過干渉な「同調型」上司への伝え方

斉藤徹氏:さて、今度は同調型の上司ですね。上司に押しつけとか過干渉を感じる場合です。さっきのうまくいってない状況を報告したら、すぐに「報連相が足りない」とか「ガンガン報告しろ」となって、やぶ蛇になっちゃうことがすごく多いですよね。

自分の評価が大切なので、問題があると、とても不安になりやすいのです。ただこの場合でも、信頼を得るためには真実性は重要です。それから論理性・共感性が重要になります。ちょっと具体的に見ていきますね。

「プロジェクトの進捗が遅れぎみな件でご相談があるんです」「なんだよ、この前うまくいってるって部長に言ったばっかだよ。どうなってんだ」「お客さんからの要望が多くて、このままじゃ予定どおりの納品が難しくなりそうなんです」「これまでそんな報告なかったじゃないか。大丈夫なのか」「はい。報告ができておらず、ご心配おかけしました」と。

「今後は体制を整えて適時ご報告、ご相談するつもりです。そのためのアイデアがあるので聞いていただけますか」「わかった。どんなアイデアなんだ?」「まず、こちらに必要工数の予実表とギャップを表にしたので、ご覧ください」「ずいぶんギャップが大きくなってきてるな。これで大丈夫なのか?」。

「ええ、そのとおりなんです。ご懸念のとおりで、現状のままだと納品を後ろにずらさざるをえなくなって、お客さんにも迷惑かけてしまいそうなんです」と。まず(上司の言葉を)「そのとおりなんです」と率直に受け取り、イエスアンドで伝えます。

「それはまずいな。部長には順調と報告したばかりなんだよ」と。「はい。そこで、顧客満足とチームの成果を、共に満たす作戦を考えてみました。計画の概要をまとめたので、ご覧ください」と続けます。

「なるほどね。この計画どおりいけば、トラブルを回避できそうだな」「そう考えています。ただ、この計画の実施にあたって、1つ相談があるんです。この期間に不足する工数をカバーするために、Aさんの手を借りたいんです。顧客の要件整理と優先度調整を実施したいんですが、それはいかがでしょうか」と。

「Aさんは工数的に余裕があるのか」「はい、念のために事前にAさんに打診してみたところ、前向きな感触を得ています。許可さえいただければGOできます」「わかった。Aさんがいいと言ってるんだったら大丈夫だ」「ありがとうございます。ベストを尽くします」。

同調型は、予定どおりに進まないことに不安を感じる

丸投げの上司だったらポンと一言で良かったんですけど。心配性で、上に報告しなくちゃいけない上司の場合は、丁寧にお話をしていく必要があります。共感性のところでは、同調型は予定どおりにことが進まないと強い不安を感じやすいので、その解消に努める。また、上層部への報告にも心を配ることが大切ですよね。

それから、同調型の抵抗因子は、惰性とか心理的反発。それをクリアするためにプロセスへの丁寧な対話と説明を行います。

今もところどころ使っていた、イエスアンド法はいいですね。まず、イエスで相手の気持ちや意見に共感をする。その上でバットじゃなくてアンドを用いて、自分の意見を主張するということです。「これで大丈夫なのか」って言ったら、「ご懸念のとおりです。現状のままだと納品も後ろにずらさざるをえなくなって、顧客にも迷惑かけてしまいそうです」と。

相手が不安だと思ってるんだったら、まず「はい」と、いったん肯定して共感する。そのあとで、「そこで、顧客満足とチームの成果を、ともに満たす作戦を考えてみたんです。計画の概要をまとめてみました」「なるほど。このとおりにいけば、トラブルは回避できそうだな」「はい。そう考えてます」と、常にイエスで続けます。

「この計画を実施するにあたって、1つ相談があるんです」と言って、さらに肯定しながら、実現のための相談をする。このイエスアンド方式は心理的な反発を防ぐために、とても有効です。

痛いところを鋭く突っ込んでくる「達成型」上司

さて、最後は、一番難易度が高い「達成型」の上司を考えてみましょう。

このタイプは、自分自身が結果を出してきた有能な上司が多く、痛いところを鋭く突っ込んできます。ですので、「達成型」の上司には、論理的に話すことが特に大切です。

このケースでも真実性は同じです。また共感性では感情に対する抵抗因子を排除していきます。例えば「遅れぎみで相談があるんです」と部長に報告したとします。「顧客からの要望が多くて、このまま予定どおりの納品が難しそうです。必要な工数の予定表とギャップがあります」と。

「あのプロジェクトは売上確実として見込んでるんだぞ。確実に結果を出してくれよな」「はい。確実に予算をクリアするために、1つアイデアがあるんです」と。これもイエスアンドですね。「どんなアイデアなんだ」「お客さんに納得いただきながら、確実に納品するための作戦を考えてみました。計画の概要をまとめたのでご覧ください」と。

「なるほど。この計画どおりいけば、予定どおり売上が立てられそうだな。付加的なコストはないのか」「はい、コストがポイントだと思っています。そこで、1つご相談があるんです。不足工数を外注で補うと、新たなコストが発生しますよね。そこでAさんの手を借りて、その部分を実施したいんですが、いかがでしょう」と。

数字至上主義の上司に説明する時のポイント

「それはいいアイデアだな。でも、Aさんには工数に余裕があるのか」「はい。事前にAさんには打診してあって、前向きな感触を得ています。許可さえいただければGOできます」「わかった」と。

「それ以外にどんな不安材料があるんだ。要件変更になった時に、これで本当にお客さんの合意が取れるのか」「はい。個々の仕様変更に伴って発生する工数を一覧にして、このチームが割ける工数と比較する表を作れば、仕様ごとに優先度を考えていただけると思います。論理的にお話しすれば聞いていただける方なんです」。

「なるほど。わかった。ただ、もし合意が取れなかった場合のプランBはあるのか」と。達成型の上司はシビアなので、代替案も用意しておく必要があります。

「はい。それも考えています。分割納品できるように機能を分解して考えました。ここの部分は確実に納品できます。これで今期の予算が95パーセント売上となりますが、ここは計算いただいて大丈夫です」。

「わかった。じゃあ、プランAで予算達成できるように全力を尽くしてくれ」「はい。わかりました。ベストを尽くします」と。こうすると、「できる部下だ」と感じてもらえると思います。そのためには相当論理性を磨いていく必要があるし、厳しく追求されても嘘は言わないことです。

達成型の上司は、結果達成への強いこだわりがあります。数字至上主義であることが多いので、「プロセスの改善が、結果にどう結びつくか」をひもづけて説明することが重要です。そこを外すと、やっぱり心理的反発を招いてしまいます。

上司の長話を回避する方法

さて、上司がヒートアップしてくると、どうしても長話になってしまうことがあります。その時に会話のテンポを上げる手法も、最後にお伝えしておこうかなと思います。

これは僕のアイデアというよりも、医療系のPIPCセミナー(内科診療の現場における精神科疾患の診かたを伝えるセミナー)で話されているすばらしい手法があったので、それをご紹介したいなと思います。『日経メディカル』の記事からの引用です。

確かに患者の方って、すごく不安を抱えているから、長話しがちですよね。でも、お医者さんは1人あたりの時間がだいたい決まってるから、そんなに長話もできない。ただ、それをむやみにカットしちゃうと、患者さんが辛い思いをしてしまう。これでお医者さんはとても悩まれると。

そこで、患者の長話を回避する方法が考えられたというわけです。3つのステップで、まずはコミュニケーションの技術よりも、患者との関係性を作る。

これは、『だから僕たちは、組織を変えていける やる気に満ちた「やさしいチーム」のつくりかた』でも書いたことですが、やっぱりどんな場合でも、関係性ができていないと、当たり前の話も進まないことが多い。これはみなさんも感じていらっしゃることと思います。

これはラポールの形成と言われるもので、親しみと温かさを感じる空気の中で、自分と患者の心がつながる瞬間があると。自然体になると、相手の心から不安がなくなり、こういう関係性になりやすいので、自分から自然体になっていくことがポイントです。

このセミナーでは、信頼関係があった上で、技術的なやり方よりも患者さんへのあり方が大切だと言っています。医師の人柄や価値観、考え方がすごく大切なんだと。特に女性には愛を、男性にはリスペクトを持って接すると、驚くほど関係性が高まるそうです。「なるほど」と思いましたね。

相手の息継ぎの瞬間を見計らって、語尾に被せるように話す

あとは、相づち、承認、質問で応対すること。これが「長い話が始まったらどうすればいいのか」の肝です。

まず、相手の長話が始まった時に、息継ぎする瞬間を見計らって、語尾に被せるような感じで「なるほど」「それは辛かったですね」。「ところで、寝つきのほうはいかがですか」と、相づちと承認を入れることがポイントだと。

まず相づちで「なるほど」と承認をしてあげると、相手も話を止められた不快な感覚を忘れて、「私の気持ちをわかってもらえた」と満足するそうです。そうすると、相手の気分を悪くさせずに、次のステップにいけます。

だからこの時は、患者の辛い感情とか大変な苦労を受容することが大切だそうです。「それは辛かったですね」とか「本当によくがんばられましたね」とか、「その時はそうするしかなかったんですね」みたいな。こんなふうに、患者に共感してあげることがキーだとのこと。説得力がありますね。

これを使うと、見ず知らずの初診患者さんでも、10分もかからずかなり深い話ができるようになるそうです。この記事を見て「わ、すごいな」と思ったので、ご紹介させていただきました。ポイントはここに書いてあるように、相手の息継ぎの瞬間を見計らって、語尾に被せるように「なるほど」「それは辛かったですね」と言うこと。これは練習してみるといいかもしれないですね。

上司も部下も、チームで価値を共創していく感覚」が重要

今日はいろいろなパターンをお話ししましたけれども、実際の場では、当初想定していた案にあんまりこだわりすぎないこと。傾聴と対話を繰り返して、相手の考えを取り入れながら臨機応変に価値を共創していきましょう。上司も部下も同じで、「チームで価値を共創していく感覚」が重要だと思います。一緒に問題解決できるイメージでお話しできるといいですよね。

さて、今日のお話を元に、ぜひ明日からも実践してみてください。ただ、今日お話ししましたけど、なかなかこういうのって実践に移すのが難しいじゃないですか。知らなかったところから、知識の壁を超えて、知ってる段階になったわけですが。やっぱりやってみないとなかなかできないですよね。

さらに本当にできるようになるためには、何回もやらないと。しかもそれが習慣になるまでには、やっぱり時間がかかる。さらに無意識でできるようになるまでには、相当時間がかかります。だから、スポーツや英会話と同じように繰り返しチャレンジしてみることが大切です。ぜひ明日から実践してみてくださいね。