プレゼンと日常会話の違い
中田敦彦氏(以下、中田):そして、(プレゼンでやってはいけないことは)「さぼらない」。これは「練習をさぼらない」ことなんですよね。さぼってしまうと、もう大半の人が頭の中が真っ白になるんですよ。プレゼンテーションは日常の会話とはまったく違うということは、徹底的に覚えておかなきゃいけないんですね。
日常のおしゃべりに自信がある。喫茶店などで、あのメンバーと話すときはすごくしゃべりやすいというのは、めちゃくちゃホームだからなんですよ。そうじゃなく、このステージのようなところにポーンと立ったとき、それも見知らぬ人たちに伝えなければいけないときは、アウェイ中のアウェイです。
ただ一人、孤軍奮闘。ポンと立たされたらどうなるか。もう心臓がギューンと握られたようになって、震えて頭の中が真っ白になって「ああ、ああ……」という5分間が流れるんですよ。
僕、『武勇伝』で芸人としてデビューしたときに、そういう目にあったことがあるんです。みなさんも人前で上がってしまったことがいっぱいあったと思うんですが、それでも漫才だったら取り戻せるんですよ。「いやぁ、こいつネタ忘れてますわ」というようにね。
「次のネタなんやったっけ?」
「いやぁ、ハトが庭に……クルックー!」
「いや、ウケるかいな!」
などと、漫才であればそうやってフォローできる。適当にしゃべったんで、なんのネタかはわかりませんが(笑)。
(会場笑)
プレゼンは人前で話して初めて“練習”になる
中田:でも、『武勇伝』の場合は地獄なんですよ。「あっちゃん! いつものやったげて!」と言って、ずっと踊っていますからね。「でんでんでんでん」が出てきて「レッツゴー!」と言った瞬間に止まったら、もうどうしようもないわけですよ(笑)。
(会場笑)
笑いにもなにもならないんですよね。だから、これはもう本当に準備と練習が必要になってくるんです。僕のオンラインサロンのセミナーでも「もう練習でとにかく繰り返す。これをやってくださいね」と言うんですが、みんな頭の中が真っ白になってしまうんですよ。
「えっ、なんで? 練習して来てって言ったやん。練習したの?」と聞くと、大半の人は「いや、したんです」と。「原稿を何度も何度も、自分で諳んじて読んだんです」。これは、やってみてようやくわかったんですが、練習は暗記とは違うんですよ。
「原稿を覚えました」。これは練習ではなくて、本当は人前で実際に話すことを練習と言うんです。僕は最近になって気づいたんですね。相手は、家族でもいいし、友だちでも誰でもいいんです。
「ちょっと聴いてくれないかな。今度プレゼンなんだけどさ、新企画の発表で、今度うちの企画でこんな企画をやろうと思っていて、こうでこうでこうです。こうでこうでこうです。どう?」と聞いて、フィードバックを得る。
これをやることで、ぜんぜん変わってくるんですよ。まず、聴いている人もしゃべりながら見ているので、腑に落ちていないという顔もなんとなくわかる。しゃべっていて「ん?」という顔をされたら、
「え、なに? 今のわからなかった?」
「いや、どっちの意味の熟語かな」
というような。
「キケンというのはデンジャラスのほうなのか、止めるのほうの棄権とか、出場辞退のほうなのかがわからなかった」
「あっ、じゃあこれは言い方を変えるね」
といったことはすぐにできるし、フィードバックを得て、バグチェックをするようなものですよね。それなしで製品をリリースするのは非常に怖いことですから、「しゃべりもちゃんとバグチェックをしましょう」ということなんですよね。
しゃべりがうまい芸人は何をしているのか?
中田:ですから、僕は『しくじり先生 俺みたいになるな!!』という番組に出るときは、必ず前日に妻に全部しゃべって、当日は楽屋のスタイリストさんに全部しゃべって、ディレクターさんにも全部しゃべって、最低でも3回は全部しゃべってから本番に臨みます。若林正恭さんの前でしゃべる。そういうことをやっていると「ああ、仕上がっていますね」というのが、自然と伝わってくる。
ところが、それを説明した上で、また「あっ」ということをやっている人がいたんですよ。「僕のプレゼン塾のすごいリピーターさんなのに、なんでやってこなかったの?」と聞いたんですよ。
そうしたら「ごめんなさい。中田さんの言うように、練習とは人前でしゃべることだということは重々わかっているんです。でも、日常生活で急に、家族や友達に私のプレゼンを聴いてくださいとは言えませんでした」と言うんです。なるほど。その気持ちもわかります。
僕も芸人デビュー当時は、漫談をしなければいけないんですよ。『人志松本のすべらない話』という番組がありますよね。『踊る! さんま御殿!!』などに出れば、コンパクトな尺でおもしろい話を「バーン!」としなければいけない。
ああいったフリートークのようなものは、ネタとはぜんぜん違う技術だから、「ネタでテレビに出ても、フリートークが下手だったらすぐに干されちまうよ」という話があるわけですよ。「やっぱりトークをがんばらなきゃ」と思うんですが、なかなか上手くならないんですね。なにかしゃべろうと思うと、どうしてもぎこちなくなっちゃう。
そんなときに、僕が若手デビュー当時に一番上手かったのは、ピースの綾部祐二さん。今は、しゃべりが上手過ぎたのか、バイタリティがあり過ぎたのか、ニューヨークに行ってしまいましたが、綾部さんが異常に上手かったんですよ。
どうやって上手くしゃべっているのだろうと思えば、そうした人は楽屋でもとにかくしゃべるんですよ。「あのなぁ、この前さぁ」と言いながら話していて、それを見た平成ノブシコブシの吉村崇さんが「また綾部劇場が始まっているよ」と言うほど、楽屋でもずっとしゃべっている人だったんですよ。それは上手くなるわなと。
要らない話を聴かせるのがプレゼンの第一歩
中田:それはわかっているんだけど、僕は楽屋で急に「昨日さぁ」とは言えなかったんですよ。だけど、今になると、そのやり方がだんだんわかってきたんですね。どうしてそれをやらなければいけないのか。
なぜかというと、ふだん聴いてもらえなさそうな人に聴かせること自体が、プレゼンテーションなんですよ。ほしくない商品をほしくさせるのが営業なんですよね。ほしい人にほしい商品を届けるのは“作業”に過ぎませんから。
「肉まんください!」
「どうぞ!」
これは作業で営業とは言わない。「肉まんなんか別に欲しくないですよ」という人たちに「みなさん、実はですね、冬って寒いじゃないですか」というようなことを言ってね。「熱々のがありますよー!」なんて言って、匂いをちょっと嗅がせて「ん?」。
「これは、特注のひき肉でできているんです。最近、中華街に行きましたか? この肉まんは中華街から取り寄せたんですよ。これは期間限定で、販売は1週間のみ。それも、ここだけなんですよ。これを食べたxxさんとxxさん、及びxxさんたちはむっちゃ喜んでくれまして、これがそのときの写真」という、わけがわからない営業(笑)。
(会場笑)
これが営業なんですよ。食べたくない人に食べさせるのが営業だとすると、要らない話を聴かせるのがプレゼンテーションの第一歩なので、そこをやってほしいんです。
「では、どうやればいいですか?」と言うと、それは理由を付けることなんです。聴く理由を付ける。
友達にプレゼンの聴き手になってもらう方法
中田:例えば、僕もオンラインサロンに入って、『中田プレゼン塾』ということで、3分のプレゼンをしなければいけない。練習がしたいんだけど、練習相手が見つからないんだったら、友だちと普通にスタバなんかでお茶しているときに「はぁ〜」っとため息をついてみる。
「いや、どうしたの? どうしたの? さっきから2、3回ため息ついているよ、どうしたの?」
「いやあ、『中田敦彦のオンラインサロン』に入ったんだけどさ」
「なにそれ大丈夫? 『中田敦彦のオンラインサロン』ってなに? なんなの? 本当に大丈夫?」
「いや大丈夫。大丈夫じゃないというか」
「なにが大丈夫なのよ、まず」(笑)。
(会場笑)
「大丈夫なんだけど。」
「えっ、なにをやっているの?」
「いや、プレゼンの塾を開いてくれているの。」
「ああ、『しくじり先生 俺みたいになるな!!』とか、しゃべりとか、ああいうのやっている人だもんね。いいじゃん、いいじゃん。それでどういう状態?」
「それがね、会員みんなの前でプレゼンをして、中田先生がいろいろとアドバイスしてくれるような、そんな感じ」
「へえ。えー、それ今度しゃべるの? 聴くの?」
「今度しゃべるのよ」
「え、しゃべるの? え、いつ?」
「明後日」
「明後日! やばいじゃん! えー、練習してるの?」
「してない。どうしよう。聴いてくれる人がいないから」
「私が聴くよ!」
と、こうなるわけですよ(笑)。
(会場笑)