篠田真貴子氏がお勧めする本

倉貫義人氏(以下、倉貫):倉貫です。

仲山進也氏(以下、仲山):仲山です。

倉貫:ザッソウラジオは、倉貫と「がくちょ」こと仲山さんで、僕たちの知り合いをゲストにお呼びして、雑談と相談のザッソウをしながら、ゆるくお話をしていくポットキャストです。(今回は)エール株式会社の篠田真貴子さんをお招きした第3回、最終回です。それではどうぞ。

倉貫:しのまきさん、どういう本が好きなんですか?

篠田真貴子氏(以下、篠田):ええ!? どういう本が好きなんだろう。

倉貫:唐突ですが(笑)。今の話を聞いて思いました。

篠田:圧倒的にノンフィクションを読むことが多いです。やはり組織の挙動を扱っている本は好きだし、人物伝みたいなのが好きかな。あとはわりと心理学的なやつとかですかね。

倉貫:前にしのまきさんがお勧めしていた、『THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法』という本。

篠田:はいはい。あれはいい本ですね。

倉貫:しのまきさんがお勧めしていたのをタイムラインか何かで見て、おもしろそうだと思って読みました。それこそノンフィクションであり、組織とか人が出てくる話ですよね。

篠田:まさに(笑)。わりとど真ん中です。そういうジャンルの本って、まあまあ世の中に出回っていて、だいたいみんなGoogleとピクサーを事例に取るんですけど。あの『THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法』は、窃盗団のピンクパンサーのチームワークとか、ドイツの学校の運営を事例に出していました。かなり取材されていて、相当事例がおもしろかったですね。

倉貫:そうそう。犯罪集団の話があったりとか。

篠田:犯罪集団における多様性の重要さ、心理的安全性について分析されていて、すごくおもしろい。基本自分の仕事とか、それこそ生き抜いていくのに先達の知恵を求めているのが、(本を読む)動機になっているんだと思います。

忙しい時は本の見出しだけ見てみる

倉貫:どうやってそういう本を見つけるんですか?

篠田:本は基本全部、人のお勧めです。情報源が2種類あって、1個は普通にFacebookでつながっている方で、たくさん本を読んでいて紹介してくれる人。「あ、この人の方向性は好きだな」っていう人が何人かいます。

あとは、私が好きなアメリカの著者のメルマガを読んだり、Twitter(現X)をフォローしたりして、そういう人たちがお勧めしてくれる本(を読んでいます)。ざっくりこの2パターンですね。でもぜんぜん読みきれず、kindleのサンプルだけ毎日1つ2つダウンロードしています(笑)。

倉貫:(笑)。

篠田:Webの記事を読むよりは、kindleのサンプルをダウンロードして、前書きや目次を見ているほうが楽しいですね。あと、SlowNews(スローニュース)って、スマートニュースの子会社のサービス(もよく読みます)。

倉貫:Webメディアですね。

篠田:本によっては、(kindleのサンプルで)けっこう中まで全部出してくれるんだけど。ノンフィクションの本で言えば「はじめに」とか「1章」だけなので、忙しい時は見出ししか見ていないんだけど。見出しだけでも「ええ!? そんな世界があるのね」みたいな。時間があって気が向いたら、中身を読んでみる感じです。

倉貫:やはり時間を何とかしなきゃいけない話に戻るんですね。

篠田:そうなんです。20~30分本を読んで、1時間本を書くくらいのことが毎日行われていると、相当良くなる気がするんですけどね。

倉貫:それは気持ち良くなりますね。

仕事の取捨選択の基準や会社の軸を言語化する

仲山:それこそ今日話したことが、まさに1周した感じですね。「仕事の取捨選択の基準であるドクトリン(基本原則)を言語化しないと」みたいな話になりますよね(笑)。

倉貫:自分のドクトリンがない。

篠田:ドクトリンがないんだね。おっしゃるとおりですよ。

仲山:(笑)。

篠田:そうだわ。私にとって仕事とは何か、時間とは何かとか。

倉貫:「仕事を通じて何を得たいのか」みたいな。

篠田:仕事以外もそうですよね。家族とか友だちとか。

倉貫:アシスタント的な方に来てもらうとしたら、ドクトリンを渡さないといけないんじゃないですか?

篠田:「一緒に作ろう」という感じですね。「どう思う?」って、観察してもらいながらやっていく。

倉貫:(笑)。

仲山:「この案件を当てはめてみるとどうですかね」みたいなのを、振り返りしながらやっていくんですよね。

篠田:そうそう。「あの時これをやるって言ったけど、やった結果イマイチじゃなかったですか?」って言ってもらって(笑)。すごい! ザッソウの成果が出た。

(一同笑)

篠田:私のドクトリンを作るのを、来年のテーマにしてみよう。

倉貫:僕も会社のドクトリンを作ろう。本当に人数が増えてきて、何が会社の軸というか、人をつなぐものって何だろうなってずっと思っていて。今までそんなに言語化してこなかったから、それを言語化したほうが良いなと。

篠田:ドクトリンというかたちがあるって知るだけで、言語化の抽象度とか分量とかの選択肢の幅が広がるかも。

仲山:そうですね。「すでに言語化されているじゃん」ということが、たくさんありますよね。

アメリカの組織論をそのまま持ってきても、日本企業には合わないことも

篠田:そうそう。無理に短いキャッチーな言葉にしなきゃいけないような、あのフォーマットだけがすべてじゃないって知ることが大事。一瞬だけ脱線しますけど、特に「組織とか働く人がどうこう」って書かれているビジネス書って、わりとアメリカの翻訳だったり、それに影響を受けた日本の本が多いと思うんです。

アメリカの普通の現場って、やはり従軍経験者がめちゃめちゃ多くて、けっこうな比率が軍の人です。あと優秀な人が軍人になるんです。私もビジネススクールの同級生が軍にいるんですが、「(軍を)辞めて、これからは民間で仕事していくんで」って、ビジネススクールに来る人がいっぱいいるんですよね。

逆に言うと、そういうドクトリンがあって、「組織ってこうやって動くんだ」って(わかる)。陸海空それぞれだけど、そういう経験値がある人が、アメリカの企業社会で組織を運営しているわけ。

倉貫:ああ、なるほど。

篠田:ある意味、その人たちにフィットするように、ああいう組織心理学が発達したんですよ。それを知らずに日本に輸入してくると、ぜんぜん合わないこともある。

倉貫:なるほど。

篠田:そういうことをわかった上で、「パーパス」と言っているのかと。もう1個、やはり宗教のバックグラウンドもあるので。宗教離れが進んでいると言っても、アメリカ人の4割〜半分くらいは、毎週教会とかシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)に行っているんですよ。

そういう抽象概念に触れていたり、精神性が自分の生活の中に密接にある人たちが、「組織に所属するってどういうことか」とか、「パーパスって何?」という問いを出しているんですよね。その背景があると理解した上で、日本でうまく共有できるといいなって思います。

従軍経験者が多いアメリカの企業では、社員が共通認識を持ちやすい

倉貫:文脈なしで使っても、道具の使い方を知らずに使っている感じが出てきちゃうんで。

篠田:そうなんです。(アメリカの企業では)道具を使う素養というか、基礎体力を持っている人らが一定の割合でいる状態だから。

倉貫:「パーパス」って言っても、わりとみんな通じるんでしょうね。

篠田:そうそう。通じる。「教会で言っているあれね」という感じ。

倉貫:「パーパスとは?」みたいなところから始めなくてもよい。

篠田:始めるにしても、ある程度粒度が揃いやすい。

仲山:なるほど。要するに会社を考える時に、軍隊と教会を含めて3つの抽象度を取れば、共通理解が作れるみたいな感じですね。

篠田:そういうことです。共通の例え、メタファーが持ちやすい。「今、うちの会社には軍で言うところのこれはあるけれども、これは足りなくない?」みたいな話とか。

仲山:「バイブルがないよね」とかそういうことですよね。

篠田:そう。「バイブルがないよね」とか、バイブルはあるんだけど、「教会という物理的なものが本当になくていいんだろうか」とか、そういう議論ができる。脱線しちゃってすみません(笑)。

倉貫:いえいえ(笑)。脱線は大いに歓迎なので。

仲山進也氏が書籍の制作で悩んでいること

仲山:ちなみに今日の話を聞きながらびっくりしていたのが、僕、今日は漫画の『アオアシ』の本を作る作業をしていたんですけど。解像度と抽象度の節をどうやって構成しようか、言語化がうまく進まないなと悩んでいました。

倉貫:ドンピシャじゃないですか。

篠田:すごい。

仲山:一見違うものの共通点を探す話とか、まさにそんなキーワードばかり出てきて。手元に参考書として、細谷(功)さんの『具体と抽象 世界が変わって見える知性のしくみ』があります。

篠田:名著ですね。いやぁ、すごい。

仲山:書いてみないとわかんないですよね。

倉貫:書いてみたら抽象化できるというか、気づくことがある。アウトプットも思いついている時はけっこう書けそうなイメージでいるんだけど、いざ書いてみると、ぜんぜん書けないことがけっこうある(笑)。

仲山:本当にそうです。

篠田:書いても「これ、私しかわかんないじゃん」みたいな(笑)。それだと困るんですよね。

仲山:本当にそうです。こんなの読んでも、誰もおもしろくないだろうってものになっちゃって。

篠田:でも『アオアシ』から解像度と抽象度(の話)になるのって、今、ここだけ聞くと、混乱する人が多発するやつですね。

(一同笑)

仲山:(作業で悩んでいた箇所は)攻撃が好きな主人公が、ディフェンスをやらなきゃいけなくなるという話なんですけど。要は守備の解像度が粗すぎて、守備とは何なのかもわからないところから、だんだん守備がわかっていって、攻撃とどこが違うのかがわかるようになってくる。

篠田:ああ、なるほど。

仲山:攻撃で活かせていた自分の強みは「視野が広い」ということ。攻撃の時には活かせていたんだけど、守備の時に視野の広さを活かせていないっていう問題に突き当たります。攻撃と守備の抽象度を取れるようになると、その「視野の広さ」っていう強みを、守備でも発揮できるようになると。こんなストーリーなんですけど、それをどうやって表現したらいいかなと(悩んでいました)。

(一同笑)

自分が詳しい分野じゃないと抽象化は難しい

篠田:今の説明は、私はすごくスッと入ってきましたけど。

倉貫:だと思いますね。たぶんあの漫画で、「ああ、ここで抽象化か!」って考えて読んでいる人はいないと思う(笑)。

仲山:(笑)。そうなんですよ。みんなそんなふうに読んでいないんだ、という。

篠田:(笑)。

仲山:すごいなと思いながら。

篠田:その視点があるから本が売れるんですよ、きっと。「その読み方はなかったわー」って(笑)。

仲山:マニアック過ぎるってことですね。

(一同笑)

倉貫:がくちょにかかると何でも抽象化して学びに持っていくから。他のものを渡しても、それなりに抽象化して、良い話にしそうな気はするんだよね。

仲山:そう。さっき『具体と抽象 世界が変わって見える知性のしくみ』をパラパラめくっていたら、「抽象化バイアス」って言葉が出てきて。何でも抽象化しようとしてしまう癖のことを、「抽象化バイアス」って呼ぶらしいんですけど、それが掛かってますね。

倉貫:抽象化バイアスは掛かっていますね。

篠田:(笑)。

倉貫:何を見ても共通化できないか、チームビルディングに応用できないかみたいな。

仲山:結局、それこそ解像度が高いものじゃないと、抽象度を測れないんですよね。「軍隊にいました」とか「教会に通っています」という解像度があるから、会社に置き換える時に、「具体的にはこう置き換えればいいのでは?」 と考えられる。だから抽象思考って、自分が一番詳しいものと、もう1つのもので抽象を取るみたいになりますよね。

篠田:間違いない。本当にそうだ。

倉貫:そうっすね。

ネットショップの運営にサッカーでの経験値を活かす

仲山:楽天大学のフレームワークを作る時、26歳の時点で、自分が一番長くやっていて詳しかったのはサッカーでした。なので、この商売(楽天大学)のフレームワークを採用するかどうかの判断基準は、「サッカーにも言えるかどうか」で考えていました。

(一同笑)

仲山:例えば、三木谷(浩史)さんが「MBAでこういうことを習う」と言っていたのが、「良いサービスとは何か」。「商品の品質が良いとか悪いとかではなく、お客さんの期待値を超えるか超えないかが、良いサービスかどうかの基準だ」みたいなことを教えてくれるわけですよ。「なるほど」と思って。

サッカーで言ったら、フェイントだなと思いました。フェイントって、要は相手の守りの人がお客さんだとすると、お客さんの期待値ってどこにあるのかなって考えて、それと反対側に行けばお客さんがびっくりしてくれるわけですよね。それをサッカーでやると、ガーンとショックを与えることになるんだけど、お客さんにやると喜んでくれるっていう違いになるだけで、「これは採用!」と。

篠田:なるほど(笑)。26歳の当時のがくちょもそうやって学んでいった感じ?

仲山:そうですね。だからサッカーの経験値をチューニングを変えて、ネットショップでやってみて、「これ、いけるな」と。

篠田:なるほどね。

倉貫:自分の持っている経験って有限なので、それをいかに転用して活かせるか。抽象化しない限りは、全部は経験できないですから。

篠田:無理。

倉貫:「ネットショップの店長をやります」と言って、店長を5年くらいやらないとわからないことも、サッカーの経験を活かしたら、ある程度早いうちから他のことに活かせるみたいな。そこを抽象化できる人は、わりと新しいことに取り組みやすい。

篠田:それは絶対あると思う。

倉貫:「これだったらここかな」みたいな、似たようなことに当てはめるって(ことですね)。会社を経営していると、人間の問題ばかりなので、いつも違うことしか起きないんだけど。人間の問題は、究極抽象化すると。

仲山:デジャブ感しかないですね。

倉貫:問題自体は近いので、「こうかな」「ああかな」とかはできる。

「抽象化できるかどうか」はけっこう大事な能力

篠田:それこそ歴史からも学べますしね。

倉貫:ああ、そうですね。

篠田:他者からも学べるし。

倉貫:そうそう。本を読むってけっこうそれですからね。本を読んでそのとおりやるわけじゃなくて、どれだけ自分なりに抽象化して、自分のものにするか。抽象化できるかどうかって、けっこう大事な能力なんだなと。

篠田:そうですよね。抽象化と、また具体に適切に戻す。これもけっこう問われますよね。「その例えはここじゃない」みたいな(笑)。ビジネススクールとかで最初よく起きがちなのが、フレームワークとか抽象的なやつだけ先に習っちゃうと、うれしくなってすべてにそれを当てはめようとしてしまう。

倉貫:全部それを使う(笑)。

篠田:でもそれじゃないみたいな(笑)。

仲山:あります。あります。

篠田:すみません。私がそろそろ時間的に締めたい感じなんですけど。

倉貫:いえいえ、もう十分過ぎるくらい。

篠田:めちゃめちゃ良かったですね。

倉貫:(笑)。

篠田:番組になるかどうかわかんないけど。

倉貫:こういう感じが僕はいいなと思っているのと、僕らにとっておしゃべりの時間になったので(笑)。

篠田:大変ありがたい時間でございました。

話が行ったり来たり、脱線するのもザッソウの良さ

(篠田氏が抜けて、クロージングトーク) 倉貫:お疲れさまでした。

仲山:お疲れさまでした。

倉貫:初めての「ザッソウラジオ」、しのまきさんの回でしたけどどうでしたか?

仲山:どういう編集をするかもありますけど、そのまま聞いてもらったほうが、最後つながる展開になったので。

倉貫:そうそう。おもしろかったですね。最初の相談というか雑な話をしていたら、話が飛んでぜんぜん別の話をしているうちに、「この話で最初の問題解決ができるんじゃない?」ということで話が戻った(笑)。

仲山:ぐるっと1周したっていう。

倉貫:全何回になるかちょっとわからないですけど、最初から最後までぜひ聞いてもらいたい感じですね。

仲山:そうですね。全部聞かないとわかんないですもんね。

倉貫:そうそう。この行ったり来たりして、全部聞いてなんとなくわかるみたいなのが、ザッソウっぽい感じはしましたね(笑)。

仲山:しのまきさんも「ザッソウすごい」って楽しんでくれたみたいですもんね。

倉貫:このポットキャスト自体がどんな感じで続いていくのか、僕ら自身もまだわかっていないので。たぶん回を重ねるごとにブラッシュアップをされていくし、きっと音質とか諸々が良くなっていくはずなので(笑)。この先を期待していただきたいなと思います。

仲山:手探り感をお楽しみいただきたい。

倉貫:今回は第1回目のゲストということで、篠田真貴子さんに来ていただきまして、がくちょと3人で雑談、相談をしました。次回もきっとあるはずなので、楽しみにお待ちいただいて、できればチャンネル登録、ポットキャスト等々の登録をしていただけたらありがたいです。よろしくお願いします。それでは。