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休みたいあなたのための「休み方」講座(全6記事)

運動中に「着てはいけない」スポーツウェアが誕生した背景 開発者が語る、見過ごされがちな“オフの時間”への着目

20年間「休み方」について研究している片野秀樹氏の著書『休養学』の刊行記念イベントが透明書店で開催されました。科学的に正しい休養法について、本書の内容に沿ってポイントを紹介しました。本記事では、片野氏が休養学の研究を始めた理由や、「運動中に着てはいけないスポーツウェア」製作の背景を語ります。

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「運動中に着てはいけないスポーツウェア」を作った理由

片野秀樹氏(以下、片野):「運動中に着てはいけないスポーツウェア」というと、みなさん「変だな」っておっしゃるんですよ。

長野弘樹氏(以下、長野):「スポーツウェア」と言っているのに。

片野:なぜかというと、みなさんはスポーツウェアを「運動中のウェア」だと思い込んでるからです。よく考えていただきたいんですが、スポーツにはオンとオフがあって、オンタイムの時もオフも大事ですよね。今、ご説明を差し上げたように、しっかり休養しないとパフォーマンスが出ないんです。

オンの時に着るスポーツウェアはトレーニングウェアです。では、オフの時って何ですか? リカバリーウェアですよね。でも、当時はリカバリーウェアはなかったんです。それは、みなさんがオフを考えてないからです。オンの時のトレーニングウェアと、オフの時のリカバリーウェア、どちらもスポーツで大切だったら「スポーツウェア」ですよね。

ですから、オンの時に着るものはトレーニングウェア、オフの時に着るのがリカバリーウェア。運動中に着られないスポーツウェアがリカバリーウェアです。

長野:そこでリカバリーウェアという概念ができたというか。

片野:そうなんです。オフの時も大切にしましょうねということで、リカバリーウェアができた。この発想の大元がAISというリカバリーセンターです。「しっかりと休養をとることによってパフォーマンスを高めましょう」という考え方が、『休養学』につながっているんです。

長野:なるほど。ルーツはこういうところにあったと。

片野:はい。リカバリー市場を作るためにはどうしたらいいかということで、リカバリーウェアという商品ができました。

「オフは寝ればいい」という考え方を覆す

片野:(スライドに)「ISPO(イスポ)」と書いてあるんですが、これはドイツのミュンヘンで行われている世界最大のスポーツの展示会なんですね。世界120~130ヶ国から(来場者が)集まるんですが、歴史のある一番大きな展示会です。ここでこのスポーツウェアを出展して、金賞をいただいたんですね。

長野:えぇー、すごい。

片野:「今までにない画期的な商品だから」ということでした。さっきのお話ですが、オンの時の商品しかないのは、みなさんがオフに注目してないからなんですよ。

長野:確かに、あんまり聞いたことないです。

片野:そうなんです。「オフは寝ればいい、しっかり食べて寝ればいい」というだけなんですが、そうではなくて。「しっかりと回復するためのウェアがあるんです」ということで応募したら、金賞をいただきました。

スポーツの分野で、オフの時のウェアという発想がまったくなかったので、リカバリーの市場の中で「こんな商品もあるんだよ」というのを知っていただけるきっかけにはなったかなと思います。

長野:そのあたりは本に書いてない部分というか、知らなかったですね。

片野:書いてないです。それがきっかけでドイツに住むことになったんです。ドイツでこの商品を販売するということで5年ほど滞在して、その時に興味を持ったのは「クナイプ」というものですね。

長野:「クナイプ」。

片野:はい。ドイツの医学は先に進んでいるので、もともと医学分野ではドイツ語を使ってた時期があって。今はもう英語を使ってますが、ドイツの医学が先を行っていた時代もありました。その当時、自然療法としてクナイプが一般的にも取り入れられてるんです。入浴剤で「クナイプ」ってありますが、実際の自然療法はちょっと違っています(笑)。

温冷浴をしたり、自然の食品を食べたりといろいろな方法があります。僕がまだドイツにいた2016年から、健康対策ということで、日本で言う「未病」が保険適用になったんですね。

長野:病気を患う前に、未病だけれども保険が適用されると。

片野:自然療法でも保険適用になるということに、いち早く取り組んだ。日本ではなかなかならないんですが、そういうところも現地で少し触れて勉強しました。書籍の準備のためにも、いろいろインプットさせていただきました。

日本に「正しい休養方法」を広めたいという思い

片野:私が日本に戻ってきたのは2018年だったんですが。やはり向こうでも休養という学問体系はなかったんですね。全世界を調べたわけじゃなく……もちろん日本にはなかったんですが、おそらくそういったものがないだろうなということで、なんとか学問体系を作りたいなと思ったんですね。

なぜかというと、リカバリー市場を作る時には学問がないとなかなか発展しないんですね。スポーツの分野であればスポーツ科学があったりしますが、そこと一緒になっていろんな商品開発が生まれたり、あるいはサービスが生まれたりするんです。ただ、学問体系がない分野だと、「なんか怪しいもの」で終わってしまうところがあるんですよ。

そこでいろんな大学へ行ったんですが、健康の3要素の1つの「休養」の学問体系にあたる、ドンズバな「休養学」が世界でもなかったんですよ。

そこをなんとかみなさんに発信して、リテラシーを高めていただいて、学問体系もしっかり体系づけて知っていただく、あるいは学んでいただく。それによって市場自体が大きくなるのではなかろうかということで、日本に戻ってきてからはそんな活動をしていました。

2021年に『休養学基礎』という本も刊行してるんですが、こちらはちょっと難しくて。一般書ではなくて専門書のようなかたちで、ドイツの先生にも関わっていただいたんですが、大学で関わっていた先生方26名と一緒に、専門書・教科書として出しました。

長野:『〇〇基礎』って、だいたい大学の教科書ですもんね(笑)。

片野:そうですね(笑)。ただ、難しすぎるので、みなさんに読んでいただくにはもっと噛み砕いたかたちで出したいなということで、今回は東洋経済さんにご縁をいただいて、2024年に発刊することになりました。

長野:そういう成り立ちがあったんですね。日本で活力を高めたり、正しい休養を認識してもらえるような世の中にしたいという思いや、休養学という学問やジャンルを作りたいという思いもあった。かつ、市場もできたらいいなと。

でも、市場を作るには学問がないといけないよねということで、各国の学問や最先端のものを学んで、体系化させて、日本にフィットさせて、今はこういう流れを作っているんですね。

片野:そうですね。そんなところが裏話です(笑)。

「休むこと=寝ることではありません」という目を引く帯

長野:ごめんなさい、実は私は『休養学基礎』というものがあるのを知らなかったんですが、難しくなくても読めるようにしたいという思いから、今回『休養学』が発刊されたということですね。

片野:そうですね。

長野:まだ読まれてない方もいらっしゃるかもしれないんですが、この『休養学』、めちゃくちゃ読みやすいんですよ。

片野:ありがとうございます。

長野:私もいろんな本を読ませていただいてるんですが、黄色が基調になっていて、文字の量や章立てとかもめちゃくちゃ読みやすかったです。

図やイラストがあるので、もともとの専攻の知識がなかったとしても読みやすい。日常のあるあるも踏まえて書いてくれてるので、すごく共感しやすかったり、理解もしやすいような書籍になっているなと思いました。

あと、このイベントが始まる前にお話ししていた部分なんですが、装丁がすごくシックな感じになっているのがすごく気になりました。紺色で、かっこいい字で「休養学」と書いていて、「おや、ちょっと難しいものかな?」と最初は思って。

健康書とかはもう少しポップな感じなんですが、ちょっとビジネス書寄りなのかな、実用書寄りなのかな? と思ったりしますが、中は黄色で読みやすいような仕掛けになってるのが、すごく工夫されてる特徴なのかなと思って、片野先生にお話ししたんですよ。そうしたら「いや、そこは編集者の方がうまく……」と(笑)。

片野:(笑)。私は素人なので、そこはわからなくてすみません。

長野:実際に本が出来上がった時、ご自身でも「『読みやすいな』と思ってもらえるんじゃないのか」という感覚はなかったですか?

片野:読みやすいですし、手に取ってパッと読んでいただいてもいいですし、じっくり読んでいただいてもいいんですが、読みやすく・わかりやすく噛み砕いて書いてあります。あくまできっかけなので、もっと深く勉強したいということであれば、また勉強の方法もあると思います。

長野:きっかけですよね。

片野:きっかけがないと、自分自身の行動変容も起きないと思うので、行動変容を起こすためのとっかかりとしては、非常に良いかたちで出来上がってるのかなと思いました。

長野:そう思いました。「休むこと=寝ることではありません」という帯も、「え、それは何?」となって、手にとって読みたくなりますよね。

片野:はい。「運動中に着ちゃいけないスポーツウェア。なんだそれは」とか(笑)。

長野:執筆で気をつけたり、逆に「ここが苦労したんだよ」みたいなところはありました?

片野:苦労したのは……時間的なところが、なかなか(笑)。仕事もしてるので専念できないところもあったり、ご迷惑をおかけしちゃったかなとは思ってます。

休養をとらなきゃいけないと言いながら、自分自身が「時間がない」なんて言いながら休養がとれないのが、裏話的には一番問題かなと思います(笑)。

長野:(笑)。締め切りもある中で、そういったところはやはり大変だったんですね。今まで培ったご経験を1つにまとめたり、体系化させていく言語化は、そんなには(苦労しなかったんでしょうか)。

片野:そうですね。そのへんはスムーズにいきましたね。

長野:ありがとうございます。

クラウド会計ソフトを運営する会社が書店を始めたわけ

長野:そうしましたら、「スモールビジネスと休養の付き合い方」について、お話ししていただきたいなと思っています。冒頭の自己紹介でもちょっとだけお話ししたのですが、透明書店という書店の話を少しさせていただいても大丈夫ですか。

片野:もちろんです。

長野:ありがとうございます。宣伝ではないんですが、実はこの書店には親会社があります。フリー株式会社という、クラウドの会計ソフトやバックオフィスをクラウド化するような会社が運営してるんですが、まったく違う業種が(書店を)やっているんですね。

その会社は、「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションを掲げてやっているんです。個人で副業したり、ビジネスをやったり、今すでに中小企業で働かれてる方が、より本業に専念できるような世界になったり。「自分は〇〇屋さんをやるよ」というのが、すごくかっこいいような世の中になってほしいなと思って、我々の会社はやってるんです。

私はフリー株式会社の者なんですが、その会社が実際に自分たちでスモールビジネスをやってみようというプロジェクトでできたのが、この書店なんです。なんで本屋さんを選んだのかなんですが、やはり本にはメッセージ性もあって、誰かに何かを伝えられたり、何かのきっかけになると思ってるので、本屋さんになりました。

じゃあ、なんで「透明」というワードをつけたのかというと、経営の状態をX(旧Twitter)に上げたり、noteで月1回「今月はこうだったよ」と、うれしいこと、逆に困ったこと、日々の経営の数字も明け透けに報告してるんです。なので赤字でやっていたりもするんですが、日々の経営のことを透明性を持ってクリアにしてるのが、透明書店です。

透明書店のコンセプトは、スモールビジネスだったり、スモールビジネスじゃなくてもこの本屋に来てくれた人が新しいことを始めたくなるような、それこそ活力につながるような本が置けたらいいなということです。

スモールビジネスにまつわる本や、ちっちゃい出版社さんや個人で出している本、大きい本屋さんで見かけないようなラインナップを揃えられたらなということで、いろんな本を置いてる本屋さんです。

スモールビジネスに携わる人へのアドバイス

長野:『休養学』の本でも、サラリーマンに向けて休み方を書いてくださってるじゃないですか。とはいえ、スモールビジネスや「個人事業主をやるよ」という人って、なかなか休みをコントロールできなかったりする。できる部分もあるけれども、1人でやってるからこそ休みづらい、というのもあると思うんです。

そこで、もしスモールビジネスに携わる人へのおすすめの休み方があれば聞きたいなって(笑)。片野さんもご自身でビジネスをやられているので、休みの折り合いの付け方だったりとか。今日は、もしかしたらスモールビジネスに携わる人もいらっしゃるかなと思うので、そういった人たちに向けての休養との付き合い方をお話ししていただいてもよろしいですか。

片野:「休養」がすべてにフィットするかはアレなんですが、ビジネスのためにということでお話しさせていただくと……我々の会社のクレドは「世界のリカバリー市場を創造し、そこに関わるすべての人を元気にする」なんですが、これは「目的」なので明確にしたほうがいいかなと思ってます。

「自分のビジネスは何の目的でやっているのか」というところは、大きい・小さい関係ないと思っていますし、必ず明確にする必要があると思っています。ビジネスをやっていくと、「自分は何のためにやっているんだろう?」と必ず迷いますし、まったく先が見えない時もあります。でも、最終的にはクレドに戻ってくるんですね。

「自分の目的はこれなんだ。だから、この選択を迫られた時には、この選択でなければいけないんだ」というところに戻ってくるので、必ず明確にしたほうがいいのかなと思ってます。まずこれが1つ目ですね。

長野:なるほど。クレドとか、ミッション・ビジョン・バリューと聞くと、どうしても「大きめの企業がやってることでしょ?」みたいに思いがちです。ただ、「何のために回復するの?」「何のために休養するの?」という、休養した先の目的がないと休養のしがいがないというか、意味がないってことですね。これはビジネスでも言える感じですか。

片野:そうですね。個人でも言えますし、ビジネスでも言えると思います。

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