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休みたいあなたのための「休み方」講座(全6記事)

休むことに負い目を感じる…なぜ日本人は“休みベタ”なのか 「休養学」の専門家が語る、寝るだけではない疲労回復法

20年間「休み方」について研究している片野秀樹氏の著書『休養学』の刊行記念イベントが透明書店で開催されました。科学的に正しい休養法について、本書の内容に沿ってポイントを紹介しました。本記事では「休養の7タイプ」を元に、効果的な休み方のコツを明かします。

前回の記事はこちら

「夜寝るだけ」ではない、昼間もできる休養方法

片野秀樹氏(以下、片野):(「休養の7タイプ」の)最後が「社会的休養」。「転換タイプ」と書かせていただいています。

長野弘樹氏(以下、長野):これは、ちょっとイメージがつかないですね。

片野:本当ですか。

長野:はい。

片野:自分の体と社会の境目に何があるかというと、「皮膚」なんですね。外部環境との境目は皮膚、皮膚の外は外部なんですね。だから外部を変えてみましょうということです。

長野:……というと?

片野:一番典型的なのは旅行ですね。今の外部環境を変えてみるということです。でも、なかなか旅行に行けないとなったら、もっと手軽に「机の周りを整理してみよう」とか。

長野:確かに環境が変わりますね。

片野:それも外部環境です。「お部屋の模様替えをしてみよう」「お掃除してみよう」というのも転換なんですね。ですから、これを上手に組み合わせていくと、充電量が少しずつ増えます。夜寝るだけではなくて、昼間でもできることがたくさんあると思うんですよね。

長野:そうですね。あとは、多角的にあったほうがいろいろな充電ができるんじゃないのかなと思いました。

片野:はい。ですから、これを知っていると、自分に合った休養をふだんから上手に・こまめに取ることができるようになるんですね。

休養タイプを複合的に組み合わせるコツ

片野:例えばスープを飲んで体を温めたい時に、スープの粉を買ってきて、お湯を注いで飲むだけだと「栄養タイプ」なんですね。ちょっと工夫して、冷蔵庫を開けて残ったお野菜を切って、自分でスープ作ってみると、栄養タイプだけではなくて「造形・想像」にもなる。

長野:確かに。「このスープにしようかな~」みたいなね。

片野:そうですね。もしお料理が好きだったら、「娯楽タイプ」にもなる。近くにお子さんやご両親がいらっしゃったら、「一緒に作りませんか?」「一緒に作ろうよ」と言って誘って、「包丁でこれを切ってね」なんてやると、「親交タイプ」になるんですね。

出来上がったものをポットに入れて、ふだんは家のテーブルで飲んでいるものを、「ちょっと外に出てみましょう」と、ベランダに出る。あるいは近くの公園まで行くと考えると、「転換タイプ」も入るんですね。

長野:複合的ですね。いろいろ組み合わせることもできるんですね。

片野:そうなんです。「歩く」ということで、運動も入りますよね。

長野:ほぼ全部入っているじゃないですか。

片野:そうですね。

長野:最後にお昼寝もしたらいいんじゃないですか?

片野:そうですね(笑)。

長野:そうしたらもう、全部(笑)。

片野:自然との触れ合いもある。なので、工夫次第だと思います。ご自身の環境の中で、タイプを上手に使って組み合わせていくことで、休養を少しずつ充電する。

ですから、「寝ないと休養が取れない」と思い込んでしまっていると、寝る時間がない方はつらくなりますよね。それがまたストレスになってくると思います。そうではなくて、少しずつこまめに取る方法があるとなると救いがあって、自分でちょっとだけ工夫しながら、たくさんの休養を取ろうという発想につながっていくと思うんですね。

この7タイプを使っていただけたらということで、ご紹介しています。

日本人の睡眠不足の原因は「休養」への理解不足

長野:まずは7タイプあると知っているだけでも、「こうやって組み合わせられるんじゃないか」と考えることができて、それがプラスになる。あと思ったのは、自分の回復だけじゃなくて、人の休養に対して寛容になれるということです。

片野:確かにそうですよね。

長野:例えば同僚が「ちょっと散歩に行ってくる」と言った時に、それを休養や準備と捉えられる。「しっかり休んでいるな」とか、寝るのと一緒の位置づけだと思えると、同僚やパートナー、友だち、一緒に暮らしているような人にも、「今は休んでいるんだね」「こういう休み方をしたらいいよ」と提案できそうだなと思いました。

片野:おっしゃるとおりです。例えば同僚が休んでいるというのは、活動の前の準備をしていて、生産性を高めるため。あるいは自分自身のパフォーマンスをたくさん出すためには休養が必要で、その準備をしていると捉えていただいたほうがいいかなと思います。

長野:そこを理解してあげることがすごく大事なんですね。冒頭のお話につながってくるかもしれないですが、日本の休養や睡眠が少ないのって、もしかしたらそこへの理解やリテラシーが高くないからかもしれませんね。

片野:そんなこともあって、この本(『休養学』)を出しました(笑)。

長野:そうですよね(笑)。それも書いているということですよね。ありがとうございます。リテラシーが高まっていったり、「休みづらい」「言いづらい」というのが社会的になくなっていったら、結果として生産性が上がったり、休める世の中につながっていったりするんじゃないのかということも考えて、いろいろなご活動をされているんですね。

片野:はい。

日本とドイツの“休み方”の違い

片野:少しだけドイツに行ったことがあるとお話ししましたが、ドイツは1月から1年がスタートするんですね。

長野:ドイツは1月から。

片野:はい。会社のスタートって、日本だと年度が4月からじゃないですか。でも、ドイツの場合は1月1日からスタートするんですね。(新年度の)最初にみなさんで集まった時に何をやるかというと……。

長野:何をするんですか?

片野:まずはカレンダーを広げて、自分が休みたい日をみんなで決めるんです。

長野:おもしろい。

片野:彼らは、「しっかりと休めないと、いいパフォーマンスが出ない」という発想なんですね。日本もその発想に近づいていただきたいなと思います。

長野:そうなってほしいですね。洋画とかを見ていると、海外の方って長期休暇を取るような人や週末の人に対して、「よいお休みを」みたいな言葉をよく言うじゃないですか。日本ではあまり言わないなと思って。

片野:そうですよね。気を遣いながら「休んでいいのかな?」というところがありますね。「みんなに迷惑がかかってしまうから」と、なかなかお休みが取れない環境があると思いますが、お互いさまだと思うんですね。

いいパフォーマンスを出して、生産性を高めて、いい結果を出したいとみなさんが理解すると、「やっぱり休みは必要ですよね」という発想に変わってくるんじゃないのかなと。おっしゃるように、リテラシーが高まってくればと思います。

有給を取ることを負い目だと感じてしまう文化

長野:自分の話になってすごく恐縮なんですが、私が所属している透明書店の親会社があるんですが、会社の上司から言われてハッとしたことがあって。私が「有給を取らせていただきます」という報告をしたんですよ。そうしたら、「そういう言い方はよくないよ」と注意を受けたんです。

「有給は権利だし、『有給を使いま~す! 休んできま~す!』くらいの明るい感じで使ってね。じゃないとみんなが休みづらくなったりするから、うれしそうに「有給使いま~す!」って言うようにしよう」と、当時のマネージャーが言っていて。

そうしたら、みんなうれしそうに「有給使いま~す!!!!!」と、ビックリマークを5個くらい並べて。そのほうがみんな明るくなる。(本来は)それこそ有給なんか負い目ではないはずなので、当時のマネージャーにすごく感謝しました。

片野:そうですよね、有給を使ってリフレッシュして、パワーアップして戻ってきたほうが、みんなのためですものね。

長野:そうです。そのあたりの理解が広がっていったらいいなと思います。

片野:そんなところも、先ほどのサイクルで気づいていただけるとありがたいなと思います。

長野:確かに。それこそ「活力をどう高めるか?」ということも、本の中に詳しく載っていますよね。

片野:はい。

長野:ありがとうございます。

20年前には存在しなかった「リカバリー市場」に参入した背景

長野:休養や疲労についてお話しさせていただいたので、後半では、本著がなぜできたのか、制作する上での苦労したお話、今ヒットしている理由などを一緒に考察できればなと思っております。そして最後に、スモールビジネスと休養の付き合い方に焦点を当てて、お話しできればと思います。

あらためて、後半パートもよろしくお願いいたします。

片野:よろしくお願いいたします。

長野:後半では『休養学』ができた裏話や制作背景、困ったところ、ここでしか聞けないようなところが聞けたらいいなと思っております。

片野:みなさんにお話ししていいのかどうなのか、アレなんですが(笑)。裏話ということで長野さんからご提案いただいたので、ここだけの話ということでお話しさせていただければなと思っております。

冒頭でお話ししたように、私は株式会社ベネクスというところに所属してます。株式会社ベネクスという会社は、2005年に立ち上がった会社なので(創業から)20年近くになるんですね。3名でスタートした会社で、私も最初からジョインした1人のメンバーです。株式会社ベネクスは、リカバリーウェアという休養回復のウェアを出している会社になります。

この会社が2005年に立ち上がって、まだ商売が始まる前にこんなものを作ったんですね。「世界のリカバリー市場を創造し、そこに関わる人すべてを元気にする」というミッションです。

2005年の時にはリカバリーウェアはなかったんですね。ただ、このクレドだけはあったんです。その前からいろいろと研究もしていたんですが、私がこの会社で一番興味を持ったのは「リカバリー市場」というところなんですね。当時はリカバリー市場ってなかったんです。

長野:そもそも、そんなものが存在しなかった。

片野:存在しなかったんです。

リカバリー市場の開拓は苦労の連続

片野:当時「リカバリー」と検索すると、(検索結果が)だいたいコンピューターのリカバリーでした。「コンピューターが壊れたからリカバリーしなきゃ」ということで、リカバリーというワードが出てくる時代だった。休養や疲労回復というワードでは出てこないんです。

リカバリーという休養や疲労回復の市場がないのであれば、それを作ろうということで、この会社を立ち上げました。リカバリー市場を作ろうということでスタートしたんですが、まあ苦労の連続でした。「リカバリーってどこからスタートしたらいいのかな?」ということを、手探りでやっていたんです。

先ほど申し上げたように、当時はリカバリーと言うとコンピューターのことだったんですが、それは日本国内の話です。世界で見たら、休養回復や疲労回復に取り組んでるところはないかな? と思って探したんですね。

それでたどり着いたのが、AISというところです。オーストラリアの「Australian Institute of Sport」といって、日本で言うと国立スポーツ科学研究所です。AISに注目した理由について、2006年にスポーツ科学センターの中に「リカバリーセンター」というものを作ったんですね。

長野:それは「休養」の。

片野:はい、世界初です。当時、リカバリーという言葉はコンピューター用語のように使われていたんですが、ここはいち早く「休養」として使ったんですね。

オーストラリアは、スポーツの分野にいつもすごく力を入れてるんですね。国策で、「自分たちはスポーツで世界に打って出よう」というところがあるんです。ですからオリンピックの中でも、メダルの獲得数が4位とか5位とか、けっこう上位なんですね。

ただ、人口を考えていただくと、当時でだいたい2,000万人なんですね。そうすると……東京と横浜・川崎を合わせたぐらいですかね。

長野:それで世界で4、5位ってすごいですね。

片野:そうですよね。当時、中国には10億人いて、インドもそのぐらいいました。人口比で言うと、人口が多い所に優秀な選手は多いわけですよね。

長野:確率的にはそう。

片野:なりますよね。でも、オーストラリアは2,000万人でそれだけのメダルを取っているということは、何かあるんですね。

「運動中、着てはいけないスポーツウェア」開発の裏話

片野:オーストラリアは世界中から研究者を集めて、最先端の運動科学をずっと研究してたんです。2000年ぐらいまでですが、「激しいトレーニングをやって体力をつけた人が最終的に勝てる」という研究をずっと続けてきて、それを見て世界のほかの国も同様のことをやってきたんです。

長野:じゃあ、その時はオーストラリアがトップだったんですね。

片野:AISに研究者を世界から集めてましたから。それで、2000年ぐらいになると何が起こったと思いますか? 「うーん……」ですよね。世界中の人たちが、オーストラリアのしているのをなんだか知ってるわけです。そうすると同じことをやりますよね。みんなが右に倣えで「世界トップの研究で体力をつける方法」ということをやると、どこが勝つでしょうか。

長野:人が多い所だ。

片野:人が多い所が勝ちますよね。逆に言うと、オーストラリアは勝てなくなるわけです。

長野:なるほど。

片野:そこでオーストラリアはそこで何をやったかというと、「しっかり休養して、回復した人が最終的に良い結果が出せる」と、裏をかいたんですね。

なぜかというと、みなさんがパフォーマンスを上げようとしても、人間の体には限界があるので、ある程度横並びになっちゃうんです。「もうこれ以上はいかない」となると、最後に勝てるか・勝てないかを決めるのは、その時の体調だったりするんです。前日しっかり寝られた、とか。

長野:コンディションの話になってくると。

片野:そうなんです。そうなると、しっかりと休養をとれた人が最終的には勝てる。もちろんトレーニングしてレベルは上げますが、このレベルだったら、あとは休養しかないんですよ。

それで2006年にできたのがリカバリーセンターです。今では当たり前になってしまってるんですが、世界初のリカバリーセンターができました。実は私も2008年に訪問してるんですが、(当時は)まったく新しい発想なので、「この発想だ」と思って。

世界のリカバリー市場を作るためにこの発想を取り入れて、「運動中、着てはいけないスポーツウェア」という、ベネクスのリカバリーウェアができたというのが裏話でした。

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