「狼王ロボ」の生き方に憧れる

清川:金原さんと金子くんは、このロボの生き方についてどう思いますか?

金子:あまりにも理想的だし……。

清川:ね、かっこいいよね。

金子:憧れてしまうというのはすごいわかりますね。完璧なんですよね。

清川:完璧。

金子:徹頭徹尾、死に方までね、媚びずに。ただ最後そうやってブランカが待ってる、最終的にはちょっと尻に敷かれて……っていうのもあるし。人間側の最後のセリフとかも、すごい素敵な日本語で。「行けよ」って言って。「ほら、行けよ」って。

清川:ねー!

金子:これ決着がついて、殺して。殺したっていうかもう、ねぇ。ある種、腹を括って。決着はついたんだけど、その瞬間から何かが生まれて、シンパシーみたいなものがすごく……。子どもの時にはあんまりわからなかったですね。今見るとすごくそこに感動しましたね。

金原:僕は何度も言うように、小さい時からシートンの立場でしか読んでないっていうのがある。だからシートンの目から見たロボっていうのはある。

最後、シートンがロボに共感するところあるじゃないですか。あそこの持って行き方が上手いなぁと思った。やっぱりロボをどうのこうのって言うよりは、気持ちでやっぱりこれは成り立っているような作品かなぁという気がして。

清川:なんかおもしろいですね。ロボに入り込む人と、シートンとロボの関係性に入り込む人と。いろんな見方があるんだなぁと思って。女性から見ると「こういう男性がいたらかっこいいなぁ」とか、そういう目線で見る方がいっぱいいるらしく。金原さんはブランカを追いかけていくとか、なさそう(笑)。

金原:それは金子さんに任せましょうよ。

清川:金子さんは絶対に追いかけていくタイプなんですよ!

金子:「なんですよ!」って言われても(笑)。ありがとうございます。

清川:そんな感じがする。金原さんの俯瞰の、距離の取り方も、私すごいシュールだなと思っていて。

金原:えっ、そう? 結構冷たいよね。

清川:冷たいっていう言い方はちょっと正しいかわかんないですけど、すごい距離の取り方が人間っぽくない。

金原:(笑)。人間っぽくないとしたら、それは何っぽいの?

清川:何だろう。機械っぽい(笑)。

金原:機械っぽい?

清川:機械っぽいなぁと思います。いろんなお話してても、いつも視点とか考え方が「あ、そんな引いて見るんだ」っていう距離なんですよ。物語とか物事とかを。普通はもうちょっとこのぐらいなのに、金原さんは結構「何メーター先で見てんだろう?」みたいな。なんか1回死んで戻ってきた人みたいな……。

(会場笑)

金子:ロボットだ(笑)。ロボ違いだね。

清川:褒めてるんです、超えてるってことですよ? いろんな経験してるから。

金原:ちょっと褒め方を研究しよう。

清川:そんな感じがします。

金原:そうなんだ。

読者と作り手の理想的な関係性とは

清川:男女関係のことを書いても、なんかすごく距離があるから、すごい本質をとらえた翻訳をいつもやってくださる。

金子:普通に読んでる側としては、語り部の口調としてはベストな感じですよ。気持ちいいです。

金原:意外と読者のことを考えて訳してるよ。これをしたら読者はどう反応するだろうかって。

清川:翻訳家っていう仕事はそういうところが大事なんですか? 入り込まないという。

金原:例えば、金子さんの場合は演奏をするじゃないですか。その時は「音楽」と「自分」とか、観客って意識しますか?

金子:あ~、難しいなぁ。でも、始まる前とかに結構会場をウロチョロしますね。歩き回って。でもあんまり考え過ぎちゃうと……。演奏とかの時は自分がまず気持ちよくなってないといけないんで、ストイックというよりは快楽主義に近い。

どうやったらもっと気持ちよくなるかっていうところで、たぶんこっちがエンジンになってそれを送っていくみたいな。ドラムだと本当に心臓だからさ、ポンプみたいな感じなんですよね。僕がそこでどれだけ盛り上がってるかっていうのは大事なのかなぁと。

金原:それが観客に伝わるわけですよね。でも、清川さんもそれは似てる? 作り方として。

清川:お客さんとか読者側を考えることと、自分との関係性ですよね。なんか両方ありますね、その時によって。物語を決めるまで、描き始めまではすごい読んでくださる人のことを考えるんですけど、描き始めると、(物語の世界に)入ってくる。入っていって、いかにこの中に入っておもしろいかっていう。

金原:自分の世界に入ってしまう。そこから。

清川:だけど、いつも一晩置いてみると意外とつまんないなっていう絵とかがたくさんあって。今回は特にありました。例えばロボが亡くなってる姿の絵とか。結局、人間に殺されるよりも餓死を選んで。

このシーンとかも、今までにはないんですけど、同じカットをすごい数描いたんですよ。背景に箔が乗ってるんですけど、箔の乗せ方とか、色だとかっていうのを何パターンも出して。結構そういう作り方をしない人なのに、初めてその作り方をした。

いつもわーってやって「これ!」みたいな感じなのに、今回は同じシーンでも、ちょっと1mm単位で……。

金原:いろいろ作ってみて?

清川:そう。「猫背すぎるかな?」とか。

金原:狼の猫背ねぇ……。

(会場笑)

金原:イヌ科なのに。さすが清川さん。

清川:ふふふ(笑)。なんかそういうのをすごいいろいろと見ましたね、今回は。

翻訳ができあがる前に絵を描き終える

金原:じゃあ今回は結構時間かかった?

清川:かかりました。私の中ではかかった、うん。

金原:意外と清川さん、やりだすと「えっ?」ていうぐらい早くできちゃうんだよね。

清川:早くできちゃいます。

金原:いつもこっちがびっくりするぐらい。「翻訳まだ終わってないよ!」とか思いながら。

清川:「できちゃったよ、もう」って。

金原:「すいません」とか言って。

清川:さっきの俯瞰の話で、金原さんの翻訳はいつも自分の目印になります、ゴールの。私のほうがいつも先に描き終わっちゃうんですよ、絵を。

金原:そう。そうなんですよ。

(会場笑)

清川:すごい早く作ってしまうんです。決まってからだいたいいつも2ヵ月ぐらいでバーッと描いちゃうんですけど、その間にまだ金原さんは「まだ終わってないよ」っていう感じなんですけど、途中で少しずつ翻訳が送られてくるんです。

それを読むと「あっ、この絵で合ってたんだ」とか、そういうゴールの目印にいつもなってる気がします。「こういう世界を出したかったんだよなぁ」っていう感じに、いつも教えてくれる感じです。

金原:そう。

清川:だからその距離が、金子くんもさっきも言ってたけど……。

金原:それを音楽に例えると、音楽って翻訳いらないじゃないですか。

金子:そうですね。

金原:その違いっていつも大きいなって思うんですよ。

金子:言語感覚はありますけどね、どこか。

金原:あるとは思うけども、もうこれしかないでしょ?

金子:そうですね。音に関してはそうですね。歌詞とかじゃないところで言うと。僕はやっぱり翻訳とかって、今回初めてこうやって触れてるような感じなんで。

金原:これからどんどん送りますので!

それぞれの小説・音楽の楽しみ方

金子:絵と同時進行で進んでるとして、物語の冒頭から順番にやってくんですか? 時によりますか?

金原:僕は頭からちゃんと普通にやってます。人によっては「ここから」っていうのありますよね。ここを訳したいっていうところをまず訳して、それに合わせて最初から訳す人もいます。

清川:本の読み方もおもしろいですよね、そういう意味で。私も真ん中からやってくタイプなので。

金原:え? 真ん中からやっていく人?

金子:いた、そういう人。

清川:あと小説は後ろから読んでいくんですけど(笑)。

金原:小説を後ろから読む?

清川:後ろから。まず結果を知りたくて。

金原:「この男が最後死ぬのかぁ」って?

清川:すぐ気になるんです。

金原:そうなんだ。

清川:すいません(笑)。でもそこから味付けに行くわけですよ。細かいプロセスを楽しむのが好きなんですよ。

金原:音楽も最後から?

清川:音楽って、最後から聴くってどういうことですか?

金原:最後の10秒だけ聴くとか。

金子:「ジャーン!」みたいな?

清川:それはないです。

(会場笑)

清川:でも、最初のほうのイントロでもう好き嫌いははっきりします。

金子:でも最初のつかみはあるよね。

清川:つかまれないと、もう切ります。

金原:最初何秒ぐらい聴くんです? CDとか。

清川:15秒ぐらい。

金子:結構聞いてくれるね。

清川:ふふふ(笑)。

金原:なるほど。金子さんは自分がCDとかレコードを聴くときに、最初どのくらいまで聞きます?

金子:するっと聴きますけど、つかまれるのは本当にもう3~4秒とか聴いて「あ、これは」となります。でも、自分がその道をちょっと進み始めちゃって、作ったりするようになってくると、やっぱり良くないことが1つあって。分析してしまうというか。

ライブなんかに行っても、やっぱりそれを忘れさせてくれるのってそうそうないですよね。「何の機材使ってるんだろう?」とかやっぱり見ちゃうし。これは邪念だなと思うんですけどね。

でも僕は聴くときは、今とは違って時代的にもアルバム1枚でアルバムアートみたいなものだったので。そういう聴き方に慣れちゃってるんで、アルバムだったら最初から最後まで聴きますね。今の配信とかになってくると、そういう概念がもうなくなってきているから、昔はアートワークも含めてっていうところでしたかね。

器が好きな人は究極の変態

清川:金原さんは器とか好きじゃないですか。

金原:いきなり器の話!?

(会場笑)

清川:器をどういう見方で見てるのかなとか……。

金原:もうそれ一瞬でしょ? とっくりとかぐいのみとか、手に取って見てすぐじゃん。

清川:触り心地なんですか? やっぱり。この、口っていうんですか? フチというか。

金原:口のとこですね?

清川:そこで見るのか、素材で見てるのか。

金原:なんとなく、形とやっぱり大きさですね。形と、あと質感と、持った感じで。だいたい「あっ、いいな」と思って買って帰っても、1週間ぐらい飲んでみないとわかんない。

なんかいいなぁと思って買って使っていても、まあ2~3日でいまひとつかなぁというのもあれば「これどうなのかなぁ?」と思って買っても、使ってるうちにいいと思えるのもあるし、それはいろいろかな。 ……という話をしにここに来たのではなくて。

(会場笑)

清川:何が言いたいかっていうと、器を好きな人って究極の変態なんだなって私は思うんですよね。

金原:なんでだよ(笑)!

(会場笑)

清川:自分の友達とかの見方が、独創的だなと。

金原:お友達の方? もしかしたら。

清川:はい。いつも見てるところがおもしろいなぁと。

金原:その方は、どういうところを見てるの?

清川:器の触り心地とか、色とか、どれぐらい使い込んでるかとか、年月が経ってるとか、目でわかるんですよ。

金原:それは、ねえ。

清川:目利きな人ってやっぱり独創的な人が多いなって、全然関係ない話ですね(笑)。……今回どうでした?

(会場笑)

金子:「今回どうでした?」って(笑)。

金原:それは何を聞いてるの?

清川:今回は絵本的に出来はどうですか? 今までと比べて。

金原:僕、今までの中で一番好きかもしれない。

清川:それ、今日聞きたかったんです。久しぶりなんですよ、会ったのが。

金原:こういう言い方をすると本当申し訳ないんだけど、こういうビンの絵とかが好きなんです。

清川:やっぱり器なんですね?

金原:そういう意味ではなく……。

(会場笑)

金原:そういう意味じゃなくて、シートンが何かをしてるところ。薬を調合したりするんですよ。

金子:おもしろいですよね! 描写が。

金原:ああいうところの絵がね、本当にゾクゾクするほど僕は好きで。あと、わらの感じとかね。好きでしたね。

清川:すごい。やっぱり全然私と違いますね。

金原:見るところがね。作り手の意図を裏切るような見方しかしないことにしてるので。そういう意味ではよかったですよ。特に表紙のカバーを取った……、これなんですよ。僕これが好きで、これが表紙でもよかったのにと思ったんですけどね。

清川:そうですね。ここはブランカが殺されちゃったときに嘆いてるロボなんですけど。

金原:表紙を取らないとわからないよね。

清川:自分の中でも結構これもこだわった表情のシーンですね。はい。

金津創作の森で個展「清川あさみー美採集ー」を開催

金原:清川さんってこういうトークとかやる時、原画っていうか作品を飾るじゃないですか。今回は飾ってないんですね?

清川:実は今度ちょっと大きい個展があって。「金津創作の森」という、森の中にある美術館で個展をやるんですよ。そこで外も使って中も使って、今までの作品とか新作とかを一気に見せるんですけど。

金原:何点ぐらい?

清川:もうけっこうすごい数です。旧作から、ロボの全部もそうだし、あとは「光を生む機械」を作ったりとか、あとは今までの絵本でちょっと入り込めるデジタル絵本を作ってみたりとか。外で森を採集しちゃおうと思って。

金原:森を採集するんだ。

清川:森ごと作品にしちゃおうっていうので、そこの場所を選んだんですが。そこでロボの原画をお披露目しようと思っています。

金原:それはいつからですか?

清川:7月18日から9月25日までなんですけど、夏休みにみんな来れたらいいなぁと思って。

金原:どこにあるんですか?

清川:福井なんですけど、新幹線が通って行きやすくなってますので……。

(会場笑)

清川:うまい具合に言えた(笑)。そこで初お披露目しようと思っています。

金原:はい、楽しみです。金子さんはどの絵が? さっき一番ラストのシーンがとてもよかったって。

金子:なんかわらの描写とかおもしろいじゃないですか、どうやって作ってるのとか、調合してとか材料とか。もうスピードがあるし、最後の最後でお互い讃え合って終わってるのが感動する。リスペクトがあって終わっているという。子どもの時はあまり感じなかったですよね。

今になって読むと、男の矜持みたいなものとかもすごく。こんなにたぶん年齢とともに感じ方が変わる作品ってあんまりないんじゃないかなぁと思うんですけど。すごく楽しかったです。

「狼王ロボ」に続く次回作の構想

清川:最初はちょっと難しいと思ってたんです。男性向けじゃないですけど。

金原:よくこれ引き受けたなぁと思って。

清川:挑戦したがりなんで。

金原:そう?

清川:そうです、そうです。何でも新しいところに飛び込むのが好きなので。難しいほうが燃えるっていう。

金原:次はこんなに分厚い「白鯨」でもやりますか? 白い鯨の話。

清川:白い鯨の話?

金原:白い鯨が人間を襲ってくるっていうホラー小説です。

清川:おもしろいんですか、それ?

金原:嘘です。

(会場笑)

清川:信じるから、そういうの! 金原さんが言うと全部本当に聞こえるからね(笑)。

金原:人間正直にできてるからね。はい。

清川:でも、金原さんは次に私にやってほしいお話とかってありますか?

金原:グロテスクな短編がいいかなぁ。エドガー・アラン・ポーの「赤死病の仮面」とか。

清川:何ですか?

金原:赤死病という、全身から血を吹き出して死んでしまう流行病が国中に広がって、王様が家来と一緒にちっちゃい城を作って閉じこもるんですよ。その中で毎日宴会してる。

ある舞踏会のときに、仮面舞踏会なんだけど、まさに目の前に赤死病の仮装をした男が現れて。王様が激怒して殺しに行くんだけど、実はその男は赤死病そのものだったっていう、怖い話。

清川:それはどういうメッセージ性が……。

金原:ないです、メッセージ性は。ただただ怖い話。

金子:「どうだ、怖いだろう!」っていう(笑)。

(会場笑)

金原:ただ舞踏会のシーンでね、いくつかいろんな部屋に別れてるんですよ。紫、青、そこをずーっと踊りながらグルグルと歩いて行く。色がとっても鮮やかでグロテスクで、最後が真っ赤な赤死病のイメージで終わるというところがあって。

清川:それを聞いたらすごく描きたくなりました。

金原:これは本当だから。これは嘘じゃないです。

清川:金子くんは何かやってほしい物語はありますか?

金子:あさみちゃんに? 何だろう。でも確かにグロテスクなのいいですね。

金原:ね?

清川:昔読んだ話でこういうのが見たいなとか。

金子:昔読んだ話? 何だろう。

清川:子どものときに読んだ話で。

金子:……ゴメン、止まっちゃった(笑)。

(会場笑)

金子:グルグルグルっと考えたんだけど……。

清川:結構難しくて、こういうふうにいつも話し合いながら作っていくんですけど。

金原:なかなか次のが出てこないんだよね、次何にしようって。

清川:いっつも、いっぱい読んできたはずなのに、今もう1回何が読みたいかとかは。

金原:「人魚姫」と「幸せな王子」はポンポンと出てきて、その後はなかなか出てこなかった。

清川:そう。すごい時間かかって、これだ、これだっていうふうに決まっていくんですよね。なので、考えておいてもらえるとすごいおもしろいかなぁと思いますね。

金原:清川さんは「幸せな王子」から「人魚姫」から「こども部屋のアリス」があって「銀河鉄道の夜」もそうなんだけど、意外ときれいでかわいいのが多かったじゃないですか。これ(ロボ)でいっぺんに、レベルアップじゃないかもしれないけど違うところに飛んでいったので、さらに発展させて、なんとなく違うのをやってみるとおもしろいでしょうね。

清川:そうですよね。そういうきっかけになるといいなぁって思っていたのもあったので、今回はちょっとやってみようと思いました。

金原:はい。