空き店舗を再生したら、状況が好転しはじめた

市来広一郎氏(以下、市来):全国どこもシャッター商店街が問題になっていますが、熱海銀座でも同様に2011年ぐらい……今から8年ぐらい前から、本当にどんどん空き店舗が増えていく状況でした。先ほども出てましたけれども、10年間空いていて(スライドを指して)こんな状態になってしまったところもあって。そういうところを、自ら事業に変えて。

商売は絶対得意じゃないと思っていたので、本当は自分たちで事業をやるのって嫌だったんですけど。まあでも誰もやらないんで、やるしかないと思って、すごくちっちゃいエリアの中で、4つのビルを再生してくということをやってきたんですね。

結果的に人がだんだん増えてくるという状況が起きてきました。で、空き店舗がほぼなくなって、あと残り1店舗の空き店舗がついに、不動産のオーナーさんとも「これから活用していきましょう」っていう話ができるようになってきています。

実際にこうやってくると、地価がずーっと下がっていたのが上がり始めたりとか。このエリアに住む人たちが増えはじめたりとか。そしてさらに、雇用も増え始めたりということがようやく、8年かかりましたけど、なんとか起きてきてるということで。すっごくちっちゃいエリアなんですけれども、だいぶ状況が変わってきて。課題解決をしているな、ということです。

「クリエイティブな30代に選ばれるサードプレイス」になる

街中でこういう再生(事業を)やる人がもっと出てきて欲しいんですけど、もっと別の分野に渡ってそういう仕事を生み出していけたらいいなあ、ということは思っています。ただ僕らが、熱海みたいな地方でいきなりビジネスを始めようと思うと、地域の人たちが寄ってたかってやってきて、いじめられるっていうのがよくあるわけです。

熱海でもよくあったし、僕もそういう目にあってきたんですけど、「それじゃ誰も(事業を)やりたくならない」と思います。なので、僕らは地域の中でひたすら、ちゃんと地域の人たちとのネットワークを作りまくって、謝りまくって、外から(事業をやりたい)人たちが入ってきやすい環境を作ろう、みたいなこともやってきました。

そういうこともやってきて、本当に地域のコアな部分なんですけど、(スライドを指して)ようやく外からの人たちも、こういうお祭りに参加することができるようになってきたというのが、ここ最近の状況ですね。

だんだん仕事作りみたいな話に入っていくんですけど。僕らは、熱海の再生を考えているときに、ずっと掲げていたビジョンが、“クリエイティブな30代に選ばれるサードプレイスになる”ということでした。

サードプレイスというのは、さっき言ったように、東京と熱海を行き来しながら仕事したりとか(する場所)。休みに来る人たちが増えていったらいいなぁ。先ほど長谷川さんが言ったとおり、熱海は距離も近いし、いろんな変わり方ができるんじゃないかな。

熱海って今までは、悠々自適な別荘暮らしをする年配の方々がいたんですけど。(これからは)もっと違って、仕事も暮らしも2拠点でやっていこう、と。それがその人にとって、キャリアとか暮らしの豊かさにつながっていったらいいな、と思ってます。

そういうふうに熱海を使ってもらったらいいな、という感じですね。(スライドを指して)こちらは57年間空いていたスペースです。僕らは3年前、そこを借りまして、こういうコワーキングスペースを作ったりして。結局ここはできたので、LIFELL HUBさんと連携していろいろやってるわけですけど。

創業支援プログラム「99℃」で生まれた12の事業

熱海で仕事作りをしよう、ということをやってきました。その中の1つの大きな取り組みはこういう場を作るだけではなくて、熱海で起業する人たちを呼び起こしていこう、ということをやってきました。この3年間で主にやってきたのが、「99℃」というスタートアッププログラムの、“ATAMI 2030”です。

熱海の2030年を作っていく事業を生み出していこうと。そんなすごいでかいことではなくて、ちっちゃいことから。やっぱり今お客さんが熱海にいっぱい来てるんですけど、いっぱい来てるからってそれをやろうというのじゃなくて、新しい価値を作っていこう、そういう人たちを目指していきたいなぁと思ってですね。これは熱海市と一緒に連携しながら始めたものです。

ここから生まれてきた起業家の人たちを、何人か紹介したいと思います。1人は、介護タクシーの事業をやられている方。この辺りは高齢化率も高くて、ほんと移動も困難で。家を出たら下に行っても上に行っても、階段が200段とかあったりするわけですね。高齢の方が外出できなくなってしまうので、移動の手段を提供されているタクシーの会社さんです。この方の話はまた後ほども出てくると思いますが、熱海高齢化率が高い中での取り組みですね。

後で登場しますけれど、水野綾子さんという人が「サーキュレーションライフ」って言っています。熱海と東京と行き来しながら、好きな複業とマッチングしていくことで、熱海の地場の企業さんにとってもプラスになるし、東京で働いてる人たちにとってもプラスになるというやり方もできると。

彼女は熱海に移住して起業して、地域コミュニティの拠点になってる。そういう人が出てきたりとか、古民家改装していったりとか、熱海で普通に飲食店やるっていう方もいれば、現代アートの作家が会社を作ってエリアの再生をし始めたりしている方がいたりとか。

その他にも、東京で不動産屋をやっていた方が熱海に移住してきて、「暮らしを作る」と言って、暮らしのデザインっていう観点から、不動産を起業するなどですね。これまでに、熱海地方の取り組みで、12件ぐらい新しい事業が生まれてきています。

これから始める人たちがやりやすい環境をどう作っていくか、みたいなことを思って、熱海内外、さまざまなおもしろい起業家だったりとか、事業をやってるメンバーに来てもらって。4ヶ月間の中で、事業をブラッシュアップしながらも、ひたすら地域の経営者とか金融機関とか、よそのところで実際に事業して失敗もしてきた人たちのアドバイスとかも受けながら、事業を構築していく。そんなことを3年間やってきました。

先行事例をつくることで、後に続きやすくなる

とにかく、これからですね。熱海で事業をやる人たちが、やりやすい環境を(用意して)、人を支えることはすごく大事だと思うので。それを僕らで産業振興室と一緒になって、そういう土壌を作ってきました。

僕ら自身も、さまざまな事業をやっているって言いましたけれども。自分たちで今までなかったような事業をやることによって、今まで熱海に来なかったような人たちを呼び込んできて、新たなマーケットを作っていきつつ。

そういう(事業をしている)人たちがいるなら事業を始められるよね、ということで熱海で(事業を)始めていく人たちが出てきたりして。そのときに、場所を貸せるオーナーさんがいるよと繋いでいって。そんなことをひたすらやってきた、ここ最近です。

ということで、すいません、だいぶ早口で喋ってしまいました。長谷川さん、補足というか、今までやってきたこと、思われてきたことなど。

長谷川智志氏(以下、長谷川):そうですね、99℃も我々が市来さんのところ……machimoriさんにいろいろお願いをしてやってきたんですけれども、全部お任せするというわけではなくてで。市役所の職員も別に専門家でもなんでもないんですけど、一緒になってその事業者さんがこういうことが必要で、どんなことを求めているかというのを毎週毎週考えながら、このプログラムをやってきました。

市役所の職員って、事業者さんとそこまで接点が持てるってことはなかなかないんですけど、私はそれがすごく貴重な経験になっていまして。本当にプログラム卒業のときには涙が出るぐらい、素敵な取り組みだったんですね。

市来:ありがとうございます。せっかくSli.do.にいろいろコメントをいただいているので、これにも答えていきたいと思います。ザーッと数分、2~3分ですけど。

「民間がこんなに動いているのに、なぜ行政が絡まないのか」

では、基本的なところから。先ほどちょっと、長谷川さんのところはA-bizというものがあると話しましたが、「A-bizとは守備範囲が違うんでしょうか?」と。

長谷川:産業振興室でA-bizという事業をやっていまして、事業者さんのいわゆる相談事業ですね、無料で何回でも相談できる事業をやってます。

市来:ありがとうございます。では、これいきましょうか。「町おこしをするのに行政との繋がりが大切かなと思うんですが、長谷川さんと市来さんはどういうふうに繋がったんでしょうか?」っていう。

長谷川:これはですね……ちょっと話すと長くなるんですけど、端的にいうとですね、「市来さん一緒にやってください!」ってお願いしました。という感じですよね?

市来:そうですね。そもそも長谷川さんがここの産業振興室の取り組みに加わりたいということで、異動願いを出して、産業振興室に移ってきたんですよね。

長谷川:はい。もう町の中では市来さんたち、民間の方がどんどんどんどん動いてたんですね。で、それを市役所がなぜ絡まないのかということで、今の部署に異動希望出しまして、その時ぐらいですね。一緒にやらせていただいたほうが、この町のためになるということで。いろいろお願いをして、手を取りあったっていうかですね。

市来:はい、ありがとうございます。せっかくなんで、全部答えたいと思います。「熱海で起業だけではなく、実際熱海で宿泊に関わっている、携わっている若い人たちはうまく熱海を使っていると思いますが、その辺はいかがですか?」。宿泊業で働いている人たちということですかね。

長谷川:さっきご紹介したA-bizも、スタートアップだけやってる訳ではなくて、既存の熱海の町の中でやっている事業主さん、宿泊業の方もご相談いただいて来ていただいてますし。このA-bizが、産業構造的に言うとけっこう偏った感じなので、業種、異業種間のマッチングみたいなこともやってまして、連携を少しずつ取れているのかな、という印象もありますが。

市来:そうですね、やっぱり熱海の町が非常に衰退したので、みなさん危機感を持ってこの20年ぐらい、民間の人たちで改革してきたっていう。

長谷川:そうですね。

熱海で働く若手の交流が生まれつつある

市来:土壌がありますし、ようやく最近そこで働く若手の人たちの交流が、ちょっとずつ始まりはじめてるのかなぁ、と思ったりはしています。私たちもこれから熱海で住む、あるいは住んでいる、働いている人たち向けにシェアハウスを作っていったりとか、そういうことはすごく重要でして。

実は熱海の町は、住宅の問題を抱えていて、リーズナブルで住みたいところにいい住宅がぜんぜんないというような現状なんですよ。住宅が二極化し過ぎてしまっていて、新しいきれいな高いリゾートマンションか、築50~60年のとても古い、風呂はない物件ばかりみたいになってしまっているんで。そういうのちゃんとリノベーションして住めるようにしていきたいな、ということを思っているところでは(あります)。

そんなところでだいぶ時間も押しているので、かなりガッと速くいってしまいました。今日なんでこの場をやっているのかという説明が、うまくできたかどうかもよくわからないんですけど。

長谷川:大丈夫です。

市来:これに引き続き、柳澤さんにお話をしていただいて、その後またトークセッションの中で、今の話も含めていろいろお話をしていければなと思います。いったん最初のセッションを、これで終わりにしたいと思います。ありがとうございます。

(会場拍手)