地球の気候をシミュレーションするモデル

ステファン・チン氏:地球の気候は、過去数十万年の間に大きな変動を経てきました。現在、研究者たちは地球の過去の気候変動について、多くを把握しています。ここでは、気候変動の未来についてお話していきましょう。これまでにない急速な気候変動と、気温上昇で起こる危険、激化する干ばつや嵐についてのお話です。

研究者が将来の気候の予測をする手段は、過去の再現とは少々勝手が違います。過去の気候変動は、樹木の年輪や氷層などに物理的な軌跡を残しますが、未来については少々、理論的になる必要があるのです。

使われるのはコンピュータモデルです。つまり正確なシミュレーションを可能とする、限りなく詳細な、地球大気圏の数理的再構成です。正確であると認められるものが構築されるまでには何十年もかかりましたが、実際にかなり正確です。気候モデルが示すものは、気候変動は確実に起りつつあることと、その要因が人類であることです。

全球気候変化、つまり大気循環モデル(General Circulation Model, GCM)は、40年代から50年代の、地球環境をコンピュータによりモデル化しようという、初期の試みから生まれました。

研究者たちが作成を試みていたのは、地球の未来予測ではなく、当時の地球大気圏システム像でした。そしてそれはたいへん困難でした。

気候モデルは、昔も今も同様に、地球の地表を、大気の移動状況や地表面温度などの特性ごとに、一辺数百キロメートルで分割します。さらに、コンピュータはこれらの分割面が、時を経てどのように相互作用するかを論理計算します。

こういった初期のモデルは、極めてシンプルなものでした。地表と海とを一緒くたにして、地理とは関係なく湿地として扱ったり、コンピュータが南極と北極を処理できなかったため、地球を球体ではなく円柱として表現していました。

ありがたいことに、地球を円柱として計算し続けることにはなりませんでした。こういった計算の簡素化は、RAMが5KBだけしかないなど、初期のコンピュータの性能に限界があったためでした。みなさんのスマホであればこの50万倍はあるでしょう。いずれにせよ、大気圏の気流とその乾湿をおおざっぱに割り出すには十分なものでした。

しかし研究者たちは面白味のない円柱の大気圏などではなく、より実際の地球に即したものを求めたのです。

分割面を細分化すれば、より正確なモデルを作ることはできましたが、それにはもっと高いコンピュータの性能が必要でした。また、山脈が大気の移動に与える影響や、海を周回する暖流寒流についてはどうしたらよいのでしょう。こういった問題に答えるには、気候モデル生成にはさらなる因子が必要でした。

コンピュータの性能が上がり詳細な予測が可能に

1970年代になると、化石燃料の使用で大気圏に放出される、二酸化炭素による温室効果が問題になり始めました。研究者たちは、二酸化炭素は太陽の熱を吸収して地球温暖化の要因となると考えたのです。

同時に、コンピュータの性能が上がり、現状についてのモデル以外も作成可能になってきたました。そこでプログラマーたちは、未来の気候変動を予測するモデルを構築したいと考えました。

しかし、未来の予測を開始するには、過去の気象の推測、つまりヒンドキャスティングができるようになることが不可欠です。これはたいへん重要な試練でした。なぜなら、モデルの過去の「予測」が既知の事象と合致するのであれば、未来の予測も信頼できることになるからです。

気温の記録は1世紀以上を遡ることができます。モデルを1850年からスタートさせて時系列を進めれば、既知の気温傾向と合致するはずです。1970年代後期になると、気候モデルはこれができるようになりました。

1979年、2つの異なる気候モデルから出されたレポートは、大気圏の二酸化炭素の増加に伴う地球の気温上昇を予測しました。大気圏中の二酸化炭素を倍量に仮定すると、摂氏1.5度から4.5度気温が上昇することが明確に予測され、21世紀までに気温は上昇傾向にあるとしました。以来この値域は非常に信頼性が高いことが証明されてきました。ずっと性能が高い今の気候モデルが出した、22世紀の気温上昇の予測とも合致するのです。

つまり70年代のモデルは「大気圏中の二酸化炭素が2倍になったらどうなるか」というシンプルな疑問の答えを導き出すことができたのです。

しかし今日の私たちは、初期のプログラマーたちが夢にも思わなかったような、高性能のコンピュータを気軽にポケットに持ち運び、10秒もすればどこかへ行ってしまうネコを写真に写して、他の人に送信することができます。まさに黄金時代です。

ネコの写真の画質も向上しましたが、気候モデルも同様に進化しました。私たちは、より詳細な疑問の答えを得られるリソースを、極めて豊富にもっています。

各国政府は、自国に関する詳細な予測を求めています。また、研究者たちはエミッションを制限しなかった場合に対し、地球気候変動の抑止政策を取った場合に起こることを調べようとしています。

今のモデルでは、今後人類がとる行動によって異なるシナリオに基づき、それぞれに寄り沿った予想をすることが可能です。たとえば、一定期間内にどれだけの二酸化炭素が排出されるか、どれだけの土地が農地として利用されるか、といった類のものです。

また予測を逆回しにして、一定の温暖化を生じさせる因子を逆算することも可能です。ですから例えば、政策決定者が全地球の気温上昇を摂氏2度に抑えるにはどのような変化が必要かを調べるには、単純に、適切なパラメータの気候モデルを使えばよいのです。

コンピュータが大きな発達を遂げた21世紀ですが、気候モデルが完全な最終形に到達したわけではありません。地球の大気圏は想像を絶した複雑なシステムであり、そのすべてを追跡できるほどの性能を持つモデルは存在しません。さらに、人間の現在や未来の行動がすべてわかるわけでもありません。

つまり、現在の私たちには未来の多くがわかってはいますが、予想の精度を上げるにはまだやることはあるのです。

たとえば、海面上昇の予測モデルは2012年ころまでは精度が悪く、予測はいつも低すぎました。2001年と2007年に作成された国連レポートの海面上昇予測は、人工衛星経由の観測値を60パーセントも下回りました。これはモデルが、南極大陸とグリーンランドの氷床の急速な変化を捉えきれなかった可能性があるためです。

直近の2013年国連レポートでは、再プログラムされたモデルにより、海面上昇予測はより観測値に近いものになりました。

現在予測されている温暖化の影響

さて、モデルの精度を上げるのは気候変動の予測のためでもありますが、さまざまな事象を調べることは科学研究として有効だからという理由もあります。こうして絶えず改良され続けているため、すべての最新予測がより詳細になっていくかもしれません。

過去数十年では、特定の地域に適した予測ができるようになってきました。これはたいへ便利です。世界各地の国や人は、それぞれ知りたいデータがまったく異なるからです。南ヨーロッパの農家は、干ばつの穀類への影響の悪化を知りたいかもしれませんし、モルディブ諸島の島民であれば、海面上昇による国土の完全水没を心配しているかもしれません。

こういった疑問に答えることは可能ですが、解の多くは暗いものです。モデルをどう見ても地球温暖化は極めて明確です。温暖化は予測がたいへん容易で、1979年以来ずっと続けられてきています。二酸化炭素のような温室効果ガスの大気圏への放出量を増やすと、さらに温暖化が進みます。

モデルが取り入れる因子は、温室効果ガス以外にも、火山や石炭火力発電所から排出される微粒子など冷却効果があるものも含まれます。また、海はCO2を吸収するので、キャパシティが続く限り温暖化を遅らせる効果があることは知られています。

しかし全ての予測値は、温室効果ガスの影響力の方が上回ることを示しています。世界中の国の政府が早めに手を打ち、温室効果ガスの排出を制限したり段階的に廃止するシナリオでも、気候モデルの予測は地球の気温は少なくとも約2度は上昇するとしています。

対策が消極的であったり、手を打たなかった場合の別のシナリオでは、地球の表面温度は摂氏6度も上昇します。華氏であれば11度で、これはかなり暑いですね。

しかし気温上昇が気候変動の結末だと思ったら大間違いです。研究者たちは、他のツールとモデルを併用し、さまざまな影響を予測しています。

2014年に刊行されたアメリカ地球変動研究プログラム(United States Global Change Research Program)の包括的レポートには、気候変動がもたらす結果のリストが掲載されています。北米が受ける影響について大きく取り上げられていますが、同様の事態は世界中で起こります。

氷点下ではない気温の季節が長くなり、植物の成長期間が増えます。これには良い影響があり、植物が吸収するCO2が増加するため、大気圏中のCO2は減ります。しかし良いニュースはここまでです。

全般的には、世界と北米の雨や雪などの降水地域に変動が起こります。そして変化は次第に極端になっていきます。温暖な大気はより湿度が高いため、雨の多い地域はさらに雨量が増します。

モデルはさらに、乾燥の悪化をもたらすことになる、大気の移動状況の変化も示しています。例えば乾燥地帯であるアメリカ南西部は、さらに乾燥が進みます。そして干ばつや熱波、巨大嵐のような大きな異常気象がさらに悪化し、増加します。

大西洋のハリケーンに起こる気候変動の影響は、予測が困難です。2017年に大災害をもたらしたハリケーンシーズンが、気候変動によるものかどうかは不明です。しかし、地球の気温が上昇すれば、海面水温も上昇します。温かな海水はハリケーンの勢力を増します。

過去の例からは、気温の高い年のハリケーン上陸は増えていないため、嵐の規模が大きくなるだけで、ハリケーンは増えることはないのかもしれません。しかし確かなことはいえません。

気候変動は他にも、海面上昇や氷帽の融解、海流の変化などの影響をもたらしますが、すべてを解説するにはSciShowの別のエピソードとしてのトークが1つ、まるまる必要になってきます。このトークは何年か前に実際に公開されています。

何十年にも及ぶ気候モデルの改良のおかげで、地球規模と地域規模の両方でさまざまなことがよくわかってきました。モデルは何年もかけてずっと精密になってきましたが、気温が上昇するという予測に関しては変わりませんでした。

気候モデル自体の研究としては良い兆候ですが、少々心配を要する事態です。地球は、決して単なる湿度の高い円柱などではありません。しかし時を経て気候モデルは改良され、地球の仕組みと人類が取るべき対策について、多くがわかってきているのです。