近年注目される「出戻り採用」の社員は離職率が低い

伊達洋駆氏:私からは「出戻り採用」についてお話しします。「ブーメランのように戻って来ること」という副題も付いていますが、一度離職した従業員が戻ってくるといった出戻り採用ですね。近年注目されている現象、ないしは採用手法の1つです。

この出戻り採用の英語が「ブーメラン(boomerang)」なんですよね(笑)。ブーメラン・エンプロイーと言ったりします。例えば、ある会社で働いていた人が、その会社を辞めて別の会社に移り、その別の会社を辞めた後に再び元の会社に戻ってくるケースを指します。本日の「アルムナイ」というテーマでは、卒業した個々人としてのアルムナイという意味合いでお話をさせていただきます。

出戻り採用を巡る素朴な疑問ってあると思うんですよね。要するに、一度会社を辞めているわけですね。「一度あったら二度ある」みたいな想像をしてしまう人も、少なくないのではないかと思います。「一度辞めた社員は、戻ってきてもまたすぐに辞めてしまうのではないかという疑問があります。

実際に検証が行われており、そうではないということが明らかになっています。出戻り採用とほかの採用手法を比べた時に、出戻り採用の離職率が低いことがわかったんですね。つまり、出戻り採用者は再び戻ってきた後に離職する傾向が低いということです。

「元○○」と自称する人が出戻り採用に応募しやすい理由

出戻り採用は、よく考えてみると不思議な選択肢でもあります。というのも、一度辞めた社員が転職しようと考えた時、別に元いた会社に戻る必要ってないわけですね。さらにほかの会社の選考を受けるという選択肢もあるんですよね。さまざまな選択肢がある中で、あえて一度去った組織に再び戻ろうとする。

この現象について、詳しく考察してみたいと思います。すなわち、出戻りの意図や理由を考えてみたいと思います。

多くの研究が行われていますが、非常に直接的な結果が得られており、その結果は直感的に理解しやすいものです。出戻りにおいて、「レガシー・アイデンティフィケーション」と呼ばれるものが大事だと言われています。

レガシー・アイデンティフィケーションとは、「以前働いていた組織と自分のアイデンティティが密接に結びついていると感じること」。自分のアイデンティティの重要な一部として、以前働いていた職場や組織があるということです。自分のことを「元〇〇」と呼ぶようなケースは、まさに自分のアイデンティティや自己の中に過去の組織が深く刻み込まれていると言えるでしょう。

過去に所属した組織の文化や価値観、目標などが、自分のアイデンティティの重要な部分になっているということですね。一度去った従業員のレガシー・アイデンティフィケーションが、出戻りをしようという意図と、正の関連があったということがわかりました。要するに元いた職場、元いた組織が自分の一部であると思っている人ほど、出戻りをする可能性が高いということです。

これはなぜか。「社会的アイデンティティ理論」という理論で説明されています。

自分のアイデンティティの一部に元いた組織が含まれていると、その組織で「もう一度働きたい」と思う気持ちが自然に出てくるわけですね。その人のアイデンティティの一部に、元いた組織がなっているかどうかが重要です。

レガシー・アイデンティフィケーションを向上させるには

それでは、このレガシー・アイデンティフィケーションを向上させるにはどのような方法があるでしょうか。いくつかアプローチがあります。1つが、「ほかの人たちが元いた組織のイメージを魅力的に感じていると、レガシー・アイデンティフィケーションは高まる」ことがわかっています。なかなか人間の興味深さを表しています(笑)。

周囲から「あの会社は良い会社だ」と以前の勤務先について言われると、「元いた会社は自分のアイデンティティの重要な一部である」と感じ、レガシー・アイデンティフィケーションが高まる傾向があるんですね。それが出戻りの意図につながっていくわけです。これを「知覚された企業威信」と呼びます。このように組織に対する社会的なイメージが、アイデンティフィケーションを促進するということです。

レガシー・アイデンティフィケーションを高めるためには、自社の評判を良くしていく必要があるということなんですね。そうでなければ、「あの会社に在籍していて良かった」と思うことは難しいでしょう。レガシー・アイデンティフィケーションがないと、なかなか出戻り採用は起こらないんですね。安易に「とりあえず戻ろう」とはならないということですね。

したがって、みなさんの会社で出戻り採用を増やすためには、会社に一体感を持っているというか、辞めたあとも会社のことを「自分の重要な一部なんだ」と思ってくれる社員を増やしていく必要があります。

出戻り社員を増やせる会社が備える3つの特徴

その1つの方法が、「企業威信」という良いイメージを普及させていくこと。ただこれはなかなかコントロールしにくい部分もあると思います。もう1つ方法があります。それは自社、つまりみなさんの会社の特徴をはっきりさせるということです。3つの特徴をはっきりさせると、アイデンティフィケーションが高まりやすいことがわかっています。

1つは「中心性」。それぞれの会社にはコアとなる特徴があります。それをパッと言えないと、辞めたあとに「あの会社にいて良かったな」と思い出しにくいんですよね。それが中心性です。

2つ目が「連続性」。会社の中で一貫して重視されている特徴のことです。そのような特徴があると、アイデンティフィケーションが促進されます。

3つ目が「識別性」。ほかの会社と差別化するような、区別するような特徴ですね。自社独自の特徴のことを指します。

これを明確にしておくことで、退職後も「自分はこのような会社で働いていた」「このようなことを大切にする会社で働いていた」と思い返しやすくなるんですよね。そうなるとレガシー・アイデンティフィケーションもしやすくなると。こういった中心性、連続性、識別性というのを意識して、自社の特徴をはっきりと尖らせ、浸透させていくことが重要だと思われます。

出戻り社員が活躍しやすい条件・しづらい条件の違い

続いて、先ほどは出戻りの理由について説明しましたが、今度は出戻りが活躍できる条件を考えてみます。

「出戻り採用は辞めにくい」ということを説明しました。ところがどんな場合でも等しく効果をもたらすかというと、そういうわけではありません。活躍しやすい条件もあれば、そうじゃない条件もあるんですね。要は良い出戻りの方法と、そうでもない出戻りの方法というのがあるわけです。

それでは、どのような条件下だと出戻り後に活躍しやすいのでしょうか。1つ目は、予想通りではありますが、最初に所属していた時のパフォーマンスが高い人ほど、出戻り後もパフォーマンスが高いです。人は突然変化するわけではないという傾向が、全体を通して観察されています。

最初に自分の会社でパフォーマンスが高かった人は、出戻り後も高いし、そうじゃない人はそうじゃないということですよね。これはなぜかと言うと、組織の中で活躍していこうとすると、いろんな知識が必要となります。ハイパフォーマーに該当する人たちは、在籍中に活躍するためのさまざまな知識を獲得しています。そのため、出戻り後も自分の能力を十分に発揮しやすいということが明らかになっています。

活躍に必要な知識とは、例えば仕事を進める上での方法とかスキルや、周囲との関わり方、さまざまなツールの使用方法、そして会社が重視している価値観などについて、ハイパフォーマーほど理解し、適切に活用することができます。

したがって、高いパフォーマンスを持つ人が退職する際は、一層アルムナイを形成して、きちんと関係を維持して、出戻りの可能性を高めておく必要があるわけですね。

出戻り社員の生産性を最大化する方法

もう1つ、興味深い観点があるので紹介します。一度組織を離れた従業員が組織に出戻りする時に、「どんな場所に戻るといいか」についても検討されています。

みなさんどう思いますか? 出戻り後はどういうところに配置させるといいと思いますか。なかなか難しい問題ですよね。以前在籍していた時とまったく同じ状況というのはさすがにないと思うんですよ。職場のメンバーも変わっていると思いますしね。

2つの検証結果があります。1つ目は「初めに在籍していた時と、戻った時の上司が異なる場合」についてです。上司が違うところに出戻りするということです。これはパフォーマンスにあまり影響がないことがわかっています。

上司が同じであれ、上司が違ってしまっていても、出戻り後のパフォーマンスは変わりません。出戻り後の配置を考える上で、「前と同じ上司を付けないといけない」といったことは、あまり意識する必要がないということです。

他方で「初めに在籍していた時と、戻った時の職場が違うケース」。これはパフォーマンスに対して負の影響が出てしまいます。

つまり職場が同じほうがパフォーマンスが保ちやすくて、逆に職場が違うとパフォーマンスが下がる可能性があるということです。

これらの結果から配置について見えてくるのが、上司は変わってもいいんですけど、職場は変えないほうがいいということが見えてきます。出戻り採用者は、出戻る前と同じような仕事に就かないと、本来の効果を発揮しにくいということです。上司が変わるのは問題ありませんが、職場が変わってはいけないというのが1つの原則になります。