9歳で落ち着くのですが、それ以前のことは子供たちは思い出せないのです。幼児健忘症には時の経過以外にも関係していることがあります。

30歳を越えると、20年前、10歳だったことを思い出せますが、20代の時に20年前の幼児だった頃は思い出せません。ただし全部を忘れているわけではなくて、言語能力や運動能力は覚えています。ただ、エピソード記憶が思い出せないのです。

そこで、科学者たちは、脳の発達方法になにか関係があるのではないかと考えました。そして、脳のいくつかの部分は、出生後長く成長し続けるのだいうことがわかりました。

そのうちの1つが海馬です。エピソード記憶を形成し貯蓄する部分です。大人になっても海馬はニューロンを生み出しますが、若い頃はより早く多く生み出します。

記憶に関連する研究として、トロント研究チームがネズミにより多くのニューロンを作りださせたところ、幼児健忘症の幼児のように、ネズミは忘れっぽくなりました。そして新たな脳細胞の成長を遅れさせたところ、もの覚えはよくなったのです。

ではなぜ、新たな脳細胞の生成が記憶力を悪くするのか。長期的に見れば悪くはありません。なぜなら新たなエピソード記憶を覚えていけるからです。どうやら、若い頃に新たなニューロンを海馬に埋め込もうとするのが問題のようです。

新たな記憶への接続を形成する際に新たなニューロンと古いニューロンがごちゃまぜになると、脳にとって古い記憶がどこにあったかを探すのが大変になってしまうようなのです。完全に削除されてしまうこともあります。

すべての記憶が海馬にあるわけではありません。前頭前皮質と扁桃体という部分も関係しています。研究者たちはこれらの部分にも注目しています。幼児健忘症については完全に解明されたわけではありませんが、これはすべての人間に起こることです。

だからもし初めての誕生日会を思い出せなくても心配しないでください。誰も思い出せませんから(笑)。